おジャ魔女どれみ+α
特別編「親子の絆」
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 二人はMAHO堂を出た。いろはが鍵を閉め、そして振り返るとそこには何者かが立っていた。
「うわぁ、ビックリした・・・。」
「驚かせてすいません。あなた方は・・・魔女見習いですか?」
「え?や、やば!」
 いろはは魔女ガエルになるのではと心配になった。
「大丈夫ですよ。私はマジョマイン。魔女ですから。」
「マジョマイン・・・さん?」
「・・・はい?」
「あの、もしかして・・・一年半ほど前に魔女見習い試験の試験官代理をしていませんでしたっけ?」
「え、えぇ。あ、あなたはもしかしてあの時の・・・。」
「いろは、知ってるの?この人。」
「う〜ん、一回会ったことがあるだけだよ。」
「それはさておき、私はこれから仕事が・・・。」
「仕事?」
「えぇ、ここのMAHO堂は引き取るものがいなくなったので消さなくてはならないんですよ。魔女界の掟でね。」
 メアリーの顔が曇ったのをいろはは感じた。
「あの・・・それってもう少し待ってあげてくれませんか?」
「・・・え?」
「せめてメアリーが完全に立ち直れるまで・・・。」
「はぁ・・・?」
 いろははマジョマインに全てのいきさつを話した。
「そうだったのですか・・・。しかし、魔女界の掟ですから・・・。」
「そんな・・・。」
 メアリーの目には涙が浮かんでいた。
「だったら、力ずくでやめさせます。」
「はい?」
 いろははポロンを構えた。しかし、そのポロンをメアリーが押さえつけた。
「いろは、やめて!もう・・・もういいから。」
 その時、いろはは顔に笑みを浮かべた。メアリーはそれに気付いて言う。
「いろは?どうかしたの?」
 メアリーがいろはのポロンを押さえる手の力がゆるんだ。
「メアリーがそう言ってくれるの待ってたんだ。」
「え?どういうこと?」
「だって、メアリーが自分で決断できるようになって欲しかったから・・・。メアリーがこのMAHO堂のこと、心残りになって欲しくなかったから。でも、メアリーは今MAHO堂が無くなることを心から受け入れられたんじゃない?」
 メアリーは軽く頷いた。
「・・・しかし、少し魔女界の掟も考える必要があるようですね。」
「・・・誰?」
 いろはは突然聞こえてきたその声に驚いた。
「女王さま・・・。どうしてここに?」
「今の話のやりとりをすべて聞いていました。メアリーちゃん・・・。」
「は、はい。」
「ここのMAHO堂は無くならないでいて欲しいですか?」
「・・・はい。でも・・・。」
「分かりました。では、マジョマイン。帰りますよ。」
「し、しかし女王様!」
「良いですか、マジョマイン。その掟がつくられたのはもう何百年も昔のことです。今さらそのような掟を守る必要はありません。それに、その掟がつくられた理由をあなたは知っていますか?」
「い、いえ・・・。」
「今から数百年前、西洋では魔女狩りが行われました。そのため魔女の存在証明にならないように、MAHO堂の経営者及び居住者が居なくなったらMAHO堂を跡形もなく消すというのはこのときから始まったものです。しかし、今は魔女狩りというものはありません。」
「とは言いましても、魔女ガエルの呪いがある以上は・・・。」
「魔女ガエルになったとはいえ、元の魔女の姿に戻れないわけではありません。それに、このMAHO堂は彼女にとって、『親子の絆』なのです。彼女は幼い頃に母親を亡くしてしまっています。そんな彼女にとって、このMAHO堂は母親のカタミなのです。」
「分かりました・・・。では、今後も・・・?」
「えぇ。MAHO堂の存在が無くなるからといって、魔女に関わる危険性に変わりはありません。」
「・・・そうですね。」
 その話をじっと聞いていたいろははメアリーの手を握って喜んで言った。
「よかったね、メアリー!」
「うん。私も、お母さんの希望通りになんとか立ち直って、過去を引きずらない強い子になって見せるよ。そうすれば・・・そうすればきっと、死んだお母さんも喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるよ。」
 日はすっかり上がって、空は青々としていた。

***

 数ヶ月後・・・。
「ねぇ、いろは、知ってる?」
「え?」
「先月ね、一年生で日本人の女の子が転校してきたんだって。」
「本当?二歳年下だね。」
「うん。名前はなんだったけ・・・たしか・・・しずく・あいかわよ。」
「しずく・・・ね。私ちょっと会ってこようっと。」
「あ、いろは、待ってよ。・・・もう。まだ話すことがあったのにな。」
 メアリーは走っていくいろはの背中を見て呟いた。
「その子・・・魔女見習いらしいって・・言おうとしたのに。ま、いっか。いろはには黙っておこうっと。」
 そして・・・この時、新たな物語が始まろうとしていた。いろはとしずくとの出会いが、その少女、しずくの人生を変えることになるとは、まだ誰も知らない─

おジャ魔女どれみ+α特別編
『親子の絆』

終わり

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