【戦いの追憶<前編>】 written by 山崎瑞姫 <6> 私がベルディウス老とリリィの家に世話になって十数日、 私は『リナリア』として生活をしていた。 街から遠いこの家ではほとんどリリィが 一人で過ごすことが多く、 ベルディウス老は私がいることで安心しているようだ。 一方、私の記憶が戻る様子も無く またベルディウス老の方も情報をつかめないでいた・・・。 そしてある夜のこと・・・・ 「今日もおじいちゃんは街の方で泊まるって」 リリィがキッチンで鍋をかき混ぜながら言った。 「本当に留守が多い“おじいちゃん”だね」 と私が言うと 「でもリナお姉ちゃんがいれば寂しくないよ」 とリリィは笑顔を見せた。 この娘のためにずっとここにいなければならない そんな思いがわたしを満たしていく。 夕食後、私は早々と床に入った。 リリィは少しやることがあるから・・・と言っていたので 私は先に休ませてもらうことにした。。。 「・・・・・きゃっ・・・」 「???」 始め、それが何を意味するものか理解できなかったが、 「・・・・・ナお姉ちゃん!!リナお姉ちゃんっ!!!!!」 「リリィ!!!」 私はすぐさま声のした家の表へと出た。 私は一瞬その光景を信じれなかった 目の前には薄汚い装束の男が3人、 そしてその傍らには・・・ 全く動かずに地に伏している・・・リリィ!!! 「おやぁ?まだ人がいたのかぁ、ヘッヘッヘ・・・」 男の一人が赤黒く汚らしい舌を出しながら言った。 「これはまた高く売れそうな上玉じゃねぇか、  一緒にいただいていこうぜ」 別の男も嫌な面を下げて言った。 「なぁ嬢ちゃん、オレらにちょっとついてきてくれねぇかな?」 私は無言で男を睨み拒否を示した 「おやぁ?怖くて声も出ないかい?  まぁいい、嫌でも連れて行くだけさ」 3人の男の指が毒虫のように蠢きながら迫ってきた 汚らしい・・・ 「さぁ〜て大人しくしてくれよってギュハっ!!」 私の蹴りは一番近い男の腹部に直撃し 男の身は後ろに転がった 「大丈夫か。このアマ・・・なめやがって・・・」 2人の男は腰から短剣を抜く 「ちょっとだけ痛い目を見てもらおうか・・・」 さすがに素手で戦うのは無理か・・・ 「あぁっ!!」 私は家の中に戻ろうとしたが 後ろに振り向いた瞬間に男の一人が私の後ろ髪を捕まえた。 「捕まえた〜」 男は私の身体を寄せて耳元に臭い息をかける。 「やはり女はいい。柔らかな肌、滑らかな髪、甘い香り、  そして・・・」 男は髪を持たない方の手を私の腰のあたりに当て撫で回す そしてその手は段々上の方に流れ 私の胸のふくらみに達しようとした。 チヲササゲヨ・・・ 「?!」 一瞬だが時が流れるのをやめたような気がした。そして ベシャバキッ・・・ 生々しい音がして男の腕が落ちた なぜか私を捕まえているはずの男が目の前で 先端のなくなった肩を反対側の腕で押さえる そして私の両手は・・・・ あの“黒い剣”を握っていた 「いつの間にそんな物騒な物を・・・。  もういい死・・・・・・・」 別の男はセリフを言い終わる前に沈黙した。 いや“沈黙させられた”と言うべきか 空気が出てくる部分を失った笛は地べたを転がった 赤黒くまるいそれは大きく開いた3つの穴を天に向けていた 「・・・くそ・・・覚えてやがれ」 そういって背を向けた男は綺麗に中心で2つに割れた 隻腕の男は呻きながら文字通り地を這いずり回っていた。 「今楽にしてあげる・・・」 その男も仲間のもとへ『逝った』・・・ 何が起こったのか・・・ 考えることもできずに私の意識は沈んでいった・・・。 <7> どこまでも続きそうな青い空、 そして大きく広がる青い海。。。 私の乗る帆船は潮風を受けて 快調に進んでいく、 私の心のうちとはうらはらに。。。 「大丈夫ですか隊長?」 鎧の男が私の顔を覗きながら言う。 「あぁ大丈夫だ・・・うぅぅ・・・」 私は強がりを言うが男はわかっているように 顔を2,3度横に振る。 「オレちょっと下に行って  スッキリするようなもの取って来ますね」 男はそういうと甲板にポッカリと空いた 階段を下りていった。 正直、私は船が苦手だ。 今まで陸でしか生活していたことがない。 今回のようなことが無ければ絶対に船に乗らない・・・。 そう誓ったのは数時間前のこと。 私は別に船旅をしているわけではない 今私が乗っている帆船は一見ただの商船のようではあるが れっきとした軍艦、 そして私の目的は 海の向こうにある島への遠征。。。 また多くの血が流れるな・・・ 「隊長、とりあえず水でも飲んでください」 男はコップを片手に私の元へやってきた・・が・・・ 「うわっ、隊長よけてください!!!!!」 バチャ・・・ 男が躓いた拍子に宙を舞ったコップは 見事に私に命中した。 「冷たい・・・・」 ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 「おっと眼が覚めたかね?」 