ガサガサ
大小さまざまなサイズの段ボールを片っ端から開ける。
「あれ、この中じゃなかったか〜。」
ゴソゴソ
奥にある棚もくまなく調べる。
「ん…これかっ!…って、なんだこりゃ?親父の趣味のものか?」
ガタガタ
違うところに積んであった段ボールを調べようとする。
ず…ガラガラガラっ!ゴン!
「!!…ぐほっ!」
「どうしたのですかっ!シロウ!」
〜アルトリアとさんま〜
「んん?」
「「んん?」ではありません。質問に答えて下さい。」
居間で休んでいたアルトリアが駆けつけきて、何事だ?と訊いてくる。
どうやら段ボールを取ろうとして失敗したらしく崩してしまったようだ。
しかも頭を打ったらしく、はっきりしない。くらくらする。
あ、因みに他の娘たちは買い物に行っている、アルトリア以外の娘が来ないのは別段嫌われるってことじゃないからね。
「あててっ…実は探しモノがあってね、それで段ボールが積んであるのを取ろうとしたら失敗したんだ。」
胡乱な頭で答えると、すごい剣幕でお説教を始めた。
「全く、シロウは何でいつもそうなのですか!?朝から土倉で何をしてるかと思えば!!探しモノがあるのならもっと気をつけて探して下さい!!むしろ探しモノがあるなら私にも声をかけて下さい!!そうすれば早く見つけられたでしょうし、こんなことにはならなかった!!ケガでもしたらどうするのですか!?もうあなた一人の体では…ないの…ですよ。」
あれ?お説教していたはずのアルトリアが耳まで赤くなって俯いている。なんだろう?急に赤くなったりして…。
しかも最後の方がよく聞き取れなかったし…
「…ごめん。あと、大丈夫か?急に顔赤くして。」
「き、気にしないで下さい。そ、そんなことはより、一体何を探していたのですか?」
なんか質問をそらされたような…気にするなって言っているし…ま、いっか。とりあえず質問に答える。
「んぉ?あぁ、七輪を探していたんだ。」
「七輪、ですか?」
何ですか、それ?と言わんばかりの顔をしている。
「七輪ってのは何か焼くのに使うんだよ。ほら、昨日サンマを買ったろ?それで七輪を使って炭火で焼こうかと思ってね。」
「なるほど…。」
えらい簡単に納得してくれた。
って、あら?なんかだんだん難しい表情になっていく、何事かと思って尋ねようとしたがアルトリアに先に質問された。
「何故ガスコンロを使わないのですか?炭火で焼くよりも効率がいいでしょう。」
全くもってその通り。
ガスコンロを使った方が遥かに速く焼くことができる。
しかし魚屋の親父さんの話しによると、魚類は炭火で焼くとガスコンロで焼くよりもふっくらと焼き上がるそうだ。
ガスコンロで焼くとどうしても水っぽくなり、風味が少し落ちるらしい。
その話を聞いて昔、親父と餅焼くのに七輪使ったことを思いだし、土倉の荷物を漁っていたのである。
その旨をセイバーに話すと
「なるほど、手間隙かけて作るとより美味しくなるのですか。それは楽しみです。」
なんて屈託のない顔で微笑んでくれた。
さてさて、夕飯の準備をしなくては。
今日の夕飯はご飯、豆腐の味噌汁、ひじき、そしてサンマだ。
う〜ん、純和風。凛やイリヤがなんか言ってきそうだ。
それでも美味かったら何も文句は言わないだろう。
ご飯から味噌汁やらひじきやらはさくっと作ってしまい、最後に中庭でサンマを焼く。
サンマの焼いた後に飯を作れと言われたら少し抵抗があるからだ。ほら、煤とか出るじゃん。あれが料理する時に落ちて
「練炭、練炭…っと、あったあった。これをライターで…よし、火、付いたな。」
七輪の準備はOKだ。あとはサンマを焼くだけ…。
金網の上にサンマを3匹ほど乗せて団扇で煙を扇ぐ、あと此を何回やらねばならないのか…(泣)
ウチは大所帯が故に―なんせ8人分だ―たくさん焼かなきゃならないのは判る
それはわかるんだが、一度に二桁の数の魚を焼くのは正直大変だ、ウチぐらいじゃないか?
特に獅子と虎がよく食べる、よく食べる。蛇も2匹ほどでないがよく食べる。
よって現在進行形でエンゲル係数上昇中、影で桜と雷画じぃさんが食費を渡してくれているのがせめてもの救いだ。
そ〜いえば桜たち遅いな、いつまで買い物に行ってるんだ…?
ぱちぱち
もくもく
ぱたぱた
う〜ん、サンマって煙すごいな。こりゃ室内じゃできない。
ぱちぱち
もくもく
ぱたぱた
「シロウ…。」
「ん?どうした、アルトリア。まだ焼き上がってないぞ。」
「違います、いや違くはないのですが……あ〜…その…。」
言い渋っている。何か言いにくいことなのか?
