死神モード・・・七夜志貴が己の意思で封印を施した退魔衝動を意図的に開放し、冷酷非情な虐殺鬼となりて、己の退魔衝動のガス抜きを行う。

一重に彼が敬愛する師匠達、彼を慕う使い魔、そして彼が心の底から愛する妻をその牙から守る為に・・・

それを盟友『錬剣師』衛宮士郎が目撃したのはある死都制圧の際だった。









その日は志貴の様子が違っていた。

沈着冷静で落ち着いている志貴がどう言う訳かソワソワし、きょろきょろと何かを探し回っている。

例えが悪いが麻薬の禁断症状に良く似ていた。

その様子に士郎は無論ゼルレッチも戸惑いを覚えずにはいられなかった。

「志貴?どうした?」

「へっ?い、いや・・・何でも無い」

「何でも無い筈が無かろう。志貴調子が悪い様なら士郎に」

「いや大丈夫です!師匠!!少し動けば元に戻りますし仕事でへまはしません・・・」

そんな訳無いだろうと言いたかったが、志貴の口調の激しさや何よりも異様な空気に呑まれ何も言えなかった。

「じゃあ行くか・・・何時も通りな俺は西側を制圧する。」

「了解、俺は東から侵攻するから」

そう言い合うと志貴と士郎は二手に分かれ仕事を開始した。









東側から死都制圧を始め中心部に到着した時、士郎は不審感しか覚えていなかった。

と言うのも、

「なんだ?死者が少ない・・・」

この都市の推定人口はおよそ四万、中規模の都市だ。

脱出したり、死者にならなかった者がいたとしても推定計算で二万四・五千から三万弱は死者となっている筈。

だが、士郎が葬った死者の数は現時点で僅か百体足らず。

士郎が進んだルートが何かの偶然で死者の少ないルートを選んでしまったと言う仮説も成り立つが、それにしては中心部に到着しても尚死者の気配が無いと言うのはどう言う事だ?

それに・・・

「遅いな志貴の奴・・・一体どうしたんだ?」

志貴がまるで到着しない。

何時もならば自分とほぼ同じか、やや早い時間で到着する盟友が来ない事にも、疑問を感じずに入られない。

仮定の話だが、いくら油断して苦戦していたとしても、これだけの時間がかかるのは異常だ。

「気になるな・・・様子を見に行くか」

開始前の不審な志貴の様子もあり、士郎は志貴の担当である西側に足を踏み入れた。









それをなんと表現すれば良いのか・・・士郎には判断がつかなかった。

西側にはやはり死者が大量にたむろしていたが様子がおかしかった。

侵入してきた士郎には眼もくれず、士郎に背を向け、ただひたすらに何かに向かいその歩を進めていく。

その先には・・・何も無い・・・ただ道路があるだけだ。

しかし、次の瞬間・・・一陣の風が通り抜け、その風が止んだ時・・・死者が次々と死んでいた・・・いや、消されていた・・・自分を除いて。

まるで消しゴムで文字を消すように・・・白いペンキで絵を消す様に・・・その存在が虚構であるとでも言わんばかりに・・・

「な、なんだよ・・・これ・・・」

呆然とする。

いくらなんでもこれはどう言う事だ?

