さて・・・ここで少し昔の話に移ろう。

歪んだ歴史に関係あるのかどうかは未だに不明。

だが、未来を知りたければそれには現在と過去を知らねば何も始まらない・・・

黒の書番外『起源』

これは遥か昔のありふれた悲劇。

あるところに一組のきょうだいがいました。

両親は二人が幼い時に死んでしまいました。

きょうだいは二人力を合わせて生きていました。

兄は生まれた時から不思議な力を持っていました。

彼が指を鳴らせば影が意思を持ち、兄は影を使役するのです。

でも兄はその力をわるい事には使いませんでした。

なぜならそれはしんだおとうさんとおかあさんの言いつけだからです。

「この力を決してわるい事に使ってはならない」

「この力は・・・に神様が与えてくれた力なのよ」と

だから兄はこの力を悪い事には使わず人の為に使いました。

兄は影を使い畑を耕したり泥棒を捕まえたりしました。

妹にはそんな不思議な力はありません。

ただ活発な明るい少女でした。

兄は妹を大事にしていましたし妹はそんな兄が大好きでした。

でも・・・ある日きょうだいに不幸が訪れました。

兄の力を知ったあるえらいおうさまが兄を捕まえようとしたのです。

そのえらいおうさまはよその国にいつも自慢ばかりしていました。

珍しい動物を民が飼っていればそれを横取りして『これは自分のもの』にしてしまいます。

美しい女性がいれば奪い『これは自分の妻』だと言い張ってしまうのです。

よその国にそれがあれば力に任せてその国を滅ぼして自分のものにしてしまうのです。

兄の力を聞いたおうさまはいつもやっていた方法で兄を奪い『自分のもの』にしようとしました。

きょうだいが貧しいながらも慎ましく住んでいた家を焼き払い

どうして?

きょうだいが静かに生活を営んでいた村から追い出させ

なんで?

きょうだいにいろいろなつみをきせて

ぼくたちが何をしたの?

そしてきょうだいはおうさまの元に引き立てられました。

ですがおうさまが欲しいのは兄の方、妹には何の関心も無く。

“そのようなゴミはいらぬ”

ただその一言で妹は

やだぁあ!!

無残に

お兄ちゃん!!

殺されてしまったのです。

その後どうなったのでしょう?

その国はほろびてしまいました。

おうさまも、けらいも、こくみんも・・・皆皆死にました。

いいえ、死ぬよりも残酷な事になりました。

たった一人の家族を殺された兄はお父さんやお母さんが封じた本当の力に目覚めてしまったのです。

皆、影に呑まれました。

中にはじぶんの影に斬り殺されてから呑まれる者もいました。

中でもおうさまと妹を殺したけらいは惨たらしく呑まれました。

ひめいをあげても許しを請うてもゆるしません。

だって家族を殺したんですから。

やがて殺す者も呑み込むものもいなくなり、兄は妹の温もりが残る体を抱き寄せ泣きました。

そんな時です、彼に優しい王様が現れたのは・・・









「ああああ、エミリヤ・・・エミリヤ・・・」

もう息をしていない妹を抱き寄せ彼はただ泣く。

「助けたいか?」

不意に声がした。

彼が上を向くとそこには一人の男がいた。

「あなたは?」

「私の事など良いだろう?今一度聞く。その娘を助けたいのか?」

「はい、俺はどうなっても良い。エミリヤが・・・妹が助かるなら」

「そうか・・・ならば私の影となるか?」

「影?」

「そうだ?お前の力を私の為に使い、そして私の意志を伝える影となれ。そうすればその忠誠の恩賞として妹を甦らせても良い。ただし・・・それは私の側近としてだが」

「側近?」

「そうだ。この娘には私の力を受け容れる事が出来る余地がある。そこに私の力の一部を注げばお前の妹は甦る。だが、そうなればお前も妹も人で無くなり悪魔と化そう、どうする?受けるか受けぬはお前の自由に処す」

