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妊娠と薬〜具体的な薬〜


大事なベビーを授かっても、あの時飲んだこの薬は大丈夫?と心配になっている方へ。
薬を飲んだということより、もう少し詳しくどの時期に、どんな薬を飲んだか思い出してください。

ママになる人の病気をきちんとケアして薬を飲んでおかないと、ベビーに影響がでることもあります。

安易な中絶を避け、元気なベビーの誕生を祈っています。

第1回目は概論、2回目は具体的な薬の名前を取り上げていきます。また相談窓口も併せてご紹介します。

薬の評価方法・何を参考にしているか?

妊婦を対象とした薬の臨床試験(治験)は倫理的な見地からも実施することは不可能です。

催奇形性に関するデータは動物実験、胎盤通過に関するデータ、などなど様々な資料から総合して判断されていきます。
催奇形性の危険度評価基準としては、@添付文書 AFDA(米国食品医薬品局)薬剤胎児危険度分類基準 などがあります。

私達薬剤師は、妊婦さんや医師から問い合わせを受けた場合は、まずは添付文書で確認します。これが唯一のその薬に関する公的文書になるからです。ただ、この添付文書にはなかなかずばり、と書いてあることは少ないのが現状です。“(投与することの)有益性が(胎児等への危険性を)上回る場合に、医師の判断で投与”といった微妙な文書になっていることもしばしば。既に投与してしまった場合の記述はないのが難点。

その他には本で調べます。薬ごとの危険度なる点数で表されている本もあり重宝しています。
また、東京の虎ノ門病院は医師と薬剤師で妊婦と薬の相談窓口(自費)を行っているくらい、資料・知識が膨大です。なので虎ノ門基準が紹介されている本を参考にすることもしばしばです。

妊娠がわかっても飲み続ける薬

妊娠が分かっても、むやみに辞めるのではなく様子を見ながら飲む薬もあります。
これはもともと母体がもっている病気の種類によります。疾患により様々ですので主治医・産婦人科医の指示を守ってください。自己判断で飲まないでいることで、胎児が苦しい思いをすることもあります。

病気の種類 飲んだほうが良いとされる薬 その理由
喘息 吸入ステロイド・気管支拡張剤 母体が喘息発作を起こした際に、胎児が低酸素状態になる恐れがあるため
甲状腺機能亢進症 抗甲状腺ホルモン(チウラジールなど) 流産の恐れがあるため(妊婦用の用量が設定されています)

上記以外にも疾患がある妊婦さんがいらっしゃいます。心の病の方もいらっしゃいますが、妊婦に対しても危険度が少ない薬を飲みながら気持ちを落ち着かせて妊娠継続に向けて努力されているケースもあります。妊娠を希望されている場合は早めに主治医に相談しておきましょう。

催奇形性・胎児死亡などを起こす可能性が高い主な薬(医療用薬/一部免疫抑制剤・抗ガン剤除く)

*医師により、妊娠時期や量を調整しながら使う場合も(特に抗けいれん剤)あるようですが、この表は添付文書を資料として作成していますので、ご了承ください。また、あまり影響がないとされる説が論文などで発表されている薬に関しても、添付文書に記載がある薬に関してはそのまま記載しています。

