俺は欲しいモノは絶対に手に入れる。
だから覚悟してろよ?
アンタも絶対に手に入れてやる。
―追いかける者―
あの日…俺は自分の領地の視察に出かけた。
と言っても、はっきり言って執務から逃れるための口実なんだがな。
あまり早く城に戻りたくない俺は、国境まで足を運んだ。
そこは武田との国境。
武田…か。
天下を統一するためには、信玄公との戦は避けられねぇなぁ。
武田に負ける気はしねぇが、被害を少なくするためには今はまだ時期じゃねぇ。
信玄公の謀略を覆す策…か。
それを考えながら馬を走らせていたんだが…
チッ。何時の間にか武田の領地に入ってたぜ。
見つかる前にさっさと退散するか。
そう考え、馬を引き返そうとしたとき。
物凄い勢いの風が吹き、風下にいた俺の目に塵が入った。
「Shit!」
舌打ちしながら馬から降りたとき、誰かが近付いてくる気配がした。
一瞬、腰に下げている刀に手を伸ばしたが、そいつには殺気がねぇ。
ならば下手に刀を抜いて騒がねぇ方が良いな。
「あの…どうかなされたんですか?」
恐る恐ると言った感じで近付いて来た奴が声をかけてきた。
声からして女だ。
「あぁ?誰だおめぇは。俺に何か用か?」
「いえ…目を押さえてるので、大丈夫かなと思いまして」
「さっきの突風で目に塵が入ったんだよっ!」
「だったら涙を流してみると良いですよ」
「出来たら、さっさとやってる。できねぇから苦労してんだろうがっ」
目に走る痛みと相まって、イライラしながら返事をした。
目に痛みが走ると、幼い頃を思い出す。
疱瘡にかかり、右目を失った時のこと。
優しかった母に疎まれたこと。
己の醜い顔…
絶望の中、誰にも会わずに部屋に閉じこもっていた。
あぁ…そうだ。
あの地獄のような暗闇の中で、唯一俺に光を差してくれた存在がいたな。
突然やってきて、突然にいなくなった女。
俺の顔を見ても優しく抱き締めてくれた女。
「行くな!」と言った俺に「また会えるから」と言っていなくなった。
それからずっと探しているが、未だに会えちゃいねぇ。
なぁ…アンタは何処にいるんだ?
幼い頃の記憶を馳せていたとき、
「ごめんなさい、ちょっと驚くかもしれませんが、我慢してくださいね」
と、目の前にいる女が俺の顔を掴み上を向かせた。
そいつは徐に左目を開ける。
「なっ!?テメェ何すんだ!!」
「いいから黙っててください」
ソイツの手を振り払おうとしたが、それより早く目に何かを入れられた。
「テメェ…俺の目に何しやがった…っ」
「目薬を差しただけですよ。
涙が流せないと仰ったので、かわりに目薬を差して涙の代わりをしたんです。
ほら、瞬きをしてみてください。塵、取れませんか?」
言われた通り瞬きを数回繰り返すと、目にあった異物感と痛みがなくなった。
「はい。これで拭いて下さい。目はどうですか?痛みません?」
女に渡された布みたいなもので目を拭き、ソイツを見た。
っ!?アンタは…っ!?
何でがここに…
いや、それよりも俺を見ても何とも思わないのか?
あぁ…そうだ。『あの時の』が言ってたな。
『未来で会う私は、まだキミの事を知らないの』
つまり目の前にいるは俺との思い出が無ぇってことか。
…まぁ良い。今はに会えたことだけでも良しとするか。
ならば俺が取る行動は唯一つ。
が今何処で暮らしていて、何をしているかだ。
俺が幼少の頃に会った『』は、それを教えてはくれなかった。
『話したら面白くないでしょ?』
そう言ってはぐらかされたが、今は幼い頃の俺じゃねぇ。
アンタを手にいれる為なら、何だってするさ。
じわじわ追い詰めて、逃げられなくしてやるよ。
「アンタのおかげで助かった。Thank you」
「You are welcome」
「ほー。アンタ異国語が判るのか。Good!
それにアンタ、見た事ねぇ服を着てるな。Where are you from?」
「え…っと…どこからと言われましても…アッチ?」
は自分が歩いてきたであろう方向を指差した。
………ほぅ。いい度胸じゃねぇか。
俺が聞きたいのは、そんなことじゃねぇんだよ。
「A−ha―n.良い度胸だ。
こうなったらアンタが何者でどこから来たのか、さっきの『目薬』ってなんなのかじっくり聞かせてもらおうじゃねぇか」
が何者なのかは知ってるが、今は知らないふりをした方がいいだろう。
余計なことを言って、を混乱させるのもマズイ。
じっとを見つめていると、は逃げ出しそうな素振りを見せた。
Ha!俺から逃げられると思ってんのか?
「先に言っておくが、逃げようとしたって無駄だ。俺ぁ地の果てまで追いかけるぜ」
ずっと逢いたかったアンタに漸く逢えたんだ。
逃がしてたまるかよ。
それにしても…が一人でここに来るとは考えにくいな。
誰かと来たか、もしくはこの付近の村に滞在しているか…だ。
どちらにしても今のの表情から考えると、どうやって逃げるか考えてるみたいだな。
「俺を目の前にして他事を考えるたぁ良い度胸じゃねぇか。アンタ名前は?」
「ひ…人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るものですよ…っ!」
「Ha!この俺に意見するとはね。上等だよ、アンタ。俺の名は…『小十郎』だ」
俺はあえて本名を名乗らなかった。
幼少の頃に会ったは、異世界から来たと言っていた。
その世界でも、俺たちと同じnameの戦国武将がいたらしい。
そこで俺は有名だったらしいからな。
今のも『伊達政宗』と言う名前は知っているだろう。
ましてやここは武田領だ。
容易に名乗って、ややこしい事態になることは俺としても避けたい。
だから『小十郎』と名乗っておいた。
「…と申します」
「ふーん。…ねぇ。で、はどこから来たんだ?それに変わった服を着てるじゃねぇか」
「えっと…これは…その…」
「どうしたHoney?黙ってたら判らんねぇだろうが」
「って誰がハニーなんですか!!」
「ちゃんは威勢が良いねぇ。その調子で、どこから来たのか喋っちまえよ」
ニヤリと口角を上げて笑うと、は一歩ずつ後ずさりをした。
逃がすもんかよ。
が一歩下がるたびに、俺が一歩前に出る。
それを何回か繰り返すうちに、の退路は巨木に遮られた。
「もう逃げ場はないぜ。観念して喋ったほうが楽になると思うが?」
「ゃ…」
耳元で囁いた言葉に、がビクっと体を竦ませる。
あぁ…なるほどねぇ。
は耳が弱いのか。
良いことを知ったとばかりに、俺はの耳元で囁き続ける。
そして耳元で何度目かの言葉を囁こうとしたとき、力一杯体を押された。
まさか反撃してくると思わなかったな。
不意をつかれた俺にチャンスだと思ったのか、は全力で走り去る。
今から追いかければ余裕で追いつくが…
まぁ良い。今回は諦めてやるよ。
だがな、次ぎ会ったときは覚悟しろよ?
絶対に手に入れてやる。
後書き
『木洩れ日のような 10』の政宗視点でございます。
今後の布石の為に書いてみました。
まぁ、政宗さんのさんへの想いを書いてみたいだけだったんですけどね(笑)
しっかし…政宗さん目線って難しい…
政宗さんのイメージが壊れてなければ幸いです…
こんな作品ですが、最後まで読んで頂き、感謝ですv
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