!こちらへ来い!」




 声のした方を見ると、大佐が手を差し伸べていた。

 私はその手を掴むために、必死で足を動かす。

 ようやくその手を掴んだ瞬間、大佐に抱きしめられた。

 大佐は知らずにやったのだろうけど、大佐が私を抱きしめている状態って、
さっきスカーに抱きしめられた状態と同じなのデス
///




 スカーに抱きしめられた時は、吃驚したけど何も感じなかった。

 でも、今大佐に抱きしめられていると、心臓が壊れるのじゃないかと思うくらいドキドキしてる。

 やっぱり私は大佐が好きなんだなぁ。




…やはり『焔の錬金術師』を破壊せぬ限り、お前は己れと共に歩まないのだな」

「どういう事だ?」




 スカーの発言に、大佐は驚いている。

 無理もないよね。

 殆ど面識の無い私を、スカーは連れて行こうとしているのだから。

 


「実は…ですね…」





 私は大佐に全てを話した。

 イシュヴァールの内戦時にスカーと逢っている事。

 その時からスカーは私を想っていてくれた…事も。




 かつて一度しか会った事のない私をすっと想っていてくれたスカーの気持ちは嬉しい。

 だけど、やっぱり私は…

『貴方が好きです』

 目の前にいる貴方に、この言葉を伝えたい。

 部下ではなく、共に歩むパートナーとして傍に居たいです。

 そんな願いを込めて、大佐の軍服をぎゅっと掴んだ。




…もう大丈夫だ」




 大佐は私を抱きしめるに更に力を込めた。

 そして空いている右手をスカーに向けて伸ばす。

 その手は、発火布を付けていた。




「スカーよ、大人しく捕まると言うのなら危害は加えない。だが、抵抗するならばケシ炭になるが?」

「ふ…面白い。神に背きし国家錬金術師よ。我らが敵!今ここでとらせて貰う!!」

 


 スカーが大佐に向かって来た。

 あわわ…このままじゃ危ないですよ!

 私がいると、大佐は戦えないじゃないですか!?私、足手纏いですヨ!

 そう思って、大佐から離れようとしたけれど…




「ここにいたまえ」




 大佐は離してくれませんでした(汗)

 私を抱きしめたまま戦っているのです。

 戦うと言っても、大佐は一歩も動いていない。

 発火布を使って、炎を辺り一面に練成している。

 その炎の数と質、そして量はエド君と戦ったときの比ではない。

 スカーを焼き殺す勢いなんですけれど…




 それでもスカーは怯まずに私達の方へ向かってくる。

 ある時は炎を避け、またある時は地面を破壊し、その破片を炎にぶつけて相殺していた。

 このままではスカーは辿り着いてしまう…!

 やっぱり足手纏いにならないように、大佐から離れようとした。




、大丈夫だ。もうすぐだ」

「もうすぐ…?」




 何の事か不思議に思っていると、大佐の肩口から見知った人物が見えた。

 その人は銃を構えると、相手に狙いをつけトリガーを引く。

 銃弾は、炎で足止めされているスカーのこめかみを掠めた。




「ホークアイ中尉!」

、怪我は無い?」

「はい、私は大丈夫です!ご心配をお掛けしました」

「そう。良かったわ。大佐、遅くなって申しわけ御座いません」

「いや、ぴったりだ」




 大佐は口の端で笑い、辺りを見回す。

 つられて私も辺りを見回してみた。

 そこにはホークアイ中尉を始め、当方司令部でも名立たる銃の名手がいた。

彼らはスカーに向けて銃を構えている。

流石のスカーでも、この人数を相手にするには厄介だろう。




「チェックメイトだな。さぁ大人しく捕まって貰おうか?それとも蜂の巣の方がお好みかな?」




 挑発的な大佐の発言に、スカーは一度辺りを見回し眉を潜める。




「…この人数では厄介だな。、必ずお前を迎えに来る」




 そう言うと、スカーは前回と同じ様に地面に大穴を開けて逃げてしまった。









 その後、スカーの深追いは危険と判断し、現場検証だけ済ませて皆は当方司令部に帰って行った。

 今この場所にいるのは、私と大佐だけです。

 何故か大佐は私に残るように命じたのです。

 …大佐が怒っている様に見えるのは私の気の所為デショウカ?




「ははははい!」

「私が怒っている理由が判るか?」

「え…えと…えと……ごめんなさい」

「どうして、あんな無茶をした?連絡を受けた時は、心臓が止まるかと思ったぞ」

「はい…軽率でした」




 確かにスカーを見失わないようにしたとは言え、私一人で尾行するなんて危険の何者でもない。

 だけど、貴方の命を狙うスカーを、一刻でも早く捕まえたかった。

 大佐が傷付けられるのには耐えられないから…

 でも、やっぱり軽率だったなぁ。

 結果的には、皆さんに助けられたし。

 何より、余計な問題を持ち込んだ(気がする)。


「ごめんなさい…」

「おまけに、余計な問題も持ち込んで…」




 あう!?やっぱりですか…?

 私だって、まさかあの時の男性がスカーで、私を想っていてくれてるなんて、思いもしなかったんですよ〜。

 だけど、やっぱり私の所為…よね?




「反省しております」

「私がどれ程心配をしたのか。が死んでしまうのではないか…そう考えたら恐くてたまらなかった」

「大佐…?」




 大佐は辛そうな表情を浮かべると、私を抱きしめた。

 って…えええぇぇぇ!?

 大佐!?

 こんな街中で抱きしめると、噂になってしまいますよ?

