その日も、いつも通りに俺は巡回を終えた後に同僚達と警備詰め 所で、雑談にふけっていた。 戦争の最前線ではない此の街では戦時のあの殺伐とした空気はなく、周り も賭け事や力比べの腕相撲や飲酒をし幾分リラックスしている。 大陸全土でほぼ同時に起きた戦争も終息に向かう今ではそれは仕方がない、まして 最前線の都市ではない補給用の都市では尚更だ。 俺たちの雑談の話題も自然、戦争後の事になっていく。 「あれ、副隊長はこの後はどうするんです〜?」 「えぇっと、まあ、戦争が終わってからギルドにでも入ってゆっくり考えますよ。」 今まで、詰め所の惨状を苦笑しながら観ていた俺の上司はのんびりと答えて、笑った。 「またまた〜。そう云って実は盗賊にでもなるんじゃないですか〜?」 こんな軽い口調で微妙な敬語を使い分ける少女は数少ない此の街の守備武将の一人だったりする。 彼女の話によると、自分はただのマスコットで、王族の系譜が戦場に出れば士気が上がるだろう との思惑で駆り出されたらしい。 まったく、こんな少女まで犠牲にして戦争をする国なんていっそ、滅んでしまえば良いのに。 つくづくそう思う。 その時、体を走る激痛に意識を変えさせられた。 手の中、正に文字通りにはめ込まれた魔石が赤く光っている。 あー連絡兵は辛いよな、一回一回この痛みに耐えないといけないんだから。ふと、周りを見渡すと 何人かが手を押さえ蹲っている。はは、新兵か同情するよ。ってか馴れろ。 「だ、大丈夫?」 少女師団長が恐る恐るといった感じに聞いてくる。 しかし、俺はその台詞を今しがた入った情報にこそ云いたかった。 「ご心配ありがとうございます、師団長閣下。報告ですが、警備所南郡第参支部、つまり最も最前線都市の砦に 近い場所から未確認部隊の接敵を確認。対象は砦を陥落させて進軍中。全員、現最高装備で迎撃準備、第一種警戒体 制をとれだそうです。」 「機械鎧兵でだと!!…何かの間違いではないのか?」 瞬間、空気が凍り、うめき声が聞こえる。副隊長の言葉は此処にいる全員の代弁だろう。当たり前だ、この街にある最高 装備、機械鎧兵は魔道巨兵が現れるまで最強の兵。ましては現最強兵種と旧最強兵種が集まった、物資も豊富なあの都市 が墜ちたなんて悪夢としか考えられない。 複雑な思いで機械鎧兵を起動し全員が搭乗する。直ちに、配置場所に急行、一班が機械鎧兵と共に南門に至る山道 に廃材などを利用しバリケードを築く、準備が出来ていないため魔防障壁はない。俺を含む二班は少し一斑から後退した 高台にこれまたバリケードを配置し警戒に当たった。 静かだった時間は3時間ほどで終わった、妙な地鳴りが響く。坂の下の部隊が戦闘を始めたらしい。 しかし、その音はどう考えても機械鎧兵に装備された腕部小型魔導砲の音ではない。不安が少しずつ心を埋め尽くす。 さらに1時間、30分前に地鳴りはやんで、何かが咆哮する声が聞こえる。下に対する掃討攻撃が一段落がついたのか? あの咆哮は何だ?下の連中は全滅したのか?砦は裏切りでも出たのか?それよりも巨兵や鎧兵を倒して尚、進軍するなんて バケモノか? 思考の海に沈みそうになった瞬間、白激が視界の世界を覆う。 「――――っつ!!!」 間一髪、「それ」を避ける。沈む前で良かった。それでも奇跡だろう。完全に沈んでいたら何が起こったか解らないまま死ん でたっぽい。避けた場所には信じたくない大きさのクレーターができている。嘘だろ、冗談って云ってくれよ。 ちらっと周りを見渡すと阿鼻叫喚、地獄絵図。対魔力装甲がついているはずなのに貫通して爆発を起こしている鎧兵たち。 少し前までは最前線に配属された俺はともかくとして、他の連中は素人に毛が生えたようなものだ。あの魔弾を無傷で避け られるとは到底思えないし、現実もそれを肯定している。 「くそっ!!」 悪態をつき俺はたたき込まれた反射動作によって伏せながら砲台を構える。そして爆風が通り過ぎると、「アレ」を撃ってきた連中の 方向、空を見ないで魔力を放った。 俺にとって聞き慣れた連続発射音が鳴り響く。 「うぐぅ!」 「ぎゃぁ〜っ!!」 「た、助けて…」 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」 悲鳴が上がる―、けど、それは味方だけだ。確実にてきを葬ったという手ごたえは無い。敵の魔弾をかえ潜り、避け、反撃をする。 だが、それも限界。味方は一人ひとりと確実にその敵の爪や牙、尾で駆逐されてゆく。コクピットから出た連中は降伏の言葉も聞か ないカラッポの鎧に倒される。 そうして、いつの間にか脚をやられ、無様に倒れた俺は改めて、いや初めて俺達に「アレ」を撃った奴を見た。 それは闇夜だというのに漆黒だということが判る混沌。翼を広げ夜空を埋め尽くすほどの竜群。 その内の一匹がこちらに気付き、口を醜悪にあける。 俺が最期に眼にした物は、生物のくせにまるで無生物の様にのた打ち回る赤い舌と俺をポイントする紅い目、 そしてその僅か下部から開く白蓮の花………