12 おかえりが嬉しい日
「おかえり」
たったそれだけの言葉なのに、泣きたくなるほど嬉しく感じる自分がいる。
いつも学校が終わるとすぐさま下校、自宅に帰る頃には辺りは暗くなっていた。
それが当たり前だった毎日。
当然自宅には誰もいないし、室内の明かりを自分で付けて初めて人の存在を確認出来る。
これまではそれが当たり前で何も感じる事はなかったのだが、少しづつ変わってきた。
「じゃ、またね設楽くん」
そう言って手を振るのはつい最近出会った人間。
柏木きらは変わった奴だと思う。
パトロールが終わって、もう帰ろうかと思っていたのだが愁一からの集合がかかっていたのを思い出し葉光学園へ足を動かした。
9月に入ったのにまだ暑い、まだまだ残暑が続きそうだ。
貴賓室の扉を開けると人の気配があった。
もう誰か来ているのだろうか?
さっさと終わらせて帰りたいのが本心だ。
「おかえり」
聞こえてきたのは女の声。
「おかえり設楽くん、お疲れ様」
彼女は聞こえていないと思ったのか、もう一度呟いた、今度は労いの言葉もつけて。
「何そんなとこに突っ立ってんの?外はまだ暑かったでしょ−?なんか飲む…って水しかないんだけど」
一人で喋り続けるきらを優は呆然とただ見つめていた。
「さっきまで圭さんもいたんだけど当主さんを呼びに行ったんだ、…なんていうか圭さんと二人きりだと緊張してさ、設楽くんがきてくれて…って聞いてる!?」
延々と喋り続けていたきらは一考に返事をしない優に叫ぶ。
全く別の思考に捕われていた優の意識は否応なしにきらへ向く。
「きっ…きいてる…!う、うるさい女、だな…」
つい憎まれ口を叩いてしまうのはいつものことだが少し自己嫌悪に陥る。
「うるさくて悪かったわね!だいたい”ただいま”って言わない設楽くんが悪いんじゃない」
「…え?」
「ホームの決まりだったの。帰ったきたら必ず”ただいま”って言うこと、それからちゃんと”おかえり”って言うこと」
「だから…おかえり」
これだけの短い言葉なのに、嬉しくて涙が出そうだ。
「…ただいま」
あるのかは知らないけどホームの決まりを作ってみました。
不器用な二人は不器用さが可愛い。