世界中の好きよりもたったひとつのありがとう   Vol.4







 「 え?それじゃ、アスランは怒ってた訳じゃなかったの?」

食事をすませて一通り事情を説明を終えた頃には時刻は結構な時間になっていた。
二人はリビングに移り、ソファーに並ぶように座っていた。

キラは自分の勘違いに驚いた様子で目を丸くする。
その瞼はまだ薄っすらと紅く、アスランは罪悪感を感じずにはいられない。

 「 ああ、俺の紛らわしい態度のせいで誤解させてごめん… 」
 「 良かったーそっか、何だ僕の勘違いだったんだ 」

申し訳なさそうに誤るアスランにキラは笑顔で答える。心底ほっとした様子で良かった、良かったと頷いている。
唖然とするアスランにキラはにっこりと柔らかい微笑みを溢す。

 「 だって、僕の勘違いだっただけなんでしょ?だったらやっぱり良かっただよ。あ、でもアスランはそんなに真剣に何を考えてたの? 」
 「 あ、いや、それは… 」
 「 ??? 」

俯きぐっと押し黙るアスランにきょとんとキラは見つめる。
背中に嫌な汗が流れるのをアスランは感じていた。何故だか妙な緊張感がある。
自分は今もの凄く格好悪い事を言おうとしているのではないだろうか?
キラに誤解を招くような態度を取り、不安にさせその上泣かせてしまった。
キラは楽天的に考えてくれたみたいだが自分が自分を許せない気分だ。
それなのに、原因が・・・ようはヤキモチ。

 ( なんか…情けなくなってきた… )

 「 アスラン? 」

黙ったまま何も言わないアスランをキラは心配そうに見る。
アスランはみつからない様に視線だけこっそりキラに戻す。キラは一見、女の子と間違えられそうな可愛らしい容姿をしている。
神秘的なアメジストの瞳は見ていると吸い込まれそうで、柔かな亜麻色の髪、白い肌、そして華奢な体つき。。。
キラの一つ一つがアスランの感情を昂らせる要素を含んでいた。
しかし、決して見た目だけが良いと言う訳ではなく、自分よりも人の事ばかり考えて行動してしまうお人好しで優しいところも
涙もろくて直ぐに泣いてしまうところも、自分の意思は貫こうとする意志の強さも何もかもが愛しく感じてしまう。
だから、キラが他の人にもし好意を寄せているのであれば知りたいしヤキモチだって焼く。

 ( 結局、俺にはキラ駄目って事なんだな… )

半分、開き直りとも取れる自己完結をするとアスランは己の手をぐっと握りキラに向き直る。

 「 キラ 」
 「 え?何?」

突然、こちらを向き声をかけられてキラは僅かにびくっとする。
アスランはそれに構わずにガシッとキラの肩に両手を置くとずいっと凄んだ。

 「 あ、アスラン?? 」

急に身体を引き寄せられて肩をアスランにつかまれているので身動きも取れ無い状態にキラは身体を強張らせる。
アスランの顔が自分の真近にあって、なんだか気恥ずかしくて頬を紅く染める。自分でも分からない感情がキラの中に流れてくる。
ドキドキと鼓動が早くなって、ふわふわした気持ちになる。

 ( なんだろう…この感じ… )

ぽーっとなっているキラに全く気が付く事無く、アスランは自分が今、気になっている事をキラにぶつけてみる。

 「 あのな、キラ… 」
 「 ……… 」
 「 あの箱って何? 」
 「 ……え?は…こ? 」
 「 ああ、今日キラの部屋で偶然見たんだけど…あれってやっぱり… 」
 「 …………あーあれ? 」

ぼーっと違うところに意識を飛ばしていたキラだったが、アスランの言葉で戻ってくる。
一瞬、アスランの問いに対して何のことだか分からず考えている様子だったが、暫く考えるとぽんっと手を打つ素振りをする。

 「 なんだアスラン、あれが何かが気になってたの? 」
 「 なんだって…」
 ( 俺には結構重大な事なんだけど…)

あっけらかんと言うキラにアスランは内心そう思う。
しかし、今その事について突っ込みを入れていても話は進まない。アスランは再びキラに顔を向ける。

 「 き、キラ…あれってもしかしなくてもバレンタインの… 」
 「 うん、そうだよ 」

-ドカッ-

すぱっとそう告げられ頭にハンマーが落下してきたような衝撃がアスランを襲う。

 「 何だ、やけに早く貰ったんだな… 」
 「 違うよ、あれは僕が買ったんだよ。フレイとミリィが買ってる時に僕も一緒に買ったんだー 」

-ドコッン-

二投目のハンマーが落下する。それでもアスランは続ける。

 「 自分に買ったのか?食いしん坊だな、キラは 」
 「 自分にじゃないよ、あげる為に買ったの!! 」
 「 だ、誰に? 」
 「 え?でも… 」

もはや、虫の息のアスランは根性のみでキラに訊ねる。
アスランに縋るような目で見られ、キラは暫く考えた後少し待っててとアスランから離れリビングを出る。
せっかく至近距離にキラがいたのに今のアスランには捕まえ続ける余力が残っていなかった。

