08年1月号 ドロ沼化する「テロとの戦い」と各国の対応


拡大する犠牲者
 2001年10月7日に始まった米軍のアフガニスタン侵攻から6年10か月、2003年3月19日のイラク侵攻からは4年9か月が経過しました。開戦から現在(07年12月)までの間に、アフガニスタンでは米軍兵士469人と同盟軍兵士274人が死亡し、イラクでは米軍兵士3,888人と同盟軍兵士306人が死亡しています。またイラクの民間人犠牲者は、確認されただけでも78,085人から85,072人です(IRAQ BODY COUNT)。アフガニスタンでは開戦当初の米軍による爆撃で4,000人以上が犠牲になったといわれていますが、犠牲者の総数は明らかになっていません。2001年9月11日に起きた「同時多発テロ」の犠牲者は2,973人でした。しかし報復のための「テロとの戦い」は、「同時多発テロ」をはるかに上回る犠牲者を生み出しています。

アフガニスタンの現状
 アフガニスタンでは、04年12月にカルザイ大統領の正式政府が発足しましたが、現在はタリバン前政権派の攻撃が激しくなっているようです。アフガニスタンで医療支援を行なうペシャワール会の中村哲さんは、「アフガニスタン南部・東部・北部の各州で、戦闘は激しくなっています。欧米軍は増派されて5万人以上の大兵力となり、他方「タリバーン勢力」の面の実効支配は、徐々に、かつ確実に首都カーブルを包囲しつつあるように思われます」(会報93号07年10月3日)と語っています。タリバン派に対しては、米軍と、NATO(北大西洋条約機構)が主導するISAF(国際治安支援部隊)が掃討作戦を行っていますが、両軍による攻撃は多くの民間人犠牲者を生み出しているようです。

イラクの現状
 イラクでは06年4月、シーア派のマリキ首相による正式政府が発足しました。マリキ政府は、投降した武装勢力の恩赦など、国民和解を進めようとしましたが失敗。現在は米軍・政府軍と、シーア派内の反政府勢力、スンニ派・前フセイン政権派の反政府勢力、国外組織アルカイーダなどとの間で複雑な戦闘が続いています。12月5日にはゲイツ米国防長官がイラクを訪れ、「安定し、民主的なイラクは手の届く所にあると思う」と楽観的な見通しを示しました。しかし米軍に対する攻撃は首都バグダッド市内でも頻発し、米軍死者、イラク人死者ともに増加しています。米軍とマリキ政府が治安を維持できず、イラクは内戦状態にあります。

各国の対応
 こうした中で、「テロとの戦い」に協力していた同盟国に変化が現れました。ポーランドでは10月の総選挙で政権が交代、トゥスク新首相は900人のポーランド部隊を来年中に完全撤退させると表明しました。オーストラリアでも11月に行われた総選挙で、ハワード首相の保守連合が敗北し、労働党が政権を獲得しました。新首相に就任するラッド労働党党首は、来年半ばまでにイラク駐留部隊約1,600人のうち戦闘部隊約600人を撤退させるとしています。英国でもブレア首相が退陣、ブラウン新首相の下で4,500人のイラク駐留部隊を、来年中に2,500人に縮小する予定です。

「ブッシュ後」の模索
 米国でも、08年11月に大統領選挙が行われます。共和党ブッシュ政権で進んだ格差の拡大とイラク政策への批判から、民主党の大統領が誕生する可能性があります。民主党の大統領候補の多くは、アフガニスタンについては派兵継続を表明していますが、イラクからは撤退を公約しています。米国自身が、「テロとの戦い」を見直す可能性が大きいのです。米国も同盟国も「ブッシュ後」に向けて動き始めている中で、福田内閣は相変わらずブッシュ政権に従っています。
 労働運動・平和運動と、民主党・社民党の連携を強化して政権獲得を実現し、対米追従の外交政策を根本的に改めることが必要ではないでしょうか。


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