例えば…
『今日は食欲がないからご飯は少なめでいいです。』
とか………うわっ!それこそあり得ない。
自分をも騙せない嘘はいうもんじゃないな、志貴、お前の言う通りだ。鳥肌立っちゃったよ。
そもそも食欲がないアルトリアなんかアルトリアじゃない!……いや、家計は助かるんだけどね。
「今何か、すごい失礼なことを考えていませんでしたか?(怒)」
「いえ、滅相もございません!で?何か言いにくいことか?」
「あ、いえ…そういう訳ではありません。その…サンマを焼くの、私にやらせて下さい。」
「え、いいよ。そんなことしなくても…「焼かせて下さい!」」
断ろうとしたら言葉を遮られてしまった。
「ここのところずっとシロウに世話をかけてばかりいます、特に食事に関してですが…。そこで気付いたんです。このままではいけないと、騎士道に反すると!ここで少しでもその恩をお返ししなければ私の気がすみません。」
言い切ったその瞳は揺るぎない光で輝いている。
騎士道に反するかどうかは置いたとしても、断っても押し切られそうだ。
『私、絶対にしますっ!』って顔だ。こりゃてこでも動きそうにない。
やれやれ、仕方ないか。ここはアルトリアの言う通りにしよう。
「わかった、じゃあ火に気をつけるんだぞ。」
「はいっ!」
「焼くのは両面だぞ?焦がさないようにな、俺は皿の用意とかしているから…ほい、団扇。」
「これで扇いでいればいいのですね。」
この場はアルトリアに任せて焼き上がった頃にまた来るか…。
サンマも無事焼き上がっていつでも食えるぞっって時にみんな帰ってきた。
しかも大量の荷物を抱えて…一体いくら使ったんだろうってくらいだ。
みんなに夕飯の準備はもう出来ていることを伝えると、ものすごい勢いで居間に駆けて行った。(遠坂は除く)
荷物を俺に押し付けて…。
俺が居間に行った時はもう戦場だった。
― がつがつがつがつっ ひょいっ がつがつがつがつ ―
― ちょっ!?タイガ、私のおかずを取らないで下さい!まだいっぱいあるでしょう! ―
― リン、そこのひじきと醤油取って ―
― ったく、はい。これくらいでいいでしょ?あ、桜、大根おろし取ってくれる? ―
― 姉さん、大根おろしならさっきライダーが全部食べてしまいました… ―
― ぶすっ ―
…何て言うか……すごい。
みんなお腹空いてたんだな。ま、無理ないか…もう7時過ぎだし。
遠坂から聞いた話だと…
『藤村先生とイリヤが新都に行こうって誘われてそれでみんな誘っていったのよ。あ、アルトリアには今日はゆっくり休むとか言って断られちゃったんだけどね。それで、新都に着いてウィンドウショッピングしてたら、みんな時間を忘れるくらいに張り切っちゃって…無論、私もね。』
あぁ…それじゃこうなるよな。最初は落ち着いて居間に駆け出さなかった遠坂でさえも、今はその戦場に加わっている。
さて、俺も食うか。いい加減お腹が空いた、早くしないと俺の分まで盗られるしね。
そんな中で一人、ぶすっとした顔でご飯を食べているアルトリアが居る。
それに遠坂が気付いたのか…
「ねぇ衛宮くん、アルトリアったらどうしたの?いつもはこう、コクコクってしてご飯食べてるのに今日は仏頂面で少し顔を赤くして…私たちがいない間に何かあったの?」
「っ…!」
あ、あの〜遠坂さん…何気に『何かあったんならガンド打つわよ?』ってな感じに聞こえるんですけど…
何もないって言ったら嘘になりますが別に疚しいことはしていませんよ?
