個人的出来事 第27話 2006年2月15日 記
オーロラを求めてーその5−
アラスカ4日目
2月14日は朝から曇りで、雲もやや厚く、神様は今日も厳しく我々を教育しようとしているように見えた。
それならと、私も部屋を出ず、大学から持ってきた仕事に熱中した。
夜になり、やっと雲が晴れ、星が輝き始めた。
ひょっとしたら今夜こそは、という期待と、今日も神様は試練をくれるのかな、という不安が交差した。
午後9時半には、まだ誰もいない観測地点に2台の三脚を立て、ひたすら待った。
しかし、この時点では、“この冬一番の(翌日土地の人々がそう言っていた!)”オーロラのブレークアップが2時間半後に起こることは、神ならぬ身、知るよしもなかった!
その天空を舞う光の乱舞のブレークアップは午前零時に幕を開け、
午前1時半まで息つく間もなく、一時間半にわたってくりひろげられた!
私はその間、感動と興奮の中で、観察のかたわらシャッターを押し続け、合計168枚の写真を撮影した。
この間、オーロラの光は揺れ動き、刻一刻形を変え、写真ではそれらのごく一瞬一瞬しか捉えられないとは言え、あの時の興奮を充分に伝えてくれている。
ここに、選りすぐった18枚を、動きの解説と共に伝え、感動と興奮を共有したい。
まず、午前0時ごろのスタートは東の雪山の上にカーテンの帯が静かに現れる事で始まった。
カーテン下部は緑だが上部はうっすらと赤紫色を呈していた。
後ろを振り返って見ると、カーテンの帯は西側の地平からも立ちのぼっていた。
やがて、帯の頂点はは北斗七星の下端にまで達していた。
ほぼ満月に近い月が冬の北極特有の低い位置で輝いていたが、カーテンは月光にかき消される事なく静かに、静かに揺れ動いていた。
この西の月に真向かいの、東に位置する雪山が鮮やか浮かび上がっているのも、この月光のお陰と思われる。
しばらくして、カーテンの光は輝きを増し、動きもすばやくなり始め、波うつ幅も大きくなってきた。
円弧の上部も光が強くなり、あるいは波打ち、あるいは複数の塊となって激しい動きとなった。
西側のカーテンも、さらに光が強くなり、激しく波打ち始めた。
カーテンの帯は、やがて、龍のように舞いはじめたかと思うと、
鳳凰のようにあやしく羽ばたいてみせ、
あるいは、天女の舞のように上空へと舞った。
さらに羽衣を左右に、そして天空へと広げ、
その衣は北斗七星をも包みこんでいった。
突然、真北の山際からすざましい勢いで炎が舞い上がった。
炎は燃え盛り、山際の炎の芯はものすごい明るさとなった。
炎は、さらに大きく左右に、そして頭上へと広がっていった。
左右を問わず、あらゆるところに炎は燃え広がっていった。
そして、頭上にも炎は渦を巻きながら燃え広がり、天空全体が緑の炎に包まれていった。
しかし、そこがブレイクアウトの頂点で、やがて炎は次第に弱くなり、
炎は午前一時半頃にゆっくりとフェードアウトしてゆき、一時間半におよぶオーロラ・ブレイクアップの一大ショウの幕は静かに閉じられた。
なお、撮影条件等は以下の通りである。
10mmの超広角レンズ(F3.5)装着のカメラ(CANON EOS 300D Digital)(全て、絞りF3.5、シャッタースピード30秒、ホワイトバランス 太陽光、感度400に設定)はL画質(1枚3.1MB)で80枚、もう一つの15mm魚眼レンズ(F2.8)装着のカメラ(CANON EOS Kiss Digital)(全て、絞りF2.8、シャッタースピード20秒、ホワイトバランス 太陽光、感度400に設定)はRAW画質(1枚7MB)で88枚、合計168枚撮影した。
RAW画質の88枚は帰国後処理が必要なため、L画質で撮影した80枚の写真のみ見てみたが、嬉しいことに全て満足のゆく出来栄えで、提示した19枚の写真は全てこの中から選んだものである。