即座の承諾

塾長 東 憲治

 納先生に講師の依頼にお伺いしたのは、75日の午後であった。津田教頭から事前にアポイントはとってもらったが、繁忙を極めておられる先生の毎日は、日ごろから幾重にも聴いているので、今日時間を割いていただくことだけでも申し訳なく思えた。

 教授室に入ると、私は、挨拶もそこそこに身勝手なお願いをした。しかも、期日を727日の午後と限定した、非礼極まりないお願いである。

 先生は、満面の笑顔を浮かべながら、丁寧にこの無礼者の話を聞いておられたが、すぐに懐から手帳を取り出し、スケジュールを確認される。

 「甲南塾の趣旨には、感動しますね。すばらしい企画です。エートー??27日はあいにく○○学会の予定があります。が、これは○○大学の先生にお願いして、私は甲南塾に出ましょう。若い人のモチベーションを高めることは、今一番大事なことです」

 この間、私はただ祈る気持ちで先生の口元を見つめていた。だから、最後にはどんな言葉で教授室を辞したのか覚えていない。桜ヶ丘を下るタクシーの中で、馬場教頭と思わず握手したことを思い出すだけである。

 その二日後、私は手術のため入院した。

 納先生の感動的な講義の模様は、その夜多くの先生方が病院へ報告に来てくださった。尾之上先生の、「今日出席した生徒たちは幸運です。私も、今からでも医学部を受験したくなるような感動を覚えました」という一言は、私の想像をたくましくし、一晩中異常な興奮で眠れなかった。

 翌日、宮園生徒会長も病院に駆けつけ、額に汗しながら、私にとって何よりの励みとなるうれしい話をしてくれた。

 「皆がよく動いてくれました。燃えています。甲南塾は成功です」