この通りには少なく見積もっても六十から八十に届く数の死者が存在していた。

それが風が吹いて止むまでのわずか三秒で全滅・・・いや、消滅したと言うのは・・・

その時、何故か士郎の脳裏に恐ろしい計算が成り立った。

仮にここにいた死者の数が六十と仮定しよう。

それを三秒で抹消した・・・つまり六十×二十=一分で千二百の死者を消す・・・後は至極単純な掛け算だ。

千二百×六十=一時間で七万二千を・・・今の欧州の季節は冬。

この時期の日は短い故に、夜を十二時間と仮定すると七万二千×十二=八十六万四千の死者を消す。

無論これは仮定だらけの話に過ぎず、机上の空論に過ぎない。

あの速度を十二時間も続け、更にはそれは死者を常に捕捉していなければならないと言う絶対条件が必要だ。

だが・・・逆を言えばその絶対条件を満たしていれば必ずしも不可能な数字でない。

いや、下手すれば十七位『白翼公』の軍勢を一晩で全滅させうるかもしれない・・・

冗談、笑い話、滑稽、与太話。

こんな現実をじかに見ても思い浮かぶのは否定する言葉ばかり。

だが、この通りの状況が虚偽でも何でも無い事を示していた。

「・・・さっきの風から言ってここをまっすぐ行ったのか・・・」

その視線の先もまた静まり返っていた・・・









ようやく到着したのは整備された公園だった。

そしてそこでは・・・既に虐殺・・・いや、抹消は終わっており、その中心からは

「はははは・・・」

志貴のいつにない愉快そうな声が響いていた。

「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃ!!」

更にそれに続く様に死徒と思われる悲痛な悲鳴が木霊する。

「志貴??」

警戒しながら歩を進める。

そして辿り着いた先では・・・志貴が面白そうな表情で大木に磔にされた死徒目掛けて小石を投げ付けている。

その小石が死徒の腕を掠めるとそれは見事にばっさりと切り裂かれ血が噴き出す。

おそらく掠めた箇所に線があるのだろう・・・と言うか、死徒は線やら点だらけであるが。

「お、おい・・・志貴」

「ああ士郎、これで終わる」

含み笑いを浮かべ手に持っていた最後の小石を投げ付けると同時に立ち上がる。

そして志貴が士郎の方を振り向くと同時に死徒が灰と化す。

寸分の狂いもなく点を貫いた様だった。

「よう士郎遅かったな。あらかた俺の方で片付けておいた」

「そ、そうか・・・それにしては随分派手にやったな・・・」

何時もとは程遠い志貴の空気に、思わず一歩退き一瞬・・・そう一瞬の半分の時間だけ戦意を表した。

「ん?どうした士郎?」

「え?い、いや・・・別に・・・っておい!!待て!!!何故構える?!」

士郎が慌てるのも無理はない。

一歩退く士郎を見てにやりと笑い、躊躇いもなく『七つ夜』を構えれば誰でも慌てる。

「他意はねえ。ただな・・・」

「た、ただ?」

「お前が戦闘の意思を見せたからなその礼儀にしたがってな」

「そんな礼儀いらねえよ!!」

思わず士郎は叫ぶ。

おかしい。

志貴は明らかに変だ。

何時もなら、あのような処刑法を行うはずもなく、誰それ構わず戦闘を仕掛ける筈もない。

かと言って偽者かと言われればそれも違う。

あれは間違いなく志貴本人。

一体これは・・・

そんな事を考えていると

「・・・おい士郎聞こえるか?」

再び志貴が話しかけてきた。

しかし、今度のそれは落ち着いた何時もの志貴の口調。

「志貴?」

「構う事はない。本気でやれ」

「へっ?おい本気って」

「言葉のままだ。今の俺は誰であろうと躊躇しねえ。今だって少し押さえ込んでいるだけだ。本気でいかないと・・・お前死ぬぞ」

「し、死ぬ?」

「とにかく本気で派手に仕掛けろ。そうすりゃ師匠も気付く。安心しろ、今の俺には生半端な攻撃は届かない」

「そ、そりゃお前に並大抵の技なんか通用するとは思わないが・・・だけど俺がマジでやったってお前に瞬殺されるんじゃ・・・」

「案ずるな。今の俺は『七技』も『死奥義』も『極の四禁』も使わない・・・話は終わりだ。行くぜ」

がらりと変わった口調と共ににやりと笑う志貴。

その笑顔を見た瞬間、本能の赴くままに士郎は最速の宝具を創り出す。

「!!投影開始(トーレス・オン)・・・猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!!」

雷の如く叩き出された鉄槌を

「ひゃはははは!こう来なくちゃ!!」

事もあろうに志貴は一閃で真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれた宝具は普通、直ぐに消えるのだが、二つに割れたヴァジュラは片割れは空の彼方に消え去り、もう片割れは消える前に市街地の建物に次々と命中。

