エッセイ 目次へ ホームページ トップへ

「清泉」第39号 p.29       (1989年 記)

『仕事と余暇』


今から十年余り前に、私はミネソタ州のメイヨークリニックに約三年間留学させていただいた。アメリカでの生活は、学問の上でも私にとって大きなものを得ることができたが、それと同じぐらい「アメリカの生活」そのものを学んだことも大きな意義があったと思う。
 週休二日制が完全に定着していて、且つ又、1年間20日間の休みがとれるというメイヨークリニックのシステムは私にとっては信じられない驚きであった。しかし、多くのアメリカ人が、その休みを充分に消化し、その中で家庭を大切にし、また結果的に仕事へのエネルギーも再生産している様子をみて、日本もいずれこの様になればいいと思ったことでした。しかし、まさかこれ程速いスピードで本当に週休二日制が日本でも実現するとは、その時には考えもつかない事でありました。
 ですから、今回、大学が週休二日制の試行をはじめた時、その実施に向けて、医局内で最も熱心な推進者となったのでした。週休二日制になれば、教室や各人の業績が落ちるのではないかと心配している人もあるが、私は全くその逆だと考えている。私の留学中は、ボスのエンゲル教授は日曜の午前中に教会に行かれる以外は、土、日でも平日と全く同様に夜中の12時まで仕事を続けておられたし、我々も休むのは全く自由でしたが、まさに気楽なスタイルで、自分のペースで仕事をさせてもらった。
 従って、あくまで仕事に全力をあげたことには変わりはないが、その合間をぬって結構家族で旅行やゴルフなど楽しむ事が出来た。結果的には「人の三倍仕事をし、且つ又人に二倍アメリカンライフを家族で楽しむ」という目標をほぼ達成することが出来たように思う。これも週休二日制あったればこそ出来たことである。今後、休みの活用法を知っている人間と、知らない人間でずいぶんと成長が異なり、結果的に格差が広がることが予想される。ともあれ、休暇を上手に活用して、充実した家庭と仕事を創り出していきたいものである。
(鹿児島大学医学部第三内科 教授)

エッセイ 目次へ ホームページ トップへ