欧州で動乱の火種が解放されようとしていたまさにその寸前。

日本では、新婚夫婦である七夜志貴と『七夫人』が里にて穏やかな日々を送っていた。

蒼の書一『幸福』

「ねえ姉さん志貴はまだ帰ってこないの?」

『白の夫人』とも呼ばれるアルクェイド・ナナヤ・ブリュンスタッドが腹違いの姉であり、同じ男性と結ばれた『黒の夫人』アルトルージュ・ナナヤ・ブリュンスタッドに話しかける。

ここは志貴夫妻達の新居、『七星館』であるが今ここに志貴はいない。

と言うのも今や純然たる魔を討つ『裏七夜』頭目でもある志貴はある退魔組織の依頼で突如現れた鬼の退治の為、名目上正妻の立場にある『双正妻』こと『謀の夫人』七夜琥珀と『静の夫人』七夜翡翠と共に東北に赴いていた。

「大丈夫よアルクちゃん、予定なら今日帰ってくるし何よりも翡翠ちゃん琥珀ちゃんがいるでしょ?」

「うん・・・そうなんだけどさ・・・」

と、そこに新たな人影が現れる。

「アルクェイドさん、アルトルージュさん、その・・・洗濯物を干すのを手伝っていただけませんか?」

そう言って両手に持ちきれない量の洗濯物を抱えて『癒しの夫人』こと、七夜さつきが声を掛ける。

「うんいいよー。さっちん何処に干せば良いの〜」

「じゃあ私はこっちを干すわ」

それに対して素直に手伝う二人。

これは志貴の出した数少ない決まりにあった。

つまり『家庭内では翡翠・琥珀とさつきこの三人が事実上『七夫人』の長とするよ。だから皆は家事や掃除洗濯は三人の言う事を聞く事。無論俺も三人の言う事は聞くから』と言う事である。

また、いざ戦場で『七夫人』総動員で赴く時にも既に役割は決まっており、後方はシオン・琥珀が参謀、さつきは参謀護衛、秋葉は遊撃、前線をアルクェイド・アルトルージュが担い、その補佐には翡翠がつく。

総指揮権は夫である志貴が握っているがある程度の権限は前線の白と黒の夫人が担っている。

もっとも、その総指揮官が単独行動を主としているので気がつけば志貴の手で敵が殲滅される可能性がむしろ高いのだが。

「さつき、部屋の掃除が終わりました」

「それで次は何処を行えばよろしいのですか?」

一息ついたところに現れたのは『紅の夫人』七夜秋葉と『智の夫人』シオン=ナナヤ=エルトナム。

「お疲れ様でした。じゃあこっちが終わったら、少し休憩を兼ねてお茶にしましょうか?」

「さんせーい!!」







冬も間近い晩秋にしては暖かい昼の陽だまりを受けて『五夫人』はのんびりとお茶を飲む。

「それにしてもあっと言う間だね・・・」

ぽつりとさつきは呟く。

「うん・・・色々あったよね」

それにアルクェイドが肯く。

もう一年近くになるだろうか?

志貴との華燭の典を終えてからは目まぐるしい日々だった。

いや、華燭の典を始める前から慌しかった。

もっと正確に言うならば婚約を発表した一年前からであろう。

何しろ七人と正式に結婚すると言う現代法では実行不可能な事をやってのけたのである。

普通ならば法律によって阻まれる筈の結婚。

しかしそこは未だに近親での婚姻を繰り返す七夜一族。

そう言った法律の抜け穴探しや情報操作もお手の物なのか気がついたら、志貴は七人の妻を持ち、そして妻達も殆どダメージを受ける事無く長年の願いであった志貴との結婚を果たしていた。

しかし、常識とはかけ離れた結婚を果たした為失ったものもある。

「そう言えばさつき・・・ご両親とは連絡は取っていないのですか?」

シオンが躊躇いがちに尋ねる。

「うん・・・連絡を取ろうとしても直ぐ切っちゃって・・・やっぱり勇気が出ない所為かな?」

言いづらかったのかやや淀みつつも、さつきははっきりと答える。

「・・・・・・」

さつきの心情を思い図ってかシオン達の間に重い空気が立ち込める。

そう、最初から結婚を考慮に入れあまつさえ、既成事実の成立すら望まれていた翡翠・琥珀、人外であるが故に常識が通用しないアルクェイド・アルトルージュ、表向きは政略結婚として見られて(事実上は限りなく恋愛結婚に近い)いる秋葉、事情を知りながらも両親に温かく祝福されたシオンに対して一般人であるさつきは『七夫人』の中で最も失ったものが大きかった。

