任務の帰り道、突然の雨に降られてしまいました。




雨宿り




 雨具を持っていなかった私達は、急いで軒下に駆け込む。

 うわー…ちょっと濡れちゃった。

 この団服が撥水加工されてるのが、不幸中の幸いね。

 あ、でも髪が湿っぽいかも。



「いきなり雨が降ってきて吃驚しだねー」

「そうだな。だが通り雨だろ」

「うん。雲の流れを見る限り、それっぽい」

「ここで雨宿りしてくか?それとも、教団に戻るか?」



 教団まではあと少し。

 団服が水を弾いてくれるから、そんなには濡れないと思う。

 それに教団に帰れば、お風呂も着替えもある。

 冷えた体を温めるには充分だけど。



「雨宿りしていこう」



 少しでも長く二人でいたいから。

 教団に帰ったら、二人でいられる時間は少ないの。

 何時、次の任務が入るか判らないし。

 今回は一緒の任務だったけど、次もそうとは限らない。

 だから、どんな些細な事でもいいの。

 二人でいられるのが嬉しい。

 髪についた水滴を払いながら、空を見た。

 灰色の雲から、しとしと雨が降り続く。

 ホントの事を言うと、雨は好きじゃない。

 雨の日に良い思い出が無いから。

 任務中に雨が降ると、視界が悪くなるし。

 出歩くのにも傘が邪魔になる。

 だけどね、今は雨にちょっと感謝してる。

 こうして神田と並んでいられるもの。

 

「雨、止まないねー」

「さっき降りだしたばかりだろ。まだ止まねぇよ」

「そっか」



 しとしと しとしと

 雨の降る音に耳を傾けながら、ちらっと神田を見あげた。

 少し雨に濡れた漆黒の黒髪。

 すっと通った鼻筋。

 普段は冷たいけど、私を見る時は優しさを浮かべてくれる双眸。

 何時もは団服で隠れてる、バランスよく筋肉のある体。

 力強く抱きしめてくれる両腕。

 優しく髪を撫でてくれる両手。

 ねぇ知ってる?

 あなたに見つめられると…触れられるとドキドキするんだよ。

 でも凄く嬉しくて、温かい気持ちになれるの。

 …………いいかな?大丈夫かな?

 私達以外、誰もいないよね?

 辺りに人の気配がないかを確認する。

 だって誰かいたら恥ずかしいじゃない。

良し!誰もいない。

「えい」っと私は神田の胸へ飛び込み、背中に腕を回した。



…?」



 訝しげに神田が尋ねてきた。

 それには返事をせず、神田の胸に耳を傾ける。



 トクン トクン



 規則正しいリズムの音が聞こえた。

 生きてる証拠。

 神田が傍にいてくれる証。

 

「濡れるぞ」

「んー?大丈夫」



 離れる気配のない事を知ると、神田は軽く溜息をついた。

そして優しく抱きしめ、髪を撫でてくれる。

気持ちいい。

瞳を閉じながら、神田に甘える。

厳しいけれど優しいあなた。

私にとって、何が最良かを考えてくれる。

ときどき喧嘩もするけれど、愛してるわ。

瞳を開けて神田を見上げると、目が合った。

神田は髪を撫でていた手を私の頬に添えた。

そっと上を向かせる。

神田の顔が近付いてきた。

私も少し背伸びをする。

触れ合う唇。

神田とのキスは好き。

心が温かくなる。

幸せな気持ちになれるもの。











長い 長いキスの後。

私は神田から体を離し、隣に立った。

でも手は繋いだまま。

指と指を絡めて繋ぐ、所謂『恋人つなぎ』

神田も私も何も喋らなかった。

優しい沈黙が私達を包む。

繋いだ手の温もりを感じながら、再び空を眺めた。



















































† † † † †



降っていた雨も止み、私達は教団を目指す。

もちろん手は繋いだまま。

やっぱり晴れてる方が好きだな。

でも雨が止んだのが残念なのも確かで。

少しでも二人きりでいたいから、わざとゆっくり歩く。

神田は私に歩調を合わせてくれた。

やっぱり優しいね。

嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。



「何笑ってんだ?」

「ふふ。なーいしょvあ!見て見て。虹だよ」



 遠くの空に出来た虹を指差す。

 赤から紫まで見えるなんて珍しいわ。

 紫は波長が短くて見えにくいんだもの。

 それだけの事なのに、嬉しくなってしまう私は単純かな?



「ねぇ、虹の端には宝物があるんだって」

「迷信だろ。虹の原理を考えたら、ありえねぇ」

「まあ、そうなんだけど。仮にあったとして、神田の宝物って何?」

「宝物ねぇ…そういうは何なんだ?」

「私?私はね………」



 『神田と二人で過ごす時間だよ』



 そう言ったら、あなたはどんな顔をするかしら?











後書き
しゅーりょー。
何だよ…何なんだよ…この話は…
激甘じゃないですか。
しかも、人様の家の軒下で何やってんだヨ(汗)
砂糖どころか、ハチミツまで吐きそうな勢いですね…
今までの話の中で、一番甘い話かもしれません。
明々様、こんなんで宜しければ、お納め下さい!!

明々様のみ転載可でございます。

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