この物語はある城の奥に長らく封印され、ある人の手により発見された物である。






『落鳳蒼墜』

13世紀欧州、この世紀は後の世からは暗黒の時代の幕開けとも言われる。

その真因は諸説さまざまである。

キリスト教の拡大による欧州世界の閉鎖、黒死病とも呼ばれ、欧州の人口を激減させたペストの流行とそれによる人心の荒廃などである。

しかし、その中に決して表の理由には挙げられないが満場一致である裏の理由が挙げられる。

それは真祖の堕落者の増大・・・

この世紀は真祖達にどの様な影響を与えたのか?

その答えを知る術は無い。

だが現実としてこの世紀は、真祖の堕落者を格段に増やし、欧州全土に死徒と死者をばら撒き人々に未来への希望を奪い取り、人々の心は荒み来世の望みのみに、執着する様になった。

現にトランシルバニアに伝わるドラキュラ伝説の原型は、かつて、ここを統治していた串刺し公ウラドではなく、この地域を支配した真祖と死徒によるものと言う説すらあるほど深刻なものであった。

無論、カトリックの埋葬機関はその総力を結集させ死徒や死者を滅ぼし、堕落した真祖をことごとく封印に回っていたが、それらには莫大な人的損害をも生んだ。

そんな折、埋葬機関内に奇妙な噂がたった。

それは真祖の中に堕落した真祖を討つ為の真祖が存在するという噂・・・

そしてその真祖に常に付き従う異形の魔眼持ちし死徒の噂・・・







ボト、ボト、ドサッ・・・

なにか重いものが地面に落ちる音が辺りに響き渡る。

その者は驚愕に満ちた表情で自分の両手・両足を一瞬の内に切断してのけた男の表情を凝視していた。

彼・・・いや、真祖に性別など無いかもしれないが・・・は今から10年前、堕落し魔王としてこの地域一帯を支配していた。

無論自分を滅ぼそうとする者、封印しようとする埋葬期間の刺客も数多く現れたがことごとく返り討ちにしてやった。

そして今日も身の程知らずの愚か者が現れた。

しかし、この男は違っていた。

彼の力が発動される前に既に懐に入り込み、彼の両手両足を切断したのだ。

しかもそれは決して再生される事も無かった・・・。

油断と言えばそこまでであった。

しかし、誰が予想出来たであろうか?

魔王と化した自分に叶う者など存在しない筈なのに現実はこうだ。

"酷い悪夢だ"

真祖は声もなく笑った。

すると不意に真祖が誰かに持ち上げられた。目の前に加害者たる男がいる。

ぼろぼろになった漆黒の服を身にまとい、手には刃の短い短刀を持った、この地方では極めて珍しい黒髪の男・・・

しかし中でも特筆すべきはその瞳、まるで月夜の様に冷たい蒼眼だった。

その男は真祖の首を軽く曲げると、

「・・・すまんな俺は人の血は吸わん事にしているから・・・」

そう、誰に聞かせるともなくそう呟き、真祖の血を吸い出した。

そしてその一言とこの行動は、真祖に敵の正体を教えていた。

「・・・そ、そうか・・・貴様が・・・群蒼の姫が飼っている・・・死徒・・・血狂いの黒鬼死・・・ぎゃあああああ!!」

そう呟いた途端真祖は絶叫を発した。

何か見えない手が真祖の腹部を引きちぎったのだ。

「・・・ホウメイに・・・妾の夫にそのような無礼なる口を振るう事は妾が許さぬ」

その言葉とともに、紺碧のドレスを身に纏った一人の美しい女性が闇から現れた。

その瞳は今の彼女の感情を表すかのような金色の眼だった。

「ぐ・・・群蒼の姫よ・・・貴殿は・・・判って・・・おるのか?・・・この男は・・・き、危険・・・」

この後の言葉を継げることは永遠に来なかった。

一頻り血を吸い終わった男は何気ない動作で真祖の胸を突いたのだ。

その瞬間、真祖の体は灰となり消滅してしまった。

「・・・終わったよ・・・セルトシェーレ」

男は静かにそう言うと彼にとって主であり・・・最愛の妻である女性に静かに微笑みかけた。

瞳の色も何時の間にか闇の様な黒に変わっている。

「帰ろうか・・・ホウメイ・・・」

セルトシェーレと呼ばれた女性は先程とは打って変わった子供の様な笑みを顔一杯に浮かべ、男の傍らに寄り添った。

共に歩むようになってから、もう二百年経つというのに未だ彼女は、一秒でも僕であり夫でもある男の傍を離れたくないようだった。

この二人の名は『群蒼の姫』と呼ばれる真祖の姫、セルトシェーレ・ブリュンスタッドとその死徒、七夜鳳明である・・・







千年城に戻った俺達二人は静かに自室に赴く。

その途中、死徒や真祖は俺達・・・いや正確には俺に嫌悪と軽蔑の眼差しを向けていた。

俺が死徒となってもう二百年経つが、俺は一回とて人の血は吸わなかった。

何故か?俺自身は、自ら死徒となる道を選んだが、他の者はどうか?