彼の迷いは一秒も満たなかった。

「はい。喜んで俺はあなたの影となりましょう。ですからお願いですエミリヤを」

妹を助けられるなら迷いなど無い。

「礼を言う・・・では妹の身体を」

「はい」

横たわる少女の身体に手をかざす。

我勅命下す。

闇に眠り地に堕した天使よ今こそ相応しき器に宿れ

その瞬間、その手に闇が溢れ少女の周囲は完全に闇に包まれた。

「これで直ぐに眼を覚まそう。次はお前だ」

「はい」

彼に近寄ると心臓に手を当てる。

「一度死んでもらうぞ」

「はい」

その瞬間衝撃が走り彼は意識を失った。









「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・」

彼は意識を取り戻す。

そこには泣きじゃくった妹が必死になって自分を揺さぶっていた。

「エミリヤ?どうしたんだ?」

そう言って彼は妹の頭を優しく撫でる。

「お兄ちゃん・・・」

泣き笑いの表情で兄の胸に顔を押し付ける。

「さて・・・どうかな?」

と、先程の男が聞く。

「はい、全身に力が漲るようです・・・陛下」

静かに傅く。

「陛下・・・私と兄を甦らせていただきありがとうございます」

妹も兄に習い傅く。

「うむ。これよりお前たちは私の為にその力を使い振るえ」

「はっ」

「御意!」

「そして・・・お前たちは今この時より、名を捨てよ。お前は此度より我が影・・・『影』と名乗れ」

「御意!」

「そしてお前は闇を統べる者・・・『闇師』と名乗るがよい」

「はい」

「では行くぞ。『影』、『闇師』」

「「御意!」」

これが『六王権』七人の側近の始まりであった。









さあ、また昔話をしましょう。

これもありふれたと言えばありふれたお話しです。

ある国に一人ののうふがいました。

むくちですがせいじつでとてもよくはたらく青年でした。

でもその性格がわざわいしたのでしょうか?

