解説 韓国・北朝鮮の情勢
●作成日:2010年12月7日


1.朝鮮半島で何が起きているのか
(1)南北が砲撃戦
 11月23日、朝鮮半島西側の黄海で、北朝鮮軍と韓国軍の砲撃戦が起こりました。この戦闘で、韓国側は軍人2人と民間人2人が死亡し、軍人16人と民間人3人が重軽傷を負いました。北朝鮮側の被害は報じられていません。韓国は前日の22日から軍事演習「護国訓練」を実施、これに対して北朝鮮は韓国に抗議文を送っていました。
 韓国軍は23日午前から、延坪島の自走砲部隊が砲撃演習を開始しました。北朝鮮軍は同日午後、ケモリ基地と茂島基地の砲兵隊が延坪島を砲撃しました。その後、延坪島の韓国軍がケモリ基地と茂島基地に応射し、相互の撃ちあいになったのです。北朝鮮軍は170発を発射し80発が延坪島に着弾、韓国軍は80発を発射する大規模な戦闘でした。

(2)確定していない境界線
 砲撃戦が起こった原因の1つは、朝鮮半島周辺の海域で、南北の境界線が確定していないことです。陸域では、韓国・朝鮮ともに38度線を休戦ラインとして認めています。しかし海域では、朝鮮戦争の休戦後に国連軍が北朝鮮寄りに北方限界線(NLL)を設定、一方で北朝鮮はNLLより南に海上軍事境界線を定めているのです。
 今回、韓国軍が砲撃演習の目標とした海面は、NLLと海上軍事境界線の間に位置し、南北が互いに領有権を主張している場所でした。そのため北朝鮮は、韓国軍による自国領海内への砲撃と認識して反撃したようです。
 この海域では過去にも数回、韓国側と北朝鮮側の艦船による銃撃戦が発生しています。

砲撃戦の経過
 ▼ 8:20 北朝鮮が韓国に「護国訓練」の射撃中止を求める電話通知文を発送。
 ▼10:15 韓国軍が白れい島と延坪島の間の海域で、陸海合同射撃訓練を開始。
 ▼14:34 北朝鮮軍がケモリ基地と茂島基地から、延坪島に対して砲撃。
 ▼14:50 韓国軍が延坪島の自走砲で応射。
 ▼15:10 北朝鮮軍が応射。 
 ▼15:50 韓国側が南北将官級会談の北朝鮮代表に、砲撃中止を求める電話通知文を発送


2.軍事演習が続く朝鮮半島
(1)天安沈没で高まった軍事緊張
 2010年3月26日、韓国海軍の哨戒艦「天安」が、黄海上の白れい島付近で爆発・沈没しました。韓国側の事故調査団は、北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したと発表しましたが、北朝鮮は否定しました。7月に出された国連安保理の議長声明も、沈没原因は事故ではなく攻撃としたものの、攻撃を行ったのが北朝鮮であるとは断定しませんでした。
 この事件の後、韓米両国は、合同軍事演習や韓国軍単独での演習を頻繁に行い、北朝鮮に対する軍事的な圧力を高めていきました。一方で北朝鮮も、NLLに向けた砲撃演習を行うなどの対抗措置を取りました。
 朝鮮半島周辺では、米韓と北朝鮮の双方が次々と軍事演習を行って、緊張を高めていきました。今回の砲撃戦は、こうした事態の中で起きたのです。

(2)米韓の動きを中国が警戒
 韓米の軍事演習に対して、中国も批判を強めています。韓米が軍事演習を実施している黄海は、中国の近海でもあるからです。7月8日には中国外務省の報道官が、「外国軍艦と軍用機が黄海と中国近海に進入し、中国の安保利益に影響を与える活動を行うことに対して決然と反対する」と述べました。また韓米に対抗するように7月以降、黄海上での海軍と交通運輸省の合同演習、済南軍区の空輸訓練、南京軍区砲兵部隊の長距離ロケット演習などを行っています。
 中国で経済発展とともに、軍隊の近代化が進んでいます。以前の中国海軍には小型艦船しかありませんでしたが、現在は大型艦船や多数の潜水艦を保有しています。中国海軍の増強に危機感を持った米国が、朝鮮半島情勢を口実に中国近海に軍隊を進めていると、中国は見ているのです。