死徒となった事に苦悩し、結局死徒の衝動に身を任せるしか出来なかった者もいた。

人として生きようと決意しても、その力ゆえに周囲から阻害され最終的には俺に殺す事を哀願した者もいた。

俺にはそれらの光景が『凶夜』として扱われ、最終的には抹消された者達に極めて酷似しており、そのような犠牲者を自分の手で作ることは到底出来なかった。

しかしそれでは死徒として生きることは到底出来はしない。

死徒の中には生きるのに最小限の吸血で済ませている死徒もいるが俺の場合、どうしても死に掛けたと言うリスクがある為、その量が多くなってしまった。

そこで苦肉の策として、妻と共に死徒・真祖狩りに赴く時こそが俺の食事となった。

狩りの時に抹殺する前に死徒や真祖の血を吸う事で俺はこの二百年生き長らえて来た。

そしてその行為は当然の事ながら他の死徒や真祖に恐れられ、忌み嫌われ、いつしか俺は名ではなく『死徒血狂いの黒鬼死』と呼ばれる様になっていた。

それは、あたかも七夜一族で『凶夜』と呼ばれた頃のように・・・

「・・・セルトシェーレ・・・そして『黒鬼死』」

そのような事を考えていた時後方より声がかかってきた。

「・・・」俺が静かに振り向くと、そこには壮年の老人が立っていた。

見た目では六・七十程なのだが、実際には千六百年を超えている。

「何か様か?長老よ」

セルトシェーレは冷たい声と視線でこの老人の声に報いた。

並の死徒であればそれだけでも抹殺可能なそれを長老と呼ばれた老人は苦笑しつつもそれを軽く受け止め

「二人に見せたいものがある」

そう言うと俺達に背を向けた。

「・・・付いて来いと言う事か・・・」

「そのようじゃ・・・行くか・・・」

そう言うと俺とセルトシェーレは静かにその後をついていった。


そこには既に真祖達の中でも力の強き主だった者が集合していた。

「ここは・・・」

「新たなる真祖を生み出す、儀式の間・・・長老よ、この様な所に何の様なのじゃ?」

「これを」

そう言うと長老は静かに中央の祭壇を指差した。

そこには何かが横たわっている。

「!!こ・こいつは・・・」

「驚いたか?『黒鬼死』よ、彼のものが我らの新たなる懐刀よ」

俺とセルトシェーレは驚きで声を発する事は出来なかった。

それは純白のドレスを身に纏ったセルトシェーレに瓜二つな少女・・・

だが俺は彼女が何者なのか、なんと言う名のかも全て知っている。

「アルクェイド・ブリュンスタッド・・・それがこの者の名よ。そして、セルトシェーレ、お主の力を受け継ぎし者よ」

(やはり・・・)

俺は静かに溜息をついた。

遥かな昔、俺が悠久の未来において一度だけ会合した俺の子孫と共にいた真祖の姫君、アルクェイド・・・

「・・・それで長老殿よ此度、我が主のみならず私までここに呼んだ理由は一体・・・」

「・・・そうであったな・・・『黒鬼死』よ、我ら真祖円卓は総員の賛意を得て・・・」

「そこから先は皆まで言わずともわかります。俺を抹殺せよ・・・ですか?」

俺がそう言うと周囲は重々しい沈黙に包まれた。

それはつまり俺の質問は正しい事を意味していた。

だがそんな重苦しい沈黙を、吹き飛ばした者もいた。

「長老それはどういう意味じゃ?・・・円卓会議は妾からホウメイを奪うというのか?」

セルトシェーレは静かに・・・それでいて全身に怒りの色をたたえ真祖の長である筈の長老に詰め寄った。

「セルトシェーレよ・・・その男は危険すぎる。わかっておる筈、こやつは死徒となりもはや二百年経つというのに、一度とて他の生命体より血を吸わず、真祖・死徒・死者の血を吸い続け、その結果その力は我らに匹敵しつつある。そのような男は危険なのじゃよ」

「それでも!ホウメイは我等の為に戦ってきた!それらの功績すらもお主達は無視すると言うのか!!」

「無論、無視はせぬ。『黒鬼死』よ、本来であればお主をこの場で消滅するところじゃが、機会を与える」

「機会とは?」

「翌日、我らの用意したお主の処刑役の死徒との決闘を制した場合お主の処刑は取り消す。また今後一切、お主の処刑を我らの口から出す事も無い」

「長老!!結局はホウメイの処刑が決闘に変わっただけの話ではないか!」

「そうでも無いさ、セルトシェーレ」

「どう言う事じゃ」

「長老達は、その気になれば俺に何かさせる前に抹殺できる。・・・それに比べれば、まだ楽というものさ・・・で長老よ俺の相手は?」

「そこまでは教えられん」

「・・・では場所は?」

「この城の北に存在するスカンジナビア山脈麓にて執り行う」

「良いだろう。で話はここまでか?