いつもいつも損なやくまわりをやらされてばかり。

ひとより多くはたらいても、そのごほうびはずるかしこい他ののうふに取られ、たにんがやらかした失敗はぜんぶかれがかぶります。

それでもかれは黙々と働きます。

ある日、この地方を治める領主の一人娘がこののうふに恋をしました。

のうふもその娘に心奪われました。

ですがそのような身分違いの恋を周囲がましてや時代が許す筈もありません。

のうふは無実の罪を着せられ、斬り殺され投げ捨てられてしまいました。

ですが・・・









「全く・・・やっと見つけた器なのにひどい事するわね」

そうぼやくのは『闇師』。

「そうだな・・・しかし、なんと惨い事か・・・」

表情を顰めるのは『影』。

その足元には全身を斬られ、貫かれた青年の死体が転がっている。

「だが、まだ猶予はある。事後承諾だが力を注がせてもらおう」

そう言い『六王権』は手をかざす

我勅命を下す。

大地を司り豊穣を約束する豪の者・・・相応しき器に宿れ

その瞬間、青年を周りの大地が飲み込み大地に埋めてしまった。









その夜・・・異変は直ぐにやってきた。

「ぎゃあああああ!!!」

「ひ、ひいいいいいい!!」

あちこちで大地は隆起し陥没を起こし、畑は荒れ町はもろくも崩れ、人々は大地と言う名の魔獣の餌食となっていった。

次々と土は意思を持ったように牙となり人を貫き噛み砕き、石は弾丸となり頭部や心臓を辺りに撒き散らす。

その惨劇の中心には四つの人影が立つ。

魔獣と化した大地も彼らを畏れる様に遠巻きに囲んでいる。

「これが・・・俺に宿った力なのですか?陛下」

そう言うのは斬り殺された筈のあの青年。

「そうだ。『地師』・・・大地の守護者であり大地の支配者・・・それがお前の力だ。いや、正確にはお前の中に宿る幻獣王の力だがな」

「大地の幻獣王でございますか」

「そうだ。幻獣王が器として認める人間はそれこそ数は少ない。それは誇るべき事だ」

「ですが『影』殿は陛下の力そのものを受け容れられている。それに比べれば」

「気にする事ないわよ『地師』、兄上と比べる事自体がおこがましいんだから」

そんな事を話していると、

「お、お前は!!ニコラス!」

「な、何で・・・お前が生きているんだよ!!」

「そ、そんな・・・どうして!!」

怯えたように叫ぶのは彼を虐げ続け、僅かな褒美に眼が眩み、領主と共謀し彼に無実の罪を擦り付けた同僚の農夫たち。

「・・・」

そんな彼らに冷たく笑い青年・・・ニコラスは

「ニコラスと言う名の男は死に絶えた。ここにいるのは・・・『六王権』側近・・・大地を率いる者・・・『地師』だ」

その言葉と同時に彼らの周囲は陥没し

『あああああああああああ!!』

みっともない絶叫を上げて生きたまま埋められる。

「貴様らでも大地の良き礎となるだろう・・・陛下・・・」

「この一帯にはもうおるまい。残りはおそらくこの城の中だろう」

「・・・」

その城を見て彼の表情が曇る。

ここには彼が恋し、彼を心の底から愛した女性がいる。

死に行く寸前だった彼の眼には未だ焼き付いている。

息絶える自分に泣きじゃくりながら縋り付いた彼女の姿が。

だが、彼は彼女も殺す。

それが人間『ニコラス』から側近『地師』に生まれ変わる為の儀式なのだから・・・

「・・・『地師』・・・人であった頃の未練は断ち切れ・・・残らず」

「・・・御意」

そう言うと『地師』は静かに足を踏み込んだ。









城内もまた阿鼻叫喚の殺戮地獄と化した。

剣で斬り付けられようとも傷は付かず逆に素手で鎧ごと切り裂かれる。

「ひ、ひいいいい!!ば、化け物だ!!」

「化け物か・・・否定せんが」

次の言葉を待たずして土が槍と化し逃げようとした警備兵達を貫く。

「貴様らに言われるのは心外だな」

そのまま『地師』は何もかも殺し、壊す。

暫くすると目に付く生者はいなくなった。

「・・・」

重い足取りで『地師』は別館に向かう。

その更に奥の部屋を開ける。

そこには予想通り彼女がいた。

ベットに顔を埋めて嗚咽していた。

「・・・?誰・・・」

気配に気付いたのか顔を上げる。

そして彼を視界に認めると同時に硬直する。

至極当然だろう。

目の前で死んだ相手が生きて再び現れたのだから。

ここで、恐怖に怯え、逃げようとしたならば彼は彼女も殺せただろう。

だが、現実は違った。

「ああああ・・・ニコラス!!」

大粒の涙を零し『地師』の胸に飛び込んでいた。

「!!・・・メリッサ・・・」

「ああ、間違いない!この声、この温もりニコラス・・・ニコラス・・・」

怯えもせずただ、彼に縋り付いて喜びの声を上げる。

その態度に彼の決意は鈍る。

「・・・メリッサ・・・」

「はい・・・」