韓米ならびに北朝鮮の軍事演習

★韓米合同軍事演習「不屈の意志」
 7月25日〜28日/日本海
 両軍合わせ:兵員約8000人・艦船約20隻・航空機約200機在日米軍からも原子力空母×1
 イージス艦×2 ・海兵隊部隊が参加

★韓米合同指揮所演習「乙支フリーダムガーディアン」
 8月16日〜26日/韓国全土

★韓国軍対潜水艦訓練
 8月5日〜9日/黄海
 兵員約4500人・艦船29隻・航空機約50機

●北朝鮮軍砲撃演習
 8月9日/黄海
 NLL近海に向けて沿岸砲130発を発射

★韓米合同対潜水艦訓練
 9月27日〜10月1日/黄海
 米軍:イージス艦・攻撃型原潜・P3−C哨戒機など
 韓国軍:駆逐艦・哨戒艦・潜水艦・P3−C哨戒機など

★韓国軍「護国訓練」
 11月22日〜30日/韓国全土

●★南北両軍の砲撃戦
 11月23日/黄海

★韓米合同軍事演習
 11月28日〜12月1日/黄海
 米軍:原子力空母×1・イージス艦×4ほか
 韓国軍: イージス艦×1・駆逐艦×2 ・哨戒艦ほかF-15K戦闘機・KF-16戦闘機ほか


3.日本は対話推進に協力を
(1)北朝鮮が一方的に悪いのか?
 日本のマスコミは、北朝鮮が突然に韓国を攻撃したように報じています。しかし当事者の韓国の報道では、北朝鮮が領有権を主張する海域で韓国が軍事演習を行おうとしたこと、北朝鮮が韓国に対して演習中止を求める通知文を送っていたこと、それにもかかわらず韓国軍が延坪島から海域に向けて砲撃演習を実施したこと、北朝鮮軍の砲撃は韓国軍の砲撃の後で行ったこと――などが明らかになっています。
 韓国と米国は一連の軍事演習を、北朝鮮軍による「天安」攻撃への対抗措置としています。しかし前述の通り国連安保理の議長声明でも、「天安」攻撃が北朝鮮によるものとは認めませんでした。
 今回の戦闘の発端は、北朝鮮が領有権を主張する海域での、韓国軍の砲撃演習です。国連憲章第2条は、加盟国が「武力による威嚇又は武力の行使」を行うことを禁じています。韓国軍の演習は、国連憲章に抵触する可能性があるのです。また国連憲章第51条は、攻撃を受けた場合の自衛権の行使を認めています。北朝鮮軍の砲撃は、国連憲章が認めた自衛権の行使と見ることもできます。
 韓国の市民に犠牲者が出たことは、許されるべきではありません。しかし私たちは、政府発表やマスコミに踊らされることなく、事態を正確に理解しなければなりません。

(2)抑止力の落とし穴
 米国と韓国は「天安」沈没事件以降、北朝鮮への抑止力を高めるために軍事演習を行いました。北朝鮮も、「軍事的挑発行為には、核抑止を含む全ての攻撃・防御手段を総動員し、せん滅的打撃を与える」と警告し、軍事演習を行いました。
 双方ともに、相手側に対する抑止力として軍事演習を行い、その度に緊張感が高まり、最後には戦闘が起きてしまったのです。
 一方にとっての抑止力は、他方にとっては脅威です。対立する国どうしが相手に脅威を感じ、自国の抑止力を高めれば、軍拡のシーソーゲームは際限なく続き、やがては戦争を招いてしまうのです。

