2007年10月号 解説:テロ特措法の問題点
テロ特措法はどうして作られたのか
2001年9月11日、ハイジャックされた民間航空機4機が、ニューヨークの世界貿易センタービルと、ワシントンの国防総省に自爆攻撃を行い、2973人が犠牲になりました。「9.11同時多発テロ」です。ブッシュ政権はこの攻撃を、イスラム武装組織アルカイダの犯行と認定。アルカイダはアフガニスタンのタリバン政権と協力関係にあり、アフガニスタン国内に軍事拠点を置いていたため、米軍は同年10月7日、アフガニスタンへの侵攻を開始しました。
米国はこの侵攻を、個別的自衛権の行使としました。またNATOは、米国に対する集団的自衛権の行使として参戦しました。しかし日本は憲法上、集団的自衛権を行使できません。そこで小泉内閣は同年11月にテロ特措法を成立させ、自衛隊による米軍への後方支援を行うことにしたのです。
テロ特措法より、海上自衛隊の補給艦と護衛艦がインド洋に展開し、米軍などの艦船に、燃料や水を補給することになりました。燃料や水の費用は日本の負担で、07年7月までに総額216億円に上っています。
テロ特措法は2年の時限立法でしたが、その後たびたび期限延長の改正を行いました。今回、改正が行わなければ、本年11月1日で期限切れになります。
テロ特措法の内容
(1)自衛隊の活動は、以下の4項目です。
@協力支援活動・・・諸外国の軍隊に対する物と役務の提供、便宜の供与その他の措置。
A捜索救助活動・・・諸外国軍の兵士が戦闘によって遭難した場合に捜索・救助を行う。
B被災民救援活動・・・住民のために実施する食糧・衣料・医薬品その他の生活関連物資の輸送、医療その他の人道的精神に基づいて行われる活動。
Cその他の必要な措置
(2)自衛隊の活動には、以下の制限を設けています。
@武力による威嚇や武力の行使の禁止。
A活動は、日本国内、公海上とその上空、外国の領域(当該外国の同意がある場合に限る。)で、非戦闘地域に限定。
B武器使用は、自衛隊ならびに自衛隊の管理下に入ったものの生命・身体の防御に限定。
(3)国会の関与は、以下のように定めました。
内閣が「基本計画」を閣議決定し、国会に報告。「基本計画」によって実施された自衛隊の活動は、活動開始後20日以内に、国会に付議し承認を求める。
4.これだけある問題点
@アフガニスタン侵攻に正当性は無い
米国がテロの実行犯と認定したのは、アルカイダであり、アフガニスタン政府ではありません。テロの犯人が国内にいるだけでアフガニスタンを攻撃することに、国際法上の根拠はありません。むしろ米国のアフガニスタン侵攻が、国際法に違反する行為です。
米国は「9.11同時多発テロ」を「戦争」としましたが、「戦争」は国家と国家の争いです。「9.11同時多発テロ」がアルカイダという武装集団の犯行だとすれば、どんなに犠牲が大きくても「戦争」ではなく「犯罪」です。「犯罪」に対して自衛権を発動し、軍事力を行使することを、国際法は認めていません。
A米国と国際治安支援部隊(ISAF)は内戦に介入
アフガニスタンは、カルザイ現政権派とタリバン前政権派の内戦状態です。米軍とISAFの主な攻撃対象はアルカイダではなくタリバン前政権派のようです。これは内戦への介入です。国際法は、内戦の一方への支援を、内政干渉として禁じています。
B民間人の犠牲
米国とISAFの攻撃では、多数の民間人が犠牲になっていることが報告されています。戦争で民間人を殺害することは、国際法に違反します。
C国会によるシビリアンコントロールの欠如
自衛隊が海外で行う活動内容に対して、国会は事後承認するだけです。また燃料を提供した艦船の所属国、燃料の量などは報告されますが、個別の艦船名称やその艦船の任務については報告されません。自衛隊が燃料を供給した艦船がアフガニスタン周辺での活動ではなく、イラク戦争に参加している可能性もあります。しかしそうしたことに、国会は関与できないのです。
いまできることは
米軍は7年間もタリバン前政権派を攻撃しましたが、タリバン派は衰えるどころか、最近では勢力が増大しています。米軍やNATOが兵力を増強しても、タリバン派を殲滅することはできないでしょう。内戦の終結には、どちらか一方の勝利ではなく、カルザイ現政権派とタリバン前政権派の両方が交渉のテーブルにつく、和平会議の枠組みが必要です。国連を中心にした国際社会が、そうした枠組みを準備するべきです。日本は、テロ特措法を終了しても、和平会議の枠組みを準備することで、アフガニスタンの平和に寄与することができます。