震える手で彼は彼女の胸に手を当てる。

力を少しでも入れれば彼女は死ぬ。

「・・・どうされたのですか?」

「メリッサ・・・俺はもはや人ではない。悪魔と化した」

彼は全てを話した。

自分は人から『六王権』側近『地師』となった事を。

そして生きる為に彼に忠誠を誓い、その証として彼が人として生きていた証を全て根絶やしにした事を。

「俺はお前の父も忠実な執事もこの町の人間も・・・何もかも殺した。そして最後にお前も」

「構いません」

そんな彼に彼女は恐怖の色も怯えもなくきっぱりと告げた。

「もう離れたくない。あんな思いをする位なら私を殺しても良いから私をお傍に・・・」

「な!!何を馬鹿な事を」

「待て『地師』」

そこに『六王権』が現れる。

「陛下」

「娘、生きたいか?この者と共に」

「は、はい」

「ならばお主も器となるか?そうなればお主も共に生きられる」

「!!真に・・・真実それを受け容れれば私はこの人と永久に傍にいられるのでございますか?」

「ああ、だがそれは人で無くなる事を」

その言葉を遮るように宣言する。

「構いません!この人と共にいられるなら。この人と夫婦になれるなら私も人を捨てます!!」

「そうか・・・」

「陛下、もしや彼女も・・・」

「そうだ。この娘もまたおぬしと同じく器の素質を持った者・・・『地師』、彼女の人としての生を断ってやれ。命が二つあっては器たる肉体がもたん」

人間としての命・・・魂と幻獣王の魂・・・これが同居出来るほど人の肉体は強くない。

また、幻獣王を持たぬ『影』は幻獣王よりも強大な『六王権』自身の魂のごく一部を受け継いだ。

「ですが・・・」

流石に躊躇う、だが、

「お前の気持ちもわからんでもないが、この娘はお前と共にあり続ける事を誰よりも何よりも望んでいる。叶えてやれ『地師』よ」

「・・・はっ」

主君に促され一つ頷くと再び彼女を抱きしめる。

「良いんだな?もう後戻りは出来んぞ」

「はい・・・一人になった孤独に比べるならそんなの苦でもありません」

そのまま二人は唇を重ね、それを合図として『地師』は軽く心臓の部分を掌で押す。

だが、それだけの衝撃でメリッサの心臓は完全に破壊された。

「陛下・・・」

静かに『地師』は彼女の死体を寝かせる

「・・・始めよう」

我勅命下す。

万物の命の原初守る女神よ、相応しき器に宿れ

その瞬間周囲から水が懇々と湧き出し、メリッサの身体を水に沈めてしまった。









「・・・ん・・・」

次にメリッサが気付いた時彼はニコラスの腕の中で抱きすくめられていた。

「あ、あなた・・・」

「気付いたか?メリッサ・・・」

「はい私は・・・」

「生まれ変わったのだよ『水師』」

そこに『影』が現れる。

「あの・・・『水師』とは?」

「新しい名前よ。陛下の側近としてお仕えするに相応しい名前」

『闇師』が告げる。

「眼を覚ましたか。『水師』」

「はい陛下」

更に現れた『六王権』に誰に教えられるでもなく臣下の礼をとる。

「これで更に二人・・・『地師』・『水師』お前たちの働き期待している」

「「御意!!」」

「それと・・・どうせなら正式に夫婦の誓いも行え」

「えっ?で、ですが・・・」

「そうだなお前達が互いに互いを想いやっているのは一目瞭然だからな」

「そうね。本当に夫婦になってしまいなさいよ」

『影』や『闇師』までもが笑いながら急かす。

「で、ですが・・・」

露骨に慌てる『地師』を傍目に『水師』は

「へ、陛下・・・我が侭を一つよろしいでしょうか?」

「何か?」

「その・・・教会で愛の誓いを」

「構わん。教会は残してある。そこで存分に行え」

「は、はい!!ありがとうございます!!」

喜色を満面に浮かべ夫となる事が確定した男に抱きつく。

「・・・陛下・・・少しお恨みいたしますぞ」

『地師』はと言えば途方に暮れて小声でそう言うのが精一杯だった。









さて、また昔話をしましょう。

やはりありふれた悲劇です。

ある所に一人のおとこのこがいました。

このおとこのこはあるえらい人のむすこでした。

おかあさんはおとこのこを産んで暫く後に亡くなってしまいました。

でも、大丈夫。

直ぐにおとうさんはあたらしいおかあさんをつれてきました。

だけど・・・それは不幸の始まりでした。

あたらしいおかあさんは、意地悪ばかり言います。

おとこのこにいつもつらく当たります。

また暫くすると不思議な事におとうさんもなくなってしまいました。

するとあたらしいおかあさんはおとこのこをおいだしてしまいました。

たべものもみずも買う為のおかねすらあげません。

おとこのこは泣きながらあてもなくただ歩いていました。

なんでじぶんはこうなっているのでしょう?

