思うこと 第30話        2005年3月20日記

リーダーのあるべき資質 ーその7ー
ー 堤義明氏を論ず ー


堤義明氏が証券取引法違反容疑で3月3日に逮捕されて以来、新聞や雑誌の報道は堤氏を“堤容疑者”として、遠慮のない過去の罪状暴露に走っている。堤義明氏は、かって米経済誌「フォーブス」に「世界一の大富豪」として幾度もとりあげられ、西部グループの総師として40年間君臨してきただけに、この突然の暗転は、平家物語ばりの“世の哀れ”を感じずにはおれない。ただ、私がこの1年間、このHP上の
「思うこと」の項で6回にわたって論じてきた「リーダーのあるべき資質」に追加するのには格好の役割をになっていただけそうなので、あえて、とりあげさせていただくことにした。 堤義明氏こそは、私が「リーダーのあるべき資質」「その1」から「その4」にわたって論じた pM > Pm 論における Pm 型の典型だからである。 部下の意見を聞く耳を持たないどころか、絶対的独裁体制のもとに、組織内の全メンバーが堤義明氏の一挙手一投足に戦々恐々とする状況下で、「その5」でのべたようなかたちで組織の活力は失われ、業績は下降線をたどっていった。 バブルの崩壊という不可抗力ともいえる逆風に曝されたとはいえ、それに対応する手立ては幾つもあったはずであるが、本人にその能力がなかったのは仕方なかったにしても、対応策を提言する勇気のある部下もいなかったし、もしいても、即座におしおきを受ける様な状況であったようである。左の写真の本は、堤義明氏の父・西部グループ創業者堤康次郎氏の側近中の側近であった今は亡き中嶋忠三郎氏が生前に出版しようとして、堤義明氏の買占めでついに世に出ることのなかった幻の“発禁本”が、今年の1月にご子息中嶋康雄氏の執念でついに出版にこぎつけることが出来ものである。 これを読んで思ったことは、心底からボスの康次郎氏に心酔し、大事な局面では身を挺して提言する中嶋忠三郎氏という腹心の部下をもったこと、これは、偶然いい部下にめぐりあったというよりは、このような部下を大事にしたボスの康次郎氏も偉かったといえよう。康次郎氏の成功の多くが中嶋忠三郎氏の働きによるものが少なくなく、ボスの幾たびかの危機を救ったのも氏の尽力によるところが大きいことは多くの方々が認めるところである。一方、義明氏には、中嶋忠三郎氏のような腹心がいなかた。というより、腹心を作ろうとはせず、文字通り、孤独な独裁者の道を選んだ。唯一、腹心ともいえる部下は、義明氏の麻生中学校時代からの友人で弁護士の森田武男氏(70歳)のみであるかと思うが、その森田氏でさえも、ボスの先日の極めて重大な゛判断ミス”としか取れない決定に、「殿、それだけはお止めください」と言うべき立場にあったのに、言えなかった。義明氏の周囲で反論や提言など出来ない世界であったとしか考えられない出来事であった。私が言っているその出来事とは、去る2月19日に、西武鉄道の小柳社長が自殺したが、この自殺は、すでに検察とのやりとりなども含めた予期せぬ一連の出来事で精神的に疲労困憊していた義明氏を、精神疲憊の極地に追いやり、氏は殆ど茫然自失の状態におちいっていたという。 この、精神的な虚をついて、コクド(再建委員会)側は義明氏に再編計画案の受け入れを迫り、義明氏はそのような精神状態の中で、これを了承したという。これは、義明氏の利害だけからいえば絶対に拒否しなければならないことで、事実、その直前まで、森田弁護士を代理人に立て、この再建案には断固戦う姿勢でのぞんでいたのである。この「財産権を侵すようなやりかたには賛成できない」という森田代理人の主張は司法からも受け入れられる可能性が高かった。それを、森田氏でさえも「親分、ダメですよ」と提言することが出来ない空気が出来ていたことが、結果として義明氏の自殺行為にも等しい決定を止めることが出来なかったことにつながった様に思う。もっとも、義明氏の実弟堤猶二氏に引き続き、義明氏が逮捕された3月3日の正にその日に、異母兄弟の堤清二氏も名義株の名義人ではないかと見る西武グループの幹部らを相手に「持ち分確認訴訟」を起こし、さらに3月8日には猶二氏が、コクドの大野俊幸社長とプリンスホテルの山口弘毅社長をコクド株の横領罪で告訴しており、これらが認められれば改革案は根拠を失うことになるので、今後の展開はこの判決を待つこととなったようである。 今回ここでは、私は、西武グループにからむ今回の問題そのものを論ずるつもりはなく、リーダーシップのあり方に的を絞って堤義明氏を論じさせていただいた。