「うむ」

「俺はこれにて少し夜風に当たってくる。セルトシェーレお前は部屋に戻れ。少し一人になりたい。・・・直ぐに戻る」

そう言うと俺はそこを後にした。






俺は静かにテラスから月を眺めていた。

周囲には死徒や死者の声すらもしない。完全な無音・・・

「・・・時は流れ、地も変われど星と月は何も変わらんな・・・それに比べ人の命など瞬きほどの時しか無い・・・それが例え死徒であろうとも・・・うっ・・」

唐突に俺の胸に馴染みのある違和感が襲い掛かり俺はその場で血を吐き出した。

「・・・少量だったか・・・しかし・・・遂に・・・」

俺はおもむろに手に付着した血を微動だにせず見つめた。

闇夜と同じ黒血を・・・

「・・・死徒ですらも、この魔眼の呪いを打ち破る事は不可能だったな・・・」

この吐血が始まったのは二十年前、最初は愕然としたものだった。

これは偶然だ、と己に言い聞かせようとしたが結局自分を欺く事は出来なかった。

人であった頃に比べれば余りにもゆっくりだったが確実に俺の体を蝕み、遂に末期状態まで行き着いたのだ。

「・・・まあ、俺は本来であれば二百年前、あの時に死んでいた。それを考えればな・・・」

そう、この二百年俺はセルトシェーレのおかげで夢を見ることが出来た。

それを思えば「二百年しか」と言うより「よくも二百年も持ったものだ」が正直な所だった。

「・・・しかし・・・」

一つだけ気がかりな点があった。

それは、この眼の力が末期症状になるに従い、強さと鋭さを増しつつあるということ。

人の時は末期症状の時はもう力を解放することすら困難だったのにだ。

「どう言う事なんだ?何故力がここまで高ぶっている?・・・あの時には高まるどころか衰弱もいいところだったと言うのに・・・ふっ・・・あの時と言えば・・・もう俺を知っているものはいない・・・」

そこまで思いを馳せると不意に俺はそう呟いた。

そう、もう既に俺を我が子と同じ様に慈しんでくれた人も、このような俺を尊敬してくれた甥もこの世にはいない。

あの時、俺と共に戦った陰陽師も、遠野と呼ばれた混血の当主もまた・・・

そして何よりも、

「・・・翠・・・珀・・・」

あの時を思うと未だ心が痛んだ。

俺と共にいられるなら、自らの命が削られようとも構わないとまで言ってくれた、あの双子姉妹の最期に見せた涙を思い出すと・・・

「・・・そろそろそっちに行きそうだ、爺。・・・法正、そっちでも会えれば、またそっちで稽古をつけてやる。翠・珀・・・そっちでお前達が飽きるまで共にいてやるから・・・だから・・・」






「遅いぞ、ホウメイ。アルトもすっかり待ちくたびれてしまったぞ」

「父上遅いぞ」

「ああ、済まなかった。それにしてもアルト。お前も母さんみたいな口調は止めておけ。日増しに堅くなっていっているぞ」

「余計な御世話じゃ」

自室に戻った俺に、セルトシェーレと俺の娘アルトルージュは母子揃って王侯口調で迎える。

「・・・ふう、やれやれ、お前も喋る前はかわいかったのに今じゃあ、すっかり・・・」

「すっかりなんじゃと言うのじゃ?ホウメイ・・・」

「父上、内容によっては父上でも容赦はせぬぞ」

「・・・悪かった」

あっけ無く降伏の素振りを見せる俺に向かい朗らかに笑うセルトシェーレとアルトルージュを俺は目を細めて見ていた。

(まさか・・・『凶夜』の俺が子を授かるとは思わなかった)

そう、今から百年前、俺はセルトシェーレから俺の子を宿したと聞いた時、どう言って良いのか解らなかった。

またアルトルージュが生まれてから暫くは娘とどの様にして接していけば良いのかも解らなかった。

何しろ、『凶夜』は子をつくる事はおろか、性交すらも禁じられていたほどだ。

俺も自然に誰かと静かに暮らす未来こそ思い浮かべていたが、息子ないし娘など想像の外だった。

だが今ではこうして当たり前の様に父親として娘に接し、娘もまた俺を父として慕っているようだった。

(セルトシェーレ・・・俺に二百年もおまけの人生を楽しませてくれた上に子まで与えてくれてありがとうな・・・)

「?どうしたのじゃ父上?白痴の様にぼけっと突っ立って」

「アルト、父さんは戦いが終わればいつもこの様な有様じゃから、さほど心配せんでも良いぞ」

そのような事を考えている内に妻と娘が極めて失礼な事を言い合っている。

「・・・お前らな・・・」

「さてアルトそろそろ寝よ」

「母上、妾はまだ眠くないのじゃ」

「何言っているんだ、子供はもう寝る時間だ」

「父上、いつまでも妾を子ども扱いして欲しくないのじゃ」

「親にとって子供はいつまで経っても子供だ」

そう言うと俺はアルトルージュの小柄な体を軽く抱えると寝床に寝かしつけた。

アルトルージュもあれだけ『眠くない』と言っておきながら、俺が傍にいると安心したのか直ぐに静かな寝息を立て始めた。

「・・・しかし、アルトの外見はお主に似たなホウメイ」

「ああ、中身はお前そのものだがな」

アルトルージュが完全に寝入ったのを確認すると俺とセルトシェーレはそんな事を言い合った。

アルトは真祖としては極めて珍しい事に、黒髪を持ち服は黒を好んでよく着る。

これは明らかに俺に似た所だ。

さらにはアルト個人の力も極めて高く、何よりも『プラミッツ・マーダー』と呼ばれるガイアの魔獣を死徒としてでなく吸血種として初めて従えた事により、その力は俺やセルトシェーレを上回っているかもしれない。

