お つ か い 番外編  
─その後の声の巻─
 

 僕は琥珀池に住む龍神の子。
 知ってるよね?
 そして、父上はとっても名のあるこの池の主なんだ。
 
 ここは、都から幾らも離れていないけど、普通の人間には見ることの出来ない場
所にある。次元が違うから目に入らないと言ったほうがいいのかな。
 
 父上はそれはそれは見事な金色の鱗をしていらっしゃるけど、みんなに見てもら
えないのはちょっと残念だな。僕?僕はまだダメ・・・
あと、2、3千年は修行しなくちゃ。あんな立派な鱗になるためにはね。
 
 今日のお話は、僕じゃなくてそんな父上の話。
 と言っても、龍のお姿ではなくてね・・・
 
 あのね、父上はとっても茶目っ気が有るんだ。
 今でもたまに人間に化けて、下界の様子を見に行くんだよ。そう、僕みたいに。
ま、僕のは単純に”おつかい”だったり、いたずらだったりするわけだけど。
 父上のは人間たちが、神様を蔑(ないがし)ろにしていないかどうかを探りに行くた
めなんだ。遊びとは違うってこと・・・
 
・・・そう、いつもはそうなんだけど・・・
 たまには違うのかな?・・・
 
 
 僕から”斉信の声”を手に入れた父上が向かった先は、と或る都人の邸。
それほど立派なものじゃない。中程度の役人の邸かな。お手伝いの人もちょっとし
かいない。今まで僕が行った中では中の下ってとこ。
(あ、言っておくけどこのとき僕の身体は夜露に溶け込んでて、人目には見えない)
 ちょっと、注意すれば父上には分かっちゃったんだろうけど、生憎父上は人間に
成りきることに意識を集中されてて、僕の存在に気づかなかったみたい。
(この日はとりわけ完璧に、”成り変わった人間”の役を演じてた)
 
 ね、上手くやったでしょ?
 
 じゃ・・・はじめるよ──
 
 
 
 あれは、月の美しい夜のこと。
 鴈来紅(かまつか)の花(葉鶏頭)が風もないのに揺れていた。
 
 時は三更に入った頃─(午後十一時すぎ) 
 
 澄み渡った晩秋の夜空は、人を恋しい気分に誘う。
 寝付けないのであろうか御簾越しに庭を眺める女房の姿。
 薄ぼんやりした灯りの中に浮かび上がるその面は、はっきりとはわからぬものの
顎の輪郭のすっきりした知的な印象を漂わせる。
 
 そして、此処にもう一人、夜の闇に誘われた男がいる。
 御簾内の女からは見えていないようであるが、庭に佇む若い公達。
 その容姿端麗、眉目秀麗にして、更に得も言われぬ色気を纏っている。
 後宮の女房たちの心を惹きつけて離さない宰相の中将──藤原斉信その人。
 
 いや、正確には斉信以上に斉信”らしく”装った別のモノだ。
 だが、此処ではこの男のことを”仮に”斉信と呼ぶことにしよう。
 並の人間にはわからぬであろうが、その霊体が発する波動は極めて高い霊相を示
していた。だが、今はそれを人間の身体に押し込めて一心に母屋を見詰めている。
 お目当ての相手は御簾内の女房。
 やがて男はゆっくりと灯りを目指して母屋へと歩を進めた。
 微かに渡る秋風のなか草花に置く白玉が震える。その秘やかな動きより、猶忍び
やかに裾を捌(さば)いて男は歩く。動きにつれて衣に焚きしめた香が立ち上ると、
男の気配を一層艶やかなものにした。
 
 
 なんだかおもしろい夜になりそうだ・・・
 空には、晩秋の立待月。
 
 母屋ではふたりの女が、燈火を挟んで立っていた。
「・・・なんて風情のある月の夜なのかしら・・・でも昔見た月とはやはり違うのね・・・」
 御簾内の女房が、燈台の油坏(あぶらつき)に差し油をしている側仕えの侍女に話し
掛ける。燈灯に照らされたふたりの影は頼りなげにゆらゆら揺れていた。
 
