【 幻想戦記外伝 - 白銀の翼 - 】 風がそっと、髪を撫でた。 私は瞳を閉じて微かな感触を楽しむ。 ―――きっと、うまく行く。 そう自分に言い聞かせる。 成功する保障なんて何処にも無い事はわかっている。 ただ、胸の高鳴りを忘れてこの事に集中しなければならない。 ―――落ち着け。 気持ちとは裏腹に鼓動は徐々に間隔を縮めている。 肩がふと重く感じる。 白銀の翼が産声を上げるかのように甲高い音を発し始めた。 心が鋭利な何かに刺されるような感触を受ける。 ………魔力が、来る。 地平線の向こうが一瞬輝いたかと思うと、光の槍が大きく広がっていった。 「………開いてっ!!」 両肩の白銀の翼が私の声に応えるかのように、展開し、周囲に見えない魔法障壁を形成する。 直後、視界が真っ白になり、眩い光の中に私は包まれた。 目を開けていられない。 私は声を上げる事もできずに歯を食いしばって時が過ぎるのを待った。 魔力と魔力がぶつかる音。 滝が川を打つ時の音に似ている。 時間の感覚は無くて、私はいつ流されるかもわからない時をひたすら耐えた。 一瞬音が止み、また新しい魔法の槍が来る。 ―――いつ終わりを告げるのだろうか。 城を出る前の彼の言葉を思い出した。 「巨兵は―――文明を滅ぼしているんだ。あいつらは、それを使って自分達の文明を作ろうとしている」 「そんなの、できるわけが無い」 「可笑しいだろ?でも、それを考える事ができないんだ。自分達はそうはならないと根拠の無い思想を当然だと思える」 「そうやって文明が滅びたのに?」 「俺たちがあいつらに負けたら、また繰り返すさ。そうやって人が同じことをやって来たって歴史は語ってる」 そうだ―――ここで倒れたら、私は終わってしまうのだから。 私は目を開いた。 視界は真っ白で何も見え無いけど、自分の未来を見ることくらいはできる。 私は自分の中に眠る力を、呼び覚ます。 魔力………私が生まれ持った唯一とも思える才能。 それを翼に伝える。 「白銀の翼………応えて!」 魔力の滝の中でもわかるくらい、翼は大きな悲鳴を上げた。 魔法障壁が大きさを拡大してるのがわかる。 激流に逆らう魚のように。 嵐に逆らう鳥のように。 眩い魔力の光の中で、私は私の存在を知る事ができる。 翼は叫び続けている。 体中が熱くなる、私の中を魔力が駆け巡っているんだ。 ・ ・ ・ ・ ・ 気がついた時、周囲は荒地になっていた。 けど、後方の城は…変わり無い。 私は守り切れたんだ。 ふと、気持ちが楽になった。 そうだよ、たとえ人が巨兵に滅ぼされるのが宿命だったとしても。 私は私の運命くらい、変える事はできるよね? それは遥か昔――― 歴史に記されなかった、一人の少女の物語。