その圧倒的な力に加えその服装から他の真祖や埋葬機関からは『漆黒の吸血姫』と呼ばれ恐れられている。

「・・・さてと・・・スヴェルデン・・・シュトラウト・・・」

「・・・はっ・・・」

「こちらに・・・」

「それと・・・ゼルリッチ殿おられるか?」

「ここに・・・」

俺が名を呼ぶと次々と闇から声があがる。

皆、全ての死徒の根源にあたる死徒二十七祖に名を連ねる者達だ。

そして、死徒として数少ない俺や何よりもセルトシェーレ・アルトルージュの味方でもある。

「俺は少し出る。セルトシェーレとアルトルージュを頼む」

「ナナヤ殿どちらに?」

「長老達のお呼びさ」

「・・・未だに?」

「ああ・・・しつこいがな」

「ホウメイ、妾は?」

「お前は待っていろ。直ぐにけりを付けて戻ってくる」

「しかし・・・」

「大丈夫だ。それともセルト、お前は俺が信用できないのか?」

俺は軽く妻の頬に触れると軽く笑いながら夫婦の時間だけの呼び方でセルトシェーレを呼んだ。

「そうでは無い!妾はホウメイを信じておる・・・じゃが・・・不安なのじゃ。お主が・・・このまま何処かに行ってしまいそうで・・・」

「・・・大丈夫だ・・・必ず戻ってくる。だから・・・そんなしけた顔で俺を見るな」

しばし俺達夫婦は互いの眼を見つめあったが、やがて

「・・・解った・・・妾はアルトと共に待っておるから・・・じゃからホウメイ・・・」

「ああ、解っている約束だ、セルト」

そう言うと軽く俺達はくちづけを交わしてから

「じゃあ行って来る」

そう言い残し俺は千年城から決闘場とやらに一気に跳躍した。






そこは完全な荒地となっており、周囲には生命の息吹すら感じられない。

そこにいたのは監視者なのだろうか?

複数の真祖と二十七祖の一角を占める白翼公オーテンロッゼまでいた。

「真祖よ・・・俺の相手はまさか白翼公ではあるまいな?」

「・・・安心せよ『黒鬼死』お主の相手は我の僕の中でも最凶を誇る者よ」

「・・・よほど自信があるようだな・・・まあ良い。で俺の相手は・・・あれか・・・」

そう言った俺の眼に一人の青年が現れた。貴族風の豪勢な服装を身に纏った金髪紅眼の男。

そしてその表情は死徒共有の優越感と力に囚われた狂人のものだった。

「ほう・・・貴様が『死徒血狂いの黒鬼死』か・・・その名に恥じぬ卑しき風貌よ」

「・・・今までの相手と変わらぬな・・・その台詞・・・貴様の名は?」

「私の名はグレンロッツ。『黒鬼死』貴様の死刑執行人よ」

「そうか・・・今までの奴もそのような事を言って結局は潰されたがな・・・まあ良い・・・始めようか・・・真祖よ!この決闘に俺が勝てば今後は俺の処刑を諦める事、偽りは無いな?」

「偽り無く」

「では、始めよう・・・」

俺はそう言うと七夜槍を構え、力を一気に解放し、奴も両手の爪を伸ばし大剣のように身構えた。

特に合図も無く俺と奴は同時に間合いを詰め同時に斬りかかった。

右の七夜槍で奴の左の爪を受け止め、奴の右の爪が左の七夜槍を阻む。

純粋な力では五分と五分のようだった。

俺は一旦引き相手の様子を窺おうとしたが、奴は俺にそんな暇を与えないとばかりにまた距離を詰め斬りかかった。

「・・・甘いな」

俺は爪の死線を通し爪を切り落とし返す刀で両肩を切り落とそうとしたが、

「ちっ・・・」

咄嗟なのだろう、グレンロッツはぎりぎりでその一撃を交わすとかなりの距離を置いた。

「・・・忘れていたよ。貴様が真祖すら持ち得ぬ伝説の魔眼『直死の魔眼』の持ち主だということを・・・」

そのような事を言いながら奴の爪が急速に斬られる前の長さにまで回復した。

「では私も本気になるとしようか・・・」

そう呟くと奴は静かに目を閉じた。

俺は踏み込もうとしたが何かがそれを踏み留ませた。

そして・・・奴が目を開いた瞬間、俺は愕然とした。

奴の目が紅眼から蒼眼へと変貌を遂げていた。

「・・・貴様それはまさか・・・」

「その通りよ『黒鬼死』貴様と同じ『直死の魔眼』・・・そして私こそ真の『直死の魔眼』の所有者たるに相応しい。貴様の様な卑しきクズの役目ももう終わりなのさ」

「・・・ふう・・・話好きな奴だ・・・いいから来い」

「ああ来てやるさ!今度は貴様の死と一緒にな!!」

奴と俺は再び間合いを詰めると至近距離の白兵戦に移行した。

しかし、今度は事を慎重に構えないとならない。

相手は俺と同じ能力者。

この眼の力は長年・・・それこそ生まれた時から・・・付き合ってきた俺が一番良く知っている。

どんなに頑丈な防具を要していてもこの眼の前では無いに等しい。

俺達は双方とも全裸で戦っている様なものだ。

だから、戦法が防御を重点に置き、防御と防御の合間を縫うように奇襲の攻撃と出るのは至極当然の事なのだ。

しかし奴は違った。

よほど身のこなしに自信があるのか、守りを完全に無視して俺に斬りかかって来る。

(まだまだ日が浅いな)

