声に出ないキモチ


― ずっと好きでした。あなたに好きな人がいるのは分かっています。―


大きな瞳に涙を浮かべて懸命自分の気持ちを伝えている女の子。


― でも、一度だけ…一度だけでいいんです。私の我侭聞いてくれませんか?―


自分の気持ちが目の前の相手に受け止められないのなら一度だけの事でもいい。
そうすればそれを思い出として明日から笑っていけるから。と訴えてくる彼女。
そんな様子の彼女をただ黙って見ている彼、アスラン。





そして……
その場所から更に少し離れた場所。そこにはその様子を見つめている一つの影があった。
そうそれはアスランの幼馴染兼同居人兼半恋人のキラ・ヤマトである。
キラがその場所に居合わせたのは偶然だった。夕飯の買い物の帰り、偶然にアスランを見つけ声を掛けようと
駆け寄ろうとしたらアスランの傍には自分達と同じ歳くらいの女の子がいて。キラは声を掛ける事ができなかった。
そして現在に至る。彼女の告白をキラは複雑な思いで聞いていた。
きっと彼女は本当にアスランが好きなのだろう。だから、駄目だと分かっていても自分の想いを知ってもらいたくて、
そしてひと時でもいいから自分だけの彼でいて欲しくて……
きっとそんな思いで必死なのだろう。本当は彼女みたいな一途にアスランを想ってくれるような普通の女の子と付き合う方が
彼も幸せになれるのだろうとキラは思う。


 ( でも…ごめんね、彼だけは譲ってあげられない… )


アスランはキラがキラらしくいられる場所を唯一作ってくれる人だから。
今までどんな事でも我慢したしいろんな事を諦めたりもした。でも、この人だけは僕から取らないで。
キラはその場に座り込むと俯き膝を抱え込んでいた。








 「 やっぱり…駄目ですか…?」

自分の想いを全て伝えた彼女は黙って聞いていたアスランに不安げに問う。
すると、今まで閉ざされていた彼の口がゆっくりと開いた。

 「 君の気持ちはありがたいけど、さっき君も言ったとおり俺には好きな人がいる 」

彼から紡がれる言葉を彼女はじっと黙って聞いていた。

 「 君は一度だけでいいと言ったけど俺はそれが意味のあることだとは思えない。
  それを一度でもしてしまったらそれだけで俺は好きな人に対する裏切りになると思うし、君の為にもならないと思う 」

 「 本当にその人の事が大切なんですね… 」

苦笑気味に笑った彼女にアスランは強気な笑みで返した。

 「 あなたの気持ちは分かりました…我侭言って困らせてごめんなさい… 」

 「 いや…こっちこそすまない 」

 「 あなたにはどこも悪い所はないんだから誤らないでください。それじゃあ…失礼します 」


そう言ってぺこりと頭を下げて彼女はその場を立ち去った。
アスランは素直にいい娘だったなと思う。自分になんて勿体ないくらいの。一途に自分に向けられる好意は嬉しくない訳ではないが
自分にはたった一人の想うべき相手がいるから。だから彼女の願いを叶えてあげることは出来なかった。




 ( さてと… )

アスランはふーっと深く息を吐いて今いた場所からたいして離れていない木陰の方に足を向けた。
さっきふとした拍子に見えた見覚えのある亜麻色の髪。
彼の事だからこの場に居合わせたのはきっと偶然。でも今の告白を聞いていたならきっと心を痛めているとアスランは思う。
彼…キラは優し過ぎるから…
そう思いながら歩いていると直ぐに目的の場所に辿り着く。

 「 キラ、いつまで其処でそうしているつもり?」

キラがいるであろうその場所に向かって声を掛ける。
その声にその周辺の小枝がカサリと揺れる。その後少しの間何も動く様子はなかったがそのままアスランは辛抱強く待った。
すると諦めたのかキラはゆっくりと木陰の中から出てきた。

俯いて顔は良く見えないがもしかしたら泣いているのかもしれない、と思った。

 「 キラ?」

俯く顔を覗き込もうとするとキラはそれから逃れるようにアスランの肩口に顔を寄せた。
アスランは小さく苦笑するとキラの背中を何度も優しく撫でた。

 「 帰ろう?」

アスランがそう言うとキラは何も言わずこくんと小さく頷いた。
それに気付いたアスランはキラをゆっくり身体から離す。アスランから離れたキラはまだ俯いていたが
どうやら少し落ち着いてきたらしくアスランが促すとキラも彼の少し後ろをゆっくり歩き出した。
キラがついて来ているのを確認してアスランもゆっくりとした歩調で歩く。
どちらとも話さないまま沈黙な時間が流れる。二人が歩き出して少しした頃、前を歩くアスランのシャツをキラが小さく引っ張った。

 「 ?キラ??」

俯くキラの表情は見て取れないけどその頬が僅かに赤く染まっているように見えたのは気のせいだろうか?

 「 キーラ?」

わざと間延びした呼び方で優しく問いかける。
するとキラはおずおずと顔を上げてアスランを見上げる。そして小さな口をゆっくりと開く。

 「 …手、繋がせて…駄目?」

顔を赤く染めながら本当に小さな声で呟く。

 「 キラ… 」

初めは驚いていたアスランだったがすぐに顔を綻ばせる。
それはキラが見せた小さな独占欲。普段、こんな風に接触を仕掛けるのはアスランだった。
キラはいつも恥ずかしがってアスランを突っぱねて…そんな形が常だった。
そんな恥ずかしがり屋のキラが夕暮れで人気が無いとは言え自分から手を繋ぎたいと言ってきたのだ。
そんなキラの可愛らしい態度に不謹慎だがどうしても嬉しいと思ってしまう。

 「 アスラン?」

不安気にアスランを見上げるキラ。
アスランはふんわり微笑むとキラの手を優しく握った。
途端に淡く頬を染めるキラにアスランはクスクス笑う。そんなアスランの様子にむーっと脹れる。
しかし、二人の繋がれた手は二人の家に着くまで離される事はなかった。






   君の幸せを望む事のできない僕を許して下さい。

   君の優しさにつけこんでいる俺を許して下さい。

   僕には…

   俺には…

   君の存在が必要なのです。






  ◆あとがき◆
はい。久しぶりのお題小説の更新です。お題って難しいですね…毎回毎回無理やりのこじ付けぽい…(苦笑)
アスランが告白されているところを見たキラがへこむ話だった筈だったのに結局最終的にはいちゃついてるこの二人。
うちのサイトでこのお題が一番出来上がっているのでラブラブな二人を思わず書いてしまうんですよねー(笑)