「ん?ここは・・・・」 私はベルディウス老の家にいた。 ということはさっきまでのは夢、 そして私の過去。。。 「大丈夫かね?ちょっと熱っぽいようだから  濡らしたタオルを額に当てたのじゃが。。。」 ベルディウス老は塗れたタオルを手にしていた。 私はいつの間に眠ったのだろう? 全く憶えていない。 確か昨日の夜はリリィと二人っきりで・・・ 昨日のことを思い出した瞬間には 私は部屋を飛び出していた。 <8> 「うわっ、ややややめてくれ・・・・・」 「・・・・・・」 ザシュッ・・・ 男の胸元に斜めの赤線が入った 私の両手は黒剣をとおしてその感触が伝わる・・・ コレデオワリカ ゲロウドモガ・・・ 部屋を飛び出した私に 突きつけられた現実は辛かった。 リリィはすでに。。。 ベルディウス老いわく 近頃、厄介な賊が出るという・・・。 私はそのまま家を飛び出した そのときにはなぜかあの黒剣が手の内にあった 「・・・・・」 賊のアジトが空き家となった私は ただただそこに立ち尽くしていた 強い鉄の臭いが鼻を刺す・・・。 「・・・・・・・・・リリィ・・・。」 ・・・・・マダチガタラヌ 「・・・・・・・・・・?」 私は賊のアジトを出た 空は黒い雲に覆われてかすかに雷鳴が聞こえる 嵐は近そうだ。。。 <9> 「ラゼリオ軍の兵糧庫を押さえました!!!」 陣幕の中で・・・ いや街の広場の中央で武装した市民に囲まれた私に 鎧を着なれないようすの青年が報告した。 「そうか・・・・。これで敵の士気は少しずつ下がるだろうな」 私は笑みを浮かべつつ街を囲む城壁の上 その先の遥かな空へと目を遣った。 賊のアジトを叩いた私は 危険な賊を放置していた国の責任について ベルディウスに訴えた。 勿論、そんなことに意味は無い。 ベルディウスは言った。 「個人ではなく全体を考えて動く、  それが国家というものなんじゃ」 私の中にふつふつと嫌な感情が起こる そしてそれはひとつの形となり ある決意へと変化を遂げた 「そんな国なら潰してやる」 ラゼリオの国の辺境で反乱が起こったのはその すぐのことであった・・・。 「さて・・・敵軍もかなり減ってきた。  私は一気に本陣を潰してこの街から追い出してやろうと思う。  ついてくるものは付いてきてくれ」 そういうや否や駆け出した私の背には身の丈に近い大きな黒剣が負われていた。 <10> 天上の月は青みを帯びていた。 私の後方には累々たる無残な兵士の屍、 太陽が南の空を過ぎた頃に始まった武装蜂起も 夜の帳が下りた今はもはや終わりが近い そして一人の老将が私の前で膝をつき 肩で息をしている。 「あなたは私の命の恩人、殺したくは無い」 私が言うと 「私もラゼリオの者、ここで引くわけにはいかない・・・」 老将・・・・ベルディウス老は言った。 「そうですか・・・ならば・・・」 私は大きく剣を掲げ・・・・そして振り落とした キーンと金属音が夜の街に響き渡った。 私の前には気絶した老将と折れた彼の剣・・・ 「彼は捕虜とする。陣に運べ」 私の命令に従い、2人の男がベルディウス老をかかえた。 「あともう少しで・・・・」 アトモウスコシデ? 「・・・・・?」 アトモウスコシデチガミチル・・・ 「・・・・どういうことだ?」 サァチヲ・・・サラナルチヲナガセ 「・・・・うぁぁぁぁ!!!!!」 私の身体は私の意志を無視して駆け出した そして目の前に現れる兵士のことごとくを切り伏せる 街が紅く染まっていく・・・ 剣の闇色が怪しく光る・・・・ 血を求めていく・・・。 「隊長っっっ!!!!!」 私に投げかけられたと思われる言葉に 身体が反応する。 声の方を向くと一人の男が立っていた 「無事だったんですね」 男が私に近づく、 この男は・・・・夢の・・・・ 「ようやく会えました・・・、  まさか反乱軍の首謀者になっているとは  思ってませんでしたが・・・」 「お前は・・・・誰だ?」 私の過去を知る男 私の過去への入り口・・・ ようやく見つけた・・・ チヲササゲヨ ・・・・? キーーン 金属音がまたしても街に響く 振り落とされた私の剣を男の剣が受け止めた 「どうしたんですか隊長?  一体何が・・・・そ、その剣は・・・・」 私の身体は続けて二合目、三合目と剣撃を繰り出す そのたびに金属音がこだます。 私の剣を見た男は急に腕を下ろし構えを解いた 「く・・・今の貴女では再会はお預けのようだ、  ここは一旦引きます」 「どういう意味だっ、逃がさないぞ!!」 私が懇親の力で振り下ろした一撃を横に払うと 男はそのまま身を翻し闇の街へと消えた 「わ、私は・・・・」 チヲササゲレバヨイノダ・・・ 私はラゼリオ軍の本陣へと駆け出した これは全てを失った女が 全てを破壊しようと・・・ そして全てを手にしようとする物語・・・・。 <未完>