アルトリアはアルトリアでどうやら遠坂のセリフに反応したようだが、またぶすっとした顔でご飯を食べ始めた。
あらら、まだ怒ってんのかな…?まぁ、あれは痛かったろう。
男の子ならいざ知らず、女の子にはきつ過ぎる。
実はこれにはワケがありましてね…
そろそろ焼き上がるだろう。あれから結構時間が経っている。
皿の準備だけだから楽だ…とか思っていたが肝心の『大根おろし』を作るのを忘れていて、
急いでサンマに必要なだけの大根おろしを作った。(無論、これも結構量がある)
「お〜い、アルトリア〜。焼きあ……」
「あ、シロウ。丁度いい、全部焼けました…ってシロウ?どうしたのですか?」
「……………(ぷるぷる)」
「どうしたのですっ!?どこかケガでもっ!?」
「あーはっはっはっはっ!くっくっくっく…そのっ、ひっ、はっはっはっは、ぐ、ぐるじ。」
「なっ!?何を笑っているのです!!こちらは心配してるのですよ!?」
「はっはっは、く、その顔で言われても、くっくっくっく。」
「顔?」
「そ、そうだ…ぷっ、鏡見て来い。」
アルトリアはまだ笑いこけている俺を置いて家の中に入っていった。
向かう先は洗面所、ウチにはあそこくらいしか鏡ないしね。
「あ゛ーーーーーー!!!!」
数秒後、普段彼女からは出しえない叫び声が聞こえた。
無理もない、顔がサンマを焼いた時で出る煙と煤で黒くなっていたのだ。
普通、煙が自分の方に来ないようにする為にと酸素を練炭に送る為に団扇で扇ぐのだが、
アルトリアは始めての経験だったのでそこまで頭が回らなかったのだろう。
結果こんなことになった、これは笑わずにはいられなかった。
近年稀に見るおかしさだった。
ぷっ、と思い出し笑いをしてしまった。
それと同時にみんな箸を止め、視線を俺に向ける。
『いったいどうしたのだろう?』と言う視線だ。
「何かあったのは事実のようね、聞かせてくれないかしら?」
みんなの視線が『何があったのか教えろ』という視線になっている。
あぁ、怒気が少々混じっているのは何故でしょうか?みなさん。
そんな中、また思い出し笑いをしてしまった。結構盛大に…
これ以上みんなに睨まれるのも何なので、理由を話してしまおう。
「あ〜、みんなが考えてるようなことはしてないよ。それで、アルトリアの仏頂面と俺の思い出し笑いの理由はね…」
「シ〜ロ〜ウ〜?(怒)」
はっ!まずい…アルトリアがギルガメッシュやらアンリ・マユやらと対峙した時以上の殺気を孕んだ視線で俺のことを睨んでいる。
― 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ ―
頭が逃げろと叫んでいるのに体が金縛りにかかったように動かない。
誰かに助けを求めようとしたが
「ねぇ、シロウ。何があったの?」
なんて白い悪魔、もといイリヤが訊いてくる。
うわっ!こいつ、俺が逃げられないこと知ってて言ってるよ!どこぞのいじめっ子の目をしているし!
桜やライダー、藤ねぇは『私は知りません。』なんて涼しい顔をしてご飯を食べている。
話を振ってきた遠坂なんかは
『アンタの蒔いた種でしょ?ならアンタが刈り取りなさいよ。』
なんて顔をしている。ひでぇよ…振ったのお前じゃんかよ…(泣)
「シ〜ロ〜ウ〜?(怒)」
そ〜こ〜しているうちにアルトリアにバックを取られてしまった。
マズイ…かなりヤバイ…どうしよう!?
ぎぎぎぎ、っと鉄が錆びて動いているような音を出して首が後ろを向く。
「シロウ、ちょっと来て下さい(笑)」
いやー!なんか満面の笑みを浮かべてるー!でも目が笑ってないー!
「ア、アルトリア、わかったっ!あのことは全体に話さないからっ!俺のサンマもやるからっ!な?な?だから許してくれっ!」
「ふっふっふ。そんなことでは聞く耳持ちません。」
俺の命乞いも空しく散り、既に動かなくなった俺の首根っこをむんずっ、と掴み引き摺っていく。
嫌だー!俺はまだ死にたくないー!夢も叶ってないうちに死にたくないー!
「アルトリアちゃん、気が済むまでヤっちゃっていいわよ。」
「わかっています、タイガ。」
おいっ、藤ねぇ。何てこと言うんだよ!しかもなんか違くなかったか?
しかもアルトリアは了承してるし…。
あぁ、いろんな修羅場越えてきたけど今回は流石にきついかな…(泣)
その後、俺は道場に連れて行かれ、アルトリアの気が済むまでコテンパンにヤられました。
アルトリアに許しを乞っても
「反省するまで出してあげません(笑)」
と断られ、そのまま鍛錬とか言って嬉嬉として俺のことを竹刀で殴っていました。
結局、いつも何時間もかけてやる量を30分でやったため、俺の体はもぅ動かなかった。
反面、アルトリアはすっきりした顔で
「これに懲りて人のミスを他人に言いふらすのはやめて下さいね。」
と言い、そして最後の一言、これが決定的だった。
「それでは、シロウのサンマを食べに行きます。あ、大根おろしがないので早く作って下さいね。」
うわ〜ん、聞く耳持たないんじゃなかったのかよ。しかもボロ雑巾のような今の俺に大根おろし作れと…
あ、ヤベ。眠くなってきた、ま、いっか。そのまま俺は深〜い闇に落ちていった、最後に
『もぅ二度とアルトリアをからかわない』
と思いながら……
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あとがき>
どうも、邦爛って言います。初投稿となります。
どうでしょう、楽しんで頂けたでしょうか?自分では書き終わって何じゃコリャって感じです。
オチもどこかスッキリしないような…題名も内容と即してるかどうか…(汗)
序盤のアルトリアのセリフ、結局言及されないまま終わっています。それはまたいつか明かされるでしょう。(ただ文章構成力が弱いだけでは?)
因みに世界観は『七歴史』の冬木市になっております、EDも誰と決まってません(汗々)
誤字脱字等見つかりましたら掲示板にてお知らせ下さい。それでは〜。
管理人より
邦爛さん第一号の投稿大変大変ありがとうございます!!
四章でこういったシーンもあるかもなと生暖かく微笑みながら読ませていただきました。
実際生き残るでしょうから、セイバーもライダーも(更に二人生存予定リストに加わっています)。