アルクェイドとセルトシェーレの第一声を聞いた時、俺と鳳明さんは互いに顔を見合わせ苦笑しあった。

当然だと言えば当然の反応だがやはり苦笑するしかない。

「と、遠野君??こ、これは一体??」

「七夜殿・・・え、えーと、どちらが七夜殿なのでしょうか?」

「兄さんが二人?どう言う事?琥珀、兄さんに双子の兄弟でもいたの?」

「い、いえ、そのような事は存じておりません」

「どうして?何がどうなっているの?」

「ほ、鳳明様?どちらが鳳明様なのですか?」

「両方とも鳳明さんの気を感じます。両方とも鳳明さん?」

「し、志貴様・・・」

「・・・・・・・」

皆が皆、それぞれの表情で絶句したり、ぶつぶつ何か言っている者もいる。

そこで事態の収拾の為に俺が説明しようとした時、

「な、なななな何故じゃ!!何故、七夜鳳明がもう一人おる!!貴様一体何者じゃ!!」

妖術師が俺を指差してそう絶叫した。

「・・・ふっ、言っておくが爺、こいつは俺じゃないぞ」

それに鳳明さんは小さく笑いながらそう言った。

「な、なに?で、では一体何者じゃと言うのじゃ」

「志貴、自己紹介してやれよ」

「そうですね」

鳳明さんに促された形で俺は静かに一歩踏み出すと

「爺さん、俺の名は・・・七夜志貴

「!!兄さん!」後ろから秋葉の悲鳴に近い声が聞こえた。

「この時代の七夜の当主・・・いや、そんなお偉いものじゃないな。七夜の最後の生き残り・・・そして、純血としての最後の・・・『凶夜』だ」

「なっ!!!」

俺の言葉に奴の表情が固まった。

「そして・・・『凶夜』としての俺の能力は・・・」

そう言いながら俺は静かに眼鏡を取りながら瞳を閉じる。

「これさ」

俺は静かに眼を開けた。

視界にはもう馴染みとなった(もっともこの、気分の悪さは慣れるものでは無いが)線と点が縦横無尽に走っている。

「ま、まさか・・・」

「そう、そのまさかだ。だから言っただろう爺『こっちにも俺のような奴がいる』と・・・それに、そんなびくついた面をするなよ。どんな時代の奴も見れるものじゃないんだからな『凶夜』と、この『死の眼』の持ち主を二人も見れるなんてな・・・」