轟音と共に建物は倒壊する。

「嘘だろ・・・おい・・・」

漫画じゃあるまいに、銃弾に匹敵する速度を持つヴァジュラを叩き切るとは・・・

「ぼうっとしてる暇はねえぞ!!」

言葉と共に人間の皮を被った死神が跳躍して襲い掛かる。

「投影開始(トーレス・オン)・・・同調開始(セット)・・・投影反映(トーレス・ミラージュ)!!」

もはや躊躇している暇も後先も考えている時間もない。

自身の待ちうる最大の対人攻撃で迎え撃つ。

投影した得物の担い手を装備し

「おらあああああ!!」

力任せに志貴を薙ぎ払う。

「がっ!!」

呂布と一体化したその怪力を持って志貴を吹き飛ばす。

だが、その一撃を刃ではなく、柄の部分で受ける事でダメージを最小限に食い止め、更には空中で体勢を立て直し着地するあたりは見事と言うべきか。

「うおおおおお!!」

反撃の暇を与えず更に躍り掛かり、猛攻を仕掛ける士郎。

手に握られている方天戟を力任せに振り下ろし叩き込む。

それを志貴は

「はははは、あははははは!ひゃはははははは!!」

受け止める事はせず逸らしかわし弾き飛ばす。

先程言っていた通り志貴は目立った技法など全く使っていない。

ただ、武器を振り回し無造作に振り下ろすだけだ。

だが、士郎は得体の知れない恐怖に完全に支配されていた。

「おおおおお!!」

自らを鼓舞すると言うよりも、自身の中に息づく恐怖を追い払おうとしているかの様に武器をただ振り回す。

呂布の力を最大限駆使して方天戟を叩き込む。

しかし・・・

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

笑みを浮かべたまま、志貴は猛将呂布そのものと化した士郎の攻撃を全て捌く。

「!!」

反映に限界が来たのか、それとも表情の変わらぬ志貴への恐怖が極限まで達したのか、それとも両方なのか、方天戟を解除し志貴と距離を置く。

「はははは・・・士郎、やっぱお前最高だ」

おぞましい凶笑を浮かべて士郎を絶賛する志貴。

だが、士郎にはそれが逃げ惑う獲物を追い詰めた肉食獣の笑みにしか見えない。

「でもよ・・・世の中楽しい事なんざ直ぐに終わっちまうんだよなぁ〜これで終わりにしようぜ!!」

士郎に跳びかかる志貴に士郎は鉄壁の防壁を既に用意していた。

「投影開始(トーレス・オン)、万兵討ち果たす護国の矢(諸葛弩)!!」

電光石火で投影された十台近くの諸葛弩から次々と矢が吐き出される。

「ちっ!」

雨の如く降り注ぐ矢の雨に、志貴は直ぐに後退し矢を次々と弾き飛ばす。

何しろかすり傷でも傷口が壊死する代物だ。

そんなものを受けては、狩りも面白くならない。

だが、士郎の追撃は止まらない。

「投影開始(トーレス・オン)・・・接続完了(リンク・セット)・・・猛り狂う雷神の鉄槌(ヴァジュラ)!大神宣言(グングニル)!」

躊躇なく能力を接続させた上に真名を解放させた、ヴァジュラとグングニルが唸りをあげて志貴に迫る。

避けても永久に追い続ける二つの宝具を志貴は躊躇う事無くグングニルを真っ二つに叩き切り、ヴァジュラを魚の如く三枚に下ろした。

が、それは士郎の予測済みの事だった。

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

二つの宝具が轟音を立てて大爆発を起こす。

死徒など簡単に抹消できる猛攻を受けては、さしもの志貴も・・・

「くっくっくっ・・・」

完全に無傷だった。

どれほどの速度で離脱したのか不明だが、無傷である事には変わりはない。

それを見た士郎は今度は

「投影開始(トーレス・オン)、轟く五星(ブリューナク)!」

自身が持つ最強の投擲宝具を繰り出した。

それが志貴に到着する寸前に

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

一気に爆破する。

本来なら『革命幻想』を使いたい所だが、あれは魔力注入に時間が異常にかかる。

いつ襲い掛かられるかわからない状況で使える筈が無い。

宝具三発の大爆発によって公園は凄惨な状況を呈していた。

しかし、それでも志貴は平然と無傷で離脱していた。

どちらにしろ、ここでのこれ以上の戦闘はまずい。

公園だけあり、小規模ながら雑木林がある。

そして今、自分達はその雑木林の中で戦っている。

ここはいわば志貴のホームグラウンド。

アウェイの自分には不利。

不利な条件で戦い勝とう等と言う思考は、欠片も存在していない。

とにかく障害物のない場所に移動しようとした時、

「はははは・・・士郎、逃がす訳ねえだろ」

そう呟くと同時に志貴の気配が完全に絶たれた。









「へっ?」

それを理解するのにさしもの士郎も時間が必要だった。

「志貴の・・・気配が消えた?」

完全に消え失せた気配を探ろうとするが、ようとして志貴の気配はわからない。

この様な事があるのだろうか?

