「いってきまーす」


誰も見送る人はいないのに、と何度言ってもキラは『だって言いたくなるじゃない』と毎日誰もいない部屋に言葉をおくる。
確かにキラの言い分も分からない訳でもない。
キラの場合、高校に進学するまで母親にほぼ毎日送り出してもらっていたのだ。
毎日の習慣のようになっているその言葉を突然言わなくてもいいなどと言っても無理な話だろう。
「キラ、また」
習慣的なモノは仕方ないと分かっていても、キラを構いたくて思わず突っ込みを入れずにはいられない。
「だってーいいじゃない別に、僕は僕達の帰りを待ってくれている家に言ってるの」
「またそんな屁理屈を言う」
「屁理屈じゃないもーん」


キラと俺はお互い笑いながら家を後にする。キラとのこんな他愛も無いやり取りが楽しくて仕方が無い。
俺たち二人は幼馴染だから今までもずっと登校も下校もお互いに特別な用事でもない限りいつも一緒だった。
高校に進学してもそれは変わらないものだと思っていたのだ…なのに、キラが俺とは違う高校に進学してしまった。
てっきりキラも俺と同じ高校のに進学すると思っていたのに。
成績的に考えてもキラの成績なら余裕で合格できるレベルだ。俺は納得がいかなくてキラに問いただした。
でも、キラは『だってアスランに言ったら反対するか僕と同じ学校にするとか言い出しそうなんだもん』なんて言ってきた。
当たり前だ、キラと同じ高校に通うことが最優先事項なのだから。
その為ならキラの行くと言う高校が少しぐらいレベルが下がる学校だとしてもそんな事どうでも良かった。
キラにそう言えば『だから言わなかったんだよ』だ。
その後はもう何故、態々別の高校を選んだのかも理由も曖昧なままで俺は未だに納得はしていない。
キラと俺の高校が意外と近い地区にあったのは不幸中の幸いではあったが。
問題はキラが俺と別れてから一人でいると言う事なんだ。
キラが一人なんて危険だ!危険過ぎる!!今まで俺がずっと大切に守って来たのに。
キラは人当たりも良くて優しいから直ぐに人気者になる筈だ。

「…スラン」

「………」

「アスランってば!!」

「!!」

「っえ、何キラ?」

「もう、何度呼んでも返事しないんだもん。ぼーっとして黙っちゃって、どうかしたの?」

慌てた俺の様子にクスクスと笑いながらキラが尋ねてくる。
「いや、何でもないよ。昨日少し夜更かししたからそのせいで少しぼーっとしてるのかも」
「そうなの?良かった、あんまり黙ってるから体調でも悪いのかとちょっと心配しちゃった」
「!!」
俺の少し前を歩いていたキラはくるりと体を反転させて安心したように微笑んだ。
その笑顔に俺の心拍数は上昇する。顔に熱が集まっていくのが分かる。

「アスラン?」

キラはきょとんと不思議そうな顔をしている。ああーだからその顔は反則なんだってば。
そう、キラは人当たりも良いし、優しいしそれに何より可愛いのだ。
惚れた欲目を除いてもキラはそこら辺の女の子よりも全然可愛いと思う。中学の時も良く女の子と間違えられたり
ナンパされたりしていた。まあ、いつも俺がキラの傍にいて周りを牽制していたんだけど。
だから俺が傍にいない間、キラに不埒な気持ちを抱く輩からキラを守ってやれない。
それに…

「キラー!!」

キラの通う高校には奴がいる。

「あっ、カガリおはよー今日も元気だね」
「おはよう!キラ!!朝はやっぱりキラの顔を見ないと始まらないな、見てると今日も一日がんばるぞーって気になってくる」
「えーなんだよそれー」
俺の存在を全く無視してキラに馴れ馴れしく話かけ、事もあろうかキラに抱きついている。
キラもキラでにこにこ嬉しそうに答えている。


