「結」


部屋の隅に張られた蜘蛛の巣で、何か黒いものが蠢いて見えるのだが、どうにも破れた障子から
の月明かりしかなくてはきとは見えない。
「あれ、交尾してんじゃねーかな」ぼそりと低い声で睡骨が云った。「そうか?」横になった姿
勢から目だけをそちらに向けてみるけれども、煉骨にはやはり何か黒いものが蠢いて見えるだけ
だ。一匹なのか二匹なのかも分からない。
「いや、よく分からねーけどさ」
「何だよ」
煉骨はつまらなそうに云ってそちらを見るのをやめた。目が疲れたとでもいう風に軽く瞼(まぶ
た)を閉じる。
「何だったら見に行くか」
「行かねーよ。何でわざわざ……」こんな時にという感じである。睡骨の背に回していた手を動
かして煉骨は少し強くしがみついた。睡骨の息が耳にかかる。
「ん……」
「もしかして」と睡骨が云った。
「あっちもこっち見てたり」
「ああ?」
「んで、同じこと思ってたり」
「…………」
「って、どうでもいいか」
「どうでもいい……」
「うん」低く笑って睡骨は煉骨の腰に腕を回した。「こっちが楽しけりゃいいよな」そういうこ
とだ。ふっと息を吐いて、煉骨もまた改めて睡骨を強く抱き寄せた。




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