★豪華競演秋の大運動会
         ─ リ レ ー 編 ─
 
             (一)
「本日はお忙しい中、リレーの練習のためにお集まり頂きましてありがとう
ございます。本学恒例の体育祭も間近に迫ってまいりました。
一所懸命やっている学生達の手前、一度くらいはリハーサルをしておこうと
言うことで、このようなご無理を申し上げました」
 爽やかな笑顔で司会進行を務めるのは、いつものように行成であった。
 レベル特A医学部選抜の三年生を担当する若手精鋭の教師の一人である。
 整って取り澄ました容貌からは想像できない、悪戯っ子のような笑顔がそ
の場の雰囲気を和らげる。
この時期先生達は、クラスごとの対抗意識に神経をピリピリさせていた。
 こんな状況で一番効果を発揮するのは、敵対心を焼失させる彼の満面の笑
顔である。
 が、しかしそんな行成の配慮もお構いなしに、わざわざ険悪なムードを持
ち込む奴が約一名。
「行成先生、この際建前を並べる必要はないでしょう。
やはり魅力は何と言っても豪華優秀賞品。”いつでもどこでもお好きなところ
へ全国周遊旅行券100万円”の賞品ゲットのためと仰ったら宜しいではな
いですか」
 クールな表情でジャージの裾を捲りながらそう言ったのは、レベルA国立
文系選抜担任の斉信であった。
 
             (二)
「斉信先生、それは結果が与える産物であって、学生達にはその過程である
努力する姿を見せなけれ・・・」
「おやおや、またおかたいですな」
 そう言うと、斉信は行成の耳元で意地悪く囁く。
「冷たい言い方をなさいますねぇ。 あなたとは、あんなことも、こんなこ
ともした仲じゃ無いですか・・・んン・・・」
 思わせぶりなその台詞に、誰に聞かれたわけでもないのに、思わず言葉に
詰まる行成。
「・・・そんな、人が聞いたら誤解するような言い方やめて下さい!
はっきりと、女子寮の不審者を捕まえるためにやった囮作戦だと、仰って頂
かないと・・・」
「はン・・・そうだったねぇ。 女装してね・・・かわいかったなぁ・・・」
「・な、なにを・・・だから、あれは仕事だと思ったから仕方なく・・・
女の方が警戒されないから、敵を捕まえやすいと言われたのは、斉信先生じ
ゃないですか! 先生は、あんな格好して恥ずかしくなかったんですか?」
「ぜ〜んぜん! だって、普段墜とす側ばかりだから、墜とされる側の心理
を学ぶことが出来そうで面白いじゃない」 
 斉信のからかいに、すっかりペースを崩される行成であった。
「いい男は何を着ても様になるから困るなあ」
 真剣に困っている行成を尻目に、何処までも勘違いしているのは斉信。
 
 思えば、斉信は一学期最後の職員会の後から、こんな風に突っかかってく
るのだ。
 行成が作っていた夏期補講のスケジュール表を覗き込んで、
「へぇ・・・夏休みの補講ですか。そんなにしごかなくても、彼らなら自分
達でちゃんとやってくれるでしょう?」
「いえ、生徒からの要望で。 新学期直前にもう1タームやって欲しいと言
うものですから」
 この時も斉信の目は妙に意地悪そうな光を宿していたのだ。
「そんなこと言って・・・お目当ての女生徒でもいるんじゃないですか?
行成先生もなかなか隅に置けませんからなぁ」
 誰でも自分と同じ思考回路だと思うのは、斉信の悪い癖であった。
 