最後まで結婚に反対していた両親とは結婚を機に絶縁状態、友人達にも会っていない。

初めて会った時の想いを成就させるのと引き換えにさつきはかけがえの無いものを失った。

それでもここは心地良かった。

新しい友人も出来た。

他の夫人とも仲良くやっていっている。

何よりも夫の志貴は自分をしっかりと愛してくれる。

不満をあえて上げれば九日置きであると言う事位か?

夜に関しては初夜こそ、母真姫の策略でレンを含む八人全員相手をしたがその代償として、『七夫人』(無論レン含む)全員揃って翌日起きる事は出来なかった。

その為、それ以降、志貴の提案でローテーションを組む事で不測の事態に備える事にしている。

ちなみに順番は琥珀・翡翠・アルトルージュ・シオン・秋葉・さつき・アルクエィド・そして精の補給の為にレンで一日休養となっている。

何しろ、志貴自身も料理はあまり上手くない為、料理面での要である琥珀とさつきが志貴の手でKOされればその日一日志貴達はまともな食事にありつけない。

さすがに初夜における惨劇の記憶も新しく懲りたのか全員その提案には満場一致で採択された。

「そう言えば今日だよね?志貴君が返ってくるの?」

「そうね。兄さん遅いわね何処で道草・・・」

秋葉の言葉の途中で

「ただいま」

「「ただいま〜」」

待ち焦がれていた声が聞こえてきた。

「志貴だぁ〜」

聞くが早いか真っ先に飛び出すアルクェイド。

だがそれは、姉の手で止められた。

「駄目でしょアルクちゃん、志貴君へのお帰りなさいの挨拶は『七夫人』全員で行うって決まりでしょ?」

「え〜」

「え〜ではありません真祖、志貴が立てた数少ない決まりなんですからそれだけは守りましょう」

「は〜い」

口ではブーブー言いながら素直に横一線に並ぶ『五夫人』。

そこへ

「皆ただいま」

「「「「「お帰りなさい志貴(君、兄さん)」」」」」

穏やかに笑いながら夫であり『裏七夜』頭目を勤める七夜志貴に挨拶をする。







「みなさ〜んお土産ですよ〜」

そう言って賑やかな声を出すのは、『双正妻』の一人『謀の夫人』七夜琥珀。

「え〜!!何々?琥珀今回は何買って来たの?」

アルクェイドがすかさずそれに乗る。

「仙台名産の笹かまぼこですよ〜」

「姉さん、観光で行ったんじゃないんだからね」

賑やかな姉を窘めるのは『双正妻』のもう一人『静の夫人』七夜翡翠。

「良いではないですか翡翠。志貴の仕事は常に生死の危険が付きまとうものです。この様なささやかでも楽しみがあっても」

「それはそうだけど・・・」

シオンの言葉に不承ながらも肯く。

そんな様を微笑ましげに見ていた志貴にさつきが緑茶を差し出す。

「ああ、悪いさつき」

「ううん」

志貴の感謝の言葉に笑顔で答える。

「ふう・・・ところでシオン、俺が出張中、何か依頼は?」

「いえ、特に依頼は来ておりません。『七つ月』の方は依頼が多いですが」

そう答えるのはシオン。

彼女は平時においては『裏七夜』の秘書官に近い事もこなす。

事実デスクワークは彼女が掌握していた。

「そうか・・・じゃあ、暫くはのんびり出来るかな?」

そう言っていた志貴に後ろから声が掛かる。

「じゃあ志貴君久しぶりにお父さんの所で整体でも受けてくれないかな?」

時南宗玄の娘朱鷺恵である。

「ああ、そうか・・・そういやここ暫くあの爺に会っていないな。判りました、二・三日中には行くとするよ、姉さん」

「そうしてね。それと志貴君、疲れているようなら鍼も打つけどどうする?」

「あ〜それは大丈夫。琥珀や翡翠に感応で体力それなりに貰ったから」

「あらあら、じゃあ出張中もそれなりにお楽しみだったの?」

「姉さん、変な事言わないで下さい。仮契約ですよ」

照れ臭そうにそっぽを向く志貴を面白そうに見やる朱鷺恵。

だがその志貴の問題発言を受けて顔を真っ赤にする『双正妻』によって嘘がばればれであったが。

「あらそうなの?じゃあ今夜の子は可哀想ね。志貴君の溜まった性欲の相手しないといけないから」

「姉さん・・・お願いだから身内だけだとしても下ネタは控えて下さい」

志貴は諦め気味ながらもそう抗議するしかない。

さて、何故『七夫人』ではない朱鷺恵がここにいるかと言えば、彼女の父宗玄から正式に就職するまでの間、『七夫人』の主治医として雇って欲しいという要請を受けて『七星館』に居候の立場を貫いていた。

それが今から半年前。

しかし、その実態はもはや志貴の愛人というか情人・・・妾か?

ともかく今の朱鷺恵の立場は『七夫人』と何ら変わりない立場になっていた。

しかも宗玄はその事実を娘から聞いたらしく『あれでも良ければ生涯可愛がってくれ』等と言い出す始末だった。

ちなみに志貴がその年齢に見合わない情事の技巧に優れていたのは朱鷺恵の指導によるものが大きい。

無論実戦で鍛え上げられた・・・

それが『七夫人』に知れた時、壮絶な暴動を引き起こしたのは志貴本人にしてみれば緘口令を敷きたい位であったが。

後年、七夜志貴の妻の数を数えるにあたり三つの説が存在する。

『七夫人』と呼ぶ説、『八夫人』と数える説、そして最も有力な『九夫人』で呼ばれる説だ。

つまり、正式に志貴の妻となった『七夫人』にレンだけを加えるか、更に朱鷺恵を加えるかで意見は大きく分かれていると言う訳だ。

普通に見れば志貴と正式に結ばれたのは七人であるのだから、『七夫人』が正しいはずなのだが、精の補給を兼ねてレン、更には不定期であるが混ざる朱鷺恵とも肉体的な繋がりを結んでいる為、そして、志貴を含めれば十人がこの『七星館』を終の住処とした事が現状把握を更に難しくして、この議論は現在進行形で進んでいる。

