いつも強引で何かあればすぐサボるし、仮病は使うし、人前だろうと好きだ愛してるは当たり前の挨拶みたいなもの。
ただのボディタッチがセクハラに変わった日は忘れもしない。
リオが来てくれなかったら確実に僕の貞操は失われていた、と今でも思い出すだけで視界が滲む。
思考が逸れたので元に戻すが、そんな我が道を一直線で進んでいるブルーからそんな言葉が聞けるとは
ソルジャーになってみるものだ、とこの時初めてジョミーは思った。

 

20.褒めて

 

 

「ジョミー、東棟の自動販売機に新製品のジュースが入ったそうだよ、行きたくないかい?」
「あぁ、マンゴー味のね。お昼にサム達と飲みました、美味しかったですよ」
「…!!まさか君からそんな裏切りを受けるとはね、残念だよ、僕の愛は届いていなかったようだ」
まるでこの世の終わりだ、と言わんばかりにブルーは席を立ち窓を開けると悲愴な面持ちで空を見上げた。
そこまで落ち込む理由が全く理解出来ず、ジョミーは手元にあるノートパソコンに数字を打ち込んでいく。
「…あの、夜空を見上げる暇があるのなら仕事して欲しいんですけど」
「僕だって見上げるなら君がいい」
「意味分からないんでスルーしますけど、これ終わらないと僕ら帰れないんですよ!今日中の仕事!!」

勢いで机を手のひらで叩く、言葉と重なったが大声で叫ぶように言ったので聞こえているはずだ、それなのに。

「僕ら…いいね、その響き。僕とジョミーで僕ら…」
いちいち変な所で嬉しそうにするブルーを横目にジョミーは嫌味を込めて大きなため息をついた。
勿論これでブルーが何とかなるとは思っていない、もはやジョミー独りの戦いになりそうだ。
本来なら前以ってしておけば余裕で終わっていたはずの仕事なのに何かとジョミージョミーとうるさい元生徒会長、いや元ソルジャーが邪魔をしたせいで最終締め切りの今日に慌しく書類と睨めっこする破目になったのだ。
一々相手をしていた自分も悪いが元ソルジャーが現ソルジャーの仕事妨害って普通ありえないだろ!と口にはせず突っ込みを入れる。
「はぁ、今日は見たいテレビがあったのに…このペースだと無理だよな、誰かさんが手伝ってくれたらギリギリ間に合いそうだけど…」
「あ、僕の携帯テレビ付きだから見るかい?電波のいい屋上とかで」
何故、そっちにいく。
ギリギリ間に合うって言ってるんだから手伝えよ!この仕事!!
ブルーには直球で物事を言わなければ駄目だ、と分かっているはずなのに上級生だし元とは言ってもソルジャーだった人間だ、言いづらい。
最初はリオやフィシスもいたが、すでに日は沈み夕方から夜になろうとしていたのでリオにはフィシスを送って行ってもらったのだ。
フィシスはまだ大丈夫と言っていたが、暗い夜道を歩かせる訳には行かなかったし、仕事にも
終わりが見えてきたのでフィシスを送るという口実でリオにも先に帰宅してもらった…のが間違いだった。
リオ達が帰宅して終わりが見えてきた事もあってジョミーには気合が入ったが、それを狙ったかのように
ブルーこの今日締め切りの書類を出してきたのだ。量的には問題はない、効率よくすれば終わる、だが何だこのタイミングで、空気読めこの野郎!!
時刻はもう18時を過ぎている。
ブルーがもし同級生なら自分は目の前の男を確実に殴っていた、と震える指でジョミーはキーボードを叩いた。 
「何でそれ出すんですか、今更言っても遅いですけど…昨日言ってくれたら怒りは、したかもしれませんが…居残りはしなくてよかった」
「そうだね、それはすまなく思っているよ。ただ…」
「ただ?何です、途中でやめないでください、続きが気になるんですけど」
 
「あのタイミングで出したら、ジョミーともっと長く一緒にいる事が出来ると思って」
 
さらりと、言ったよ。
うっかりときめきそうになった自分、しっかりしろ。
あぁ、ほら、数字を間違えた。
「…さて、元ソルジャーとはいえ僕もまだ生徒会の一員だ、今はしっかりと役目を果たそう」
そう言うなり、ブルーはジョミーの手元から半分以上の書類を取り書き込んでいく。
やれば出来る人だという事は知っている、普段からこう真面目にしてくれたらいいのに。
頬が熱いのは気のせいだ、この変に急上昇した体温もきっと気のせい。 
それからは立場が逆転した、変な打ち間違いばかりして
ジョミーの処理速度は落ちる一方でブルーに取られた書類はあっという間に片付いてしまった。
持っていたやりかけの書類までブルーに任せてしまう始末だ。
この人はやれば出来る人なんだ、と改めて実感してしまう。
「終わったね」
「…ありがとうございます」
ブルーのおかげでジョミーが思っていたよりも早く終わった。
いや、初めからブルーが真面目に取り組んでいたらもっと早く終わっていたはずだ、何となく腑に落ちないが感謝はしている。
それに走って帰れば間に合う、そんな希望が芽生えてきた瞬間に。
「褒めてくれないか」
何言ってるんだ、この人。
「君の為に頑張ったんだ、これぐらいのご褒美はあってもいいだろう?」
生徒会の一員として役目を果たそうって言ったじゃないか。
そもそも今日まで隠し持ってた貴方が全部悪いのに。
僕の為って何だよ、もう。
ふいに伸ばされたブルーの細くて長い指がジョミーの前髪をそっと梳いた。
こんな動作に、うっかりどころか完全にときめいてる自分に何て言葉をかけたらいいのか、悔しいので舌打ちでもしておこう。
「…なんて褒めて欲しいんですか?」
ジョミーの言葉に、ブルーは満足げに微笑んだ。  
 

 

 

 

 
「さぁジョミー褒めてもらったし、そうだ新製品を飲みに行こう!」
この人はやれば出来る人だが絶望的に空気が読めない人だ、とジョミーの脳内メモに追加された。

 

 


空気読めないブルー(笑)