平成11年5月18日
床屋談義
  雨の平日、行き付けの夫婦だけで商売をしている床屋さんに入ると、お客は私1人です。
  椅子に掛けて「今日は珍しく暇だねぇ」と話しかけると「冷やかさないで下さいよッ。何時もこの状態なんですよ!」。とご主人がおっしゃる。
  ですから「昔は、結構忙しそうだったじゃ〜ないの」というと「どうしてこんなに不景気になったんですかねぇ」と元気の無い話しになっていきます。
  「景気の良い頃は、毎日の様にそこの長椅子に座りきれないで、奥から別の椅子を運ぶほどお客さんが待っていてくれたのに、ここ何年にも椅子が埋まったことがない!」と嘆きます。
  「少し先の肉屋さんが閉店して、商店街もクリーニング屋とパーマ屋と床屋だけが目立つところをみると、床屋は他の商売と比べてまだ良いほうなのかも知れませんがねぇ」。と話は続く。
  「暇だと主人が愚痴を言うから困るんですよッ!」と今度は脇から奥さんが話し始めた「あのお客さんが来なくなったのは『お前が乱暴な刈り方をしたからだッ』とか『あの時の挨拶はなってねぇ』。なんていうんですよッ!」と奥さんの愚痴です。
  ですから「あれッ、お宅は仲が良いから喧嘩なんかしないと思っていたのに!」というと「景気の良いときには喧嘩は少なかったんですが、主人が愚痴を言うと私だって言いたくなる」と。
  「景気が悪くて売上が少ないから、食べ物でも着る物でも節約するじゃないですか。たまには美味しい物を食べたいと思っても、つい倹約の癖がついちゃって・・・」とおっしゃったが、床屋さんだけでなく、日本列島全体が『買うな・使うな、節約・倹約』と地味の方向に突き進んで行くのが寂しいですねぇ。
繁 閑
  「でも、床屋さんの場合、土日の繁盛ぶりは凄いじゃない!」と質問してみます。
  すると「こないだの日曜の午後なんて、まったく暇だったからテレビでヤクザ映画を視ていたら、お客が続けて来ちゃって、待つのが嫌いなお客は帰ってしまうほどてんてこ舞いだった?」という。
  「大繁盛で羨ましい限りだねぇ」というと「お陰で、テレビ映画のヤクザの抗争の一番大事なラストシーンを見そこなった!」というから「贅沢な悩みじゃ〜ないの!」と呆れます。
  「でもねぇ。最近のお客さんは気ぜわしいから待ってくれないし、週に1度忙しい日があっても、平日の昼間は1人も来ない日があるんだから、何とも因果な商売ですよ、それに、クリーニング屋さんと違って頭は取り敢えず預かって置く≠チてことができないから・・」と。
ユーゴ
  髭を剃っているときにラジオが「テレビの撮影隊が、内乱のユーゴの悲惨な状況を撮るために、避難民にお金を上げて泥道で3度も転ばせるやらせ≠行った・・」と放送しました。
  「必要以上に大げさにしないと最近の視聴者は喜ばないから、面白くするためにテレビ局も派手な演出をするんだねぇ!」と話題が変わります。
  「ユーゴまで出かけりゃ随分金の掛かるやらせ≠ナすけど、7人分で2万円のやらせがあったんですよッ!。少し前に、家出をした若者達が奥沢にたむろしているってテレビでやってたでしょう」とご主人。
  「あれねぇ。近所の若者達が遊んでいたら、テレビの撮影の人達が『2万円上げるから、ぐれて家出をしている演技を駒沢公園でしてくれ!』って言われて、7人の出演料が2万円で話しがついたってんだから、制作費は安上がりでしょう」。とのこと。事の真偽はともかく、床屋さんには話題がいっぱいです。
 「駅の向こうに中華屋さんが出来たでしょう。あそこの店員は物すごく愛想が悪いから、食べに行かないほうが良いですよッ!」と教えてくれたので、私は絶対に行きません。『口コミ!』。恐るべし。
おしどりも
 背中向け合う
    大 不 況


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