平成14年11月5日
とろろ芋
  「けんくはする夫婦は口をとがらして鳶とろろにすべりこそすれ・・」とは、十返舎一九が書いた、弥次郎兵衛と北八が活躍する東海道中膝栗毛より丸子宿の一節です。(「鳶とろろ」とは鳶の鳴き声)
  『とろろ』と言えば私は、安倍川を川越人足の肩車で越したヤジさんとキタさんが、現在の静岡県安倍郡手越村の『丸子(マリコ)又は鞠子』で引き起こす『とろろ騒動』に巻き込まれるくだりを思い出します。
  消化が良くて栄養に優れている『とろろ芋』は、大きく分けて4種類あり、薄茶色で腕の位の太さで長いのを『長いも』といい、白っぽくて手のような形をしたのは、『ヤマトイモ(大和)』といいます。
  そして、京都付近で採れるのが、ゲンコツ形をした『つくねイモ』で、野球のボール程度の大きさのもので2千円はしますから、かなり高級品といえます。
  もう一つ、親指程度の太さでゴボウの様に細く、くねくねと節くれだっている『自然薯(じねんじょ)』というのがあり、これは通常、栽培をせずに雑木林などに自生しているものを探すことになります。
  崖の中腹などで、岩と泥と木の根等に挟まれて育った自然薯になると、ミニスコップが先に付いた特殊な道具で岩と泥の隙間の曲がりくねったイモを、折らない様に注意深く掘り出すことになるわけです。
  一日山歩きをしても収穫がゼロの日もあり、努力の割りに収穫が少ないので値段が付けられないほどの憧れの品なのです。とろろイモは『腕、手、ゲンコツ、親指』と、人間に似ているところが親しめます。
  そこで、4種類の『とろろイモにランクを付ける』としたら、味と粘りは、つくねイモと自然薯が両横綱であり、希少価値で自然薯が東の正横綱、値段の割りに粘りがある『大和イモ』は大関で、平幕クラスの『長いも』が買い求めやすさでは優勢勝ちといえるでしょう。
デモンストレーション
  先日、講演会に出席して、その時の講師はスーパーの販売テクニックについて詳しい方でしたが、その話の中で、実に傑作な売り方があったので皆様にお知らせいたしましょう。
  日本人は、『全員が中流家庭!』といえるほど真ん中が好きな民族ですから、寿司でも蕎麦でも、並みと上と特上があれば「上(じょう)を頼むよ!」と真ん中を選ぶ人もかなり多いそうです。
  ま、『上』が真ん中というのも変な話ですが、『下』という寿司は滅多に無いわけですから、上が真ん中で値ごろ感ということになるのでしょうか。
  そこで『山イモ』ですが、スーパーが客寄せのデモンストレーションのために山イモを仕入れると、ダンボール箱に、おがくず(木屑)や発泡スチロール等に保護された山イモが入っているわけです。
  デモで売る台の上にヤマ芋を並べる時に、箱から一本ずつ取り出すとサイズが違うので、大は500円。中は400円。小は300円等と三つの山に分けて売ることにするわけです。
  箱から出すと長さや太さがバラバラですから、真ん中の『中』の山を多くするように分けるのです。「これは、中にしようか、それとも小か?」などと一本ずつ考えながら分けても、全部を分け終わると、大と小はハッキリと区別がつくものだそうです。
  そして、お客さんを前にして「安いよ、安いよぉ〜ぅ!」と売り始めると、『中が好き!』な人が多いから、沢山積み上げていた『中』の山がどんどん売れていき『大と小』は売れ残っていくわけです。
  そうなると、お客さんの居ない時を見計らって、小さいサイズの山イモを一本か二本、「そっと台の下」に隠します。同じように、大きい山からも下に一本隠すわけです。
  この、『一度、台の下に隠す!』作業が大切で、台の下から持ち上げるときに、「平然と、『中の山』に乗せる」と、お客さんには分からないものだそうで、柴又の寅さんのような商売が成り立っていきます。
  この売り方は、『中のサイズを売れば利益が出る』計算にしてあるわけですが、最初から一緒の山積みにすると小さいイモは必ず売れ残るのに、三つに分けると完売となるという楽しいテクニックです。
下の絵は、広重の「東海道五十三次、丸子(名物茶屋)」で、膝栗毛の物語の情景に似ています。
代官の子の十返舎一九は、
1765年生まれ、本名、重田貞一、
日本で最初の専門小説家で、
浮世道中膝栗毛は1800年頃から
書いたもののようです。