俺はそう判断した。

長年付き合ってきた眼だ、自分の死線・死点の位置など見ずとも解る。

様はその地点を斬りかかられるのを防げばよい。

何合か打ち合うと奴に焦りの色が見え出した。

この単細胞にも『直死の魔眼』同士の戦いがいかに困難か判り出した様だ。

何しろ奴には既に致命傷とはならないものの、全身に死線を軽くなぞられた傷が無数に存在しているのだから。

「ば・・・馬鹿な・・・」

「この戦い・・・貴様に勝ち目は無い」

そう呟くと俺は右手の爪を腕ごと切り落とし、絶対的な隙間となった左側に体を滑り込ませ、その地点からは丸見えの奴の死点を貫こうとした時、

(?・・・この感覚は?・・・まさか・・・)

「ごぼっ!!!」

俺はその場に蹲り、吐血を始めた。

急速に力が抜けていく・・・

(くそっ!・・・今まではこんな時に吐血などしなかった筈なのに・・・一番大事な時に・・・)

しかし俺には自分の体を罵る暇は無かった。

態勢をようやく整えたグレンロッツが俺目掛けて残った左腕で斬りかかったのだ。

力の抜ける体に鞭を打ち、俺は渾身の力を込めて回避に回ったが・・・

「もらったぁ!!」

「がっ!!」

二・三合を交わすのが精一杯だった様だ。

遂に奴の斬撃を肩から袈裟懸けに切り裂かれた。

傷口からは噴水のように黒き血が噴き出し地面を黒く染めていった。

「ぐっ・・・ううっ・・・」

「ふんっ・・・やはり貴様は卑しき『黒鬼死』よ。まさか貴様の血までもが黒いとは・・・ああ全くもって臭い血だ・・・性根の捻じ曲がった貴様に相応しい・・・・わっ!!」

「がああああ!!」

奴の斬撃が次々と俺の体を切り裂く。

数発は弾くが立て続けに切り裂かれる。

切り裂かれる度に痛烈な痛みが襲い、血が次々と吹き出る。

(ここまでか・・・)

俺は覚悟を決めた。

奴の斬撃が俺の死点を貫いたのだ。

(じゃあな・・・アルト・・・すまない・・・セルト・・・どうもお前の予言・・・正しかったようだな・・・お前の傍に・・・もう少しだけいてやりたかったが・・・)

再び痛覚が意識を覚醒させる。

(痛み?)

この痛みが俺に一つの疑問を投げかけた。

それも今この状況を忘れさせるほどの強烈な・・・

(何故だ?死点を貫かれたのだろう?何故死点を貫かれても俺は生きている?だが奴は確実に俺の死線を切り裂いている・・・まさか・・・奴は・・・)

「ははっ!!『黒鬼死』よ、遂に観念したか?」

耳障りな声が俺の思考を中断させた。

見ると俺は自らの造った血だまりに身を浸しており、それを奴は優越感と勝利の確信を顔に漲らせ俺を見下していた。

「恐れ入ったか、私の持つ『直死の魔眼』の力は?これで私こそが真の魔眼の所有者である事を貴様も認めざるをえんだろう?」

(どこがだ?)

俺は心の中でそう呟いた。

奴の言動から俺の疑惑は確信に一歩近付いた。

(この程度の力を『直死の魔眼』だと?奴は死線しか見えていないのでは無いのか?・・・いや死線すらまともに見えていないのかもしれない・・・)

その証拠に体中確かに切り裂かれたが、切り落とされた箇所はただの一つも無い・・・

更に、(最初に傷が塞がり始めている・・・)

そう、最初に受けた袈裟懸けの傷は出血も止まり再生まで始めている。

(死線を切り裂かれた傷口は、再生などする筈も無い・・・つまりこいつの見ているものは・・・)

「・・・最期にいくつか聞きたい」

俺は疑惑と言う名の器に確信と言う水が、半分以上満たしたのを感じながら、全身の力を結集させて立ち上がった。

もう体には余分な血は一滴も残されてはいない。

いつ死んでもおかしくは無い。

なのに・・・何故、死線と死点はここまではっきりと明確に見えている?

「なんだ『黒鬼死』?何でも答えてやるぞ」

一方の奴は勝利をもう既定の事実と見ているのだろう。

構えすら解き悠然としていた。

「・・・貴様、その眼の力、いつから持っている?」

「その眼?ああ『直死の魔眼』のことか、私が死徒となり直ぐに覚醒したよ」

「と言う事は余り時間は経っていないということか?」

「ああ、5年程前のことさ」

疑惑は確信に姿を変えようとしていた。

「そうか・・・では二つ目・・・お前俺をどの様に殺す気だ?」

「くくっ・・・貴様もおかしい奴よ。自分の死に方を知りたいとはな・・・決まっているでは無いかこの力で貴様の首をはね、貴様の首を潰すに決まっているでは無いか」

その言葉は俺の中で疑惑を確信へと変えさせた。

(奴の眼と俺の眼これは似ているが全くの別物・・・またはこの眼の初期の力か?)

