『シロウ』
「セイバー……?」
瞼を開き目を覚ます。彼女の、セイバーの声が聞こえた気がしたから。
「……なわけないよな」
周りを見渡すが、彼女の姿は見えない。当たり前だ。ついこの前永遠と言える別離をしたのだから。
「う、う〜ん」
体を動かしてほぐす。あちこちから骨の鳴る音が聞こえる。
「え〜と? 今は……大体5時くらいか?」
普段の経験から現在の時間を割り出す。
「さてと、制服に着替えて飯の支度するか」
ちなみに、昨日遅くまで土蔵にて魔術の鍛錬及び故障品の修理をしていて、そのまま寝てしまい作業服のままである。
 
 
いつも通り騒がしい朝食を終え、学校へと向かう。その途中で
「おはよう、士朗」
「ああ、おはよう。遠坂」
遠坂とばったり会う。こいつとは聖杯戦争終了時からこの場所でばったり会うようになったので、一緒に登校するようになった。
「ふ、ふわあ……」
「おいおい? 無理するなよ?」
「むか。わかってるわよ!」
しかし、遠坂がこの場所で俺とばったり会うにはいつもより早起きしなくてはいけないため、いつも眠そうにしている。
「そんなに眠いんならさ? 普段どおりに……」
「うるさい!」
俺の言葉が癇に障ったのか、遠坂は怒って先々に行ってしまう。しかし、俺には何が遠坂の勘に障ったのかわからない。
「鈍感馬鹿」
 
 
学校に到着し、教室に入り自分の席に座る。そして、HRの始まりを知らせるチャイムが鳴り、藤ねえが入って来て一日が始まる。
 
 
昼休み。教室から出て生徒会室で一成と一緒に食事を取る。その途中、一成が
「なあ? 衛宮」
「なんだ? 一成」
「最近のお前は頑張りすぎではないか? いや、頑張りすぎなのは前からだが、最近のお前は前以上に頑張りすぎていると言うか……」
「そうか?」
自分では頑張りすぎてはいないと思う。むしろ足らないと思う。
「ああ。一体何があったのだ?」
「特に何もない。一成こそどうした? 急にそんなこと言って」
「いや、突然気になったものでな。気にしないでくれ」
その後は特に会話もなく食事が進んでいった。
 
 
放課後。生徒会の手伝いも終わり、帰り支度をして教室から出る。が
「衛宮君」
「ん? なんだ遠坂か。何か用か?」
遠坂が話しかけてきた。こうやって学校でこいつが話しかけてくるのは滅多にないのだが、
「話があるの。屋上まで来て」
「話?」
一体どんな話があると言うのか?
 
 
遠坂についていき、屋上で彼女と対峙する形で立つ。
「で? 話って何だよ? 遠坂」
「単刀直入に聞くわ。あなた、後悔し始めてるでしょ?」
ドクン!
遠坂のその言葉に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「後悔してるって……何をさ?」
遠坂が何を言っているか分からない。いや、分かろうとしない自分がいる。
「セイバーと別れたこと」
「……何で後悔してるって思うんだ?」
俺は後悔なんてしていない。その気持ちに嘘はない。嘘はないが、
「最近のあなたは頑張りすぎてる。そう。何かを振り払いたいがために。私にはそう見える」
「一成にも言われた。頑張りすぎだ、ってな。でも、俺は頑張りすぎているつもりはないし、何かを振り払いたいなんて考えてもいない」
これ以上話し合うことはないと思い、屋上から去ろうとする。その後ろで、
「自覚してるんでしょ?」
遠坂が聞いてくる。
「……」
無言でその場を去る。
 
 
学校帰りにコペンハーゲンでバイトをしたが、ここでも
『衛宮は最近頑張ってるねぇ。前以上にさ』
そんなことを言われた。
 
 
みんなして『俺は頑張りすぎている』と言ってくる。俺は自分が頑張りすぎているとは思っていない。『正義の味方』になるための努力もその他のこともまだまだ足りない。
俺は自分が未だに未熟だから努力しているに過ぎない。
 
 
夜。藤ねえと桜、イリアを交えた晩御飯を取る。そして、
「士朗さぁ? 最近頑張ってない?」
やはりここでも言われた。これで何度目だ? そのセリフは?
「そんなことない」
ぶっきらぼうに答え、ご飯にがっつく。
「そう?」
「ああ」
しつこい。イライラする。
 
