あ る 日 の 授 業 風 景
 
   〈第一限 俊賢教授の教育原理〉
 
 眠たい・・・金曜日の一限。
こんな時間に起きられるか・・・と言いつつ、単位の呪縛に囚われて必死に布団か
ら這出でる自分。行くと決まれば、後はもう時間との闘い。
 走れメロスよろしく、縺れる足を解きつつ(何やってんだか)学校までのラス
トスパートに懸ける。
 
 ─今日に限って代返頼んでないんだ・・・何とか間に合ってくれ〜
 
 後ろのドアから滑り込む。出席に間に合ったのか?
 滑り込みセーフ。
 こういうときに後の方の名字で良かったとつくづく思う。
 
 授業は・・・全く面白くなくても、単位が掛かっているとなれば必死にノートを
・・・とってないなあ。
とにかく板書する量が半端じゃないのだ。
 教授の退室を待って、持参のデジカメで”ハイ”パチリ。
スライド式の黒板に、几帳面な細かい字がびっしり。
でも先生の良いところは、その字を授業中一度も消さずにいてくれること。
だから”細かい字でびっしり”なのだけど。
 
 
 一限と二限の間は、休憩が長いのでこの間に軽く食事を取ったりする。
 眠いところに食べ物が入れば、当然もっと眠くなる。
 でも、次が斉信教授の政治学ならばノープロブレム。
 
 
   〈第二限 斉信教授の政治学〉
 
 やっぱりだ、講義からレポート提出に内容変更。教授は講演会に余念がない。
 
 ─良いのか?ま、確かに女子大の文化祭は魅力だが・・・
 
 教授の書いたテキストから抜粋して、課題を仕上げる。 楽勝だ。
教科書が高価なのが玉に瑕だけど・・・でも自分のは先輩からのお譲りだからタダ
なんだ。
 このクラスは女子が少ないから教授も手を抜いてるのかな?
 だが聞くところによると、この頃はかわいい男子学生にも言い寄ってるとか・・
 恐い世界だ・・・自分には関係ないけど、多分・・・
 
 
 昼時の学食は流石に混み合う。
 さっきの休憩時間にある程度食べておいたから、取りあえず飲み物だけでいい。
 あまりお腹がふくれるとたいへんだ。
 午後からは今日のメイン、専門のFunctional Analysis。
 教室も狭いし、これを落とすわけにはいかないでしょう・・・
 (と言う割には、かなり危ない。・・・線上のアリア、いやもう線から落ちてるか)
 先ずはお昼寝をして(オイオイ)、せめて頭だけはクリアにしておこう。
 
 
   〈第三限 行成教授の関数解析学〉
 
「・・・X、Yは各々位相ベクトル空間であり、{Λn}がYの中へのXの連続線形
写像の数列とするとき
 (a){Λnχ}がY中のコーシー列である∀χ∈Xの集合をCとし、かつCが 
    Xにおいて第2カテゴリーならばC=X
 (b) Λx=limΛnχ(n→∞)が存在する∀χ∈Xの集合がLとし、LはXにお
    いて第2カテゴリーとし、かつYはF−spaceならばL=Xかつ
    Λ: X→Yは連続。
 先ずは(a)の定理証明について、
 コーシー列は有界だからバナッハ・ステインハウスの定理は{Λn}が同程度連続
であることを断言します。CがXの部分集合であることを調べるのは簡単ですね」
 そう言うと、行成教授は学生たちを見てにっこり微笑む。 
 
 この笑顔、この笑顔でそう言われると、凄く簡単そうに聞こえるが・・・ほんと
にそうなのか?
 秀麗な容貌に爽やかな印象で学生の人気を二分する行成教授だが、専門課程の講
義はうけねらいの般教の時とは話が違う。
 流麗典雅な字で板書していたかと思ったら、振り向きざまにいきなり証明の続き
を学生に所望する。そのご指名が、いつ飛んでくるのか解らないところが恐い。
 エレガントな容姿に惹かれてルンルン気分で講義に臨むと、かなりしんどい状況
が待っている。それでも、なかなかにこの講義の人気が衰えないのは、学生のレベ
ルの高さ・・・じゃなくて、教授の笑顔のせいだろう・・・。
 そしてまた、その鮮やかな定理証明。
 
