個人的出来事 第35話        2006年2月23日 記

アラスカ旅行 ー追記 その1− 

アラスカに広がるspruce treeについて


今回のオーロラを求めてのアラスカ旅行ではオーロラの影に隠れて目立たなかった、
“影の主役”の 
spruce tree について語りたい。

カメラをオーロラに向けても


チェナの丘の山頂でも


チェナの雪山にカメラを向けても


フェアバンクスの民家を撮影しても


アンカレッジの海と雪山を撮影しても


アンカレッジの山にカメラをむけても


常に、写真に写っている木があった。

『この木何の木、気になる木』というわけで、
フェアバンクスでタクシーの運転手に聞いたところ、「この木は pine tree だ」とのこと。
ええっつ!!??、“松の木”だって!!??

この地に住んでいる日本人に聞いたところ、
「この木は、spruce といいます。日本語では、トウヒです。」とのこと。
漢字でトウヒはどう書くのか聞いたが、憶えていないとのこと。

家内が持ってきていた小さな辞書でひいたところ
spruce: ハリモミ(材)、エゾマツ(材)としか書いてなくて、トウヒの文字はない。

日本に帰ってから大きな辞書で調べることにした。

帰国後、早速一番大きな英和辞典で調べてみた。

spruce: 〔植物〕 トウヒ《マツ科 トウヒ属(Picea)の常緑針葉樹の総称》
代表種:エゾマツ、アメリカハリモミ(white spruce)、クロトウヒ(black spruce)

フェアバンクスでタクシーの運転手が、「この木は pine tree だ」と答えたことの疑問は、ほぼ全面解決だ! spruceはマツ科だったのだ! アラスカでは松はspruceしかないので、pine tree と言えば、即、spruceなのだ! 一昔前まで鹿児島の飲み屋で酒といえば焼酎を指したのと同じなのだ! いろいろ検索の結果、アメリカハリモミは北米でも中央部以南、アラスカのはクロトウヒらしい、というところまで詰めることができた。

我が家の本棚で眠っていた樹木図鑑の存在を思い出した。

ずいぶん昔、蝶の食木のチェックのため買って、一回使ったのみで、32000円の本が永い眠りについたままになっていた!

早速、マツ科を開いた。何と、マツ科の木が50種類も載っていた。日本に存在するマツ科は、マツ属、カラマツ属、ヒマラヤスギ属、トウヒ属、ツガ属、トガサワラ属、モミ属、ユサン属の7つの属に分類されていて、トウヒ属は11種類あった。そのなかで、いちばん、アラスカでみたspruceに近いものは、エゾマツ(クロエゾ)であった。

しかし、この図鑑は日本にある木の図鑑なので、アラスカのものと全く同じとは限らなかった。そもそも、ラテン語の学名は Picea jezonensis となっていて、学名にエゾが入っているので、spruce のエゾ亜種と思われた。アラスカの spruce の正式の学名はこの図鑑では調べる事は不可能で、あきらめようと思った矢先、急展開、またもや全面解決した。私が、家内に、HPに spruce の事を追記で書くことを話題にしたところ、「あら、それだったら、私がアンカレッジの空港で、帰りの飛行機を待っている時、横にあった本屋によれよれのまるで古本みたいな、日本語で書いたアラスカ案内書が3ドル50セントで売っていたので買って読んだけど、あの木のことが書いてあったわよ」とのこと。家内が旅行かばんの中から見つけ出してきた本を読んで、感動した。

なんと、spruceについて、A4サイズで1ページ全面に亘って詳述してあった。学名は Picea mariana で、英語名は black spruce、日本語訳はクロトウヒとのこと。
(ここでも、トウヒはカタカナで書いてあり、国語辞典で調べ、「唐檜」であることが分かった。) さて、この本で初めて知った、アラスカの唐檜について、抜粋紹介して、この章を締めくくる。『北アメリカ北部の森林の殆どが、クロトウヒでなっていて、北の樹木限界線は通常、クロトウヒの北部限界線だ。それを超えると一面にツンドラが広がる地域となる。 クロトウヒは「取木」と呼ばれるクローン作りを行っている。その過程はこうだ。低く垂れ込めたクロトウヒの枝が地面に接触すると、接触点から新しい根の組織を広げ出す。この根が確立すると、元の枝は徐々に死に絶え、新しい幹が根から生成する。これがクローン作りと呼ばれるのは、新しい木は親木と遺伝的に同一であるが、種子から生まれていない為だ。取木によってクロトウヒは密集し、通常の耐久範囲をはるかに超えた環境下で生き延びる事が可能になった訳だ。 クロトウヒはこの他にも、厳しい北部の環境への適応能力を持っている。例えば、零下65度で何もかもが凍って弱まっている時にも生き延びる事ができるのだ。どうやってこれが可能になるのか? 生きている細胞の組織はすべて細胞で成っているが、細胞群には、細胞核とその他さまざまなものに加えていくらかの水分が詰まっている。この水分が細胞の中で凍ると細胞は死に、故に木も死に至る。クロトウヒはこれを防止できるのだ。非常に寒くなると、クロトウヒの細胞の水分は細胞壁を抜け、細胞と細胞の空間へと渡り、なんと細胞を損傷することなく凍結するのである。』
またひとつ、賢くなった気がする!
では、また、明日。
ああ