志貴が諦め気味ながらもそう抗議していると、不意に携帯の着信音が鳴り響く。

「???あれ?俺のだ」

そう言って志貴が電話に出る。

「はいもしもし」

『ああ、志貴か』

出てきたのは志貴の師匠ゼルレッチ。

「師匠?どうし・・・いや、仕事ですね。で今回は?」

『さすがに察しが良いな。直ぐに千年城に来てくれ。詳しい場所は到着次第伝える。無論士郎も連れて』

「了解しました。これから直ぐに向かいます」

溜息混じりに携帯を切ると

「と言う訳だ。これから少し出かける」

「ええ〜!!また爺やの依頼なの〜?」

「まあ、そう我が侭言うな。それなりに報酬良いし。それにすぐ戻るから」

「はあ〜早く帰ってきてね〜志貴〜」

「兄さん今日は私ですから」

「判ったって」







日本では昼でも地球のほぼ裏側の北米も今は夜。

そんな小さな町の郊外に三つの人影がいた。

一つは『魔道元帥』ゼルレッチ。

「志貴、士郎あの町だ」

一つは『真なる死神』七夜志貴。

「師匠あの町に生存者は?」

「残念だがもういない。あの町は死都と化している。仕事は死都の制圧及び死徒の抹殺」

「判りました。士郎行くか」

「・・・ああ」

最後の一つは志貴の盟友にして今や『錬剣師』の異名を確固たる地位にした魔術使い、衛宮士郎。

戦闘訓練とアルバイトを兼ねて志貴の助っ人を行っている。

言葉が少ないのは自らの感情を制御する為。

死と隣り合わせの戦場において感情に突き動かされる事は、極めて危険な事。

だから士郎は無口を貫き、自身を落ち着かせる。

それを知っているのか志貴も急かそうとはしない。

士郎は静かに両のグローブを脱ぐ。

「同調開始(トーレス・オン)」

それと同時に全身に魔力を通して自身の肉体を強化する。

そして、士郎はこの瞬間、『錬剣師』に変貌を遂げる。

それを見届けて志貴は町に向かい歩き始める。

士郎も一歩遅れて後に続く。

郊外から一歩づつ歩くに従い濃密な血の匂いと魔の気配が漂う。

「志貴」

ふと、士郎が足を止めて盟友に注意を促す。

「ああ、囲まれているな・・・ここで二手に分かれよう。十分後中心部で落ち合う」

「了解」

それと同時に二人は動き出し、それを待ちかねた様に死者が闇から躍り出る。

「悪いな・・・」

そう呟くと同時に『七つ夜』が月の光の中煌く。

周囲の死者は瞬く間に灰と化す。

それは極めて静かに遂行される処刑執行。

それとは対照的に反対方向ではものすごい轟音が響き渡り、死者が吹き飛ばされている。

「派手にやっているな」

軽く笑いながら足の歩みは止まらず次々と死者を掃討して行く。

一方士郎の方も

「投影・開始(トーレス・オン)」

投影した剣で、次々と死者を叩き斬り貫き、薙ぎ払い灰として行く。

普通の剣であるなら歯が立つ筈が無い。

しかし、士郎の投影した剣は、低ランクとは言え長い年月を経た業物。

無論概念武装も施されているので、並みの死者など敵ではない。

しかし、前方から死者が群をなして士郎に肉薄しようとする。

これだけの量を相手にするには近接戦では圧倒的に不利。

「またか・・・ならば!」

士郎は続いて投影した手槍を手にするとそれを投擲する。

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

