「主よ、この不浄を清めたまえ!」
「わっ、わっ!?」
シエルの投げる黒鍵が弓塚さつきに放たれる。さつきは器用に体を捻りなんとかそれをかわした。
「いい加減に私を殺そうとするのはやめてくださいよ!シエル先輩!」
「そうはいきません。あなた方、異形を狩るのは私の仕事ですから。」
怒声をあげるさつきに対して、シエルは冷静に言葉を返した。
「もうっ!先輩の馬鹿!」
ダッ!
さつきはシエルから逃れるため走り出した。
「今回は逃がしません!」
シエルもさつきを追いかけるため走り出す。
さつきは右に左に逃げ続け、シエルはそれを追いかける。
さつきとシエルの距離が10mほどに迫ったとき、さつきは走るのをやめた。
「追いかけっこはもう終わりですか?」
そんなはずはない。そう思いながらも質問するシエル。
さつきは振り返り、
「先輩、今日も私の勝ちです。」
「えっ?」
ダン、ダン!
銃声が鳴り響いた。
「くっ!」
銃声が鳴り響いた後、シエルは横腹を押さえていた。
「まさかあなたがここで待ち伏せしていたとは、シオン=エルトナム=アトラシア。」
銃声を放ったものの正体はシオンだった。
「ナイスだよ、シオン♪」
「計算通りです。さつき。」
パンッ!
二人はハイタッチした。
「(損傷は軽微ですが、錬金術師がこれだけしか考えていないはずがない・・・)」
「どうします、代行者。こちらは二人、そしてあなたは軽傷とはいえ傷を負っている。それでもまだやりますか?」
「・・・・・・いいでしょう。ここはいったん退きます。・・・ですが次は狩ります。」
「先輩。そのセリフ、前もその前も聞きましたよ?」
「・・・・・・・・・・・」
タンッ。
シエルはその場を去っていった。
「・・・・怖かったよ〜、シオ〜ン。」
「もう大丈夫ですね、サツキ。」
「いつもいつも追いかけてくるんだから、先輩は。」
「彼女の役職を考えると仕方ない気もしますが・・・」
「そういえばシオン、もしあの場で先輩が退かなかったらどうしてたの?」
「・・・・・・・」
「・・・シオン?」
「さて帰りましょうか?サツキ。」
「ちょ、ちょっと、答えてよ〜!シオン〜!」
「はあ〜、いつまで続くのかな?こんな生活。」
家(路地裏)に帰ってきたさつきはそう呟いた。シオンは食料調達に行っている。
「遠野君に追いかけられるのなら良いのに・・・。」
吸血鬼になって日の光の下に出られなくなって以来、志貴とはほぼ無縁となっている。(たまに会うが志貴が気付かない。)
「・・・遠野君。」
パンッ!
「った〜!?」
さつきは頭に走った痛みで起きた。
「弓塚。先生の授業中に居眠りとはいい身分だな。」
「えっ?」
さつきは周りを見回した。かつて過ごした教室、クラスメート、教師。吸血鬼となってからもう過ごせないはずの日常の中にいた。
「(あれ?路地裏にいたはずなのに・・・。)」
夢を見てるのか?そう思いおもいっきり自分の頬抓ってみた。
「いたたた!?」
「な、何をしてるんだ弓塚?」
「あっ、い、いえ、なんでもありません。」
そうか。そう言って教師は教壇のほうに戻っていった。
「(現実?じゃあ吸血鬼になったのが夢?)」
さつきは混乱していた。が、あるものを見てからはどうでもよくなった。
「(と、遠野君!?)」
斜め前の席には想い人の志貴がいた。
「(夢とか現実とかどうでもいっか。遠野君がいるし♪)」
「さっきはどうしたの、さつき?」
休み時間友人Aが話しかけてきた。
「えっ、別になんでもないよ。」
「ほんと?」
「うん」
「でも珍しいね。さつきが居眠りなんて。」
「あ〜、え〜と、い、色々疲れてたんだ。あはは・・・。」
「ふ〜ん。遅くまで何してたんだか。」
「何でそういう考えになるの〜!?」
「あはは。ジョーダンだよ。」
「も〜。」
さつきは幸福感に満ちていた。異常を生きてきたものにとって“普通”はかけがえのないものなのだ。
「ところで、さつき?」
「んっ?」
「遠野君にはもう告白した?」
「えっ、えーー!な、なんで?」
「どうなの?さつき。」
「・・・まだだけど。」
「えっ、まだなの。」
「だって・・・。」
「だって、じゃないでしょ。さつき。」
「こ、告白するにもまだ覚悟が・・・。」
「もー、そんなんだと後悔するよ。さつき。」
「(・・・後悔)」