「・・・」

身体が小刻みに震える。

唾すら飲み込めない。

周囲の闇がこれほど恐ろしいなど生まれて初めてだった。

「はははは・・・」

「ひっ!」

声の方向に振り返る。

そこにあるのは闇だけ。

「ははははは・・・」

「!!」

反対方向を振り返る。

そこも闇。

「ははは・・・」

「ははははは・・・」

「ははははははははは・・・」

四方八方から声が響く。

士郎はただひたすら、声の方角に視線を向ける事しか出来なかった。

「はははははは・・・」

何回目の嘲笑になるだろうか、その声がちょうど諸葛弩を配備していた方向から聞こえてきた瞬間、諸葛弩が一つ残らず破壊された。

多少の時間差はあっただろう。

それでもほぼ同時に破壊された。

身の危険を最大限にまで感じ取った士郎は再度投影を試みるがタッチの差で遅かった。

「投影・・・がはっ!」

詠唱を唱える直前、志貴の蹴りが腹部に飛び込み、その衝撃で吹き飛ばされる。

地面に転がりながら吹っ飛ばされ、やがて木にぶつかる事でようやく止まる士郎。

「くぅぅぅぅ・・・六兎かよ・・・」

今来ている服を強化していなければ、腹に足型の風穴が開いていた。

だが、それでもダメージは大きく暫くは動けそうにない。

「ここまでだな士郎・・・」

暗闇から忽然と志貴が現れる。

「んじゃ・・・迷う事無くあの世に行けよ」

そう言い迷いなく士郎に襲い掛かる。

だがそれを

「何をしておるか志貴」

そんな声と共に繰り出された、横からの一撃で志貴は直角に吹き飛ばされた。

「師匠・・・」

「まったく、いつまで経っても戻ってこないかと思えば、何をしておるか二人して」

何時もより遥かに遅く、おまけに死都からは、まるで爆撃のように建物が次々と倒壊するは、大爆発がおこるはで、何事かと様子を見に来たゼルレッチが間一髪間に合った。

「た、助かりました・・・」

「で、どうしたというのか?」

「それは志貴に聞いて下さい」

そういう士郎の視線の先には

「あ〜いてて・・・」

完全に何時もの口調で起き上がる、志貴の姿があった。

「士郎大丈夫か?」

「ああ、まあな・・・しっかし一体何があった?」

本気で殺されるかと思ったのだ。

この変化尋常ではない。

士郎の疑問に志貴は頭を掻いて苦々しく告げる。

「ああ簡単に言えば・・・『死神モード』に入っちまった」

「「『死神モード』?」」

士郎とゼルレッチの声がはもる。

「志貴それは・・・」

「一体何だ?その『死神モード』というのは?」

二人の質問に志貴は説明を始めた。









「なんとまあ・・・」

「無理をするなお前も・・・」

一通り志貴から『死神モード』の説明を受けた二人は顔を見合わせる。

退魔の家系である七夜の血を受け継ぐ志貴が、魔の側であるアルクェイド・アルトルージュ、秋葉を妻とし、夢魔レンを使い魔として従えているのだ。

何らかのリスクはあるだろうと思われたが、ここまで苛烈なリスクが存在するとは、思わなかった。

「じゃあ志貴今は・・・」

「ああ。お前ともやりあったおかげで衝動は完全に沈静化した。本当にすまなかった士郎」