「三つ目に・・・貴様はその眼に何が見えている?線だけか?点だけか?それとも線と点が見えているか?・・・いいやもう少し簡単に聞いてやる。貴様もしかしたら、この眼は生物であれば何でも斬れる力と思っているんじゃないのか?」

「はははっ!!貴様も随分と酔狂な事を聞いてくる。貴様もそうやって数多くの真祖を切り裂いてきたのだろう?」

「・・・そうか・・・なるほどな・・・」

「さてお喋りは終わりだ。貴様の息の根を止めねば、何しろこれから群蒼の姫と、漆黒の姫の抹殺が待っているからな」

「!!・・・貴様今なんと言った?」

「我が主の命だ。群蒼の姫はこのような下賎の者に血を与えた。その罪死をもって購うのが相応しく、漆黒の姫はこの様な下賎の血を受け継ぐ者として抹殺しろとな。安心しろ地獄で会わせてやる」

俺の全身に怒りが込み上げた。

「・・・貴様が見ている物と俺の見えている物は根本的に違う・・・」

俺はそう言いながら瞳を閉じた。

「なに?」

「貴様が見ているのはただ単に生物を生かす生命力でしかない。死と生命は根本的に違う・・・もし貴様が仮に死を見ることが出来て、あの光景を見ているのなら・・・到底殺戮に愉悦する暇も無い」

「??何を言っている?貴様」

「今まで立っていた地面が突然崩れ、底すらない無限の奈落に永遠に落ちて行くかも知れない恐怖を貴様は知らない。太陽も月も星の光さえも消え失せ、明ける事の無い闇に飲み込まれるあの恐怖すらも」