 その時、廂を挟んだ庭先から近づく微かな物音。同時に、清らかな秋風が懐かし
くも色めいた気配を運んできた。次に聞こえてきたのは若い男の玲瓏な声であった。
 
「もしお許し頂けるなら、美しい月夜の一時をご一緒させて頂けませんでしょうか」
 そのよく通る声は、御簾内の女房には聞き覚えのあるもの。後宮の女性なら、い
や女性と言わず誰でもが心惹きつけられずにいられない、その声の主は女のよく知
る人物。だが、なぜ? 有り得ないことではないか・・・
「・・・・斉信さま・・・・でいらっしゃいますか?・・・・・・でも・・・なぜ此処に・・・」
 
 ここはこの女房の仮の住まいである。
 時は長徳二年(996)秋、清少納言は自らの特殊な立場から、敢えて中宮定子より
距離をおいたこの場所に里下がりしていた。いざというとき中宮を外からお守りす
るため。そういう役目は頭の回転が速い、冷静な判断の出来る女房でなければ務ま
らない。彼女以上にこの役目に適した人物がいようか。
 ここでの隠遁生活は、陽気で賑やかな宮中暮らしを好む彼女にとって非常に退屈
なものであったが、時が満ちるまでひたすらじっと堪え忍ぶしかない。そうするこ
とが中宮にとって最良の選択であるなら。訪れる者とて殆ど無いこの五条の邸の生
活は、彼女にとってどんなにか退屈なものであったろう。
 たまに訪れるのはかつての夫、則光くらいなもの。他には唯一親友とも言ってよ
い経房の君だけが、この邸のことを知っていた。
 つまりこの場所は、世間の思惑の及ばない”隠れ家”なのだ。
 
 だから、今を時めく宰相の中将がこの場所を知っているわけはない。
 それなのに何故? 
 この時清少納言の頭の中はそんな疑問で一杯だったろう。
 聞きたいことが山ほど口の端をついて出そうになるものの、彼女は余計なお喋り
をしてこの場の雰囲気を台無しにするような野暮な女ではなかった。
 このような美しい秋の月を見て、物思いするだけでも風情があるというのに、天
下の美男子かつ美声の公達と共に同じ夜を語り合えるなどと言うことは、一生のう
ちにも滅多にあるものではない。つい何年か前までは、男と言えば則光とその周り
にいる連中くらいしか知らなかった彼女にとってまさに夢のような光景。
”そう、これは一夜の夢なのだ”きっと彼女はそう思っただろう。
 それほどまでに美しい月夜の晩だった。
 
 沈黙を破ったのは斉信の柔らかな声。
「・・・私がどこの誰で、何故こうして居るのかなど詮索するのは無粋なこと。ただ、
あなたと共にこの月を愛でることが出来ればそれで良いのです。そのひとときをお
許し頂けますか?」
「まあ・・・こんな須磨の浦でしおたれているような人をお訪ねになるなんて、余程
物好きでいらっしゃるのね。・・・でも、名無しで実体もわからぬようではどうして
よいやら・・・わたくしには、そんな方のお相手はできそうもありません。それに・・・
こんなところが人に知れれば・・・」
 少納言の君の言葉は相手を拒むものではあるが、それは互いの微妙な立場に因る
もの。その声に心からの冷たさはない。
 
「それでは、これは一夜の夢だとお思い下さい。”夢路”であれば人がとがめるこ
ともないでしょうから。わたしたちだけの秘密。今宵のことは陽のもとでは決して
口の端に乗せませぬよう。でなければ、私は三諸に戻って二度と再びお会い出来な
くなるやもしれません」
「おもしろい方・・・まるで自分を三輪(=三諸)の大物主神のように仰るのですね」
 少納言の君は袖で口許を隠すと、声をひそめて笑い出す。
「でも、わたくしイクタマヨリヒメのように美しくはありませんのよ。それでも宜
しいのかしら。後でこんなはずでは無かったなどと仰ったりしない?」
 軽くあしらってはいるがなかなかに守りが堅い。だがそんなことで怯む相手では
なかった。
 