詠唱と同時に手槍が爆発する。

この瞬間上級宝具に匹敵する威力の爆風が、密集していた死者を薙ぎ払い吹き飛ばす。

そのまま士郎もまた突っ込み切り払う。

やがて九分五十秒後、市街地中央に志貴と士郎が合流する。

「速いな」

「お前こそ」

そう言い合ってニヤリと笑い合う。

「さてと・・・最終目標は」

「あっちから来たぞ」

そう言い合う二人の眼の前に当の死徒が現れた。

「貴様ら・・・よ、よくも・・・よくも」

その視線に殺意を漲らせて二人ににじり寄る。

「うるさえな・・・こっちも時間が無いんだ」

「さっさと片付かせてもらうぞ」

「貴様らぁ!!!」

二人の言葉に獣の如く突っ込んで命を砕かんとする。

それは単純だが無駄の一切無いもの。

まともにぶつかれば確実に死ぬ。

しかし、この時点で勝負はついていた。

「投影・開始(トーレス・オン)」

士郎の詠唱と共に手に握られたのは一本の長槍。

だが、ただの槍ではない。

これこそ江戸幕府開闢の功臣にして徳川四天王に数えられる猛将、本多忠勝の愛用の槍『蜻蛉切り』。

日本三槍に数えられる業物。

「おおおお!!」

士郎の気合を込めた一突きで死徒は貫かれ逆に反対側の壁にまで押し込まれる。

死徒は信じられない視線を士郎に向ける。

一体この人間は何者なのか?

超越種である自分を力で押し込んだ?

それも片腕で?

一体こいつは・・・

そう思考を巡らせていたがそれが敗北を決定的に呼び寄せた。

『蜻蛉切り』が壁をも貫き死徒は標本の虫の様にピン止めされる。

当然だが、こんな事では死徒は死なない。

それを熟知している士郎は、止めとばかりに詠唱する。

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

轟音と共に死徒は腹部から下は完全に吹き飛ばされ上半身も無傷な部分は何処にも存在していなかった。

爆風で吹き飛ばされ、志貴の足元に転がる。

「が、がはっ・・・」

「まだ生きてる・・・生き汚いな」

「それが死徒って奴さ。後は任せろ士郎、止めは俺がさす」

「ああ頼む志貴。俺は残りの掃討をやってくる」

「ああ。俺もこれの始末が終わったら加勢する。それまでよろしくな」







後はあまりにもあっけ無いものだった。

死徒は直ぐに志貴によって死点を貫かれ消滅し、主の消滅にも耐え切った死者も二人によって根こそぎ薙ぎ払われた。

こうして死都一つが僅か二人に完全に制圧されてしまった。

それも二人が作戦を開始してから僅か三十分余り。

いくら小規模の町とはいえそのスピードは速すぎる。

しかし、二人にしてみればこれが平均スピードに過ぎない。

『真なる死神』と『錬剣師』。

この二人にしてみれば・・・

「ご苦労だったな志貴、士郎」

「いえ・・・」

「はい」

師の労いの言葉に言葉少なく答える二人。

殊に士郎は肩すら落としている。

理由は無論誰一人救えなかった為。

自分達が出来るとすれば死と言う共通の救いを渡してやる事だけ。

「ははっ・・・まだまだだよな・・・俺も・・・全員救うなんて理想って判っていてもどうしても現実を見るとその理想を叶えようとしている・・・全員を救う理想はユートピアだって判っているのに・・・」

