思うこと 第29話   2005年2月18日 記

若い時の仕事は質より量

 今、徳島大学の学生講義のために来た徳島のホテルでやや興奮しながら書いている。来る途中、空港で出会った本に我が意を得たりと感動しているところである。その本は、
日経ビジネスAssocié
で、表紙に大きく
『人の倍の仕事をこなす「ニューハードワーク術」、仕事は「量」で決まる! とうたってあったのだ。『人の倍の人生』をモットーに生きている私がその本を買わない訳がない! その中で、マネックス社長の松本 大氏が「若い頃は1日14時間しか働けなかった」のタイトルで語っている内容がすごい。氏曰く、『社会人になって5年。そろそろ一人前という見方をするより、小学校5年生くらいに思っていたほうがいい。小学校1年生よりは大人だけど、中学生から見たらまだ子供。社会に出て少なくとも9年間くらいは、義務教育期間のようなもので、ひたすら目の前の課題に没頭する時期だ。義務教育の間は「何でこんな勉強をするのか」なんて疑問を持っても答えなど出てこない。でも、ここで勉強をやめてしまったら、その後のより高度な勉強はあり得ない。かく言う僕も、仕事を始めた頃は隣の芝生が青く見えたことはある。でも、ある時ふと気づいた。「僕の目の前の芝生はとんでもなく広いじゃないか。まずはこれを刈ってからだ」と。 −中略− 人間のもともとの能力に大きな個人差なんてないというのが僕の持論だ。昔は修行が足りなくて1日14時間しか働けなかったが、今はもう少し働ける。こうやってひたすら経験を積むことで、自分の成長を実感してきた。より多くの経験ゆえにより適切な解が得られるわけだが、多くの人はそう考えない。「あの人は能力が高い。少し高いポジションを与えよう」と考えてしまう。結果、大きな責任と裁量を持ち、よりハイレベルの経験が積める。そうして経験とキャリアが相互に作用して太っていく。仕事よりもプライベートを大切にしたいという生き方は、それはそれでよいと思う。ただ、僕にはプライベートを犠牲にしているという意識はまるでなかった。理由は簡単。仕事が好きだったから。もしあなたが目の前の仕事が好きでないなら、好きになればいい。好きになれる仕事を見つけるなんてまどろっこしいことを言うより、こっちの方が断然手っ取り早い。では、どうすれば好きになれるか? 好きだと思えばいいだけだ。 以前、飛行機の機内放送でたまたま聞いた落語で、桂枝雀(しじゃく)さんが言っていた。「落語家が何か面白いことを言ったら笑ってやろうというのは間違った態度ですよ。面白いから笑うんじゃなくて、アハハと笑っているうちに何だか知らず面白くなってくる。そういうようなものなんですよ」。 いや、冗談抜きでこれは真実だ。この仕事は面白い、好きだと思っているうちに本当に好きになる。僕たちは皆、人間を万物の霊長たらしめる立派な脳を持っているのに、これを迷ったり何かを嫌ったりするために使うのはもったいない。何かを好きになって没頭することに使うほうが何倍も楽しい人生だと思う』、と。 私はこの松本 大氏の言葉に、震えるほど感動した。 私が日ごろ思っていて、うまく表現できずにいたことを、ものの見事に言い尽くしていただいた、と、感動したのである。若い頃の私は、昼間のハードな仕事が終わり次第、神経難病の治療法を目指して実験にとりかかり、もっと実験を続けたいけど、寝ないと明日の仕事の能率に差し支えるからと午前1時には家に帰り、遅い夕食をかっ込んでそのまま寝るという生活を続け、実験が佳境にさしかかると、ついつい土日などは48時間以上も寝ずに実験を続けることもあった。当時、私は、頭は悪いが、体力だけは自身があると言っていたのを思いだす。 松本 大氏の言葉は、私の眠っていた心に、今一度火を付けていただいたような気がする。 私はまだまだ若者でいたいので。