告白せずに後悔した。そんなことはすでに体験済み。吸血鬼になって、家に帰れなくなり先輩に追いかけられるようになって、そして様々な不幸も味わった。今こうしてるのは現実なのか、それとも夢なのかわからない。でも、もしも“今”が現実ならもう後悔はしたくない。
「・・・さつき?」
「えっ、なに?」
「いや、急に黙ってどうしたのかなって。」
「あっ、考え事してたの。」
「告白のこと?」
「うん。・・・よし決めた。放課後、遠野君に告白する。」
「さつき!?」
「(伝えたいことは伝えられなかったらまた後悔するから。)」
「よし、さつき。応援するよ!」
「ありがと。」
放課後、遠野君に私の想いを伝える。
場面は変わり放課後の屋上。そこにはさつきと志貴がいた。
「話って何かな?弓塚さん。」
「あ、あのね、遠野君。」
「なに?」
「(遠野君を前にしたらやっぱり恥ずかしいよ〜。)」
「弓塚さん?」
伝えなければ後悔する。もう後悔はいや。だから、勇気を出して、
「と、遠野君!」
「な、なに?」
「ずっと好きでした!つ、付き合ってください!」
言った。言えた。言ってしまった。
突然の告白(シチュエーションや雰囲気から告白だとわかるものだが、そこは鈍感野郎志貴なので)に志貴は呆けていた。
「(なんて言ってくるかな?)」
受け入れてくれるか、それとも拒絶か。無言の時間が苦しい。でも、拒絶の言葉が来るのだったら聞きたくない。期待と不安がさつきを満たしていた。
「・・・弓塚さん。」
「は、はい!?」
「君の事が好きなのかどうかはわからない。」
「(だめだったのかな・・・。)」
悲しみに満たされようとしていたさつきに志貴は、
「わからないけど、弓塚さんそれでも良いなら付き合おう。」
「!?」
悲しみが消え去り幸福感に満たされていくのをさつきは感じた。
「やっぱりだめかな?こんなの。」
「う、ううん。それでも良いよ、遠野君。ありがとう。」
想いが通じた。さつきはうれしさのあまり志貴に抱きついた。
「わっ、わっ!?弓塚さん!?」
志貴は突然のさつきの行動に驚いた。
「あっ、ご、ごめんね。遠野君。」
「いや、良いよ。驚いたけど弓塚さんみたいに可愛い子に抱き付かれるのはむしろうれしいし・・・って何言ってんだ、俺は。」
「(・・・可愛い!?)」
遠野君が私のこと可愛いって。
さつきは昇天しかけたが何とか踏みとどまって、
「遠野君!これからよろしく!」
「あっ、うん。こちらこそよろしく。」
告白から数ヶ月。さつきは幸せだった。志貴と一緒に映画を見にいったり、買い物に行ったり、公園を散歩に行ったりと平凡なことばかりだったが、志貴が一緒というだけでさつきは満ち足りていた。
「今日も遠野君とデート♪」
白いワンピースを着て、いざ外に出ようとしていたら、
「えっ?」
正面に大きなリボンで髪を結び黒い服を着た女の子、レンがいた。
「・・・・・・そっか。やっぱり“こっち”が夢で“あっち”が現実なんだね。」
「・・・・・・・・・」
ぺこ。
レンは頭を下げた。
「謝らなくていいよ、黒猫さん。むしろお礼を言わせて。幸せな時間をありがとう。」
幸せな夢の終わり。
「サツキ、サツキ。」
「う、う〜ん。・・・あっ、シオン。」
「『あっ、シオン』じゃ、ありませんよ。私が苦労して食料を探してきたっていうのにサツキは寝てるんですから。」
「ごめんね、シオン。なんか眠かったから。」
「まぁ、いいです。とりあえず食事にしましょう。」
「うん。」
夢だったけど、幸せだった。いつかきっとあの夢のように遠野君と・・・・・
                                               終
あとがき
どうも、MHPです。前回に引き続きさっちんです。前回はギャグでしたが今回は恋愛(?)です。夢の中でしたが、さっちんを幸せにしてみました。告白シーンはセリフが思いつきませんでしたので、あんな単純なものになってしまいました。・・・難しい。友人との会話も何か違和感があるような・・・。志貴とのデートシーンは書きませんでした、色々おかしなことになりそうなので。では、このへんで。MHPでした。


管理人より
   投稿ありがとうございます。
   さっちん幸せそうでしたね。
   願わくば現実でも幸福足らん事を祈ります。

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