「私のことを、姿かたちだけの美しさに囚われる愚かな人間だとお思いですか?
人の美しさは、心根の純粋さや奥深い心様にこそあるもの。また、声のかわいらし
さなどにも充分心惹きつけられるものがあります。もっと近くであなたとお話しし
たいのです。この簾を上げて下さるわけには参りませんか? あながちな事など致
しませぬ故・・・それとも信用していただけませんか? この私のこと・・・」
 いつのまにか階を上って廂に座る斉信。

「あらっ、どうしてわたくしの気持ちがお分かりになったのかしら? 殿方の口説
き言葉をすべて鵜呑みにするほど初ではございませんのよ」
 こうもぴしゃりと言われては流石の色男も形無しだ。
「そんなに私は浮き名を流しておりますか? 手厳しいことを申されますね」
 そう言うと斉信は御簾越しに声を立てて笑う。これが普通のつまらぬ男がするこ
とであったなら、女性にとってさぞや失礼な態度だろう。
 だが、この男であればそんな対応もさほど嫌みにはならない。絵になる男とはこ
うしたものであろうか。
 
 月の光が照らし出す斉信の姿は妖しいまでに美しく、得も言われぬ色気を漂わせ
ている。そんな高貴な姿にも似合わず、屈託無く振る舞う仕草が少納言の君の眼差
しを惹きつけて離さなかった。息を呑むほどの美しさでありながら、気取ったとこ
ろは微塵も見られない。これなら後宮の女性たちがこぞって身を乗り出すわけも頷
けるというものだ。
 
 笑い声が収まった後、夜の静寂の中に響いたのはうって変わった朗々たる声。
「”月も日もかわり行けども久にふる三諸の山の離(とつ)宮どころ”(『万葉集』3231)
月日が行き変わっても、あなたとの仲はいつまでも変わらぬ三諸山の宮処のように
ありたいもの。こんな風に憚り無く話が出来る女性はそうはいません。たとえ世の
中が移り変わっても、この友情だけは無くさずにおきたいものです。そう思いませ
んか?」
 だが、斉信の問い掛けに相手の返事は無い。
 ない・・・と言うより、出来なかったというべきか。
 少納言の君の心は、その歌を聞くや瞬時に別の世界に飛翔していた。
 切れ長のつぶらな瞳にはみるみる銀の雫が溢れてくる。
 
 彼女の目の前に広がるのは、あの春まっ盛りの清涼殿での幸せな光景。
 その日この万葉の歌を詠んだのは大納言・伊周の君だった。不安の影など何処に
も見当たらない日差しの中で、中宮のそばにいらっしゃった伊周の君がゆっくりと
歌い出されたもの。あの日から、僅かに二年余りで中宮を取り巻く状況は180度変
わってしまった。人の世の儚さを、これほどまでに激しく感じた時が嘗て有っただ
ろうか。
 彼女の心の中では、公達の”世の中が変わっても”などという台詞ほど当てにな
らない言葉は無かった。だからといって、その責任が斉信にあるというわけではな
いが・・・
 
 彼女の目から音もなく銀の雫がこぼれ落ちると、止まった時間が元に戻った。
 
 少納言の君は、乱れる自分の心を悟られぬように努めて明るい声で返す。
「・・・あら、いやですわ。 ”頼めもおかじ常ならぬ世を”(いつまでも変わらぬと
約束して当てにさせてはおくまい。無常の世なのだから)【心にもまかせざりける
命もて頼めもおかじ常ならぬ世を(『新古今集』1422枇杷中納言敦忠)】という世の理をご
存じないのですか」
「ほう、そのように冷たいことを申されるのですね・・・
”逢うにしかへばさもあらばあれ”(逢うことと引き換えにするなら、どうなろう
とも構うものか)【思ふにはしのぶることぞ負けにける逢うにしかへばさもあらば
あれ(『新古今集』1151在原業平)】というほどの、私の気持ちをわかって頂けないとは
情けない」
「まあ、世の色好みの殿方が仰ることなどいよいよ信じられませんわ」