「・・・や、止めろ貴様はここで死ぬんだぞ。何故、貴様は・・・」

奴の声に動揺が走る。

奴には俺の言葉を一片たりとも理解していないだろう。

だから許せない。

この眼を持つ者が背負わなくてはならない苦しみを何も知らず、この眼を持つ事で生まれる恐怖すらも知る事無く『直死の魔眼』の所有者と有頂天になっている奴が。

そして、その怒りと共に俺の記憶に急速にある出来事が甦って来た。

「・・・だから貴様に見せてやるよ。この眼の行き着く所が一体何なのか・・・この力が一体どういった本質なのか・・・」

「や、ややややややややめろー―――!!」

奴は絶叫と共に俺に飛び掛った。

その瞬間俺は全てを思い出し自分で封印していた過去と共に、至高の領域を自分の手で解放した。

俺は慌てる素振りすら見せず、静かに目を開いた。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

俺の眼を見た瞬間奴は恐怖で顔を歪め後方に這う様に逃げだした。

しかし俺はそれを実際に見た訳では無い。

俺の今の視界には何も写っていない。

広がるのは無限と思わせる闇そしてその中で燻った火種の様に赤黒く光る無数の点のみ。

その光景を見ながら俺は周囲をイメージとして正確に把握していた。

「なんだ?なんだなんだなんだなんだ!!なんなんだ!!貴様は!!その眼はなんだ?」

「御望みの『直死』・・・いや違うな・・・今のこの眼は・・・『極死(きょくし)』さ」

「きょ・・・『極死』?」

「・・・この眼の行き着く所・・・死の極み・・・早く来い・・・俺にはもう時間が無い」

「くっ・・・来るな・・・来るな来るな来るな来るな来るな・・・止めてくれぇーーーー!!」

奴は恐怖に駆られる様に爪を俺に斬りかかって来る。

「・・・」

しかし俺はそれを軽くかわすと奴の腕に位置する位置にある点を貫いた。

引き抜くと、その点はまるで火が水をかけられ消える様にふっと消えた。

「あ、ああああああああああ!!わ、私の腕が・・・私の腕がぁぁぁぁぁ!!!」

直ぐ近くで情けないくらいの喚き声が聞こえた。

しかし恐慌に駆られるのは当然であろう。

・・・腕を切り取られたのではなく、腕が消滅したとあっては。

だが俺はもうこんな奴の声は聞きたくも無かった。

何の容赦も無く俺は奴の体の中心にある点を貫いた。

「えっ?ま、まままままままま・・・まさ・・・」

奴がその次の言葉を口にする事は無かった。

グレンロッツと呼ばれた死徒は俺が点を引き抜いた瞬間この世から何一つ痕跡を残す事無くこの世から抹消された。

「・・・・・」

辺りを静寂が支配した。

だが、それは敵意に満ちた静寂だった。

しかし俺はそれにはもう見向きもしない。

もうそんな時間も無い。

俺に残された時は残り僅か、ならばせめて、その時間は家族の・・・妻と娘の為に使ってやろう。

俺は真祖達のいる方向に一礼するとそのまま千年城に飛び上がった。







「母上、父上はまだ戻らぬのか?」

「大丈夫じゃアルト、ホウメイは直ぐに戻ってくる」

一方千年城ではセルトシェーレとアルトルージュが同じ人物を待っていた。

その傍らではゼルリッチらが無言で控えている。

しかし、不意にアルトルージュが立ち上がりドアに向かって突き進む。

そして、もう少しでドアに着くと言う時に、ドアが開かれ、一人の人物が入ってきた。

その人物にアルトルージュが満面の笑みを浮かべ抱きつく。

「父上!!」

七夜鳳明だった。







俺がようやく自室に帰ると同時に、

「父上!!」

アルトがしがみついてきた。

「アルト、服が俺の血で汚れるぞ」

「何を言っておるのじゃ。そうなったら父上に・・・?父上どうしたのじゃ?目に包帯なぞして」

「・・・なに眼を少しな・・・それほど大事じゃないから心配するな」

無論これは嘘だ。

実は帰路に着く途中、凄まじい殺戮衝動に襲われだした。

眼を閉じればそれを押さえ込める。しかし本能が眼を開かせる事を命じる。

それを抑える為包帯を巻きかろうじてその衝動を押さえ込んだが、今度は自らの自殺衝動が膨れ出した。

眼を開ければセルトやアルトのみならず、恐らく俺の命が完全に尽きるまで貪欲に他者の命を奪い取るだろう。

かといって、目を閉じたままにすれば俺は今にも自らを消滅させる。

(だったら消えるのは俺一人で良い)

「シュトラウト・・・アルトを・・・」

「はっ・・・」

「??父上?」

「すまんなアルト、ちょっと父さんはもう一つ様があるからな」

「嫌じゃ。父上このところ妾にちっとも構ってくれぬでは無いか」

「すまん。しかしこれだけは外せないんだ」

「嫌じゃ嫌じゃ!」

「・・・わかった、じゃあ何して欲しい?」

「久しぶりに父上と散歩がしたい」

「アルト!そうもホウメイを・・・」

「構わんセルトシェーレ。確かにここ数年、真祖狩りでアルトに構ってやれなかったのも事実だ。たまにはこうやってやらないとな・・・行くか・・・アルト」

「早く、早くするのじゃ!!」

「ああ・・・」






「ナナヤ殿、アルトルージュ様は・・・」

「・・・俺と居るのがよほど楽しかったのだろうな。疲れて寝ているよ」

「おおこれはこれは・・・」

ゼルリッチは静かに俺の腕の中で安らかな寝息を立てるアルトルージュに目を細めていた。

「・・・すまないが・・・」

「はい、御預かりします」

俺はもう二度と逢う事の無い娘の髪を優しく梳いてやると、ゼルリッチに娘を渡した。

そしてアルトが寝室に運ばれるのを見届け、その足で自らの死に場所に向かおうとすると、

「ナナヤ殿・・・」

「御待ち下さい。ナナヤ殿」

「スヴェルデン・それにシュトラウトか・・・どうかしたか?」

「セルトシェーレ様がお呼びです」

「セルトが?」

「左様じゃ」

「セルト・・・」

「お主達・・・下がれ・・・」

その言葉に頷くと二人は静かに姿を消した。

そして周囲に俺達二人しかいなくなったと同時に、俺達夫婦の最後の会話が始まった。

「ホウメイ・・・お主、なにゆえアルトに嘘をついた?」

「何故そう思う?」

「知れたこと。妾はもう二百年お主と共に居続けた。お主のその双眸からは傷の波動が何も感じられん」

「・・・」

「ホウメイ、アルト嘘を付いてまで何を隠そうとした?」

「・・・」

「ホウメイ!!頼む!教えてくれ・・・妾達は夫婦なのじゃろう?」

「・・・後悔しないか?」

「なにゆえお主のことで後悔しなければならぬ?後悔はせぬぞ」

「そうか・・・今俺の眼は異常な状態にある」

「異常?何を言うて・・・」

「話は最後まで聞け。・・・セルト、お前・・・この眼に何を感じる?」

そう言うと俺は静かに包帯を脱ぎ取った。

「!!・・・な、何なのじゃ?ホウメイ?・・・今までの眼も殺意とか恐怖とかあった・・・なのにこの眼は・・・この眼に見られたら・・・何なのじゃ?この眼は?」

「・・・俺はこの眼を『極死』と呼んでいる」

「?・・・」

「確か、初めて出合った時お前俺の眼を『死神の様な眼』と称したな。しかしこいつは死神の様なじゃない・・・死神そのものの力を有している。こいつの場合は殺すんじゃない、消滅させちまうんだ」

「・・・」

セルトシェーレは絶句していた。

「信じる信じないはお前の自由だ。ともかくも俺はこの眼を抑える為にあえて包帯で眼を隠した。そうでないと目の前にあるもの全て消滅しようとしてしまう・・・まあ、眼を閉じれば閉じたで、今度は自分を消滅させたくなるが・・・」

