始りは、錬金術の研究。
私は考えていた理論をどうしても思い出せなかったの。
だからコムイさんに、向こうの世界の実家に帰って良いか聞いてみた。
コムイさんの返事は、条件を付きでOK。
その条件とは………『神田も一緒に向こうの世界に行く』事だった。
想いの欠片
「それじゃ、行ってきますね」
「気をつけて行っておいで〜。あ、そうだ神田くん」
出発直前コムイさんが神田を呼び、少し離れた場所へ連れていく。
満面の笑みを浮かべて。
何か企んでる顔だなぁ。
向こうの世界に行ってる間に、変な物を作らなきゃ良いけど……
帰ってきたら部屋がなかった…だったら嫌だわ(汗)
半ば本気で心配していると、神田が戻ってきた。
眉間に皺を寄せている。
「コムイさん、何だったの?」
「何でもねぇ。いつものくだらない事だ。それより早く行くぞ」
コムイさん、何を言ったのかしら?
気になりつつも、神田に答える気配はなさそうね。
まぁいいわ。兎に角家に帰りましょう。
両の手の平を合わせ、錬金術を発動させた。
蒼紫の光に包まれ、私達の体はこの世界から離れる。
軽い浮遊感の後、私達はカーティス家の玄関の前にいた。
さて…どうやって入ろうかしら?
ノックするべきか…それとも今までみたいに『ただいま』と言いながら入るか…
この家を出たから、ノックした方が良いのかな?
でも…ずっと生活してきた家だし、先生達は家族だし…
あれこれ悩んでいると、神田が訝しげに聞いてきた。
「どうした?入らねぇのか」
「あ、うん。入るけど…」
疑問に思っている事を神田に聞いてみる。
神田の答えは「何時も通りで良いんじゃねぇの」だった。
そっか。何時も通りで良いのか。
そう決め、ドアノブに手をかけてそっとドアを開いた。
「ただいま〜〜〜」
玄関を開け、真っ先に目が合ったのは先生。
私が帰ってきた事にとても驚いている。
それでも、すぐに立ち上がり私を抱きしめてくれた。
「ただいま…です。イズミ先生」
「、よく帰ってきてくれた。カンダも来たのか。また何かあったのか?」
「ううん。今回は調べ物があって帰ってきたの」
「調べ物?まぁ中へ入れ。カンダも遠慮するな」
「そうね。行こう、神田」
「お邪魔します」
家の中に入り、荷物を降ろす。
教団に帰ってからそんなに時間は経っていないけど、何だか懐かしいわ。
でもあんまり懐かしんでもいられないわね。
時間の許す限り、沢山の事を調べたい。
今度はいつ来れるか判らないから。
「先生、ずっと前に読んでた錬金術書って……」
「何処にあったっけ?」と聞こうとした時。
奥の部屋からバタバタを二人分の足音が聞こえた。
この足音はシグさんやメイスンさんじゃない。
もしかして……
「先生…ってじゃねぇか!?」
「ホントだ。どうしたの?」
「エド!アル!二人も来てたんだ」
「あぁ。ちょっと先生に用事があってな。は?」
「私は調べ物をしに帰ってきたのよ」
「長くいるの?」
「ううん。明日には帰るつもり」
「何だよ…明日帰るのか。で、何でアイツが居るんだ?」
エドが嫌そうに指差したのは神田。
何でそんなに嫌そうなのかしら?
「テメェに関係あるかよ」
「絶対お前から取り返してやる」
「はっ!精々無駄な足掻きでもするんだな」
神田は神田でエドを睨んでいるし。
そういえば…この二人、前もこんな雰囲気だったわね。
神田は恋人だし、エドは弟弟子。
私にとっては二人とも大切な人。
仲良くして欲しいと思うのは、私の我侭…かなぁ。
「エド!喧嘩を売ってんじゃないよ。、いい機会だ。エドやアルにも聞くと良いだろう」
「そうね。エド達にも聞いていいかな?」
「当たり前だろ」
「もちろんだよ。は何を調べに来たの?」
「えっとね、ある理論なんだけど…」
持ってきた鞄の中から、錬金術のファイルを取り出す。
それを窓際の机に広げながら、私達3人は理論を話し合っていた。
† † † † †
「うちの馬鹿弟子が済まなかった」
の師匠、イズミがイスを勧めながら謝った。
アイツ…エドが怒る理由は知っている。
エドもを好きだったんだろう。
と話しているエドは凄く楽しそうだ。
だが、俺はを手放す気なんかねぇよ。諦めるんだな。
そう考えていると、イズミに呼ばれた。
「カンダ。お前達の着ている服は制服か?」
「はい。エクソシストの制服です」
「そうか…もエクソシストと言ったな。あの子は向こうでも元気にやっているか?」
「元気です。あいつは…はいつも笑顔を絶やしてません。皆から好かれてます」
そう答えると、イズミは何処か安心したように頷いた。
カーティス夫妻にとっては可愛い娘だ。
その娘の職場での人間関係は気になるのだろう。
「なら仕事はどうだ。足を引張っていないか?」
「の錬金術は重宝されています。アクマと戦える事だけじゃなく、治癒までできますから」
「悪魔…いやアクマか。アクマとは一体何だ?