だが士郎は顔を上げると乾いた笑みで自虐気味にそう呟いた。

「それでもその理想を目指そうと言う心を失わなければそれで良い。お前はそのユートピアを終生かけて探すのだろう?」

ゼルレッチが諭す様に試す様に聞く。

その言葉に士郎は直ぐに肯く。

「はい。俺はそのユートピアを探す事にその人生をかける。そして必ず見つけ出す。それが親父の遺言と共に俺が叶えようとしている夢ですから」

すなわち『正義の味方』を目指し、そして『十を助けて十を救う』と言う、ありえない絵空事を求める。

例えそれが『ユートピア』・・・何処にも無い場所だとしても・・・

夢だと罵られようとも、理想だと嘲笑われようとこれだけは譲れない衛宮士郎の道。

「そうだな・・・お前の頑固さは折り紙つきだからな」

「何を言う。お前こそ頑固だろうが志貴」

慰め様としているのかからかい半分に言う志貴の言葉に士郎は笑って応える。

「さてと戻るとしよう。死都については教会が片付ける」

「そうですね。今なら夕飯に間に合いますね」

「そうだな。俺も商店街で材料買って、晩飯の用意余裕で出来るし」

「士郎、それなら俺の家で夕食作らないか?お前の料理好評だったし、琥珀が和食色々教えてくれって」

「そうだな・・・今日は・・・藤ねえは来ないし、凛も桜も来ないから・・・一人だけだしお邪魔するか」

「良し。じゃあ決まりだ、急いで帰るか」

「ああ」

「では私は教会に伝えてくる。志貴、士郎又頼む」

「「はい師匠」」

ゼルレッチが去る。

「ところで士郎」

「何だ?」

「さっき言っていた藤村さんはわかるとして後の二人は誰だ?」

「げっ・・・聞いていたか・・・」

「聞こえるさ。で誰なんだ?」

「最近よく来る友人だよ」

「凛とか桜と言っていたが女性か?」

「ああもう!良いだろうが別に!!」

「まあいいだろう?俺とお前の仲だろうが」

とても先程まで死都制圧を行っていた者の台詞とは思えない事を言い合いながらこの地を後にしていった。







「ただいま」

「「「「「「「お帰りなさい」」」」」」」

志貴に『七夫人』が総出で出迎える。

「相変わらず凄いな・・・」

「まあな」

「あら?衛宮様いらっしゃいませ」

士郎の姿を見つけた琥珀が嬉しそうに挨拶する。

「どうもお邪魔します」

「いえいえ、どうぞ上がってください。志貴ちゃん、衛宮様が来たって事は」

「ああ、今日は士郎が飯を作る。」

「やった!!色々教わらないと・・・」

そう言って琥珀はスキップしながら台所に向かう。

「琥珀嬉しそうだね」

「それはそうよ。琥珀ちゃんにとっては数少ない料理の先生だからね」

その様子にアルクェイドとアルトルージュが苦笑気味に言う。

「さてと、じゃあ俺も台所に向かわせてもらうか。何があるか確認したいし」

「やれやれ、じゃあ俺も少し手伝うかな??」

「志貴ちゃんはゆっくり休んでいて」

「でも士郎に悪いだろ?客人に働かせて」

「ああ、俺は大丈夫。志貴はゆっくりとしていろって。連続の仕事で疲れているだろう??」

「それはそうだがな・・・」

「志貴、休める時には身体を休めることが大事ですよ」

「そうだよ志貴君。せっかく士郎君が言っているからそのご好意に甘えようよ」

「・・・それもそうか。じゃあ士郎お言葉に甘えさせてもらうよ」

「ああ、ゆっくり休んでいろ」

「ああ、そうさせてもらう」

こうして志貴達はその日の夜は士郎の料理を心行くまで堪能したのだった。

これが七夜志貴とその盟友衛宮士郎の日常。

『六王権』復活の二ヶ月前、『蒼黒戦争』開戦まで残り一年をきったある日常であった。

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