ターミナルケアと尊厳死
日本尊厳死協会かごしま
名誉会長 内山 裕
2008年10月
鹿児島大学医学部学生講義
講義の概要
1,「死」のかたち
西行法師の和歌や、良寛の句に覧られる、死生観。奈良斑鳩の里の吉田寺、腰巻
祈祷の寺に覧られる、庶民のポックリ信仰。最近になっておきたPPK運動、更に癌
死願望。
2,日本人の平均寿命
医学の進歩は、日本人の平均寿命を世界1位と、恩恵をもたらしたが、反面、あまり
にも進んだ延命措置は、人生の末期にかえって苦痛を強制し、尊厳ある生を冒す場
面も多く覧られるようになってきた。
3,死亡場所
病院死が81%を占め、癌だけに限ると93%が病院死。現在の日本の医療システム
は、治癒改善して、社会復帰できる患者のために整えられており、死にゆく患者の為
ではない。どれだけ多くの患者達が、惨めな思いの中で死んでいっただろうか。どれ
だけ多くの家族が傷ついてきたのだろうか。
4.医療の人間化
★ライフスタイルの変革とパートナー ★収容施設でない生活の場
★心に串が刺さった者と書く患者 ★手と目で出来ている看護の看
★手当て・目線・声かけ・スマイル ★医学は、理系か、文系か
★トルストイ「生まれてから一度も病気をしたことのない人を友人にするな」
5.カレン裁判
1976年、安らかな死を求める権利は、基本的人権であるとして、勝訴。
生命維持装置の取り外しを認めた、世界初の判例である。 患者の人権運動。
6.リビング・ウイル(尊厳死の宣言書)
1.私の傷病が、現在の医学では不治の状態であり、既に死期が迫っていると診断さ
れた場合には、徒に死期を引き延ばす為の延命措置は、一切お断りいたします。
2.但しこの場合、私の苦痛を和らげる措置は、最大限に実施してください。
3.私が数ヶ月以上に渉って、所謂植物状態に陥ったときは、一切の生命維持装置
を取りやめてください。
7.尊厳死運動の広がり
8.東海大学病院事件と横浜地裁判決
9.尊厳死と安楽死
10.医療現場の苦悩と尊厳死法制化
11.各種世論調査と厚労省公表の「終末期医療の指針骨子」
12.問われる死生観
1,「死」のかたち
西行法師、良寛に流れる死生観、庶民の中にあったポックリ信仰。最近になっておきたPPK運動、更に癌死願望の声。
2,医学の進歩とカレン裁判
あまりにも進んだ延命措置は、尊厳ある生を冒す場面も多くみられるようになった。
カレン裁判の判決は、生命維持装置の取り外しを認めた世界初の判例である。
3,尊厳死と安楽死
尊厳死とは一個の人格としての尊厳を保って死を迎えること。近代医学の延命技術などが、死に臨む人の人間性を無視しがちであることへの反省として認識されるようになった。一方、安楽死とは、助かる見込みのない病人を苦痛の少ない方法で、人為的に死なせること。
4,東海大学病院事件と横浜地裁判決「医師による積極的安楽死が認められる四条件
1,耐え難い肉体的苦痛 2,死が避けられず、死期が迫っている
3,他に代替え手段がない 4.患者の明示の意思表示があること
5.医療現場の苦悩
尊厳死の希望を容れて、延命治療を中止した医師が罪に問われることがないように尊厳死立法化が必要である。
6.認知症の記憶障害
1.記銘力の低下・・・話したことも、覧たことも、行ったことも、直後には忘れてしまう
程の酷い物忘れ。同じ事を繰り返すのは、毎回忘れてしまうため。
2,全体記憶の障害・・・食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。
3,記憶の逆行性喪失・・・現在から過去に遡って忘れていくのが特徴。昔の世界に戻っている。
7,認知症の感情残像
1, 言ったり、聞いたり、行ったことはすぐ忘れるが、感情は残像のように残る。
2, 理性の世界から、感情の世界へ。(褒める、感謝する。謝る、事実でなくても認める)
3,お年寄りが形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実とのギャップ
を感じさせないようにする。
8.衰弱の進行と終末期
1,認知症のお年寄りの老化の速度は非常に速く、そうでないお年寄りの約3倍。
2.認知症の高齢者の場合、ターミナルでは、疼痛や不安、恐怖感は少ない。穏やか
で、最終的には静かに亡くなる場合が多い。