ジョミーの通うシャングリラ学園には学生食堂がある。

だいたいの生徒はこの食堂を利用するのだが、その他にも外からパン屋の出張販売があったり
コンビニに昼食を買いに行く生徒もいたり、もちろん弁当を持参する生徒もいる。
さまざまな方法で空腹を満たす生徒達だが、その中でジョミーは弁当持参者だ。 
 
11.忘れ物
 
中学までは給食で何かイベントがある時は母の愛情が詰まりすぎている、とクラスでは評判だった弁当を鞄にいれて登校していた。
ジョミーはそれが嬉しかったり、恥かしかったりでいつも何とも言えない気持ちになっていたのだが高校に入学して、ジョミーは学食を利用する気で
いたのでマリアの弁当を食べる機会も減ってしまうのかと少し残念に思ったのだが、マリアは嬉々として毎朝弁当を作ってくれている。
大変だから毎日作らなくてもいいよ、と断ってみたものの、可愛い一人息子の為に作りたいのよ!と、
いつ見ても若々しく少女のような笑顔で母は言ったのだ。 
毎朝大変だとは思うのだが、弁当の中身は毎日違うメニューで見ても食べても母の弁当は凄いと思う。
面と向かっては中々言えないが、食べる前はいつも必ず”ありがとう”と言って食べ始めるのがジョミーの日課だ。
そんなジョミーのお弁当なのだが…
「…あれ?え!?」
「どうしたよ、昼飯にしようぜ、ジョミー」 
昼休みを告げるチャイムと同時に学園中の生徒はそれぞれ動き出す。
ジョミーも鞄から弁当を出そうとしたのだが、いつもあるはずの物がない。
自分の空腹を満たしてくれる弁当が鞄のなかに入っていないではないか!
今日の朝はいつもより遅く起きてしまったから、かなり慌てていた、それは覚えているのだが弁当を鞄に入れた記憶はあまりない。 
「…弁当忘れた」
眉間にしわを寄せて悔しげに呟く、それを見てサムは苦笑いをした。
「マジかよー!俺、お前の弁当の中身見るの、何気に楽しみだったりするんだぜ」
「なんでサムが僕の弁当の中身チェックするんだよ!?」
「いや、お前の弁当、毎日中身違ってるし…今日の中身は何かな〜って気になるんだよ」
別に俺が食べるわけじゃないけどな!と笑いながら、弁当ないなら学食行くか?と
サムは前以って買っていたコンビニの袋を手にしたがジョミーにはあまり行く気が起こらない。
学食が嫌いなわけではないのだが、実はジョミーの先代である会長、もとい先代のソルジャーであるブルーが
ソルジャーになった時に学食のメニューに日本食が多く追加されたらしい。
ソルジャー特権フル活用して学園に無理を言ったんですよ、と今も変わらない微笑みでリオが教えてくれたのはブルーがまだ学園に在籍していた頃だ。 
日本食が多いから学食に行くのが嫌なわけではない。
ジョミーが学食に足を運びたくない理由は、やはりブルーにある。
とある放課後、青の間に飛び込んできたブルーは学食に『オムライス』を追加しようと、いうのだ。
また始まったブルーの無茶にジョミーも適当にはいはい、と頷いていたのだが、ここからが大問題だった。
 
『オムライスは黄色くてとても可愛らしい!まるで君のようだ!!!いや君をモチーフにした料理だと僕は思う!!』
まるで舞台の上を颯爽と歩く演者のように軽快な足取りでブルーは続けた。
『そこにケチャップで…僕の瞳のように真っ赤なケチャップを君に…!なんて…なんて破廉恥なんだ!』
破廉恥なのは貴方の頭の中だ!!!とジョミーの拳が飛んだのは言うまでもない。
 
そんな訳で、メニューに追加こそされなかったが学食に行くとその悪夢のような記憶が鮮明に蘇る。
だから行きたくない、これが誰にも言えないジョミーが学食に行きたくない理由、だった。
仕方なく今日はパンでも買うよ、とサムに告げようとした瞬間、教室中に彼の声が響く。
 
「愛しい僕のジョミー!!うっかりさんな君が忘れたお弁当を届けにきたよ!」
  
ジョミーの耳がその声をひろった瞬間、何故?どうして?と思う前に、大学に帰れ、と条件反射のように叫んでしまった。

 

 

  


「今日の昼食は君を…いやいや、君と一緒に食べようと思って来たら、校門前に弁当を届けに来たマリアさんがいたんだよ。全く君はうっかりさんで可愛いなぁ」

この後、ブルー様はジョミーに『お弁当ありがとうございました』と言われ追い出されます。