彼女の名前はカガリ・ユラ・アスハ。一応、キラの実の姉で複雑な家庭の事情で別々の両親に育てられていたらしい。
詳しい事は俺は知らないが、確かに黙っていれば顔のパーツはキラに似ていなくも無い。
まあ、纏う雰囲気は全く違うけどね。
キラが静ならカガリは動。活発で男勝りで性格もキラとは正反対って感じだ。
しかも、キラをもの凄く溺愛していて何かにつけて俺とキラの邪魔ばかりするんだ。

「でも何でこんなところにカガリがいるの家反対方向だったよね?」
「キラと登校したくてな、迎えに来たんだ」
「でも、それって大変でしょ?どうせ学校で会えるんだし態々迎えにこなくても」

そうだ、そうだ。その通りだ。よく言ったぞキラ。
俺とキラの貴重なスクールライフを邪魔するなんてとんでもない奴だ。

「キラは私が来ると迷惑か?」
わざとらしく(アスラン主観)顔を伏せて悲しそうな顔をするカガリ。そんな顔でそんな事言えば…
「そんなことないよ!!カガリと登校できて僕も嬉しいよ」
って言っちゃうんだよなーキラは。焦ってカガリに必死に言っている様子も一生懸命で可愛い…ってそうじゃない。
このままじゃ毎日来るぞきっと。それこそ冗談じゃない。
「キラ、余りゆっくりしてると遅刻するよ」
二人の間に割って入ってキラの肩に手を置く。このままこの話を有耶無耶にしてしまおう。
「なんだお前いたのか?」


ムカっ!


軽くムカついたがここで怒るほど俺は子供じゃない。あくまで冷静な態度でカガリ接する様に試みる。
「先刻からいたよ。おはよう、カガリ」
「お前、違う高校だろ?なんでキラと一緒にいるんだ」
「アスランはバス通学なんだよ」
「うちの高校に行くバスの停留所がキラの高校の近くだから途中までは一緒に行ってるんだ」
あくまで笑顔で話す俺。カガリは終始不機嫌そうな顔をしている。
(バス停なんてどこにでもあるのに態々うちの高校の近所とはな)
(キラとの登校は譲れないよ、もろん君にもね)
バチバチと目で会話をする俺とカガリ。当然、キラは俺たちのやり取りなど微塵も気が付いていない。
「お、バス停ってあれじゃないのか?」
しまった、カガリの乱入のせいでキラと余り会話が出来ないまま目的地に着いてしまった。
しかも、カガリにキラを任せていかなければならないなんて。
「アスラン、バスが着たみたいだよ。急がないと」
俺の気持ちを全く分かっていないキラは当たり前の様に俺を急かす。
「えっ、ああ」
「アスラン、いってらっしゃい」
不本意だ、かなり不本意なんだが…
「いってくるよ、キラ。カガリ、キラを頼むぞ」
ほっっっっっとに不本意だが、ここはカガリにキラを任せるしかない。カガリがついていれば少なくとも他のおかしな輩にキラが絡まれる事はないだろうから。
「お前に言われなくてもキラは私が守るさ」
にっと笑ってキラの肩を抱く。その光景はかなり不快なものだけどここは我慢するしかない。
「もう、僕は別に守って貰わなくても大丈夫だよー」
キラは、頬を膨らまして不貞腐れる。キラのこの自覚の無さが一番の心配の種なんだよな。
俺はキラの頭をぽんと軽く叩くとバスに乗り込んだ。そして俺がバスに乗るのを確認するとカガリとキラも学校に向かって歩き出していく。
俺はキラの後姿を見つめながら今日の授業が終わったら即行でこの場所に戻ってこようと心に誓い、バスは目的地に向かい動き出す。



アスラン・ザラ。キラ・ヤマトの為に青春の全てを捧げる男。
彼の前途多難な恋の戦いは始まったばかり。





   ◆あとがき◆
  はい。またまた、現代パロシリーズです。学生もの楽しいです。今回はカガリが登場です。
  ブラコンなカガリがはるかは大好きです。そしてアスvsカガリが良いです。
  でも、キラを守る為には協力したりもする。うちのカガリは邪魔はしますが結局はキラの幸せを願っているので
  キラがアスランを選べば応援してくれる人です。
  アスラン、遠回りまでしてキラに尽くしているのに本人にはちっとも伝わってません、不憫…(笑)