             (三)
「あー、どうでもよろしいがそろそろ本題に入って頂けませんかな。
どうも待たされるのは苦手でなぁ」
「あっ、これは生活指導科の実資先生まで・・・わざわざリハーサルにお越
し頂きまして光栄です」
 行成が恭しく挨拶をしているのに、その横で露骨にウンザリした顔をして
いるのは例によって問題児(?)の斉信だった。
「大丈夫ですか、実資先生? 確かこのあいだの健康診断、血圧で引っかか
ったんじゃなかったですか?・・・お年なのですから若い者と一緒にやらな
くても・・・」
「何を言うか。血圧が少々高かったのは、直前に生徒とやり合ったからだ。
わしを年寄り扱いするあんた達より、どれだけ自分の方が健康的か」
「そうですね。若くても、尿に糖がおりてちゃお仕舞ですからねぇ」
 ただでさえ険悪なムードのところに、更に面倒な人間が口を挟む。
 同じくレベルA国立文系選抜の公任だ。
 端正な顔つきといって良い。感情をやたらに表に出す斉信とは違って、常
に冷静沈着、機に適って的確な意見を述べる進路指導のホープでもある。
 行成と似通ったところもあったが、決定的に違うのは、その表情に翳りが
無いといったところであろうか。
まあ、行成の場合、陰翳の有るところが秘かに女生徒たちの母性本能を擽る
所ではあるのだが。もっとも、本人は全くその辺の魅力を意識していない。
だから、斉信にからかわれるのだ。
「その年で糖がおりてちゃ実資先生の年には、棺桶に足突っ込んでますよ」
 そう言う公任の視線の先には斉信がいた。
「は〜、一体誰に向かって仰ってるのかと思ったらわたしにですか?!
どうしたらそういう発想になるんでしょうかね。自慢じゃないですが、健康
にはかなり気を遣ってるんですから」
 自信たっぷりに言う斉信に向かって、公任の眼差しは冷たい。
「たまには頭も使ったら如何ですか」
 小声で言った一言が地獄耳の斉信に聞こえないはずがなかった。
それともそれを狙って言ったものなのか・・・
 白熱の舌戦へと続く(危うし!リレーのリハーサルは出来るのか??)
 
             (四)
「・・・先生、実資先生? 大丈夫ですか?」
 公任と斉信が不毛な舌戦を交えている間に、朝礼台の階段に腰を下ろして
蹲(うずくま)ってしまった実資に、行成が声を掛ける。
 九月とは言えまだ残暑の陽射しが厳しい中、このような外の集まりでは、
年寄りの体調に一番気を遣う。
 長老(失礼)の実資先生に何かあって責任を取ることになるのは、
この会を主催した行成だ。
「・・・おおっと、寝てたわい。で、もう終わったか?」
 心の中では─ォィォィ!─と思いながらも、決して顔には出さない行成。
「申し訳ありませんが、まだこれからです」
「よく寝たと思ったが、まだそんなんだったか。日陰で寝てくるから終わっ
た頃に起こしてくれ」
(えっ?・・・ってあんたそれじゃ何しに来たの?)
 何も言う間も与えず木陰へ移動する実資。
とにかく年寄りは言い出したら聞かない。
 学生たちにはさんざん”居眠りするな!”と言いながら、自分は構わない
らしい。・・・と言うか、寝るくらいなら最初から練習に来るなよ!、実資を
追う行成の眼差しがそう訴えていた。
(却って長老がいないほうが、話を進め易いのだから、まあいいか・・・)
 何もしていないのに時間ばかりが押してくる状況に流石に焦りを感じる行
成。公任と斉信の小競り合いを押しとどめるだけで10分も費やしてしまっ
た。
(やれやれ、漸く競技の説明に入れる)
 そう思う行成の肩を掴んだのは、レベルA私立文系選抜クラスの経房だっ
た。
「ねっ、これ終わったら代官山までつき合ってくれないかなー。
最近一押しのカクテルバーを見つけたんだ。もちろん女史たちにも声掛けて
あるからさ。君が来るって言ったら他にも何人か誘うってさ」
(人の予定聞く前から決めるなよ・・・)
 少々むっとしながらも、この時期行成が何も予定を入れていないことを知
っている経房には、そうそう嘘は通用しなかった。
 どうしてこの男は、凡そ現在の問題とはかけ離れた事を言ってくるのだろ
う。まあ、それは他の先生方にも言えることだが。
「今はそういう話じゃなくて、競技の説明を・・・」
「そういうって、どんな話? 経房先生何の話です?」
 ここでまた一人わけの分からない奴が介入してきた。
 一般私大理系クラスの方弘だった。
方弘といえば、先頃学内菜園で育てられていたエンドウ豆を、物理室で勝手
に調理したといって問題になった先生だ。
 この豆は、生物の生昌先生が突然変異の論文のために丹誠込めて育ててい
たものだったのだ。
 方弘の言い分はこうだ。
『だって、書いてあったじゃないですか・・・ご自由にお取り下さいって』
 確かにそれはそうなのだが、自由に取って良いものはその札の下にぶら下
がっていた小さなビニール袋。エンドウ豆の種だった。
 統計データをもっと増やすため、学生たちに協力して貰う作戦。
無事育ったら食べることも出来るんだよ、という一石二鳥の美味しいサンプ
ル獲得作戦の筈だった。それなのに・・・
 ある日菜園を覗いた生昌は、色を失った。
きのうまでそこにあったC群のエンドウ豆が、ほとんどない。
ない、無い・・・どこを探してもない・・・
 ああ、きっと親思いの子キツネが、病気でエサの捕れない母キツネのため
に運んでいったんだな(ォィ)・・・と思って半ば諦めかけていたところへ、
『やあ、生昌先生。豆を炊くのは意外に難しいですね』
と言って、自分の作った豆料理を持ってきたのは方弘だった。
 ・・・書くだに恐ろしいことになったのは、言うまでもない。
 説明が長くなってしまったが、その方弘が彼である。
 未だ何も始まらないうちに、頭痛がしてきた行成であった。
 ますます事態は混乱を呈する。
 〔本当にリレーの話を書く気が有るのか作者・・・?〕
 