(3)軍隊は市民を守れない
 今回の砲撃戦で、延坪島の住民が犠牲になりました。インターネットサイトの「ウィキペディア」によれば、延坪島の人口は約1700人で、そこに約1000人の韓国軍が駐留しているとのことです。北朝鮮と10キロしか離れていない島の住民にとっては、軍隊の駐留は心強かったかもしれません。しかし実際には、軍隊が駐留していることで、島は攻撃を受けてしまいました。軍隊の駐留は、住民の安全には結びつかないのです。

(4)解決策は対話しかない
 60年以上も軍事対立を続けてきた韓国と北朝鮮が、和解するのは容易ではありません。しかし軍事的な対立を続ければ、いつかは戦争が起きることを、今回の事件が証明しました。戦争を防ぐためには、2000年に結ばれた「6.15南北共同宣言」に立ち返り、韓国と北朝鮮が対話を通じて平和的な統一に向かうしかないのです。
 韓国・北朝鮮ともに、国内には軍事力を行使しようとする勢力と、平和的な解決を求める勢力が存在しています。日本は、両国内の軍事勢力の動きに惑わされることなく、両国内の平和勢力と連携することで、南北の対話に協力するべきではないでしょうか。そのことが、日本の平和にもつながるのです。

4.日米軍事強化を止めよう
(5)実戦想定し過去最大の訓練
 残念ながら日本政府は、米国政府とともに、北朝鮮や中国への軍事的な圧力を強めています。日米は12月に、3つの軍事演習を行いました。定期的な演習ではありますが、今年度は特に、北朝鮮や中国との戦争を想定した内容になっています。
 日米共同統合演習には、日米合わせて約44500人が参加し過去最大の規模です。これまでは陸上演習が主でしたが、今回は四国・九州・沖縄周辺の海域と空域が中心です。敵国の艦船を日米の艦船や航空機が抑え込み、原子力空母「ジョージ・ワシントン」の艦載機やイージス艦隊が敵国に打撃を与える訓練と思われます。自衛隊と米軍の基地では、初めてミサイル防衛訓練も実施されました。
 霧島演習場では、海兵隊と自衛隊が共同で敵部隊を撃退する訓練が行われます。また日出生台演習場では、占領された離島の奪還訓練が行われています。この訓練には、落下傘やヘリコプターでの敵地攻撃を任務とする第1空挺団や第1ヘリコプター団、海上からの敵地侵入や対ゲリラ戦を任務とする西部方面普通科連隊が参加しています。
 米国が朝鮮半島に軍事介入し、また中国に軍事的な圧力を加えるには、日本の協力が不可欠です。日本政府は米国政府の要請に応じて、1999年に周辺事態法を、2003年に有事3法を、2004年に有事関連7法を成立させました。これらは米軍が戦争を行う場合に、自衛隊だけではなく、国や民間も含めて米軍支援を行うための法律です。
 日本の支援が無ければ、米国は北朝鮮や中国と戦争することはできません。私たちが日米軍事同盟に反対すること、日本の戦争協力に反対することが、アジアでの戦争を防止する道なのです。

12月に行われた日米の演習
★日米共同統合演習(実動)
 12月3日〜15日
 四国南方・九州西方・沖縄東方の海域 各地の自衛隊基地・米軍基地
 米軍:兵員10400人・艦船 原子力空母など20隻・航空機150機
 自衛隊:兵員34100人・艦船40隻・航空機250機

★日米共同演習
 12月6日〜15日
 陸上自衛隊霧島演習場(宮崎県・鹿児島県)
 米軍:第31海兵遠征隊230人
 自衛隊:第43普通科連隊550人

★陸上自衛隊方面隊実動演習(西部方面隊)

 12月3日〜10日
 陸上自衛隊日出生台演習場(大分県)
 兵員900人・車両150両・航空機10機
 西部方面普通科連隊・第1空挺団・第1ヘリコプター団


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