暫くするとキラが戻ってきた。
何故か微かに頬を染めて手を後ろでに組み、はにかみながらアスランの方に近づいてくる。
傷心のアスランはキラが近づいてくる事に気がつきつつも顔を上げる事なくうな垂れたままでいた。

 「 アスラン…はい、コレ!! 」
 「 ………… 」
 「 本当は当日まで内緒にしておこうって思ってたんだよ。フレイもミリィも当日に渡さなくちゃ意味が無いっていってたし 」
 「 ………… 」
 「 でも、見つかっちゃたのなら仕方ないよね? 」

えへへっと頬を染めながらまるで悪戯が見つかった子供のように笑うキラ。
アスランはキラから目を離せなかった。まるで夢を見ている気分だった。始めは自分にかもとか思ってたのにすっかり忘れていた。
でも、まさか本当にキラが自分にくれるなんて…

 「 …え?俺?」
 「 うん、アスランにだよ 」

まだ、信じられなくてキラに訊ねてみると、キラは即答で答えてくる。
じわじわと嬉しさが込み上げてきたアスランは感極まってキラを些か強く抱きしめる。

 「 ぅわっ!!あ、アスランっ苦しいよっ 」
 「 キラ、キラっ 」

キラの抗議の声もアスランの耳には届かない。
自分の為に、キラが…そう思うと嬉しくて、アスランは只、キラの感触を確かめるようにぎゅっと抱きしめる。

 「 キラ、本当に嬉しいよ 」

ぱっと顔を上げてお互いの息がかかる距離でアスランは微笑む。

 「 喜んで貰えて僕も嬉しいよ 」

自分とアスランの距離が近いことを恥ずかしそうにしながら答えるキラ。
アスランは正に天も昇る気持ちだった。−が、しかしキラの次の言葉で一変する。

 「 アスランにはいつもお世話になってるからね 」
 「 は?き、キラ…今、何て? 」
 「 だから、いつもお世話になっているアスランに感謝をこめてv 」

ビシッとアスランは石の様に固まる。
感謝より愛情を込めてほしい…等と思いながら心の中で涙を流す。
嫌な予感…というかほぼ確信に近いのだが、複雑な思いを感じながら恐る恐るキラに聞く。

 「 キラ…ちょっと聞きたいんだけど、これってバレンタインのプレゼントだよな? 」
 「 うん、そうだよ。だってバレンタインって日頃お世話になっている人に感謝する日でしょ? 」
 「 キラ…それは誰から聞いたんだ… 」

額をひくつかせながら何とか笑顔でキラに訊ねる。
キラはきょとんと首を傾げて考えるとああ、と分かったように答える。

 「 カガリだよ、学校の女の子達がねバレンタインで盛り上がってたからカガリに何か聞いたら
  一番お世話になってる人に感謝の気持ちを込めて贈り物をする日だってーってアスラン? 」

 (やっぱりアイツか… )

がっくりと肩を落としてうな垂れるアスランを心配するように見つめるキラ。
キラはアスランとカガリとで大事に大事にされてきた為、少し浮世離れしているところがある。
そして、何より素直で純粋なのだ。人を疑うという事を知らない。
だから、カガリの言った事も素直に信じてこうしてアスランに日頃のお礼としてプレゼントを用意したのだ。
カガリとしてはまさかキラがアスランにあげるとまでは予想していなかっただろうが。

 「 もしてかして違ってた?僕何か可笑しなことした? 」

不安そうに見つめてくるキラにぷっと吹き出す。
そして、キラの頭に手を延ばし彼の柔らかな髪を優しく撫でる。

 「 可笑しな事なんて何もないよキラ、ありがとうな 」

ふわっと顔を綻ばせばキラもぱあっと笑顔になる。

 「 良かった。あのね、カガリに一番って言われた時にすぐに浮かんだのがアスランだったんだ
  だから、アスランが受け取ってくれて嬉しいな 」

にこにこしながら話すキラを眩しそうに見つめながら再びキラの髪を撫でる。



 (今はまだ友達の一番で良しとするかな、まだまだこれからってところか)






               来年こそはと野心を燃やしつつ、アスラン・ザラの長かった今年のバレンタインは終わっていく。



                                HAPPY END?