そう言いながら鳳明さんも力を解放したようだ。

瞳の色が全身に鳥肌が立ちそうな位ゾクリとする蒼に変わっている。

「そ、そんな・・・『凶夜』が二人も・・・」

「さて、爺さん。俺もあなたを許せれるほど寛容な気分ではないのですよ」

「爺、最後ぐらい貴様に決めさせてやる。紅葉に捕らえられて遠野家で処刑されるか、俺と志貴によって殺されるか・・・好きな方を選べ」

「・・・ふっふふふふふ」

だが唐突に妖術師は笑い出した。

「?爺、何が可笑しい」

「・・・そうじゃった。いかに『死の眼』が強大な力を有していようとも、いかに『凶夜』が二人いようと結局はたかだか二人、何を恐れる事があるじゃろうか」

「・・・どうやらあの爺さん、やる気になったようですね」

「そのようだ」

突如強気になった妖術師を俺達は哀れみの視線を向けていたが

「さあ!!やれ!!七夜鳳明、そして七夜志貴をわしの力の一部とするのじゃ!!」

そう号例を掛けた途端、今までおとなしかった緑の化け物が動き出した。

が、ドシュ、と鈍い音がしたかと思うと一体に巨大な杭が突き刺さり瞬く間に砂と化した。

「なんだ?」

「あれは多分・・・」

俺は音のした方向を見ると、やはりと言うべきであろう、屋根で先輩が第七聖典を手に可能な限りの連射で次々と化け物を砂としている。

密集している為か面白いように第七聖典が当たる

「志貴あれは一体?彼女も『死の眼』を?」

「いえ、あれはどちらかと言えば『凶断』・『凶薙』に類する物です」

「なるほどな、・・・では俺達も潰すぞ」

「はい!!」

俺達は二手に分かれると左右から化け物達を潰しにかかった。

まず俺は一体を刺し貫くと、瞬く間に一体を葬った。

さらに砂となり崩れ終わる前に俺は既に別のポイントに移動を果たしていた。

そして今度は『凶断』を地面に突き刺し剣山をイメージとして思い浮かべる。

その途端、地面から無数の針、いや槍が盛り上がり二、三十体をまとめて掃討を果たした。

志貴も派手にやっているようだ。

「では俺もすこしやるか・・・」

そう言いながら『凶薙』を構えて、稲妻満ち溢れる雲海を想像する。

その途端『凶薙』からは何十条もの稲妻が走り、まさに縦横無尽に化け物を切り刻んでいく。

一撃必殺の攻撃が多い『凶断』・『凶薙』だが、敵の動きを止める為の攻撃も少ないが確実にある。

そしてある程度の知恵を働かせて連中があえて創った空間に一ヶ所にまとまると、今度は竜の彷徨を念じる。

その途端、妖力で具現化された竜がその集まった地点目掛けて突っ込んでいく。

そして周囲に溢れた光と音が収まるとそこは草一つ生えぬ荒野と化していた。

「いい具合だな、・・・ちっ、溜め込んだ妖力が尽きたか。収集に行くとするか」

『凶薙』に残る力が少ない事を察知すると、今度は化け物の群れに突撃を開始した。

そして瞬く間に五・六体の生命力を根こそぎ奪い取る。

「鳳明さんもやるな、そう言えば『凶断』も残り少ないな。じゃあ俺も」

俺もまた鳳明さんを見習い、瞬く間に十体をまとめて片付けた。

俺達の後ろに回り込もうとする奴もいたがそれらは後方にいるアルクェイド達が葬ってくれている。

時間的には三十分とかからなかっただろう。

あれほど大量にいた化け物は残らず全滅し残すは妖術師とあの真紅の化け物のみとなっていた。

「そ、そんな馬鹿な・・・」

「さて爺さん、これで残すは貴方だけとなりましたね」

「爺、覚悟は出来ているな念仏でも唱えな。直ぐにあの世に送ってやるからな・・・」

俺と鳳明さんはそう言うと奴に一歩ずつ近付こうとしたが、

「こ、こうなれば!!やれ!!鷲の最高傑作よ、皆殺しにせよ!!」

その途端、妖術師の一声に今まで動く事の無かった真紅の化け物が触手を振り上げた。

しかしその標的は俺達ではなく・・・

「ぐぎゃあああああああ!!!」

「なに!!」

なんと真紅の触手はその妖術師を原型が何であったのか判別がつかないほど、串し刺しにすると今度はまだ鮮血の滴り落ちる肉の塊を突如開いた口に放り込んだ。

「い、一体・・・なにが」

「あ、あの野郎、食ってやがる・・・」

俺が半ば呆然と呟き、鳳明さんは嫌悪も露にそう吐き捨てた。

確かに中からはクチャクチャと生肉を咀嚼する音とその過程でまだ残っていた骨を砕く音がよく聞こえてきた。

暫くすると食事が終わったのか何の前触れも無く、俺達目掛けあの触手を向かわせた。

「志貴!!避けろ!量が多すぎる」

「はい!!」

咄嗟に俺達は左右に飛んで最初の一撃をかわしたが、触手は二手に別れなおも俺達に追いすがった。

「しつこい!!」

「とっとと下がれ!」

