平成11年5月2日
ローン・レンジャー
  私の記憶が確かなら、東京オリンピック(昭和39年)の頃に、テレビ映画で、白馬にまたがったヒーローが活躍する西部劇、『ローン・レンジャー』という当時の人気番組があったはずです。
  ローン・レンジャーが愛馬シルバーにまたがって手綱を引くと、馬の前足が1b以上も立ち上がり『ハイヨー・シルバー』と気取ってみせる場面に人気があり、人馬一体となったその姿が素晴らしく、暴力シーンなど総てにエスカレートしすぎる昨今と違い、日本中が純粋だった当時を思い出します。
虚 勢
  通常のクリーニング業の営業形態は、お客さんがお店に品物を持ってきて下さる『店受け方式』と、自動車での集配やバイクの後ろに篭を付けてお客さまを訪問する『集配方式(通称、外交)』があります。
  最近は少なくなりましたが、昭和30年〜40年代は、自転車やバイクの集配方式がほとんどでした。何と言っても当時は人件費が安かったので、人海戦術で戸別訪問し業績を伸ばしていったのです。
  外交用の自転車には、竹で作ったカゴを金具とゴムベルトで荷台に取付け、その上からズック (布製)のカバーをかぶせます。カバーには、左右と後ろに大きなポケットが付いています。
  朝、外交員がお店を出るときには、カゴの中には奇麗に仕上がった品物を入れ、毛布などは横や後ろの大きなポケットに入れて、お釣銭を入れたバッグを手に持って出発です。
  昼頃になってお店に帰る時は、カゴの中だけでなく横や後ろのポケットもお客さんからお預りした品物で膨らみます。カゴのポケットからあふれるように多くの品物を詰め込むのが営業マンの自慢なのです。
  品物で横や後ろのポケットがいっぱいになると、まず、遠回りしてでもライバルの同業者の前を通り、その店の前に自転車を止めタバコに火を付けて胸を張ります。
  そうです。上野の猿のお山と一緒で、『俺が一番!!』とデモンストレーションを決行するのです。暇で品物の集まらない時期などは、『ふんわり入れて量を多く見せる』極秘のテクニックまで使うきめ細かさ。
  品物を入れすぎて集配の途中で振り落してしまう事もあり、本来なら、時々品物を店に置きに帰れば良さそうなものですが、それではライバルの前で胸を張れないではありませんか。
  ベテランになって品物を多く集められるようになると、乗物は、自転車からバイク、そして自動車とランクアップします。ですから、乗物を見ただけでも外交員の力量がわかるのです。
ハプニング
  この話は、昭和40年の春の繁忙期の出来事です。友人、Yさんは元気と笑顔が自慢でとても働き者でした。彼は、当時人気のバイク(50ccカブ号)で集配していたのです。
  バイクに乗った彼は、時々、得意のテクニックを見せてくれます。それは、バイクの前ブレーキを掛けたままアクセルをふかすと、バイクの前輪が持ち上がって西部劇のローン・レンジャーの様になる技でした。
  良く晴れた超多忙の日、Yさんは何時ものようにバイクのカゴの中やポケットに品物を満載し意気揚々と店に戻り、よせばいいのに、荷物を積んだまま例の得意技を行なおうとしました。
  しかし、荷物が重すぎてバイクは前輪を上げたまま走りだし、道路脇の電柱に激突したのです。結果、彼は、大切にしまっている部分の袋の方は大丈夫でしたが、棒を手術で5針も縫う事になってしまったのです。
  入院した彼を見舞い、『どう、あそこ、痛いっ!?』と聞くと『大きく成る時に糸がつっぱって、いやぁ〜いて〜のなんの!。だから、バイクのあの技は、もう絶対にやらない!!』。と嘆きます。
  『で、看護婦さんは薬を付けてくれるの?』と聞くと、『慣れたもんよっ、消毒してガーゼをペタッだもんなっ!』と言う、『中島くんも見るかい?』と言われたが、急用を思い出し丁重にお断りしました。                                              
伸 縮 の
 思いやり無き
     手 術 糸


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