思うこと 第86話           2006年5月4日 記       

メイヨークリニックの講演に呼ばれた感激 

私にとってメイヨークリニックで過ごした3年弱の留学生活はかけがえのない大切な思い出の一つである。そして、エンゲル先生は、私に研究者としてのあり方を教えてくださった、私の人生の恩師である。
そのエンゲル先生から『メイヨーに脳神経外科と脳神経内科が設立された100周年記念の講演会があるので、演者として参加してくれないか』とのお手紙をいただいた時の感動は、背筋がゾクゾクするような、身震いするような感動であった。
最終的なプログラムをみて、4日間にわたる講演会で口演 (oral presentation) の演者に選ばれたなかで、日本人の名前が私一人である事を知ったとき、大変な重責をおったと思ったのであった。
私の口演は5月4日(初日)の一日全日かけて行われた『ディック先生とエンゲル先生の功績を顕彰するシンポジウム』(下のポスター)の演者の一人として呼ばれたものであった。
 

ディック先生もエンゲル先生もどちらもお歳は77歳ぐらいであるが、お二人ともいまだに現役の、そして世界最高峰の研究者として世界の脳神経内科をリードされ続けておられる先生である。その、お二方が最前列で聴いておられる会場で、演題にたった緊張と感動は、いかばかりであったか!



私は、いつもの様に、まず鹿児島の美しい風景の紹介で話はじめた。
そのとたんに、予想通りの感嘆の声があがった。
この写真を私自身がヘリコプターから撮ったものであることもつけ加えさせてもらった。

引き続き、この美しい町にエンゲル先生がこられた時の写真を示した。


この事がきっかけで、メイヨーへの留学が実現したと話し、

このスライドを出したとたん、期待通りの感嘆の声があがった。


次に、研究室で行った当時の留学生の我々3人による出し物の写真を出したところ、これまた大うけで、世界の最高峰の先生のお一人として今も現役で活躍しておられ、この日も聴衆のなかにおられたレノン先生が、我々3人の仲良しグループに『 3 MUSUKETEERS 』すなわち三銃士のニックネームをつけてくださったことを紹介したことも受けたが、


私の留学生活最後の日にエンゲル先生がとられたポーズに満場の拍手がわきあがったのであった。まじめ一筋で、決して冗談をおっしゃらないエンゲル先生は、メイヨーでは石部金吉の典型的人物で有名であったので、エンゲル先生のこのポーズの意外性が受ける事は、もちろん、想定の範囲内の出来事であったのである。

ここで私は、

いかにメイヨーで先生から教わったことが私のその後の人生で大きな意味をもっていたかということを話し、中でも、患者さんの臨床を大事にして、その中から難病の原因解明の糸口をさがすことの重要性を教わった事を話したのであった。そして、メイヨーから帰ってからも、その気持ちを忘れずに、難病の病態解明を治療法の研究と取り組んできたことが、HAMをはじめ多くの難病研究に役立ったことをつけ加えたのであった。

この前置きのあと、次のスライドから本論に入った。

私に与えられたテーマは『コラーゲン6の異常でおこる筋ジストロフィー』であったが、この世界を驚かせた大発見が、臨床の現場での末原雅人君のするどい臨床観察と、卓越した研究者の樋口逸郎君をはじめとした若者達の共同作業から生み出されたことを紹介した。

この後、次々と我々の教室から出されたこの病気に関する多くの論文を紹介した。まず、

樋口君が遺伝子異常をついに解明したこと、

新山尚仁君による2つの発見の話、すなわち、電子顕微鏡での異常所見( Acta Neuropathol 2002 )と筋肉内血管の異常( Acta Neuropathol 2003 )の紹介をし、さらに、次の3つの論文の紹介をした。

すなわち、樋口君により2002年に報告された病理学的詳細な所見、胡 静先生(中国からの留学生)によるフィブリノネクチン受容体減少の発見、東 桂子君によるプリテオグリカン表現異常の発見について紹介した。そして、最後に、

臼杵 扶佐子君のこの論文を紹介した。これは、この病気の治療法の突破口になるばかりでなく、他の難病の治療法の足がかりをも提供した画期的な発見であり、私も胸を張って紹介させてもらった。

話の締めくくりのスライドは、エンゲル先生がこれを出してごらんと言って渡してくれた京都での写真を使わせてもらった。

わきおこった大きな拍手が、この最後のスライドによるものか、講演の学術的内容によるものかはさだかではないが、ともあれ、大成功の講演であった。

座長が質問はないかと言ったのに手をあげたのが何とレノン先生で、『質問ではなく、一言Mitsu(私のニックネーム)の紹介を追加する。Mitsuは大学時代に自転車で日本縦断の無銭旅行をしたツワモノですよ!』と言ってくれたのであった。

講演が終わって、多くの人から『Excellent talk !』と言われ、エンゲル先生が満面の笑みで、『いい話だったぞ!』と言ってくださった事も嬉しかったが、有村助教授、樋口講師をはじめとして、紹介させてもらった教室の若者達の努力が、神経学最高峰のメイヨーで評価を受けたことが、何よりも嬉しい事であった。