いつもなら死都制圧の合間に『裏七夜』の仕事が入るため、そこである程度は衝動を解消できる筈だったのだが、今回に限り『裏七夜』の仕事は全く入らず、衝動をいたずらに溜め込み今回の仕事まで持ち込んでしまった事に志貴は恐縮しきりだった。

「ああもう良いよ。お互いこうして無事な訳だしな」

「だが志貴、そうも都合よく死都の殲滅が来るわけでないし『裏七夜』の仕事も無限に入る訳ではあるまい。その際はどうする気なのだ?」

ゼルレッチの懸念ももっともだった。

「ああ、それについても心配は要りません師匠。『死神モード』程ではないですが確実に衝動を鎮める術もありますから」

「術??それってどんな方法なんだ?」

「簡単さ。どんな手段でも良いから魔を屈服させれば良いのさ」

「屈服??」

「ああ、そうする事である程度は衝動が満足感を得られるらしい。無論一番効率が良いのは魔を殲滅するのだけどな」

「だけど屈服って・・・どうするんだ?」

魔を屈服させる事など出来るのだろうかと士郎が抱いた疑問を、志貴は単純明快に答えた。

「身近なら夜の閨か。確実にあいつらを屈服できるから」

「・・・」

絶句する。

そう言えば以前、アルクェイドとアルトルージュが漏らした事がある。

『志貴って夜はすごいのよ。えっと・・・なんて言えば良いのかな?野獣って奴』

『うんうん、私達が許してって言っても容赦無いんだから。何時もはあんなに優しいのに、人が変わったみたいに求めるのよ』

その言葉に秋葉とレンが大きく、程度の差こそあれ翡翠達残りの夫人も肯定していた。

その時はなるほどと言う程度だったが、まさかこの様な裏事情があるとは思わなかった。

「そういう意味の屈服かよ・・・」

「ああ、それをもってしても今回は解消出来ないほど溜まっちまったんだけどな。それと士郎、この事皆には内緒にしておいてくれ。自分達の所為で、俺がこんなもの背負い込んでいるなんて知られたくないから」

エゴかも知れないが、それでもそれは妻達を気遣った言葉だった。

「判った。聞かれても言わないから」

「ありがとうな。それと師匠も」

「判っておる」

「お世話をかけます」

「それと志貴、その『死神モード』自分で止める事は出来ないのか?」

「それは俺も試してみたんだが、どうも発動は俺の意思で出来るが、止めるのは無理みたいだ」

「無理?」

志貴の答えに士郎はぽかんと口を開ける。

「ああ、衝動が自然に収まるか、さっきの様に、外からある程度の衝撃を受ければ止まるんだが」

「マジでブレーキの無い暴走列車だな、お前・・・」

「それを言うな」

士郎から指摘され志貴も憮然とする。

だが、それが事実なのだから仕方ないのだが。

「取り敢えず帰還するぞ二人とも。あまりに遅いと姫様方が心配する」

「そうだな」

「そうですね」

ゼルレッチの言葉に二人は頷き、志貴は風を周囲に包ませると転移してその場を後にした。









『死神モード』・・・『真なる死神』としてその名を轟かせる七夜志貴がその心に抱える唯一の闇。

現時点では志貴は極めて危ういバランスながらその闇をコントロールしている。

だが、その闇が何時本人の制御に余るものになるか、それは判らない・・・誰一人として・・・

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