おとこのこの望みはただひとつ、おとうさんとおかあさん、三人でふつうにくらしたかっただけなのです。

すうじつあるくともう疲れていっぽも動けません。

のまずくわずでここまで歩いたのが不思議なくらいです。

するとむこうから誰かやってきました。

それはおとこのこに近寄ると、もっていたナイフでぐさりとおとこのこを刺したのです。

かわいそうな男の子はそのまま死んでいこうとしていました。

でもここから物語は変わるのです。









「・・・ひどいな・・・」

心臓を深々と刺されもう虫の息の少年を見て青年・・・『影』は顔をしかめる。

酷く衰弱している所にこの様な仕打ちとは・・・

まだ年端も行かぬ少年がこの様な仕打ちを受けるに値する罪を背負っているとは到底思えない。

「兄上、これは私たちと同じなのでは・・・」

「間違いないだろうなエミリヤ。この子は力ある者の一方的な欲で殺されようとしているのだろう」

「酷過ぎます・・・この子が一体何をしたというのでございますか!」

死に行く少年を『水師』が優しく抱きしめる。

「だが、運がいい」

後ろから声がする。

「陛下」

「運が良いとは?」

「この少年にもお前達と同じ器を感じる」

「この子にも?」

「では助ける事が?」

『闇師』と『影』の言葉には応じず『六王権』は少年の首に手を当てる。

「少年よ・・・生きたいか?」

その問いかけに周囲の空気が答える。

イ・・・キ・・・タイ・・・

「そうか・・・ならば少年、私の為に働くか?」

ウ・・・ン・・・イ・・・キル・・・コ・・・トガ・・・デ・・・キル・・・ナラ・・・

そう最後の言葉を紡ぎ出し少年は事切れた。

「わかった」

頷くとやはり手をかざす。

我勅命下す。

光りと共にあれども光りと共にあらぬ大天使相応しき器に宿れ。

その手から光りが溢れそれが少年の身体に注がれた。









「あ・・・れ??」

少年が気付いた時、見知らぬ大人が複数覗き込んでいた。

「気がついたか?」

「どう、身体の様子は?」

「・・・えっと・・・わかんない」

「当然の反応だな」

困惑した少年に穏やかに笑う。

「でも、僕生きているの?」

「ああ、生きている」

「でも・・・僕・・・お母さんに追い出されて・・・行く所無いし」

そんな絶望に似た声に手を差し伸べられる。

「じゃあ私があなたのお母さんになってあげる」

それは『水師』だった。

「えっ?お母さん・・・」

「そうよ。『光師』今日から私があなたのお母さんだしここにいる皆が今日からあなたの家族よ」

『水師』の言葉に全員が頷く。

「・・・お、おかあ・・・さん」

「ええ、そうよ」

「うっ・・・おかあ・・・ひっく・・・さん・・・」

その言葉と同時に堰が切れた様に少年は大声で泣き出した。

その間も『水師』は微笑みながらその頭を撫でる。

そしてようやく泣き止んだ『光師』に

「では『光師』、お前を苛めた偽の家族にお仕置きしなくてはならないな」

「えっ?でも僕・・・そんな事・・・」

「大丈夫よ『光師』。あんたにはそれを行える力がある。それを使えば良いのよ」

「力?」

「そうだ。意識を中心に持っていき・・・」

その言葉通り意識を自分の心の中に集中させる『光師』。

それと同時に背中から光りが溢れ周囲を包んで行った。









光がかつて住んでいた屋敷を包み中の住民を徐々に殺していく。

「ばいばいお義母さん」

少年・・・『光師』は無邪気なそれでいて残忍な笑みを浮かべる。

彼が行った事は単純。

幻獣王『ガブリエル』を発現させると屋敷を光りで包み込んだ。

その光りは現代で言えば超高濃度の放射能と言った所か。

ありとあらゆるモノにじわじわと侵食し、その光りを人間が浴びれば、浴びた箇所から二日の時間をかけて少しずつ・・・少しずつ・・・肉体は腐れ落ちる。

しかも例え心臓が腐れ落ちようと死ぬ事は無い。

首だけになっても死なない悪意に満ちた呪い。

死ぬ術は唯一つ、脳神経が破壊された時のみ。

時間をかけて壊し尽くす悪魔の光りに少年を苦しめた義母も彼を殺そうとしたあのおじさんも・・・ましてや何の罪も無い執事達も閉じ込められた。