             (五)
「方弘先生にはあまりご関心のないことですよ」
 茶々を入れてきた相手を見もしないで、素っ気なく言う経房。
「それより生昌先生の豆は順調ですか? 実験のお手伝いをなさってるとか」
 其処まで責めたら気の毒だ。
でも、そのお陰で方弘は静かになった。
 こちらが鎮まればあちらが騒ぐ・・・
 先程一端落ち着いた斉信and公任コンビ(?)がまた何やらうるさい。
 
「・・・ですから『嵯峨物語』*の序文にそうあるんだから仕方ないでしょう。
何もわたしが言った訳じゃないんですから」
「そういう怪しい本を読んでること自体が、生徒に悪影響を与えるのですよ」
「プライベートでどんな本を読もうとわたしの勝手じゃないですか!」
「だからといって、授業中に”高野六十、那智八十”*って話まで飛躍するの
は如何なものでしょうかね」
「その部分しか言わないからおかしな事になるんですよ。誤解を招くような
言い方は止めて下さい。そもそも政権争いに色恋沙汰はつきもので、頼長し
かり、頼朝しかり・・・」
「苦しい言い逃れですか。それなら、もっと普通の恋愛を語ったらどうです。
誤解を招く言い方をするのはそちらでしょう? あなたのような妄想まくっ
た思考で、神聖な歴史を語らないで欲しいものですな!」
「妄想まくって悪かったですね。さぞやあなたの思考は清廉潔白なんでしょ
うよ。 ああー、そう言えば馬術部の内侍あやめが部室で泣いてたって聞き
ましたけど。 公任先生、馬術部の顧問でしたよね?」
「・・・一体何を・・・」
 そこへまた一人トンデモ無い人間が口を挟む。
「何、なんだって?」
 あー、一番出てきて欲しくない人間がこの件に乱入してきてしまった。
 道長である。道長は特殊技能開発プロジェクトに携わる、三年生の学年主
任であった。
内侍あやめの優れた感性に注目して、歌詠みのエキスパートに育てようと最
近ひそかに補講を繰り返していたのだ。
 だが、それは表向きの理由で、彼女に接近してたのは恋愛感情からだと、
学内では専らの噂だ。
「公任先生、多感な生徒に何をしたんですか!?」
 道長の語気は荒い。
「・・・な、何もしてませんよ。斉信先生でもあるまいに・・・」
「で、どうして其処にわたしの名前を出す必要があるんです!
名誉毀損も甚だしい!!」
 斉信までひどい剣幕で詰め寄る。
危うし公任。 
「あ〜、皆さん・・・これをお二人にお渡しするよう、言付かってるんです
がなー」
 そこへ現れたのは天然を遙かにしのぐ、強烈なパフォーマンスで隠れたフ
ァンを持つ顕光。前衛美術科の教師だった。
「リレーのリハで二人に会うかもなー、って言ったら、内侍がこれを渡して
下さいって、言うんですよ。 内侍はうちの科の生徒なんですがね」
 ああ、そうだった。確かに内侍あやめは物好きなことに(?)顕光のクラ
スの生徒であった。 顕光が手にしているのは”鳳仙花”の花。
(って、内侍は何でそんなもの周到に用意してるんだ・・・)
「どういう意味ですか?」
 同時に尋ねる公任と道長。
「・・・”わたしに触らないで”・・・」
 後ろから聞こえた囁き声に驚いて振り向くふたり。
意外にも声の主は心理カウンセラーの俊賢だった。
「え・・・、今何と?」
「鳳仙花の花言葉は”わたしに触らないで”ですよ。ま、そう言うことです。
あ、これ、行成先生に頼まれてた本。返すのはいつでも構いませんから」