以前にが説明してくれたが、それだけではないはずだ。全部話してくれ」
イズミが真剣な眼差しで問う。
全てを俺が話して良いのか?
は思う所があって、全部話さなかったのだろう。
チラッとを見やると、俺につられてイズミも見る。
大切な娘を愛惜しそうに見つめる『母親』の顔だった。
「昔、からエド達と旅に出たいと言われた時は反対しなかった。
危険もあるが、世界を知るには丁度良いと思ったからだ。
だがそれは終りのある旅だと思っていた。は必ず帰ってくるものだと思っていたんだ」
イズミは一旦言葉を区切り、俺を見る。
「は旅の途中、異世界へ行った。そして最終的にお前のいる世界を選んだ。
私にはお前の世界は判らない。見る事も体験する事も出来ない。
ならばせめて、大切な娘が暮らしていく世界を全て知っておきたい。そう思うのが『母親』だろう?」
「………判りました。俺の答えれる範囲なら構いません」
俺はエクソシストの事、アクマの事、そして教団での暮らし等をイズミに話した。
イズミはそれを難しそうな顔をして黙って聞いている。
そして時折、自分の知らない言葉について質問を投げかけた。
全てを話し終えた後、イズミは口元に手を当てて考え込んでいた。
「が任務中に死ぬ可能性もあるんだな」
「状況的にはその可能性もあります。だが俺はを死なせない。必ず守る」
イズミは「そうか」と呟くと、を見た。
今度は、何処となく淋しそうな表情を浮かべている。
の事を思っているのだろう。
自分の知らない所で、娘が成長していくのが淋しいのだろうか。
「カンダ、お前はを愛しているのか?」
「はい」
「もお前を愛してるんだな」
「………はい」
返事を聞くと、イズミは俺を見て苦笑を浮かべた。
「本当ならをこの世界に引き止めたい。だが私はあの子の意思の強さと覚悟を知っている。
だからもう一度聞きたい。お前にを任せても良いか?」
「の全てを守る。俺はあいつの笑顔を見ていたい」
「お前も無茶はするな。お前が死んだらは悲しむぞ」
「判っています。俺は死にません。俺の事はが守ってくれるそうなので」
「がそう言ったのか?」
肯定すると、イズミは目を見開いて驚いた。
だが、次の瞬間には声を殺して笑っている。
何がそんなに面白かったんだろうか?
「まさかがそんな事を言うとは。カンダ、お前は愛されてるな」
「当然です」
「どこからそんな自信が来るのか(苦笑)まぁいい。兎に角を頼んだぞ」
「………認めてくれるんですか?」
「認めるも何も、の選んだ人だからな。認めない訳にはいかないだろう」
「有難うございます」
イズミが俺達の交際を認めてくれた。
つまりとの付き合いは親公認という訳…か。
ならコムイの言っていた『恋人の親への挨拶』は成功だな。
「今日はお前に会えて良かったよ。これからもを頼むな」
イズミの言葉に頷いた時、丁度がこっちへ来た。
エド達はまだ窓際の机にいる。
研究は良いのか?