薬効 一般名 商品名(一部)
抗けいれん カルマパゼピン テグレトール
トリメタジオン ミノアレジオン
バルプロ酸ナトリウム デパケン、デパケンR
*躁鬱治療にも使われます
フェノバルビタール フェノバール
フェニトイン アレビアチン
プリミドン マイソリン
抗凝固薬 ワルファリンカリウム ワーファリン
乾癬・角化症治療薬 エトレチナート チガソン
*服用中止後も体内に残るので女性(催奇形性)は2年以上、男性(精子形成能異常)も半年以上は避妊が必要
ビタミンA ビタミンA チョコラA
*脂溶性ビタミン。妊娠前3ヶ月〜妊娠3ヶ月に1日1万単位以上の摂取で頭蓋神経などの奇形の報告。
1日5000単位迄の摂取に留めて下さい。市販のビタミン剤もVAを含むものは注意です。
NSAID潰瘍治療
(胃薬)
ミソプロストール サイトテック
*子宮収縮を引き起こし、流産を引き起こす危険性あり
痛風発作予防薬 コルヒチン コルヒチン
*影響が少ないとの説もあるようですが、父側の服用での染色体異常(ダウン症候群)の報告あり。
妊婦にも禁忌です。
抗リウマチ薬・
白血病治療薬など
メソトレキセート リウマトレックス
子宮内膜治療薬 ダナゾール ボンゾール
*女児外性器の男性化
女性ホルモン 黄体ホルモン・卵胞ホルモン合剤 ピル類
卵胞ホルモン(エストロゲン)単独も妊婦は禁忌
躁病治療薬 炭酸リチウム リーマス
抗生剤 アミノ配糖体(アミノグリコシド)抗生物質 カナマイシン、ゲンタシン
*第8脳神経障害といわれる難聴などの影響が新生児に現れることあり
テトラサイクリン系抗生物質 ミノマイシン
*骨・歯の発育阻害、歯牙着色を引き起こすことあり。特に中・末期に注意
降圧剤 ACE阻害剤 レニベース
アンジオテンシンUレセプター拮抗薬 ニューロタン
*腎形成障害、顔面奇形、羊水過小、死亡報告あり。時に中・末期に注意
解熱鎮痛剤 アスピリン バファリン
*分娩前服用で新生児に出血傾向。他にもチアノーゼ傾向、陣痛抑制の報告あり。
但し、初期に服用しても催奇形性に関しては問題は少ないため、妊婦が全く飲んではいけない薬ではない。


男性も女性と同様に気をつける主な薬(医療用薬/抗ガン剤・一部免疫抑制剤除く

概論であまり影響がないと記述しましたが、全ての薬には当てはまりません。
添付文書上では女性と同様に男性も服用を避けるべき薬があります。上記の表と一部重複している薬剤もあります。

薬効 一般名 薬品名(一部) 注意事項
免疫抑制剤 アザチオプリン イムラン 男女共に避妊。染色体異常の報告あり
抗リウマチ薬・白血病治療薬など メソトレキセート リウマトレックス 女性は服用中〜中止後1月経周期、男性は服用中〜服用後3ヶ月以上避妊
乾癬・角化症治療薬 エトレチナート チガソン 服用中止後も体内に残るので女性(催奇形性)は2年以上、男性(精子形成能異常)も半年以上は避妊が必要
痛風発作予防薬 コルヒチン コルヒチン 父側の服用での染色体異常(ダウン症候群)の報告あり。男女共に避妊
抗真菌剤 グリセオフルビン グリセチンV、ポンシルFP 女性は服用中〜服用後1ヶ月、男性は服用中〜服用後6ヶ月は避妊。催奇形性あり
C型肝炎治療薬 リバビリン レベトール 男女共に服用〜服用中止後6ヶ月以上避妊。
催奇形性の他、精子の形態変化の報告あり

相談窓口

主治医に相談してもまだなお不安が残る方、他の医師の意見も聞いてみたい方など薬の心配をしている方達の東京にある病院の相談窓口の一部です。(電話相談は不可。必ず予め問い合わせてください。尚、診療費は各病院によってことなり、保険診療外の取り扱いとなっています)
下記以外でも大学病院の産婦人科、個人医でも行っている場合がありますので、遠慮せずにご相談ください。

虎ノ門病院「妊娠と薬相談外来」 03−3588−1111
国立成育医療センター「妊娠・授乳と薬」相談外来 03−5494−7845
聖路加国際病院「妊娠と薬相談クリニック」 03−3541−5151

*東京のみの記載となり偏りがありますがご了承ください。

参考資料:添付文書
       「実践 妊娠と薬」 林昌洋他 著 薬業時報社
       「妊娠中の危ない薬がわかる本」 加野弘道 著 法研