”そう言う事って、どういう事なんだ?”と更に聞きたげなふたりを残して、
用件だけ伝えると、そそくさとその場を後にする俊賢。
余計な騒動に巻き込まれてはたまらない、といった感じだ。
 唖然とするふたりの横に佇む顕光の手には、真っ赤な柘榴。
「実は、自分にも貰ったんだけど・・・これにも意味があるのかな」
(少しはこの会の主催者を、気にしてくれたらどうなんだ?!)
 行成の頭痛は本格的になってきた。来年は絶対こんな役引き受けないぞ!
そう誓う。
 もうこうなったらヤケクソだ。
「ペルセフォネですよ。ギリシャ神話の」
《一粒のザクロを口にしたために、一年の半分を下界で暮らさなくてはなら
なくなったゼウスの娘》
 珍しくぶっきらぼうに言い放つ。
「は? 行成先生なんですと?」
「”愚かしさ”・・・」《ザクロの花言葉》
 言葉少なに教えてやったのは、先程へこんだ世界史の公任だった。
「・・・じゃこれは・・・何・・・」
 段々声が弱々しくなったきた顕光が差し出した花を見て、どこから湧いて
出たのか(失礼)生物の生昌が言う。
「そりゃ、ユリ科ホトトギス属の”ほととぎす”ですよ」
(花屋かここは・・・)
「ああ、その花言葉なら知ってますよ。 ”永遠にあなたのもの” 
ひょっとして私にですか?」
 どこまでも自分中心のお気楽斉信は、立ち直りが早い。
それを木っ端微塵に否定する顕光。
「行成先生にって」
 皆の視線が、一斉に行成に集まる。
 人なつっこい笑顔と篤実な性格は、世を欺く仮の姿なのか?!
(もう、どうにでも言ってくれ!)
 
 絶対この話を、まともに終わらせるつもりがないなー・・・作者。
 無限ループの駄話は、まだまだ続く・・・(続くのか?)
 ところでリレーの話はどうなった?
 《*『嵯峨物語』 ; 近世初頭成立の所謂”稚児物語”。
    弘法大師から義政に至るまで、連綿と続く男色の系譜を書き連ねる。
  *”高野六十、那智八十” ; 高野山の僧侶は60歳まで熊野の験者は
   80歳まで男色に耽ると言う意味。 ^^;;》  不毛な説明ッス(-_-;)
   
             (六)
 こんな下らない遣り取りをしている間に、時は容赦なく過ぎ去っていく。
日中の陽射しはきびしいとは言うものの、季節は秋。
 日の入りは確実に早くなっていた。
山の端に向かう太陽を見ながら、溜息をつく行成。
皆の予定を調整し、何とか厳しい時間の都合をつけてこの会を主催したのに
事態はドンドンあらぬ方向へと向かっている。
 ”走る”ために集まったという当初の目的を覚えている人間は居ないのか。
(一体どうしろって言うんだ・・・)
 その時突然、皆の後ろから大きな声がした。    
「皆さん何しに集まったんですか? この場で成すべき事をサッサとやって、
早く持ち場に帰った方が賢明じゃないんですかね。ほらもう夕方ですよ」
 行成の気持ちを代弁してくれたのは、意外にも非常勤講師の則光。
 則光は地理の非常勤講師であったが、今ではむしろ海草の研究家としての
方で有名だった。
 元々は好物であるワカメについてもっと知りたい、という単純な欲求から
始めた研究であったが、ワカメからダイエット効果の高い特殊な成分を抽出
することに成功した結果、何時しか人々の注目を集めるようになっていた。
 今では誰もが知っている(?)ワカメ博士である。
 