もはや助かる道は無い。

少しずつ、少しずつ身体は腐り、死に絶える。

無論痛覚は残す。

いや、通常の数倍の痛覚を与えあまりの痛みに狂いたくても狂う事すらさせない。

「あら?もう良いの?」

「うん、どの道あれに包まれたら終わりだから」

「そうじゃあ行きましょうか?」

「うん!!『水師』母さん」

「現金な奴ね。泣いたカラスがもう笑ってる・・・」

笑顔で『水師』の手を握る『光師』に『闇師』は呆れ顔で肩をすくめた。

「で、良いのか?美人の奥さんを子供にとられた『地師』は?」

「仕方あるまい。メリッサは子供好きだからな」

『影』のからかい混じりの声に苦笑を浮かべてそう言う『地師』。

「さて・・・行くか・・・後二人・・・後二人で全て集い動く事が出来る」

「はっ」

「はっ!」

「御意」

『六王権』の言葉に頷く三人。

そこに

「王様!!早く行こう!」

『光師』が引っ付く。

「!!『光師』!陛下になんて無礼を!」

「構わん、『闇師』」

「で、ですが・・・」

「エミリヤ、陛下が『構わん』と申されている以上我らは受諾するより術はあるまい」

「はい・・・」









さて、さいごのおはなしをしましょう。

ある国に荒くれものをまとめるせいねんがいました。

かれはくちも悪く手がでるのもはやいせいねんでしたが、よわいものはそっせんしてまもるやさしさも持ち合わせていました。

そしておなじ国に役人のせいねんがいました。

このせいねんはきまじめな、いしあたま。

頑固で一度言い出したらゆずることなんて絶対にありません。

そんな全てにおいて対照的なふたりでしたが、にくまれ口をたたきながらも友人としてやっていました。

それこそ当の本人達が不思議がるほど。

「なんでこいつと友人をやっているんだろう?」と。

そんなある時、この国のおうじょさまがなにものかにころされてしまいました。

いえ、せいかくにはころされたのではなく、じぶんで命を絶ってしまったのです。

でもそんな事をいえるはずがないおうさまはそのつみをきせることにしました。

その罪をきせるにかっこうのいけにえもいます。

あらくれ者たちがおうじょさまをころしたとしてかれらはつぎつぎとつかまりました。

むろん彼らをまとめていたせいねんも。

それに役人のせいねんは断固として異議を唱えていましたが、それは聞き届けられずそれどころかかれも共犯だとして捕まってしまいました。

そして荒くれ者達はみな死刑となりその死体は処刑場に放置されました。

無人の処刑場には風と死体に群がる野犬、そして・・・









「は、ははは・・・お前も馬鹿だよな・・・ラルフ、俺らの為に死ぬこたあ・・・ねえのによ・・・」

「俺は・・・王のやり方に・・・我慢・・・出来なかっただけだ。お前の為ではない。まあ・・・飲み仲間が消えるのは寂しくなるが・・・」

瀕死の状態で横たわり、息も絶え絶えながら変わらぬ口調で憎まれ口を言い合う。

「・・・あーーーーっ!!!いたよ!王様!」

そんな死臭漂う処刑場に似つかわしくない陽気な声が聞こえた。

「間違いないな。『光師』よくやった」

その声の先には黒で統一した服の青年と彼に付き従う四人の男女、そして青年の抱きつく年端も行かない子供がいた。

「な・・・んだ?あんたらは?」

「通りすがりの者だ」

「そうか・・・では・・・ぐっ・・・ここから立ち去られよ・・・下手に見られれば何をされるか・・・」

「そうそう・・・何しろ俺達は『王女様を殺したケダモノ』って事になっているからよ・・・」

そんな自虐気味の言葉に控えていた男女のうち二人が口を開く。

「それは無いだろう」

「そうね。あんた柄は悪そうだけど下衆じゃない。それは私が保証してあげる」

「へっ・・・それはありがとうよ」

「陛下」

「そうだな・・・人よ・・・人を捨てても良いのなら・・・そして私に仕えても良いのならお前達を復活出来るがどうする?」

「俺は別に・・・死んでも良いが・・・こいつは・・・助けてやってくれねえか?俺らの・・・道連れ・・・で・・・死ぬなんてもったいねえ・・・位・・・いい奴・・・だからよ」

