5月 政府が国民保護に関する基本指針を決定 基本的人権の制限に反対しよう


机上で作った戦争避難計画
 核攻撃があった場合には、「風下を避け、手袋、帽子、雨ガッパ等によって放射性降下物による外部被ばくを抑制する」。また弾道ミサイルや爆撃機による攻撃があった場合には、「近傍のコンクリート造りの堅ろうな施設や建築物の地下、地下街、地下駅舎等の地下施設に避難」する…。戦争が始まった時に、このようは方法でもととう本当に市民の生命を守ることができるのでしょうか? 
 これらは3月25日に小泉内閣が閣議決定した、「国民の保護に関する基本指針」に書かれている内容です。この基本指針は、昨年成立した国民保護法に基づき、日本が外国から攻撃を受けた場合の国民の避難や保護の手順を定めたとするものです。今後は05年度中に都道府県の「国民保護計画」と指定公共機関の「国民保護業務計画」が、06年度中に市町村の「国民保護計画」が作成されることになります。

有事法制のおさらい
 小泉政府は03年6月、@武力攻撃事態法、A改正安全保障会議設置法、B改正自衛隊法――の有事3法を成立させました。有事3法は、日本が戦争を開始する際の手続きを定めたもので、有事法制の総則編に当たります。
 さらに政府は04年5月、@国民保護法、A特定公共施設利用法、B外国軍用品海上輸送規制法、C米軍支援措置法、D改正・自衛隊法、E捕虜取扱法、F国際人道法違反処罰法――の有事関連7法を成立させました。有事関連7法は、自衛隊や政府の具体的な行動を定めた有事法制の実働編です。
 このうち国民保護法は、戦争に際して国民を避難させることを名目としています。しかし実際には@自治体職員・運送事業者・医療機関従事者などに避難計画への従事を求める、A流通業者に対して食料品の保管・売り渡しが要請される、B国の求めで土地・家屋・物資の収容を可能とする――などの問題点を含んでいます。そもそも国民保護法は「国民の自由と権利に制限を加える」ことを前提として作られているのです。

どのような戦争を想定しているのか

 基本指針は「我が国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下しているものの、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織等の活動を含む新たな脅威や平和と安全に影響を与える多様な事態への対応が差し迫った課題となっている」と述べています。大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散は、米国がイラク攻撃の理由としたものです。国際テロ組織とは、米国がイスラム系武装組織を指して使う言葉です。これらが日本にとっての脅威であるという根拠は、何も示されていません。
 また基本指針は日本への侵略の形態として、@着上陸侵攻、Aゲリラや特殊部隊の攻撃、B弾道ミサイル攻撃、C航空攻撃の4つをあげています。しかし、これらは、冷戦期のソ連との全面戦争を想定したものであり、本格的な侵略の可能性が低いという政府の判断と矛盾します。

細かに決められた市民・労働者の動員体制
 基本指針には、戦争が起きた場合に自治体や指定公共団体の職員を動員する体制、地域の消防団やボランティア組織への動員要請、またこれらの組織が日ごろから計画を作成し訓練を行うこと、国民に対して啓発活動を行うことなどが、詳細に記載されています。
 どのような戦争が起きるのかの前提があいまいで、国民を「保護」する方法については非現実的な内容にもかかわらず、国民を「動員」する体制については事細かに書かれているというのが基本方針の特徴です。このことを見れば、基本指針の目的が、あたかも戦争が起きることを市民の意識に刷り込み、それを利用して戦争体制に自治体や地域住民組織を組み込むことであると考えられます。

いま日本が行うことは
 日本政府が行うべきことは、戦争の準備や、ブッシュ政権の単独行動主義に追随して軍事的緊張を高めることではありません。戦争や紛争の原因である「貧困」や「飢餓」を、国連機関と連携して解決することです。
 小泉内閣による戦争のできる国づくりに反対し、市民・労働者への戦争協力の強制を許さない取り組みの強化が求められます。


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