「この場に集まった一番の理由を忘れてしまうなんて、困った人たちだな〜。
もっとワカメを食べて脳味噌を活性化させないと・・・ハハha」
 最後はいつもワカメの話に帰結した。
「ワカメ、わかめって、ワカメだけ食べてりゃいいってもんでもないでしょ」
 そう言ったのは、同じく非常勤講師の惟仲だった。
 彼は、現国の講師である。そして、生物の生昌の兄。
市内の中高を現在5校掛け持ちで廻る忙しい非常勤講師であった。
 弟とは違いなかなかに要領が良く、県の教育委員会の人間に取り入ること
が上手い。 そんなわけで非常勤講師の仕事にあぶれることはなかった。
しかも、美味しい仕事(非行の嵐が吹きまくっていない)ばかり。
 非常勤講師までリレーの練習に呼んだつもり無かったが、この際行成に見
方してくれる人間なら誰の意見でも良かった。
「ワカメを馬鹿にしてますね。そりゃワカメだけを食べるのは確かに苦しい
ですけど、それでもワカメを全然食べないことに比べたらどれだけ有意義な
人生を送れるか。ワカメは人の人生さえも左右しかねんのですよ」
 満面の笑顔で、得意げに話す則光。
 それに引き替え、見るからにげんなりした顔をしているのは惟仲であった。
惟仲は大の海草嫌いである。
「二言目にはワカメの話。それだから、県の教育委員にも受けが悪いんです
よ。 ”ワカメ馬鹿”って言われているのをご存じ無いんですか?
気楽な人だ」
「気楽じゃないですよ! ワカメの成育には気を遣うんですから。
人間よりデリケートなくらいですよ! 教育委員に媚びを売ることばかりに
気を遣ってる貴方にはわからんでしょうがね」
「誰が媚びを売ってると!! 証拠でもあるんですか!」
「中定中学の採用を代わって貰ったそうじゃないですか。出産予定の先生に
代わって入ることになってたんでしょ? 他に回して貰う当てがある人は
良いですよね。 私なんて自分に正直なんで、あてがわれた仕事を真面目に
こなすだけですよ」
「中定校の話がどうして媚びを売ることに、関係があるんですか!!
あの話は他校の授業日程との兼ね合いでお断りしたんですよ!!
言いがかりも甚だしい」
「そんならまあ、そう言うことにしておきましょう」
あっ、こんな時間だ・・・じゃ・・・」
「逃げるつもりですか。どちらが正しいかハッキリさせようじゃないですか。
それとも手っ取り早く不用意な発言をしたと、認められます?」
「誰も不用意な発言とは思ってないでしょう。 ねっ、行成先生?」
 引っ張りに引っ張った、ふたりの会話の挙げ句の果てに振られた先は、や
はり行成。
(どうして、リレーの練習をさせてくれないんだ!!)
 ほとんど諦めムードで、皆に背を向けて呟く。
 その時聞こえてきたのは、まさに天の声。
「・・・とにかく、一度くらいは走ってみませんか」
だが、その人物を見て余り期待しない方が良さそうな予感が・・・
 司書教諭の公季だった。
 この仕事は脳天気な公季にとっては、願ってもない仕事。
大義名分をかざしては、好きな読書に明け暮れる毎日であった。
しかも、この学校は歴史有る私立の有名校だけあって、貴重な文献も数多く
所蔵している。蔵書数でも目を見張るものがあった。
(この人間に言われて走る人間がどれだけいるんだろうか・・・)
 再び後ろを向いて、傾きかけた陽を眺めながら溜息をつく。
しかし、次ぎに振り返って目に入った光景に唖然とした。
 何とグループに分かれて並んでいるではないか!!
 流石、公季! 年の功か・・・
やっとみんな走る気になったのか?
本当にリレーをすることが出来るのか?!
 その結果や如何に?
 怒濤のリレーリハは更に続く・・・