「何処の・・・御仁か・・・知らぬが・・・俺よりもこいつを頼む・・・」

そう言い合い同時に吐血して絶命した。

「互いを助けようと求めるか・・・」

「陛下、彼らも器として相応しいかと」

「そうだな・・・よし、お前達の願い聞き届けた」

そう言って青年・・・『六王権』は両手をかざす

我勅命下す

時として命を育み、時として命を奪う火を支配するモノよ相応しき器に宿れ

その瞬間一人は業火に晒され、

我勅命下す

縛ることも無く縛られる事も無い自由を象徴する風の化身よ相応しき器に宿れ

もう一人は竜巻に包まれた。









夜半、人々は急に寝苦しさを覚えた。

それこそ身分に関係なく次々と外に飛び出してくる。

「あ、あつい・・・」

「く、苦しい・・・」

苦悶の表情を浮かべて地面に這い蹲る。

それは国王も例外でなかった。

冷たい水を飲もうにもその水も湧き上っている。

「な、なんなのだ・・・」

無人の寝室でその独り言に答える者がいた。

「まあなんだ。身に覚えの無い罪を着せられた俺達の怨念だと思ってくれ」

「!!」

そこには昼間処刑したはずのあの二人がいた。

「ど、どういう事だ!!」

「どうもこうも生き返っただけだぜ。恨みを晴らす為によ」

にやりと笑うユンゲルス。

「王よ・・・己が見栄の為に貴殿は行ってはならぬ事を行った。その報いを受けて頂こう」

一方ラルフの方は口調こそ丁寧だがその眼光は敵意で満ち溢れていた。

「んじゃあばよ。冥府の業火で迷う事無く逝けや」

・・・インフェルノ・・・

次の瞬間、この国は一人の生存者も残す事無く地上より抹消された。









「終わりました陛下」

「これで何の未練もなくなりました」

新たなる主君の前で傅く二人。

本来の『インフェルノ』は範囲内の空気を残らず奪い尽くしてから発動させるが彼らは今回中途半端に空気を残した。

窒息である意味楽に死なせる気がなかったからだ。

やはり中途半端な業火で苦しみながら死んで貰う為にあえて不出来な『インフェルノ』を発動させた。

「うむ・・・では『風師』・『炎師』、他の『四師』ともども、その働き期待している」

「「御意!」」

一つ頷く。

と、それが終わると『風師』はすぐさま『闇師』に声をかける。

「ほぉ〜あんときゃ眼が霞んでた所為でよく見えなかったが良い女じゃねえか。なあどうだ俺と」

「お断りよ」

「んなつれねえ事言うなって」

そんな何時もと変わらない光景を『炎師』は深い溜息を吐く。

「ふう・・・あいつの性格は死んでも直らんか・・・」

それから『影』に一つ頭を下げる。

「申し訳ございません。直ぐにあの馬鹿を止めてきますので」

「いや構わんさ。エミリヤに吹き飛ばされてそれで終わりさ」

その語尾に重なるように

「しつこい!!」

「げふぅ!!」

鈍い音と共に『風師』が吹き飛ばされていた。









このようにして『六王権』側近衆『六師』と最高側近『影』は人のエゴによって人間から悪魔へと変貌を遂げ、『六王権』は最強の配下を手に入れた。

その後は語る必要も無いだろう。

『六王権』は彼らを率いてまもなく人々に戦いを挑み、後一歩にまで追い詰めるも彼らは敗れ、全員封印を余儀なくされ・・・そして今この時代に誰一人欠ける事無く復活を遂げた。

さてこれで昔話は終わり、時は流れ物語は現在へと舞台を変える・・・

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