「研究は一段落したよ。あ!先生、あの錬金術の本を持っていっても良い?」
「構わないよ。他にも欲しい本があったら持っていくと良い」
「ありがとう!ねぇ神田。先生と何を話してたの?」
「の事を色々とな」
「へ?私の事…?何を話したの…?物凄く嫌な予感がするんだけど…(汗)」
「向こうの世界のお前の話を色々と聞かせて貰ったよ」
「せ…先生!!何を聞いたの!?」
「「色々と…な」」
何を想像しているのかは判らねぇが、は慌てている。
頬を染めながら文句を言うも可愛いな。
そんな様子を見ると、もっとからかいたくなるぜ(笑)
「あぁそうだ。あんな事もあったな」
「………何?」
「クリスマ「ダメーーーーーー!」
大声をあげながら、は俺の口を手で塞ぐ。
「邪魔をするな。何だ?カンダ」
「先生も聞かないで。二人とも酷いよ〜。私をからかって遊んでるでしょー」
あまりにも必死に止めようとした為だろう。
うっすらと涙が浮かんでいる。
もう少しからかいたいが、これ以上やると本気での機嫌を損ねる。
機嫌が悪いほど厄介なモノはない。
「判った。もう言わねぇよ」
「ホント?ついでに先生に何言ったか教えて」
「そんなに知りてーのか?」
「うん。凄く気になる…」
「だったら…」
一旦言葉を区切り、を引き寄せる。
バランスを崩して倒れたを支えながら、その耳元で囁いた。
「今夜ベッドの中で教えてやるよ」
「な…///神田のバカ!」
は俺の腕の中から抜け出すと、イズミの方を向いた。
「ねぇ先生。今日は泊まっても良いかな?」
がイズミに問う。
そういえば…の空間転移の錬金術は制限があるんだった。
一度発動すると、24時間は発動出来ない。
空間が越えれない以上、今日はこの世界で過ごすしかない。
もそれをイズミに説明し、部屋を用意してくれた。
そしてこの世界に来て24時間後。
俺達は教団に帰る準備をし、イズミ達に挨拶へ向かった。
その場にはイズミだけじゃなく、エルリック兄弟もいる。
が帰ると聞いて不服そうだ。
「もう行くのか?」
「もっとゆっくりしてけば良いのに」
「そうしたいのは山々だけど、いつ任務が入るか判らないから。
ねぇ先生、時間があったらまた来ても良い?」
「当たり前だろう。ここはお前の家でもあるんだ」
「またこっちに来た時は連絡してね。何処にいても会いに行くから」
「約束だぞ。それと、今度は一人で来てくれ」
「あぁ?を一人で行かせるかよ。邪魔な虫がつく」
「だーれーが光学顕微鏡がないと見れない程のどチビだって〜!?」
「そこまで言ってねぇよ」
「やめないか馬鹿者。カンダ、昨日はああ言ったが私はお前自身も評価している。任せたぞ」
「はい」
「それじゃ、そろそろ行こう」
は両手を合わせ、錬金術を発動させる。
蒼紫の光の後、俺達は教団内にあるの部屋にいた。
向こうも悪くはないが、やはりこっちの方が落ち着くな。
「ねぇ神田。付き合ってくれて有難う。退屈だったでしょ?」
「そんな事ねぇよ。イズミと話が出来て良かったと思ってる」
「あ!それ。先生と何を話してたの?やっぱり気になるよ」
が首をかしげて聞いてくる。
う…その上目遣いは反則だろ。それとも…よほど俺に襲ってほしいのか?
………襲ってほしいに決定(黒笑)
「イズミは俺達の仲を認めてくれたぜ」
「へ?それって……どういう意味なの?」
キョトンとしているを抱きかかえた。
ベッドにゆっくり降ろし、俺の片足をの足の間に入れた。
片手はの顔の横に置き、もう片方の手で顎を掴み唇を重ねる。
重ねるだけのキスの後、俺は唇をの耳元へ持っていった。
「つまり、の親公認って事だな」
吐息がくすぐったかったのか、の体がピクっと動く。
ったく。そんな可愛い反応されたら止められなくなるだろ。
「神田///待って!コムイさんに報告が///」
「そうだな。先に報告を済ませた方がゆっくり楽しめるな」
「そうじゃなくて」と叫ぶの首筋に赤い花を散らせて俺はベッドから降りる。
そしてを起こし、報告する為にコムイの元へ向かった。
今回の訪問でとの仲を認めて貰った。
なら次の訪問は、との結婚の報告か?
後書き
神田さんが偽者だ(汗)
敬語を使ってる神田さんに、ものっそ違和感。
でもさんの母親だし、先生はそういうの煩いだろうし…
なので敬語にしてみました。
と言うか…何が書きたかったんだ?
リクエストは「神田とさんが師匠に挨拶に行く」だったのですが…
物凄い微妙だ(汗)
こんなんで申し訳ないです(土下座)
華音様のみ転載可でございます。
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