「愛してるわ、神田」
「あぁ。俺も愛してる」
この会話を交わしたのは、もうどの位前なのだろう………
希う
私の名前は。黒の教団の科学班に所属している。
専門は物理学と材料工学。主に武器開発のための実験をしているの。
そしてもう一つ大事な事。
私は神田と付き合ってるわ。
教団に入って1ヶ月経った頃。任務から帰ってきた神田と出会ったのよ。
私はそこで一目惚れ。
何とか彼に近付こうと思って頑張った。
最初の頃は素っ気無かった彼も、段々と話してくれるようになって…
今では神田の方から話しかけてくれるようになったの。
最初は、神田と話せるだけで嬉しかった。
辛い仕事も、神田の為だと思えば頑張れた。
私の仕事が成功すれば、神田の負担が減るから…
でも、恋をすると欲張りになるのよね。
話してるだけじゃ足りなくなって。
神田がリナリーと話してるだけで嫉妬して…
もちろんリナリーは大好きよ。
仕事で忙しい中、私の事も気を遣ってくれるの。
本当にいい子。
それでも、神田がリナリーと話している事にすら嫉妬する自分が嫌で………
そんな想いと決別するために、神田に告白した。
結果はOK!
神田も私の事を好きだって言ってくれたの!
凄く、凄く嬉しかった。
まさか想いが通じるなんて思ってなかったから。
それからは、幸せな日々だったの。
お互い忙しいけど、時間があるときは必ず一緒にいた。
神田が本部にいるときは、少しでも一緒にいられるように時間を調節したし、
神田が任務のときは、終われば連絡をしてくれたの。
沢山キスをして、何度も体を重ねて。
愛してた。愛されてると思ってた。
でも………………
何時からだったかな?神田の連絡が少なくなったのは。
任務終了後には必ず連絡してくれたのに、それが2回に1回になって…3回に1回になって…
それだけじゃないの。
神田が教団へ帰ってくる回数も減ったわ。
そして………
神田からの連絡がなくなって…会えなくなって数ヶ月が経過した。
任務が長引いてるからじゃないの。任務終了の連絡は入るわ。
ただ………私への連絡が無いだけ。
神田の任務状況は、本人から連絡が無くても判るのよ。
本部で働いてるから。
神田が怪我なく任務をこなしてるのも判ってる。
そう………私への連絡がないだけ。
「愛してる」と言う言葉、もう何ヶ月も言ってないし、聞いてない。
どうしたの?私のことが嫌いになったの?
もしかして、私より可愛い娘がいた?その娘の方が好きになっちゃった?
聞きたいけど、怖くて聞けない。
今は神田の声だけでもいい。貴方の声が聞きたいの。
本当は今すぐにでも貴方に連絡したい。
でも駄目ね。本部から連絡は緊急時以外に出来ない。
だって…もしアクマと戦ってる最中に連絡したら?
身を隠してるときに、無線の呼び出し音が鳴ったら大変でしょ?
待ってるだけが、こんなにもどかしいなんて。
早く神田に逢いたい。逢って安心させて。
「なに馬鹿な事を考えてんだ」って言って?
貴方の鼓動を聞かせて。そうすれば不安は解消されるから。
また笑顔で頑張れるから。
信じてる気持ちと疑う気持ちが、心をかけ巡る。
神田を信じたいのに、疑ってしまう自分が嫌。
―こんな想いはどうすればいい?―
「くん。神田くんから連絡は来ないのかい?」
「コムイ室長………えぇ。来ないですね。やっぱり嫌われたんでしょうか?」
「そんな事無いよ。神田くんは嫌いな人には嫌いって言うからね」
「そう…ですよね。でも………」
じゃあ、何で連絡が来ないの?
言いそうになった言葉を飲み込んだ。
だってコムイ室長に言っても解決するわけじゃないもの。
コムイ室長も忙しいのに迷惑が掛かってしまうわ。
………もう嫌。
答えの出ない事を考えても仕方ないわね。
今は自分の仕事をしよう。
研究に集中している間は、神田の事も考えなくてすむから………
† † † † †
コムイ室長と話してから、更に幾週間がすぎた。
相変わらず神田から連絡が来ないわ。
私宛の………ね。
教団へは連絡が入ってるの。
5日くらい前かな?
『任務を終えた』という連絡が入った。
私への連絡は一切無い。
やっぱり、嫌いになっちゃったのかな?
ねぇ神田。私の事どう思ってる?迷惑ならはっきり言って。
中途半端に優しくしないで。
他に好きな娘がいるなら、私は潔く別れるから。
だから…だから声を聞かせて。
「……ッ………」
考えすぎて、涙が出そうになった。
駄目。ここは職場よ。私個人の感情を出したら駄目な場所。
泣かないように唇を噛み締める。
そんな私を見かねたのか、コムイ室長が私の所へ歩いてきた。
「くん………」
「コムイ室長………何かご用ですか?」
「今は良いから、休んでおいで」
「でも…」
「泣きそうな顔で何を言ってるんだい。それにここの所働き詰めだよ。
今のくんには休憩が必要なんだ」
………そうね。コムイ室長の言う通りかも。
ここの所、仕事の熱中していてあまり休息を取っていない。
仕事をしている時だけが、神田の事を考えなくてもすむから。
苦しい想いから逃げられるから…
逃げ場所を失いたくないけれど、体が限界なのも確かで。
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませて貰います」
コムイ室長に一言断りをいれて、部屋を後にした。
でも、このまま部屋に戻ってもきっと眠れない。
ただひたすら、神田の事を考えてしまう。
………そうだ。ジェリーさんの所へ行こう。
お酒を作ってもらって、それを飲めば眠れるかもしれない。
本当は、体に良くないって事も判ってる。
こうでもしないと、眠れそうにないもの。
そう考え、食堂へ向かおうとしたとき、呼び止められた。
「さん」
「?貴方は………通信班の」
「はい。ディアルと言います。お引止めしてすみません。お話したい事があったんです」
「私に…ですか?」
話って何だろう?