余りのしつこさに俺達は同時に弾丸と雷が触手に襲い掛かる。

しかし妖力の弾丸も、雷も触手は容易く弾き飛ばし、追撃の手を緩めない。

「くっ!!」

「くそっ!!」

触手は木々を貫き、岩をも砕き俺達を追い詰め、遂に

「囲まれましたね」

「くそ、あの触手、間違いなくあの爺の妖力で強化されている」

俺達は四方を触手に囲まれてしまった。

「ここまでか・・・」

「跳びますか?」

「無理だ。その途端串し刺しにされる。突破しかない」

「付き合いますよ・・・」

そう言葉を交わすと、俺達は一点目掛け突破を仕掛けようとした。

しかし、これと同時に触手全てが俺達に襲い掛かろうとした。

が、想定された攻撃は一切起こらず、その代わり周囲から爆音が聞こえる。

何事かと見渡すと触手が外部から次々と攻撃を受けている。

ある触手は急激に萎みぼろぼろになり、ある触手は炎をまとって燃え上がり、見た事も無い奇怪な生物が触手に攻撃をしている。

「紅葉の略奪・・・それに紫晃の餓鬼式神・・・」

「先輩の黒鍵・・・それに秋葉か」

そう呟いていると

「志貴!!早くこっちへ!!」

「遠野の小娘達があれを牽制しておる。ホウメイ早く来い!!」

行く手を塞いでいた触手がまとめて消滅しアルクェイドとセルトシェーレが呼びかけている。

俺達はその呼びかけに呼応して即座に囲みから脱出すると、今度は秋葉や紅葉達の援護を開始した。

「こっちならどうだ!」

「あれで駄目ならば・・・」

今度はさすがに効果があったようだ。

隕石群は触手をまとめて叩きのめし、真紅の竜は弱った触手に止めを刺す。

こうして俺達が集合を果たすと触手の方も一旦本体の方へと収納されてゆく。

「皆、無事か?」

「はい大丈夫です」

「志貴様!!」

「鳳明様・・・ご無事で・・・」

「鳳明さん・・・良かった・・・」

「翠・珀、頼むから泣くな。まだ終わった訳じゃないんだからな」

「遠野君怪我は無いですか」

「うん。先輩ありがとう。さっきは助かったよ。それと悪いな、アルクェイド」

「むぅー志貴〜私とシエルで何か差ない?」

「気のせいだ」

「それよりも兄さん!!先ほど兄さんはご自分の事を『七夜志貴』と・・・」

「ああ、気にするな秋葉。あれはあくまでもあの爺さんに合わせただけだからな」

「それと鳳明殿これは一体どういう事なのですか?気が付けば変な建物にいて、私たちと同じ顔の人がいるここは一体・・・」

「私も聞きたいです志貴さま。ここにどうしてセルトシェーレさまが・・・」

「??レンちゃん、セルトシェーレと知り合いなの?」

「レンとこの冷たい女、元主従関係だって〜」

「まあその事に関しては後ろの怪物を潰してからだ。・・・しかしあの爺がああ言う最期を遂げたからな、これで一応俺達の依頼は達成で来たわけだが・・・あれは潰さないとな・・・」

「そうじゃなホウメイ、あれは危険すぎる。放置しておけばどの様な災いをもたらすか知れたものでは無いからな」

そう言いあっていたとき俺は何気に後ろを振り返った。

「げっ!!鳳明さんあの化け物・・・」

「どうした?なっ・・・なんて野郎だ」

それに気が付いた俺と鳳明さんは思わず絶句した。

見ると、奴の表面から明らかに顔と思わせる窪みが出現したのだ。

それも奴の表面のほぼ全域に・・・。

しかしそれはほんの序の口でしかなかった。

次の瞬間

「ひっ!!」

「きゃあああ!!」

「・・・これはちょっとした物ね」

後ろから恐る恐る見ていた女性陣から悲鳴が次々と上がった。

無理もない。

その顔と思われる窪みの内、眼と口の部分からあの触手がすざましいスピードで生え出したのだ。

さらにその口からは明らかにうめき声が聞こえてきた。

怨嗟を訴えるもの・苦痛にうめくだけのもの・絶命寸前にも関わらずか細い声で必死に助けを呼ぶもの別々だったがそれらが同時に発せられるのだ。

「う・・・うげぇ!!」

「ううっ・・・」

「翡翠ちゃん!!」

「翠ちゃん!!大丈夫?」

余りのおぞましさ故に翡翠と翠が嘔吐した様だった。

琥珀さんと珀も顔を真っ青としながらも必死に看護している。

他の者の表情も似たり寄ったりだった。

「あれは一体・・・」先輩が嘔吐寸前のような表情でそう呟く

「・・・おそらくあの緑の奴が今まで奪ってきた命だろう。あれは元々あの爺の生命力を補充する為に生み出されたものだからな、そして爺を真紅の化け物が食った事で今度はそれを奴が受け継いだのだろう。こうなれば一刻の猶予もないな。志貴、決着を着ける。このまま放置すればあれはどんどん爺の妖力を使って、何をやらかすか判らん。突撃を掛けて一気に殺す」

