平成11年8月17日
タクシー
  猛暑の午後、タクシーを利用した時の運転手さんとの会話です。「今日で5日目の新米ですから、道が全然分らないですけれど宜しいでしょうか?」。と乗るときに話しかけられました。
  ですから「行き先は良く知っている所だから大丈夫だよッ」と返事をしてスタートです。頑丈な身体で声も大きな運転手なので「随分元気な声だけど、今まで何の仕事をしていたの?」と聞きました。
  「実は長い事、築地の魚河岸に勤めていたんですが、今流行の『リストラ』になっちゃいまして・・!」と言うから「魚河岸の出身じゃ〜元気なわけだッ!」と納得します。
  「で、築地も不況の影響は大きいんですか?」。と質問すると「何たって、場内はガラガラで取引は小さいから商売が成り立たず、売り声も小さくなって元気無く、3年ほど前から『いつ首になるか!?』と同僚と冷や冷やしていたら、ついに会社が立ち行かなくなって・・・」とお気の毒な話しです。
  「1千万人の胃袋をまかなっていた築地が、何でそんな事になったの?」と聞くと「最近の消費者は、スーパーで買い物をするでしょう。で、スーパーは築地で仕入れないで、魚船の一艘分の荷を全部買い占めるから、築地を通らないで取引が成立してしまう」と。
  「築地は、何処の会社も元気が無く、友達も大勢リストラの対象になったし、野菜の部門だって畑や農家の単位で取引が成立しているんですから、この分じゃ〜、築地の施設全体もどんどん小さくなるはずで、町の生鮮品を扱う小売り店もますます厳しくなっていくだろうねぇ」と寂しい話です。
新 人
  話題を変え「で、この仕事の収入はどうですか?」。と質問です。
  「何と言っても始まったばかりですから、恥ずかしいミスばっかり続いてねぇ。例えば、お客さんを見つけるコツがつかめないから空車で走ってばかりいて、距離は走っても売上は上がらないし、たまに乗ってくれても道が分らないもんだから、メーターがかさんで露骨に怒られたりで・・」と。
  「会社で指導をしてくれなかったの?」。と聞くと「一日だけ教えてくれたんだが、上客の居る場所は秘密だから教えてくれないし、メーターの管理や台帳のつけ方に車の掃除や管理も覚えたりで、何よりも道が全然分らない。だから、慣れるまでにはかなり時間がかかりそうですよッ・・」と元気が無い。
  「ま、どんな仕事でも覚えるまでには時間が掛かるから・・」。と慰めると「でもねぇ。私の勘が悪いのかも知れないが、お客さんが降りた後で車をスタートして、しばらく走ってからメーターを直してない事に気づく事が時々あって」というから「おや、まぁ!」と。
  「メーターを直さないと、売上はどんどん上がるけれど、空車だからその分は自分で支払わなければならないし・・」とお気の毒な話しです。
  「それでも、始めたばかりでもそこそこの売上があるんだから、職業としちゃ〜恵まれているんじゃ〜ないの」というと「失業した人が、取り敢えずこの職業に入るケースが多いから、何といってもライバルだらけで、客待ちに駅で2時間も並んだのに、やっと乗せたらワンメーター、溜め息が出ますよッ・・!」。
  「不景気なときには、タクシーと自衛隊の就職希望者が多くなるそうですが、ノルマがあるので『成績が悪ければ首!!』と言われているし、外から考えていたほど楽じゃ〜なかった!」と。
  「それで、一番困っているのは、魚河岸で持病になってしまった『腰痛』が、一日座りっぱなしの腰に響いてねぇ。でっかい声を出して弾みをつけて空元気を出しているのが本音でして・・・」との事でした。
 下の表の様に、バブルの頃より15%もライバルが増え、業界全体の売上は激減しているのですから大変でしょう。尚、タクシー会社のノルマは、@乗車時間。A走行距離。B乗車率。C売上高。D事故率等とか。
タクシー 平成3年 平成11年 増加
台 数 43000台 46000台 3000 7%
運転手 66000人 76000人 10000 15%
都内23区と三鷹・武蔵野地域の合計です
首撫でつ
  昔を偲ぶ
    築地の灯  


Copyright(C) Taketosi Nakajima 1997-2003