「も、元に戻せば・・・」

「無理だ、今までこいつを使わずに封印し続けた反動が今返って来やがった。もう俺の眼は『直死』には戻らない」

「そ、そんな」

「セルト、アルトと仲良くな」

「ホウメイは?」

「俺はもう直ぐにも自分か他者を消滅させないと止まらない位衝動が高ぶっている。だから自分を消す」

「!!」

「さっ、セルト」

「・・・嫌じゃ・・・嫌じゃ」

「セルト!!」

「嫌じゃ!!ホウメイ!お主あの時妾と永遠に共に居てくれる事を約束してくれたのじゃろう?これでまた妾は一人ぼっちか?それだったら妾もホウメイと共に消える!!」

「一人じゃないだろう!お前にはアルトが居るだろう!」

「!!」

「・・・セルト、お前まで消えたら今度は、あの子が一人ぼっちになるだろう?・・・アルトに・・・俺達の娘にお前や俺と同じ寂しさを与えるというのか?」

「・・・・・・」

「・・・確かに俺は間も無く消える。しかし俺の思いは消えない。いずれ時が流れ悠久の時が過ぎ、お前もまた魂を天に還した時また遭えるから・・・」

「真か?」

「ああ、その時まで、一時の別れだ」

セルトシェーレは二百年ぶりに俺に見せた涙を拭うと、

「信じるから・・・ホウメイ・・・その時にはいつもと同じあの笑顔を・・・」

「ああ、いくらでも見せてやる・・・さあ、早く・・・そろそろ衝動を抑えるのも・・・限界・・・だから・・・」

「わかった・・・ホウメイ・・・さらばじゃ・・・」

俺達夫婦はこの世で最期のくちづけをかわすと俺は素早く眼を閉じ、セルトは踵を返してアルトの居る寝室に駆け込んだ。






「ふう・・・」

俺は千年城の最深部、真祖すら入り込まない地下室に身を横たえていた。傍らには一冊の書が置かれている。

初めて死徒となった時から今この時までの俺の苦悩全てを正直に書き綴った。

遠き未来、もし・・・あの時会った俺の子孫が俺と同じ様に道に迷った時の導となればそれで良い。

「・・・志貴・・・こいつが俺に送れる最期の遺言だ。もし、こいつを見つけこいつがお前の進む方向を照らす一隅となればそれで十分だ・・・」

俺はその書を魔術的な処置を施し、地下室の一角に封印を施しておくと、俺は静かに七夜槍の存在を示す点を指で貫いた。

その瞬間もはや俺の一部ともいえる二本の七夜槍はこの世からその存在を消した。

その時俺の眼から二百年ぶりに涙が零れ落ちた。

そして・・・その涙が地面に落ちるより早く俺は自分の点を貫いた・・・






追記

  この後セルトシェーレ・ブリュンスタットは真祖達の前からその姿を消す。

さらにアルトルージュ・ブリュンスタッドはまるで何かの復讐を果たそうとするかの様に真祖狩りを始める。

これが父を奪われたことへの復讐なのかは当人にしかわからない。

そして真祖はこれより二百年後、皮肉にも『黒鬼死』七夜鳳明の死と入れ替わるように現れた純白の吸血姫アルクェイド・ブリュンスタットによって滅ぼされる。

そして時は流れ、『黒鬼死』の残した書は道に迷い始めた青年の手に渡る・・・

路空会合完結







後書き及び補足

  路空会合後日談『落鳳蒼墜』いかがでしたでしょうか?

  長かったこの話もこれで完結です。

  一応、アルトルージュを鳳明達の娘としましたがいかがでしょうか?

  設定の真祖と死徒の混血と言うのを利用してこの様な設定といたしました。

  ちなみに、六話でシエルが言おうとしていたのは『一説にはアルトルージュ・ブリュンスタッドの母親と言われています』です。

  それと、少しだけ『月姫』本篇の台詞を真似をさせて頂きました、申し訳ありません。

  あと、この話で意味不明な台詞やら能力が出てきましたが、これについては次あたりの月姫長編で出して行こうと思います。

  前回の後書きにもあったあれです。

  時間は掛かるかと思いますがそれでも待てるという方はお待ちになって下さい。






  さて、ここからは補足と言うか、雑記の類です。

  自分がこの話を書こうとしたきっかけは、『花月十夜』の中にある『夢十夜』の一つ『赤い鬼神』でした。

  CGは何もありませんでしたが、その話に圧倒されました。

  そして同時にふと疑問にも思いました。

  「七夜の祖先には一体どういう人物がいたのだろう?」と、

  そこから七夜鳳明は生まれました。

  最初はそれほど深く考えもせず、ただ書きたいものを書くというものでしたが、だんだんと『凶夜』、寿命、『凶断』・『凶薙』といった、肉がつき、今の七夜鳳明に形作られました。

  つくづく思いました。

  『物語』と言うのは自己増殖するものだなと。

  そして出そうとした時も色々ありました。

  今だから言えますが、最初一般投稿で投稿をしていた時は下書きを見て、直接打ち込んでいました・・・五話の途中まで。

  前半かな〜り中途半端に句切られていたのは、これが原因です。

  ADSLに切り替えた時も設定メニューの変更を忘れたばかりに一ヶ月無駄にしたし・・・

  そして止めとばかりに終章の投稿を行おうとした際に起こった原因不明の投稿不可能状態。

  (これに関しては一ヶ月半、ありとあらゆる方法で解決策を探りました)

  ですが、なんだかんだ言ってここまで続いたのも、最後まで書こうというのもありましたが、何よりも文章を書くのが好きだったおかげだと思います。

  はっきり言ってこういったものは、楽しんで書くのが一番ですし、自分はこれから先も楽しんで自分の思うままに書いていこうと思います。

  もちろん、否定される方もいると思います。

  ですが、こういったやり方の方が調子がいいという人も確かにいるという事は覚えていてください。

  (自分はその典型例ですから)

  さて長くなりましたが最後に、この話を最後まで読んでくださり、また楽しんで呼んでくださった皆様に一言、

どうも有難うございました!!

  次回作でまたお会いできれば幸いです。

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