 
深夜。藤ねえとイリア、桜は家に帰って行ったあと、道場へと赴き、竹刀を振る。一定回数縦横と振った後、仮想の敵を頭に描く。思い浮かぶのは彼女、セイバーだ。
思い描いた後はイメージに沿って体を動かし、あたかも目の前に敵がいるようにする。独闘というもので、イメージトレーニングの一種だ。
彼女の初撃を何とかして受け、その後続く連撃もなんとか受け止める。が、その後の重い一撃に切り伏せられ、そこで彼女のイメージが消える。
「くそ……」
いつもこれだ。十合前後の打ち合いで決着がつく。イメージした彼女には攻撃をさせてくれる隙などなく、また手加減もない。
それはそうだ。思い描く彼女は聖杯戦争に於ける本気の彼女なのだから。
人間は英霊(サーヴァント)には決して勝てない。英霊に勝てるのは同じ英霊やそれこそ幻想種や神獣、二十七祖と言った怪物くらいだ。
「でも、この鍛錬は無駄じゃない」
そう。無駄ではない。やり始めのときは初撃で切り伏せられたが、今は少ないが何とか打ち合えるようにはなっている。
「まあ、十合から先にいかないけど……」
 
 
肉体や戦闘技術の鍛錬のあとは魔術鍛錬。聖杯戦争以来普段の『強化』に加え、宝具の『投影』も鍛錬する。
「トレース・オン」
我が身を唯一つの魔術回路へと変化させる。余計なことはいらない。目の前に置いてある鉄パイプに魔力を流し、『強化』する。
「……成功、っと」
聖杯戦争以来『強化』の成功率はほぼ100%になってきている。
「次は……トレース・オン」
『投影』の鍛錬。想像するのは彼女の剣。
「ぐ、ぐう!」
はっきり言って無謀でしかない。彼女の剣と俺の魔力には月とスッポン、あるいはアリと像以上の差がある。
それでも、『投影』の鍛錬に置いていつも想像するのは彼女の剣、約束された勝利の剣(エクスカリバー)。
「ぐ……くそ」
一箇所に集中していた魔力が散ってしまった。
「また失敗か……」
失敗するのは分かりきっていたことだが、それでも挑戦する。
「……」
何故自分はこんなにも無謀な挑戦をするのか? 答えは決まっている。
『未だに彼女を忘れることが出来ない』から。
しかし、遠坂の言う後悔とは違うと思う。後悔ではなければ何なのか? きっと、自分にとって最強のイメージが彼女だからだろう。
鍛錬のときも思い描く仮想の敵はいつも彼女。最強の敵と戦い、最強の力を世に創ろうとする。つまりはそういうことだ。だから、彼女を忘れられない。
 
 
魔術の鍛錬も終わり、今日は修理しなくてはいけないものはないので早々に寝ることにする。
寝る前に遠坂の言葉が頭を過ぎったが、気にしない。
「俺は……」
意識を闇に手放した。
 
 
そんな出来事も今では遠すぎる思い出。あれから十年以上経った。俺は終わった戦場に立っている。が、自分の前には未だ敵がいる。たった一人。だが、最強の敵。
「こんな形でお前に会うなんてな。セイバー」
我が前にいるのはかつて供に戦った戦友にして愛する女性。セイバー。しかし、彼女は『セイバー』ではなく、『英霊アーサー王』として前に立ちはだかっている。
「人間性なんてないんだろうけどさ? お前にこうして会ったことで気付いたことがあるんだ」
目の前の彼女は何も言わないし、何もその翡翠の瞳に映していない。それでも続けて言う。
「あの選択に、お前との別離に後悔はしてないと思ってた。でも、違った。遠坂の言うとおり俺はお前との別れに後悔していた」
彼女はやはり何も言わない。
「今更だな。遠坂とはもう敵同士で会えないから、謝れないしな。はは」
トレース・オン
両の手にアーチャーの愛用していた双剣を投影する。その行動でようやく彼女も剣を構える。
「今となってはどうでもいいことか。悪いな。ずいぶんと待たせた。では、始めようか?」
「……」
スッ
「うおおおおおお!」
ダッ!
 
有り得たかもしれない邂逅。この闘いはもちろん士朗の完全敗北だった。だが、彼女に敗れた士朗の顔は満足そうな顔をしていた。
この後、士朗がどんな道筋をたどっていたかは謎。かの英雄と同じ結末を迎えたのか? それとも、別の道を歩んだのか? 誰一人知る者はいない。
 
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あとがき
 
え〜と、Fateルート後の私の妄想です。その……微妙ですね。Fateはこれが初になります。久々にシリアスものを書いたので、出来は今一ですね。精進しなくては。
ではこの辺で。MHPでした。





管理人より
   Fateルート後のお話ご苦労様です。
   雰因気は良いと思います。
   ただ、何故士郎とセイバーが戦う羽目になったのかそれをもう少し描写してくれれば良かったんですが・・
   まあそこは読者の想像と言う事でしたら目論見は成功ですが。
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