「はい。アルクェイドとセルトシェーレはすまないけど至近での援護を頼む」

「シエル、紫晃。貴女達には後方からの支援と翠達の護衛を頼みたい」

「秋葉と紅葉は遊撃の立場で触手の牽制を頼む。翡翠に琥珀さん、それに翠さんと珀さんそれにレンちゃんは先輩達と、後方の支援をしておいて」

俺と鳳明さんはアルクェイド達に矢継ぎ早にそう言うと合図もなく同時に飛び出した。

俺と志貴が飛び出したのを見て満を辞して奴も触手を使い俺達に襲い掛かる。

しかし俺達も再び雷を弾丸の雨で迎撃には入る。

やはりと言うべきか、再び襲ってきた妖力の弾丸と雷を触手は容易く弾くがそれもまた計算の内だった。

その防御行動に移った際に出来た触手の隙間に潜り込む。

それを察したのか、触手が引き返そうとしたのが見なくとも判る。

だがその直後から次々と爆音と紅葉やセルトシェーレ達の声が聞こえる。

「・・・このっ!!私の志貴に近寄るな!!」

「聞き捨てなりませんっ!!遠野君は私のものです!!」

「あ、あの御二方しっかりとした方が・・・」

「心配は要らぬようじゃな。あれだけ口喧嘩しつつも完璧に行っておる・・・」

「全く何を勝手な事を言っているのかしら。兄さんは私だけのものなのよ」

「鳳明殿にまた攻撃が来たわ」

「じゃあそっちは、貴女が援護して頂戴」

「あ、間違えたわ。志貴だったわ」

「兄さんになに手を出しているのよっ!!」

そんな口論に、俺と志貴は苦笑しつつも正面の触手を次々と叩き切って行く。

そして本体に到着する寸前から一気に物の死に魔眼の力を上げ、微かに見える死点にまず俺が『七夜槍』で貫く。

しかし、奴には何も変化が無い。

「なに?なぜだ?死点は確実に貫いた」

「なのにどうして死なないんだ?鳳明さん!!次は俺が」

俺はそう鳳明さんに向かって叫ぶと、ナイフを構え、まだ崩壊の傾向すら見えない奴目掛けて今度は線を一気に通す。

流石にこれには奴も上の部分が一気に削ぎ落とされたかに見えた。

しかし、

「なにっ!!」

「志貴、避けろ!!」

その光景を見た俺は絶句した。

奴は先程の様に口をばっくりと開けると志貴を丸呑みにしようと迫ったのだ。

切り裂かれたと思われたのは、ただ口を大きく開けたに過ぎなかったという事か・・・。

俺は咄嗟に後方に飛び退り、志貴にも注意を促した。

しかし、志貴はまるで何かに魅入られた様に動かない。

俺も本能的に危険を感じて飛び退ろうとしたがその瞬間に目に入ったものに動けなくなった。

俺は尽かさず志貴を強引に戻そうとしたがその時、奴の口を開けた部分の一点に視線が集まってしまった。

それは・・・        そう・・・

奴の体内にある死の点・・・

俺は悟った。

(そういうことか・・・)

俺は納得した。

(通りで・・・)
奴は体内に自らの真の死点を隠し、そして死線の一部を死点の様に偽装していた。

鳳明さんが突いたのが線の一部なら話しは判る。

―だとすれば奴を・・・―    ―殺す方法は一つだけ―     

                        ―尚且つ―        ―チャンスは一回―

      ―失敗は・・・―      ―すなわち・・・―

   ―俺の―          ―志貴の・・・―

                死を意味する・・・

志貴は俺を見た。

鳳明さんは静かに頷いた。

記憶を・・・人生を、そして魂すらも一部分だけだが、共有しただけある。

互いに互いの考えが呆れるほどわかった。

(まかせろ)