ディアルさんとは、殆ど面識はない。
訝しげにしていると、ディアルさんは真っ直ぐな瞳で私を見つめた。
「僕はさんが好きです」
「え…?私を?」
「はい。ずっと…貴女をお見かけした時から好きでした。いえ、愛してます」
吃驚した。まさか告白されるとは思ってなかったわ。
ディアルさんの気持ちは嬉しいけれど、私には………
「ごめんなさい、ディアルさん。私は…」
「神田さんとお付き合いされてる事は知ってます。そして、神田さんから連絡がない事も」
「………ッ!!」
彼の言葉が刃となって胸に突き刺さる。
そんな事、聞きたくない。聞かせないで欲しい。
でもディアルさんは私の気持ちを他所に、話し続けたの。
「さんを初めて見た時から好きでした。
神田さんと付き合うと知った時はショックでしたが、さんが幸せなら、それで良いと思いました。
でも…今の貴女はとても辛そうで………見ていられません。
僕だったら貴女にそんな想いはさせない」
ディアルさんの言葉が甘く私を誘う。
本当に?神田と別れてディアルさんと付き合ったら、こんな想いをしなくてもいいの?
『どうして?』なんて不安にならず、幸せに過ごせるの?
でも…………………
私が好きなのは神田だから。この気持ちに嘘はつけないから。
そう思って、お断りをしようとしたとき。
「勝手に俺の女を口説いてんじゃねぇよ」
廊下の奥から見知った…ううん、凄く逢いたかった人が歩いてきたの。
…どうして?何で神田が本部にいるの?
それに、『俺の女』って…?
神田はもう、私を必要としてないんじゃないの?
呆然としている私の手を取り、神田は歩き始める。
目の前に神田がいる事実とあまりの展開に、私は神田に手を引かれるまま歩いていった。
† † † † †
連れてこられたのは神田の部屋。
どうして良いか判らず、立ったままの私に神田は「座れよ」と言った。
あれ…?神田の機嫌が悪そう…
「。何でさっきの奴、すぐに断らなかったんだ?」
「さっきのって…ディアルさんのこと?」
「それ以外、誰がいるってんだよ」
名前を出した瞬間、神田の眉間のしわが深くなった。
神田は何を怒ってるの?
「何って…自分の恋人が他の男から告白されてたら、機嫌が悪くなるだろ」
自分の恋人?神田は私を恋人だと思ってくれてるの?
私、神田の恋人でいてもいいの?
「神田を愛しててもいいの………?」
「は?何言ってんだよ。が別れたいと思っても俺は別れねぇぜ」
「違うよ!だって…このところ任務の報告の電話もないし、教団本部へ帰っても来なかったもの。
もしかしたら嫌われたんじゃないかと思…ッ」
ヤバ。涙が出てきた。
久し振りに神田に逢ったのと、神田の言葉に安心したのかな。
とめどなく涙が溢れる。
泣き顔を神田に見せたくなくて俯いた時、ふわっと抱き締められた。
「嫌いになるはずねぇだろ。本当は俺だって逢いたかったし、何度電話をしようと思ったか…
だがは俺が電話したり本部に帰れば、自分の休む時間を潰してまで俺と一緒にいようとするだろ?」
もちろんよ!だって神田と一緒に入れる時間なんて少ないんだもの。
だからといって、仕事の時間を減らす訳にもいかないわ。
だったら休む時間を減らすしかないじゃない。
「それが嫌だったんだよ。科学班だって楽じゃねぇ。
ましてやの研究は、武器開発の大元になる材料工学だろ?
忙しいに決まってる。前は無理してただろ?」
「そ…それは………」
「に無理をさせたくなかったんだよ」
神田は私に無理をさせたくなくて、私宛の連絡をしなかった。
教団に帰れば、神田の為に休む時間を削るのを判ってた。
全部私の事を想ってと言うのは理解したわ。
それでも…っ!
「私は…っ!私はそんな事よりも神田に逢えないほうが嫌よ!
ずっと寂しかった。逢えないし電話もなくて不安だったの…」
「あぁ…俺が悪かった。俺もと話せなくて寂しかった」
神田の背中に腕を回すと、神田も更に力を入れて抱きしめてくれた。
本当は神田に逢えたら、もっと言いたい事があったの。
でも、こうして抱き締めてくれてるだけで充分。
神田は抱き締めてくれてた腕を、そっと頬に添えた。
それはキスの合図。
ゆっくりと瞳を閉じ、そして重なる唇。
「愛してるわ、神田」
「あぁ。俺も愛してる」
後書き
め…珍しくシリアスだわ。
自分でも驚きです。
何に驚きかって………神田が黒くない!!(笑)
リクエスト内容は『シリアス→甘』だったのですが、如何でしょう?
シリアス過ぎ?
ど…どうでしょうか?海亜様………
こんなんで宜しければ、お納め下さいませ。
海亜様のみ転載可でございます。
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