2 間抜け 

 

普段は至って普通の女の子。
しかし一度戦いになると剣を片手に舞い踊る。
それは彼女が『龍神の神子』に選ばれたからだろう。


「おっと」

前を行く望美が一瞬だけバランスを崩した。
石に躓いたのだろう。

「間抜けだな〜」

後ろを歩いていた将臣は軽く笑いながら望美の隣りに移動する。

「見えなかったんだよ」

少し照れながら望美は思い付く限りの言い訳を言ってみるが、将臣には通じないようだ。

「見えなかったぁ?、結構でかかったけどなぁ」
「いいもん、間抜けでー!」

とうとう機嫌を損ねてしまったらしく望美は顔を赤くしながら速度を速めた。

「悪かったよ望美!ただ…ちょっと安心したんだ」
「間抜けが安心?何それ〜」

間抜けだと何が安心するのだろうか?
望美は首を傾げて考えるが将臣の考えはいまいち理解出来ない。
いや理解する事が難しいだろう。
彼の本心が分からなければ。

「あぁ、安心したよ」

戦っている姿を見ると別人のように見える彼女。
自分の知っている幼馴染みの《春日望美》ではないように思えてくる。

でも、こんな風に隣りにいて、並んで歩いて。
ちょっとした石に躓いた事をからかうと、顔を赤くして機嫌損ねて。

実感する、やっぱり自分の知っている望美なんだと。
もとの世界にいた時と同じように、しっかりしているようで少し間抜けなところ。

「ねぇ将臣くん、安心ってどういう意味なの?」

教えてと寄ってくる望美に将臣は笑って告げた。

「そうやって間抜けなお前を見れて安心したって事だよ!」
「何それ!酷い〜!!」


望美の大声をスタートの合図として、二人は一斉に走り出す。
その後ろでは仲間達の静止の声が響いていた。

 


将臣が還内府だと知らない頃ぐらいかな。