(お願いします)

その瞬間、志貴は化け物に地面ごと飲み込まれた。

後方からアルクェイド達の悲鳴が聞こえる。

その瞬間俺は見事に生きたまま奴の体内に取り込まれた。

中は二つの猛烈な臭いが充満していた。

一つは土の腐ったような臭い。

そして、血の臭い・・・

これは恐らくあの妖術師の死体を食った時の臭いに違いない。

周囲は真っ暗だがイメージで何となくわかる。

俺の周囲にある何百の牙が俺をズタズタに引き裂かんとじりじりと迫ってくる。

しかし、今の俺には点しか見えていない。

俺は志貴が飲み込まれたと同時に上空へと跳躍した。

表からの位置は大体判断がつくし、俺の眼にも今や奴の死点がはっきりと見える。

一度死点を見てしまえば幾ら偽装しても俺達の目をごまかす事は不可能であろう

触手が俺を貫こうとするが、それらは至近距離からの竜の暴威により、まとめて消し飛ぶ。

周囲に蠢く牙が余りにも五月蝿かった為に四方に弾丸が唸り二、三十本を砕く。

既に鳳明さんはジャンプして『凶薙』を構え急降下している。

俺も『凶断』を手に点に狙いを定め飛び掛った。

お互い竜の飛翔を脳裏に浮かべて・・・

しかし、

        ・・・俺は竜の昇天をイメージしたのに対して・・・

                                ・・・俺は竜の降臨を思い描いた・・・

その瞬間俺と志貴は力で具現化された竜と一体化して同じ死点を内側・外側から同時に貫いた。

その瞬間、奴の触手の動きが全て止まった。

俺に間近まで迫った牙も蠢きを止め、中にはぼろぼろになって消滅する物も現れた。

化け物の体は今までの奴に比べて、ゆっくりだが確実に崩壊を始めている。

そして、今までの奴は死点を刺されてもまだ動くものもいたが、今回はそのような事は無い。

俺と鳳明さんとで、点を完膚なきまで壊したのだから当然と言えば当然と言える。

そして一分後、奴の姿は砂山となり俺はそんな砂山の上で立っていた。

「志貴・・・」

誰かが俺の肩を叩く。

振り向くと俺とそっくりな男が穏やかな表情でこちらを見ている。

きっと俺も同じ表情だろう。

「何とかなったな・・・」

「ええ」

そう言うと俺と鳳明さんはくくくっと静かに笑い出した。

しかしそんな静かな空気も

「し〜き〜!!」

「どわあああ!!ア、アルクェイド!!少し離れろ!力を抑えないと俺が廃人になる!!」

すざましいスピードで突進してきた天然吸血姫によって、あっと言う間にいつもの空気となってしまった。

さらに遅れて着いた先輩や秋葉達は、俺ごと殺す気かと言いたくなる位殺意を、俺に抱きつき猫の様にじゃれ付くアルクェイドに向けている。

アルクェイドと呼ばれた『真祖』に抱きつかれ四苦八苦している志貴を見て、俺に自然な笑みがこぼれた。

そこに声がかかる。

「ホウメイ」

「七夜殿」

「鳳明殿」

「鳳明さま・・・」

「鳳明さん」

声に振り返るとそこには既に翠や珀達が安堵に満ちた表情で俺を見ている。

「・・・皆、心配かけた」

俺の言葉に全員それぞれの表情を更に緩めて笑顔で俺を見ている。

いつもの喧騒にその身を置きながらも俺は心からの安らぎを感じていた。

それが俺にとって、これこそが日常なのだと嫌と言うほど納得できた瞬間だった。






後書き

   六話のバトルシーンいかがでしたでしょうか?

   臨場感が出ていれば幸いかと思います。

   それと前回から出ております『凶断』・『凶薙』から出しております、力の具現化能力については余話という形で掲載しています。

   「これは何の能力だ?」という方がおりましたらそちらを見ていただければ宜しいかと思います。

   次回の七話はこの物語の山場と言えます、志貴と鳳明の対話を中心に行います。

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