余りにも忙しくて生徒会の仕事を少しだけ自宅に持ち帰って徹夜で仕上げた日もあった。
来週に控えた文化祭のせいで普段の倍は動き回っているような気がする。
この学園に入学前は文化祭や体育祭、行事の準備にクラスメイトと忙しい毎日を送るんだろうと心躍らせていたはずなのに。
この忙しさは自分が望んでいたものとは全くの別物だと、ジョミーは階段を駆け上がりながら思った。 
 
24.目の前
 
「ソルジャー、予算の事でいくつかの部活動から提出されたものが」
「ジョミー、備品が足りないので自腹でいいから購入させて欲しいと申請がありましたわ」
「汗で輝く一生懸命な君も素敵だね」
最後の一名の発言は無視することにしよう、いやさせてくれ。
でなければ堪忍袋の緒が切れそうだ、いやこれがあるならとっくの昔に切れているはずだと
今までのブルーの行動を思い出したジョミーは、自分には堪忍袋の緒はないんだろう、と思いなおす。
それぐらい今のジョミーには突っ込みをいれる気力は残ってはいなかった。
「リオ、それはあとで見るからそこに、備品の事は…五千円までならOK」
それだけ言い残してジョミーは慌しく生徒会室から出て行ってしまった。
それを寂しげな表情で見つめるのは元ソルジャー。
「無視されたよ」
「貴方の囁きに返事も出来ないほどジョミーは忙しいのですわ」
「きっとお疲れでしょうね…ソルジャー…!」
思わず目頭をハンカチで押さえるリオ、つられるようにフィシスまで目元をハンカチで押さえた。
「そうだね、ジョミーはソルジャーとして今多忙な毎日を送っている、…しかし文化祭という行事に僕らは引き裂かれる寸前だ」
「ブルー、ジョミーの前でそれを言ったらきっと殴られてしまいまわ」
そんな事を言っている暇があるなら働け!と。
「大丈夫だフィシス、その拳でさえ受け止め愛する自信が僕にはある…!」
どんな自信だ、とリオはジョミーの代わりに口には出さず突っ込みを入れ、山済みになってる未処理の書類に手を伸ばした。
 
午前は普通に授業を受け、午後からは文化祭準備に時間を割く。
放課後も最終下校時刻ギリギリまで生徒は準備に追われていた。
自分の教室ではクラスの出し物の準備をしており、生徒会室も落ち着けない程切羽詰っている状態。
ジョミーは教師の許可を得て、空いている教室に入った。
ほんの少しだけ出来た自由な時間、ここ最近忙しすぎて休息というものをとっていない。
むしろ睡眠時間さえ削ってひたすら文化祭の準備に追われていたし。
ソルジャーという立場からなのか気を遣われてこっちは自分達に任せてお前は生徒会の事をしろよ、と送り出されてしまった。
ありがたいとは思うのだが、その反面少し寂しい、自分だってクラスメイト達と出し物の準備がしたかったのに。
「眠い…」
まだ文化祭は終わってはいないが、ここまで頑張っている自分を褒めてやりたい。
昔マムが頑張った自分にご褒美!と言ってブランド物の鞄を買ってきた事を思い出した、これだけ頑張っているんだ、
僕も何か自分にご褒美を…と考えているうちにジョミーはいつの間にか深い睡魔の海へと潜っていった。
 
 
ポケットにいれていた携帯のバイブレーションで目が覚めた。
この時間になったら生徒会室に戻る、と確かアラーム設定をしていた事を思い出し
枕代わりに使って動かせない手とは反対の手でポケットから携帯を取り出す。
よほど深く寝入っていたのか、疲れが少しとれたような感じ、気分は良かった。
しかしまた慌しい現実へ戻るのかと考えると容赦なく体が重くなった、このまま目を閉じたいがそんな事が出来るはずもなく
ジョミーは覚悟を決めたように頭をゆっくりと上げた。
目の前には予想すらしていない人物が、ジョミーが突っ伏して寝ていた机に頬杖をついてこちらを見ているではないか。
叫ぶ、より息が詰まった。
いろんな事を考えたが、結局この人だから、で済ましてしまう自分もかなり感化されてきていると諦めに近い感情が芽生える。
「何を、しているんですか?」
「それはこっちの台詞だよ、何故こんなところで寝ているんだい、電話しても繋がらないし」
そう言われて着信履歴を見てみると数件ブルーからの着信があったようだ。
アラームでは目が覚めたがブルーからの着信では全く目が覚めなかったあたり、対ブルーの能力でも開花したのではないかと思う。
「すいません…気付きませんでした」
「アラームでは目が覚めたのに?」
気付かれていた。
「拗ねないでください、全く何歳なんですか…」
呆れたように言えば、さらに不貞腐れたようにブルーが言う。
「拗ねたくもなるさ、ここ最近はまともに君の顔さえ見れないし会話すら出来ていない」
「…忙しかったもので」
「探したんだ、君を」
「電話…気付かなくてすいません」
それはもういいよ、とブルーは笑った。
いつ見ても綺麗な笑顔だ、いつだったかブルーがジョミーの笑顔を見た時に
『君の笑顔に癒された!もう少し頑張れそうだ!!』と真面目に生徒会仕事をした事があった。
今まさに、自分がその状態にある。
「…もう少しだけ頑張れそうです」
「ん?何か言ったかい?」
絶対に本人を前にしては言ってやらない。
言えば絶対に調子にのっていき過ぎたスキンシップをされるに決まっているのだ。
だから言ってやらない、貴方の笑顔で癒されてました、なんて絶対に。
「集合時間だ、行きましょうか」
「そうだね、みんなが待っている…ジョミー」
「はい?」
 
「君がまた姿を消したら、そのたびに君の目の前に現れてあげるよ」
 
君の疲れが癒されるようにね、と僕の好きな笑顔で笑うものだから。
どうやら僕は思っている事が顔に出るタイプのようだ。
 
  
 

シャン学設定だけどブルー達の部活の事をすっかり忘れていた;