――夢を魅ていた。 始めは憧れだった。 誰もが笑って、傷つかなくて、幸せで、争わない。そんな世界の夢。 そんなこと叶わないと知りながら、 だけど。その理想を魅るのだけはやめる事ができなかった。 いつしか憧憬は、生きる目的になった。 だから、武器を持った。 故に此の手で目的を叶える為に。 全ては此の手で目的を果たす為に。 只、其の手で目的に殉じる為に。 例え、周りに役不足であると思われても。 私に悲劇の役者なんて似合わないから。 私は、私が向けない筈の未来に顔を向けて演じる 繰り返しの回旋曲。 手には一振りのナイフ。 私が生まれて育ったスラム街で拾った私の無二の相棒にして唯一の戦友。 果てのない輪舞曲。 題目は「■■■」。刻限は今宵。劇場は何処か。 そうして私は殺して殺して殺しつくした。 戦場を駆る馬鹿を、圧政に酔う暴君を、自らの弱さを隠すために力を振るう者を 一人殺して、吐しゃし。二人殺して、血に馴れ。 三人殺して、人の解し方を覚えた。 四人、五人、六人、七人、どんどん殺して遂には千人。 理由なんて幾らでもあった。 正義のため、平和のため、皆のため、誰かの笑顔のため。そして、理想の為に。 一人殺せば殺人犯。千人殺せば英雄。 そんな現実離れの言葉通りにはいかなくて、 私は一人目から殺人鬼で、千人目に至っても相変わらず殺人鬼のままだった 血塗れた道を歩いていた。昔からの徒党を組んだ仲間は無く、一人。 道の終わりに私は想い、気付き、そして後悔した 「なんだ、私が殺したかったのは私じゃないか」 戦場を駆けた馬鹿は勇者だった、圧政に酔った暴君は祖国を救った名君だった、自らの弱さを隠して害をなす者にも家族がいた。 その幸せを、平和への私の幼少の頃からの願いを壊したのは他でもないこの私。 無様だった、誰もが笑って(笑顔を悲しみに変えたのに?)傷つかなくて(誰が殺したと思ってる?)幸せで(お前だけだって)争いのない(涙と血の上の平和?)世界。 そのありえない幻想を追った私は、見事に現実を負っていた私に殺されていた。 私は、 罪の意識に苛まれて― 消えない業に苦しみ― 憎悪を心に宛われて― 悪意に心を穿たれて― 私は後悔してしまった。 題目は「暗殺者」 刻限は今宵。劇場は何処か。役者は独り。序幕は幻想、終幕は現想。墓標には一振りの短刀。