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よい研究環境とは?

科学2003年3月号(73:263)

鹿児島大学医学部第3内科 教授 納光弘

 私が神経内科の分野に入ったのは、神経が好きだったからではありません。私は医療改革を目指した学生運動のさなかの1966年に医学部を卒業し、消化器内科や一般内科の分野を約5年間研修先を変えながら勉強させてもらいました。その私に一大転機が訪れたのは1971年の秋で、鹿児島大学に新設された第三内科の初代教授に井形昭弘先生が就任されました。縁あって、井形先生に面接していただける機会に恵まれ、その時、井形先生のお考えに感動し、弟子入りをお願いし、幸い入局させていただけました。結果的には、井形先生のご専門が神経内科であったため、それまで難しそうだからと避けて通ってきた神経内科の患者さんの診療にも携わることになりました。当時、神経疾患の患者さん方は、難病だから治りませんよと医療機関からいわれて、あきらめてしまって自宅に引きこもっておられる方が多いことから、井形先生の号令のもとで私が率先して鹿児島と沖縄県の全域で難病検診を行い、その方々の力になることに全力をあげました。「わからない、治らない、しかしあきらめない」の3ない科(第3内科)との井形先生の言葉通り、皆で一丸となり「目の前の患者さんの病気の原因を明らかにし、治すこと」を目標に頑張って今日を迎えています。まだまだ、目標の達成には程遠い状況ではありますが、それでも新しい病気の発見、病気の原因(病態)の解明、治療法の開発などで結構多くの患者さんのお役に立つことが出来ました。それらの仕事は、少なくとも毎年50を越す英文原著論文の形で教室から世界に発信されてきましたし、またそれらの仕事をした教室員の中から国内に10人を越える教授を誕生させることになり、彼らがまた井形先生の理念(井形イズム)をそれぞれの地から発信してくれています。 

 若者に一言お話したいことは、大学を卒業したレベルの頭脳さえあれば、目標をもって努力しさえすれば、無限の将来が君達の前に広がることを知ってほしいということです。あせらず、こつこつと、一歩一歩すすんでほしいと思います。「成せばなる、成さねば成らぬなにごとも、成らぬはおのが成さぬなりけり」という諺の通り、「1に努力、2に努力、3、4がなくても5に努力」です。こつこつ頑張れば、たとえ誰かに研究で先をこされても、いずれ、君にしか出来ない、オリジナリティのある仕事に出会います。ここぞ、という時は、何日か寝なくても、頑張った方がよい、というより、頑張ってしまうものです。ゴルフでいう、ゾーンに入ったときです。私が、新しい疾患であるHAMを発見したときも、その他の新知見の発見の時も同じような体験をしました。しかし、そのもとになったのは、日ごろの積み重ねだったと思います。功をあせらず、こつこつと、がんばってください。道はかならず開けます。

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