魔女界にプロ野球チームを作ろう!!
第36話「大家の仕事は大忙し!!」

 匠は自分の住むアパートの大家になっていた。その仕事の合間に近鉄の元投手で日本人最初の大リーガー投手、野茂のDVDを見ていた。
ミーナ「野茂はトルネードで有名よ。それ、日本時代のDVDでしょう」
匠「そや。彼が大リーガーになったのは悲しい過去があったからや。まずは偉大な監督、仰木さんの近鉄退団。そして自己中心的な鈴木監督とのいざこざ。さらに鈴木監督の野茂に対したイジメ…。一番彼がつらかったのが立花龍司トレーナーの退団だったらしい。最初からわしは野茂は好きだった。高校の時に今言ったことを全て本で知ったんだ。かなりショックだったよ、野茂の日本時代の話は」
ミーナ「要するにその鈴木とかいう人のせいで近鉄は偉大なOBを失ったわけね」
匠「うん、野茂がメジャーに行ってから近鉄は弱体化したらしい。5年近く最下位だったかな?中村やローズ(巨人)が来るまではな…。あと仰木さんの偉大を痛感した。だって彼がオリックスブルーウェーブに移ってからイチローは生まれたんよ。そして、わしのお気に入り『がんばろう神戸』でペナント2年連続優勝したんじゃ。70歳を迎えた今もお元気でいるよ。だらけた近鉄を締めて欲しい」
ミーナ「ちょっと待って美菜の頭に?マークが浮かんでいるわよ」
匠「美菜には少し難しかったかな?」
ミーナ「そうよ、野茂が日本にいたのって10年以上前じゃない。神戸の大地震も美菜も私も知らないし、わからないわ」匠「仕方ない、あまり話したくはないが…。あれはわしが小学生の時じゃった」
匠は結局は話し始めた。

***

1月17日の朝、匠は学校へ行く為に居間で朝食をとる所だった。かなり朝の番組にしては何かおかしい。次の瞬間、目に入ったのは潰れた大阪のビルの光景だった。関西から離れた匠の街・広島も震度4を観測した。その映像が匠の見た阪神淡路大震災のすべてだった。学校から帰ると朝は1人だったはずの犠牲者が既に5000人を越した。
阪神高速道路は橋脚の根元から折れ、電車は脱線、ライフラインは止まっている…。その映像の光景のすべてがありえなかった。地震があったのに鼾をかいて寝ていた自分が怖くなった。神戸の街から笑顔が消えた…。不安と絶望のなか、あるプロ野球チームの男たちが立ち上がった。
その人物こそ、近鉄からオリックスブルーウェーブの監督になった仰木さんや打撃コーチ新井氏だった。春のキャンプの時に仰木さんは全員集合させた。
そして…。
仰木「こんな時に野球して良いのか考えた…。今の我々にできることは野球を通じて神戸市民を勇気づけ、感動させることや。今年は何がなんでも優勝や!!つらくて大変な気持ちをしとる神戸の人の為にがんばるんや!!」
そして、オリックスの快進撃。優勝…。そして翌年は野村ヤクルトを負かして日本一に輝いた。神戸の街に置かれた街頭テレビに市民たちは集まった。優勝の決まったその時も寒いのにみんな集まった。仰木さんが胴上げされて宙を舞った時…
男「ありがとう。オリックス」
女「オリックスの選手たちが頑張ってくれた。ありがとう!あたしらもがんばれる…」
少年「食卓の話題はオリックスのこと。話をするとみんな自然と笑顔になるんだ…。優勝おめでとうオリックス」

***

そんな声が聞こえたそうだ。わしは神戸の為に勝ち続けるオリックスが大好きになった。つまり、オリックスはただの野球選手たちや無い。神戸市民たちの願いや思いだったんだと思って。信じることの大切さを教えてもらった気がするんよ…合併するニュースを聞いて思わず泣いてしまった。

匠の知っているのはこのぐらいだ。
美菜「あたし、知らなかった。父さんがそんなに野球が好きなこと、それにそんなチームが昔はあったんだ…。ある意味貴重なお話してくれてありがとう」
ミーナ「野球って本当に素晴らしいスポーツね。あたし、感動しちゃった」
美菜「母さんも昔はプロ選手だったんでしょう。今度教えて欲しいな」
匠「美菜、これからグローブを買いに行こう。まずはキャッチボールから教えてあげる」
親子3人でスポーツ用品店にグローブを買いにアパートの門から駆け出した。



魔女界にプロ野球チームを作ろう!!
−完ー

“次回作”予告!
美菜「ホエールズは私の小さい頃は強かった…。でもいつしか、弱小チームの仲間入り」
匠「今日は運命のドラフトの日。ああ!神様!!」
どれみ「魔女野球次回作は美菜が大活躍。そのタイトルは『魔女野球アフターイヤー』こうご期待!!」

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