「労」
備考:みんな死んじゃってる話。あの世はけっこう何でもあるよ。


「あなた、一番尊敬してる人はビスマルクだったでしょう。」
そんなことを言いながら木戸は手に持った一枚の紙を揺らした。
「これに参加すれば会えるらしいですよ。」
「温泉ツアーですか。」
「カニてんこ盛り美女てんこ盛り、俺も行きたいくらいだ。」
「…………。」
「しかし人気のツアーなので一人しか空きがなくて、それで皆で相談した結果、こちらに来たば
かりの大久保さんに現世での慰労の意味も込めて参加して頂こうと。」
「これにビスマルク氏も参加してるんですか?何かビミョーですね。」
「集合時間は明日の朝の五時、説明とか注意とかあるそうですから。」
「五時?何でそんな早いんですか。客への説明ならバスに揺られながらでもいいでしょうに。」
「いや、あんた添乗員だから。」
「…………。」

笑顔が大切ですよ!なんて云われて、はい!と答えられるわけもなく、これって果たして慰労
なんだろうか、と大久保は夜ひとりベッドの中で考えた。




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