 少納言の君がそう言うのも致し方ないことかもしれない。この歌を詠んだ業平と
言えば、美男で天下の好色として名高い。だが実際には、誠実なマメおとこだった
ようである。人の言葉を渡る内に、実体を伴わない虚構だけが一人歩きしてしまう
ことはよくあることだ。色男とは得てしてマメな人間が多い。やはり、マメでなけ
れば多くの恋愛は語れないのであろう。業平しかり、源氏の君しかり。そして斉信
また然り。そんなことは頭の良い少納言の君には痛いほどよく分かっていた。だか
らこそ、このように話をはぐらかしたのだろう。
 
 斉信は中宮とは反対の勢力に属する人間。しかも権門の”一の人”道長に極近い
人物である。その斉信がこのように少納言の君と密会していることが知れたら、口
さがない禁中の人々にとっては恰好の話題を提供するものとなる。下手をすれば自
分の足下さえ掬われかねない。そんな危険を冒してまでも彼女に会いに来たという
のだから、そのひたすらな思いは推して知るべしであろう──業平の和歌が嫌みな
ほどよく似合う男。いっそ何もかも忘れて、斉信のその優しさに縋りつけたらどん
なにか幸せであろう。
 
 だが、その優しさを知れば尚更斉信には甘えられない。そんな素直でないところ
がまたこの女性の魅力なのかも知れない。憂き世を忘れるためだけに、恋に身をや
つすなど彼女には到底出来ないこと。
 多分相手もそれを知っているからこそ、これ以上無理強いをしないのだろう。
 こんな言葉遊びの中にこそ、恋の駆け引きの面白さが潜んでいることを互いによ
く知っているから・・・。彼女には生身の恋愛よりも、恋する気持ちに恋している方
が向いているかもしれない。洒落た言葉も、機知に富む会話も身体の関係だけを求
めるのなら必要ないもの。何処までも冷静で朗らかな彼女には、恋に堕ちていく女
は似合わなかった。
 
 
「あなたが相手ではとてもかないませんね。手の届くところにありながら、掴むこ
とが出来ない。まるで結ぶ手の雫のよう・・・それがまた何とももどかしくて、また
私はあなたを追いかけてしまう・・・・・」
「仰るお相手が違うのではないですか?わたくしには勿体ないお言葉ですわ」
「そう切り返すところもまた憎らしい」
 御簾越しに互いを見詰めて笑い出すふたり。
 
 
 月は相変わらず美しい光を放っている。
 
「”燭(ともしび)を背(そむ)けては共に憐れむ深夜の月 花を踏みては同じく惜しむ
少年の春”【『和漢朗詠集』春夜 白居易】
 斉信の朗誦が冴え冴えとした秋の夜空に木霊する。
 絵に描いたような景色とはまさにこのことか。美しい月光に映える美しい公達。
 
「春には未だずいぶんと間がありますのに・・・」
「気の早い私ですから・・・おわかりでしょう? あの春の夜のことをいつまでも忘
れることはありません。あなたにはやり込められましたがね」
 そう言ってにっこり微笑むと菅丞相の詩を詠う。
「”露は別れの涙なるべし珠空しく落つ
雲はこれ残(のこ)んの粧(よそお)ひ 髻(もとどり)いまだ成らず
橋を結ばんことを恐りては鵲(かささぎ)の翅(つばさ)を傷(やぶ)らむことを思う
(のりもの)を催さむことを嫌ひては鶏の聲(こえ)を?(おし)ならしめまく欲りす
相逢ひ相失ひて間むこと分寸 三十六旬一水の程”」【『菅家文草』 巻第五346】
 
 少納言の君がこの歌を聞いたのは、去年の春まだ斉信が蔵人頭であったころ。
 ついこの間のことのようなのに、周りを取り巻く環境は時間以上にふたりを引き
離してしまった。あれほど親しく言葉を交わしていた斉信とも、参議になってから
はほとんど会うこともない。たわいもない遣り取りに興じていたあのころがひどく
懐かしい。再びこんな夜を過ごすことが出来るなどとは、思いもよらぬことだった。
 