 


「離して下さい。ここは街中ですよ?私を抱きしめていると、女性方にあらぬ誤解を受けてしまいます」




 ジョセフィーヌさんやマリリンさん。

 ここには大佐を好いている人は沢山いる。

 大佐も、よくその方達と歩いているのを私は知っている。




「構わない。言っただろう?私が欲しいのはだけだと」

「ですが、それは…」

「冗談だと思ったか?」




 さっきコーヒーを飲んでいた時の告白…

 あれは冗談だと思っていた。大佐が私を相手にするはずないと。

 大佐が私をなんて、ありえない。




「信じ…られません」

、私が一番恐れている事を知っているか?」

「大佐が…?さぁ…存じておりません」

「それはを失う事だ。もう危険な事をするのはやめてくれないか…」




 大佐を抱きしめる腕が更に強くなる。

 私はこの言葉を…この言葉を信じていいの?

 大佐を思う気持ちを隠さなくてもいいの…?

 信じたい気持ちと疑う気持ちがゴチャゴチャで、何を言えば良いのか言葉が見つからない。




は私の腕の中より、スカーの腕の中の方が良いのか?」

それは…!それはありえません。スカーに抱きしめられた時は驚きましたが、ただそれだけです」

「ならば私は?」

「大佐は…」

「私はを愛している。が…だけが欲しいのだ」

「………その言葉、信じても良いのですか?」

「もちろんだ」




 大佐は断言したけれど、まだ信じて良いか判らない。

 だって、嫌なんだもの。大佐が他の女性とデートしているのが。

 例え仕事上の付き合いだとしても、大佐の隣を知らない女性が歩いているのは嫌。

 そして、些細な事でも嫉妬してしまう自分が嫌。

 大佐に出会うまで、自分にこんな醜い感情がある事を知らなかった。

 


 でも…それでも…

 例え裏切られるとしても、今は大佐の傍に居たい。

 大佐を想う気持ちを隠しておけない。




「大佐…私も貴方の事が好きです。ずっと…出会った時から好きでした」




 恥ずかしい///

 生まれて初めての告白。上手く言えないけれど、恥ずかしくて貴方の顔を見て言えないけれど。

 私は貴方が大好きです。

 誰よりも愛しています。




「私もを愛している。私が大総統の地位に就くまで、共に歩んで欲しい」

「はい。来るなと言われても、大佐に付いて行きます!」

「ははは。私がそんな事を言うはずがないだろう。それと、私達は恋人になったのだ。大佐ではなくロイと呼びたまえ」

えええぇぇ!?ですが…大佐を呼び捨てにするには…」

「私が良いと言っているのだから構わないだろう?」

「…上司を呼び捨てにするわけにはまいりません」




 大佐の恋人になれたのは嬉しいけど、流石に呼び捨ては気が引ける。

 いや呼びたいけどさ(笑)

 (いくら普段は無能と呼ばれても)上司だから…




「仕方ないな…ならば二人きりの時は構わないだろう?」

「仕事中の公私混同は避けたいのですが…」

「二人きりの時は構わないだろう?」




 た…大佐…その微笑が恐いです。後ろに真っ黒いオーラが見えますよ!




「嫌ですと言ったら…?」

「暫く有給休暇を取るはめになるが?」




 サワヤカ笑顔で恐ろしい事を言わないで下さい(泣)




「判りました。二人きりの時は、名前で呼びます」

「では早速呼んで貰おうか。幸い今は二人きりだ」

「え!?」




 そう言えば、今は二人きりだった(汗)

 しかも抱きしめられたままで逃げ場が無い!

 大佐の事だから、呼ぶまで離してくれそうにないだろうし。




「どうした?。私を『ロイ』と呼ぶだけだ。難しくないだろう?」




 私にとっては難問です!

 うぅ〜どうしよう…

 いつまでも此処に居る訳にもいかない。

 早く司令部に戻って仕事をしなきゃいけないし、何よりギャラリーの視線が痛いです(汗)

 よし!覚悟を決めて!




「ろ……ロイ///




 うわっ!結構恥ずかしいよ。

 ロイの名前を呼ぶのが、こんなに恥ずかしいなんて。

 恐る恐るロイを見ると…今まで見た事の無いくらい綺麗な顔で微笑んでいたデス///

 うーわー。ロイって何であんなに綺麗なの?

 綺麗って言葉では形容出来ないくらい綺麗だよぅ。

 照れちゃってマトモに顔が見れない///

 真っ赤になっている私が楽しいのか、ロイはクスクス笑っていた。




「さぁ、我々も司令部に戻るとしよう。あんまり遅くなっては、ホークアイ中尉に叱られる」

「そうですね。戻りましょう。中尉に銃を向けられるのは勘弁願いたいです」




 私達はクスクス笑いながら司令部への道を歩いた。

 ロイの事をもっともっと知りたくて、何時もよりゆっくり歩く。

 これから時間はまだまだあるはずなのに、今この瞬間を惜しむかのように――

 




、私は君に一つ約束をしよう」




 歩いている途中、ロイは不意に言った。




「約束…ですか?」

「あぁ。私が大総統になった暁には、を大総統婦人にすると」

「はい。楽しみに待っていますね」




 おまけ

「ハボック少尉、お聞きしたい事があるのですが」

「ん?あぁ。何ですか?フュリー曹長」

「マスタング大佐は大総統になり、軍の女性の制服をミニスカにすると仰っていたのですが、何故ですか?」

「あぁ…アレね。要は、少尉のミニスカ(Ver軍服)が見たいからなんだと」



後書き

終了です。大佐オチです。
いいですねぇ、大総統婦人。
私も大佐みたいな人に愛されたいです。
あ〜…でもかなり苦労しそうだわ。
浮気とか浮気とか無能とか。
おまけでハボックさんとフュリー曹長が出てきたのは愛ゆえです(笑)

ここまで読んで頂き、有難う御座いました。
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