「・・・Λnχ−Λmχ∈W+W+Wを示す。
 結果として{Λnχ}はYにおけるコーシー列でありχ∈C C=X
・・・Cが第2カテゴリーの集合であるという仮説は、バイレの定理の結論です」
 
 美しい解答に溜息をつく一方、ますます自分のセンスの無さを感じる。
(論理数学は感性の世界だ・・・)
 何だか哀しくなってきたなあ。
 
 ある種のスリルと感動(?)のある授業だが・・・
 自分に関しては・・・はっきり言って選択を誤った・・・今更遅いが。
 いつやった、どの定理を持ってきて良いのかも解らないのに、一体どうやって解
答せい、と言うのだろうか。
 当てられないよう、ひたすらノートを取ってる振りをする。
 こんな冷や汗の連続で、またいつものように90分が過ぎていった。
 
 来週こそは、しっかり予習復習して臨もう。
(己は小学生か・・・バイトと遊びに時間を使いすぎだ)
 わかっていても止められない自分が情けなかったりするが・・・
 この授業、成績の半分がレポートの提出で決まる。そこが救いだ。
 ペーパー試験のみで及落が決まるなら、落第は必至。
(自分の専門なのに単位を落とすのは、ちいと恥ずかしいぞ・・・)
 
 
 緊張の連続で専門が終わった後は、史学科の古代ローマ史。
外部学科生も単位が取れる史学科の講義。
 実は最近密かにこの授業を楽しみにしている。
 学生の人気を二分している片方の教授の授業だから・・・
 
 
   〈第四限 公任教授の古代ローマ史〉
 
 行成教授も良いけれど、も少し年上の公任教授の古代史も魅力だ。
そのウットリするような魅惑の声の虜になって(それを言うなら斉信教授も良い声
してるんだけど、それ以前の行動に問題有りだ)この大学の職員になった史学科の
人間を何人か知っている。
 
 今日の講義は、スラ派とマリウス派の争いについて。
 キケロのプロキウス弁護演説の様子が語られる。
 
 端正な顔立ちから繰り出される言葉は、およそそれとは似つかわしくないもの。
涼しい顔して、発する言葉は痛烈だ。
 キケロよりよっぽど弁が立つんじゃないだろうか・・・
 女子たちの話では、教授は風雅の才の持ち主だそうで(風雅ってどんなんだ)、舞
に管弦、和歌に漢詩と雅な趣味をどれもハイレベルでこなすらしい。
 
 この人の魅力は、毒舌を毒舌と感じさせない理路整然とした論法にある。
まるで魔法のように、次から次に言葉が紡ぎ出されていく。
何とも言えない心地良さ。
それでなくても眠たい時間に、何て罪作りな教授だ・・・(なんのこっちゃ)
 居眠りしてても咎めない公任教授をいいことに、午睡の限りをし尽くす。
 専門で無くて良かった。こんなに心地よい声で、歌うように講義されたら寝ずに
おけというのが無理というもの。
 こちらも単位は、レポート提出。 先生、感謝致します。
 
 
 やっと長い一日が終わったかと思いきや、友人に頼まれてた道徳教育の代返があ
った。危うく忘れるところだった。
 
 
   〈第五限 実資教授の道徳教育〉
 
 畏るべし実資教授。受講学生の声を全て記憶しているらしい。
コナンに特殊変声蝶ネクタイを借りておいて良かった。(ほんまかいな・・・?)
 もちろん学生の顔も覚えているのだが・・・それはお気に入りだけか・・・
(一応グラサンにマスクの出で立ちはしてきたが・・・却って目立つぞ)
 
 
・・・と言うことで
(実資教授について語らなさすぎ?!この人のことは皆さん良ーくご存じだから)
 これ以上語ると何言われるかわからない・・・この辺で。
 
 いやはや終わってみればあっという間だが、疲れる(?)一日だったなあ。
 このあとまたコンビニでバイト。
 
 まだまだ長い一日は終わらない。
(それでまた自分、予習も復習もしないで寝るんだろうなあ・・・成長しない奴)
 
           ─”授業料自分で払え!”って言わないでね母さん・・・