「美しい声は神仏をも感化すると申します。今宵はどれだけの神仏がそのお声に涙
を流されたことか・・・」
「神仏の涙より、ただあなたお一人が喜んで下さればそれで良いのです。今宵の歌
はすべてあなたのためだけにお捧げするのですから」
 これ以上の口説き言葉が他にあるだろうか。まさに女房冥利に尽きるというもの。
 
 
 天空の月は、兜率天(とそつてん)の弥勒菩薩──
 今まさに、竜花樹の下でひらかれる法会のような夢のひとときが流れていった。
 
 
 一時の静けさの後、斉信の心地よい声が静かに響く。
「”枕をそばだてて帰り去らむ日を思ひ量らふに”・・・・・・・
少納言。あなたなら如何続けられますか?」
 『白氏文集』の「遺愛寺鐘?枕聴」を踏んだ『菅家後集』の「聞旅雁」である。
 言葉のはめ絵は至る所に落ちていた。  ?は奇に攴の字(そばだてる)》
 
「・・・なにをお望みかしら?そう・・・・・こちらにいらっしゃった時に、今宵のことは
すべて”夢”だと仰いましたわね。それではそのままに”万事みな夢の如し”と」
(『菅家後集』476 「自詠」)
「それはいい。よくおわかりでいらっしゃいますね」
 嬉しそうに言う斉信の声に、少納言の君の顔もほころぶ。
 こんなひとときこそが至福の時間と言うものなのだろう。
 
 
 夢、すべてこの世は夢の如し。
 夢の中に夢を求めて日々を送っているようなもの。
 誰しも多かれ少なかれそんなものに囚われて生きていくのか・・・
 だが、自分を失いさえしなければ、何処ででも幸せは掴める。苦しいと思えばど
んな人生も苦しく辛いものになってしまうけれど、その中にホンの少しでも楽しさ
を見つければ人生は捨てた物じゃない。幸せは自分で掴みにいくものなのだ。
 少納言の君の前向きな生き方こそが、彼女の美しさの源なのだろう。
 
 
 月の美しさにも負けないほどの・・・
 
 
「今宵は誠に楽しいひとときを過ごすことが出来ました。やはりあなたは宮中にな
くてはならぬ方です。いずれ遠からぬうちにお目に掛かることが出来ますでしょう
ね。その日を楽しみにしております。ただ、今宵のことはすべて夢だということを
お忘れ無く」
「さあ、どうでしょうか・・・女は物忘れしませんものよ、殿方ほどには・・・」
 
 
 月だけが知っているこの夜の出来事。
 
 
  ”きみやこし我や行きけむおもほえず 夢かうつつか寝てか覚めてか”
                     『古今集』645 読人知らず
 
  ”かきくらす心の闇にまどひにき 夢うつつとは世人さだめよ”」
                      『古今集』646 在原業平
 
 
 
 あれは、月の美しい夜のこと。
 鴈来紅(かまつか)の花(葉鶏頭)が風もないのに揺れていた。
 
 
 
 
 
 これが僕の見てきたお話のすべてさ。
 この後、父上は庭を抜けて夜の闇へと消えて行ったんだ。あっという間に闇夜に
とけ込んでね・・・
 
 女の人はというと、きっとすぐに寝ちゃったんだろうな。
 格子も下ろして、灯りも消えたから・・・
 
 かわいいひとだったな。
 何だかさ・・・美人っていうわけじゃないんだけど、声も仕草も媚びたところが無
くって。こういう人ってあんまりいないよね。宮中に上がってる女の人は、みんな
気位ばっか高くて、ツンツンした嫌なやつだと思ってた。
 
 こんな人もいるんだね。
 
 もしかして、父上はこの人のこと好きなのかな?
 
 そういうこと?
 みんなはどう思う?
 
 まっ、子供の僕には分かんないや。
 
 
 また面白いことがあったら、お話しするね。
 
 
 次のお話はね・・・・
 
 今はまだ内緒だよ・・・・
 
 
 
    A merry Christmas to you!” 
 
 
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